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廃棄世界に祝福を。  作者: 蒼月 かなた
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作戦会議

たいっへん遅くなりましたm(_ _)m

 さて、 皆で協力してエルナマリアさんを助け出す事は決まった。 次の問題は、 どうやって彼女を救出するかだ。 と言う訳で、 仕事終わりに会議室で作戦会議なんてしてる訳ですが……。


 「ヴァイノス…… 流石に―― 正面からの殴り込みは無しだ。 まぁ、 それをしたとして『無かった事』 には出来るだけのカードはあるが、 人の口に戸は立てられん。 黒竜騎士団おれたちが、 正面切って令嬢を攫ったとなれば、 無かった事にしたとしても、 ある事無い事を足された噂が王都を駆け巡るぞ? 」


 「そんな目で見るなよ。 言ってみただけだ―― んな事しねぇ」


 「よし。 んじゃあ殴りこんでルドの想い人を、 かっ攫って来よーぜ!! 」 と阿呆な発言をしたルドさんに、 呆れ顔をしたユーリが却下を入れた。 更に、 私達にジト目で責められて慌てたようにヴァイさんが弁解する。 

 一応、 冗談のつもりだったみたいだけれど、 分かりにくい……。 てか、 本気かと思ったよ。 ヴァイさんならやりかねない―― かなぁ、 と…… 少し思ってしまった。

 本気だと取られた事がお気に召さなかったらしいヴァイさんが、 少し拗ねた顔をしたのでガルヴさんがフォローに入る。


 「ヴァイは冗談が分かりにくいんだよ…… けど、 皆そこまで本気には取らなかったと思うよ。 付き合いだって長いんだし」


 「まぁ、 そうだよな。 いくらなんでも、 俺が本気でそんなコトするなんて思わないよな? 」 


 「そうだよ」 というガルヴさん。 その二人の会話に、 何人かが視線を逸らせた。 ルドさんとエイノさん―― それからユーリ。 どうやら、 本気でヴァイさんが殴り込みに行くと思ったらしい。 

 私は精神を集中して、 ヴァイさんから視線を逸らさないように努力した。 ―― ヴァイさん真顔で言うんだもの。 冗談に見えないって。 冗談なら、 それらしく言って欲しい。


 「―― まぁ、 あれだ…… ヴァイの冗談は置いておいて―― だな。 エルナマリア嬢の救出もそうだが、 ナイア嬢と言ったか? エルナマリア嬢の侍女の―― 彼女も一緒に救出すべきだと思うんだが」


 エイノさんにそう言われて、 ユーリが頷く。 


 「そうだな。 エルナマリア嬢が居なくなれば、 誰かが情報を漏らしたのだと相手に知れるだろう。 少し調べれば、 侍女のナイア嬢がそれに関わっているというのは分かるはずだ。 クビになるだけならまだ良いが、 実の娘を監禁するような相手だ。 逃がした方が安全だろう」


 確かに。 今度はナイアさんが監禁されたり、 殺されたりするような事になったら困るしね。 そこまではしないとは思いたいけど、 貴族の中には使用人をモノと勘違いしているような人もたまにいるから、 油断はできない。

 万が一と言う事がないように、 一緒に攫われて貰うのが良さそうだ。


 「取りあえず、 救出目標は二名―― と。 んで、 どうやって連れだすんだ? 」


 ユーリの言葉に、 ヴァイさんが先を促す。


 「あそこの家は古いからな―― 調べれば有事の際の抜け道の一つも地下にあると思うんだが…… まぁそれは調べるとして―― 後は賊を装うのが良いんじゃないか? 」


 あぁ、 脱出路。 古い家であればある程、 そう言う脱出の為の隠し通路がある確率は高い。

この国が―― 結界の力を中心に纏まって安定するまでには、 長い時間と戦乱の歴史があるからだ。 

 人間と言うものは業が深い生き物で、 この厳しい世界であればこそ、 自分と自分の仲間―― 家族を守るためだけに他者を死に追いやって来た。

 だから、 建国されてから暫くの間は、 自分達の住居に敵襲があれば逃げられるように、 隠し通路を作る者が多かったのである。 それこそ、 今で言う一般市民が家に隠し通路を作っていたっていうのだから、 その頃の人の心がどれだけ荒んでいたか察して貰いたい。

 その隠し通路があるかもしれない家ならば、 レラン伯の家系は古いものなのだろう。

 

 「まぁ、 本当の賊のように泥棒をするのはマズイですからね。 夜陰に乗じて、 黒装束に仮面をつけた集団が囚われの姫君を救出する感じですかね」


 私の言葉に、 ユーリが頷いた。

 正体不明の盗賊団―― いや、 盗賊団は相手を皆殺しにするのが多いから、 顔を隠さないなら怪盗団? って所かな。 取りあえず、 使えそうな装束を集めないと……。 

 黒竜騎士団うちが買ったってバレないようにしないといけないけど、 どこで揃えようか。


 「まぁ、 その辺が妥当よね…… 」


 「救出した―― 後は? 」


 ルドさんの言葉の後に、 アスさんがポツリと呟くようにそう言った。


 「そう言えばユーリ―― 貴族の養女にすればって言ってましたけど…… 」


 私は、 その後の事に考えがあると言っていたユーリに質問した。

 ユーリは、 ニヤリと笑ってルドさんを見ると、 少しだけ得意そうに居住まいを正した。


 「そっちは昼に抜けた時に打診して来た。 快諾してくれたぞ? ―― アイオロスは」


 「アイオロスのじーさん? 」


 告げられた名前にキョトンとした顔でそう言ったのはヴァイさんで。

私も、 予想外の名前が出て来て少し驚く。 だけど、 アイオロス様なら―― 確かに適任だ。 

  

 「あぁ。 ルカルドの事を良く知っていて、 黒竜騎士団ウチの噂にも物怖じせず―― さらに家格も不釣り合いにはならない―― 人柄の良い人間―― 良い養父になると思わないか? 」


 ユーリがそう言って笑うのを見て、 苦虫を噛んだみたいな顔をしているルドさん以外は、 納得したように頷いたりしているのが見える。

 確かに、 あの飄々とした感じのアイオロス様が当主を務めるフレッチェン伯爵家なら、 アイオロス様が自身が元副団長でもある事だし、 黒竜騎士団に対する未だ払拭できていない噂や何かも気にしないだろう。

 何よりも、 フレッチェン伯爵家は王家に並ぶくらい古い家系だ。 各上のハズの公爵家ですら、 気を使う事があると言うのだから、 ある意味最強の養父と言える。

 何よりも、 ルドさんの事を知ってるしね。 多分―― ユーリから今回の件を説明されるまでも無く、 色々と把握してそうな気がする。  


 「あぁ―― 確かに。 アイオロス様なら安心できる」


 エイノさんがそう言って苦笑した。 

 アイオロス様は皆の事を放任主義で通してたらしいけど、 皆の反応を見れば、 嫌われて無かったのが分かる。 

 好き嫌いを判断するほど一緒に居なかったからかと、 最初は思ったのだけど、 皆の反応からは好意のようなものが見てとれたので、 それなりの信頼関係が築けていたんだろう。 


 「そのアイオロスから伝言だ。 『いやぁ、 拗ねて引きこもった殻付きのヒヨコ共が、 尻の殻がようやく取れたようで嬉しいよ。 いやはや、 本当に感慨深いねぇ…… あぁそうだ、 ルカルド君? お養父とうさんて呼んでもいいんだよ? いや是非ともこれからはそう呼んで貰おうね。 じゃないとこの件、 引きうけないからね? 』 だそうだ。 これでも、 大分短くしたからな?」


 げんなりとした顔でユーリに告げられた内容を聞いて、 ルドさんの眉間に皺が寄った。

他の面々は、 さもありなん―― とばかりに「アイオロス様らしい」 だの「アイオロスのじーさんならまぁ、 そう言うよな」 だのと面白そうに話している。

 皆、 尻に殻が付いてたって言われているんだけど、 それすら楽しそうだ。


 「俺には―― 『ようやく、 聞く耳が出来たようでなによりです。 あぁ、 ついでに僕がずうっと言いたかった事を聞いて行って下さいよ。 殿下』 と言われて、 長々と説教されたんだからな―― 感謝しろよ…… ヴァイノス。 あぁ後―― リゼには、 くれぐれも宜しく言って欲しいと頼まれた。 『これからも、 黒竜騎士団の手綱を握って男共を手のひらの上で転がしてやって下さい』 だそうだ」


 どうやら、 ユーリがげんなりしている理由は、 アイオロス様のお小言にあるらしい。 まぁ、 言いたくもなるよねぇ。 副団長を辞めるまでに、 十年待たされたんだし。

 だから、 昼休み帰って来るのが遅かった訳だ。 サボってるのかと思ったよ。 昼になったらすぐ出かけたし―― ユーリ、 ご飯食べてないんじゃあないかな……。 夕飯の前に軽食でも食べさせた方が良いかもしれない。

 それにしても手のひらの上でって――。


 「―― なんだか、 それだと私が悪女みたいなんですが…… 」


 そこまで上手に皆を転がせる能力が私にあるのかどうか。 そもそも、 私は切っ掛けを作っただけで、 『ゴミ溜め騎士団』 の汚名が返上出来そうなのは、 皆がそれを選択したからだ。

 ヒヨコのお尻から殻が取れたのなら、 それは当人たちの努力の結果であったりするんじゃないかと私は思う。


 「字面だけ見ればまぁ、 そうだがな。 手のひらの上の男共を良い方向に転がせられる『い女』 だそうな。 良かったな? 」


 「アイオロス様にそこまで言われると、 ちょっと怖いんですが、 まぁ―― 精進シマス」


 アイオロス様―― 何故、 私の評価がそこまで高いんですか? 何気にプレッシャーなんですが。

まぁ、 あの方も傍観者でいる分には楽しい事とか面白い事とか好きそうだったしなぁ―― ゲーティアに近しいものを感じる。 


 「じゃあ、 あたし達はアイオロスのお祖父ちゃんにリゼが残念がられないように、 上手に手のひらの上で転がられるようにならなきゃね」


 茶化すようにルドさんが言えば、 そのルドさんにビシリと指を突き付けて、 アスさんがキッパリと言葉を発した。


 「ルド―― 違う。 お養父さん」


 あぁ。 ユーリの伝言ね。 お義父さんって呼ばないと、 今回の件で協力しないって言う……。 

 今この場所に、 アイオロス様が居る訳じゃ無いんだから別に良いんじゃないかな? って私なんかは思ったのだけれどね。 

 アイオロス様と、 ルドさんの事を良く知る皆にはそうでも無かったらしい。 ガルヴさんにも「そうだよ。 ちゃんと呼ばないと」 と窘められて、 ルドさんがまた顰めっ面に戻った。 


 「う―― タダでさえ、 あの人に色々弱みを握られてるのに―― ハードル高いわ」


 弱みですか…… 唸るように話すルドさんに少しだけ同情しておく。 

アイオロス様、 食えない狸―― とかの気配しかしないものね。 その相手に弱みを握られているって言うのは、 中々落ち着ける気がしない。 しかも、 その相手がお義父さんになるかもしれないんだし。


 「ソコは諦めるんだな。 今のうちから練習しておけよ。 初めて呼ぶ時に遠慮したり照れたりしてたら、 嬉々としてじーさんにからかわれるぞ? 」


 ヴァイさんが、 手をヒラヒラを振りながら、 諦めが肝心だと念を押した。

まぁ、 握られた弱みが消える事も無いわけですし。 腹を括った方が良いと私も思う。 他に適任者とか思い浮かばないしねぇ。


 「人ごとだと思って―― まぁ、 遊ばれるのが嫌なら、 今から練習しておきべきって言うのは分かるんだけどさ…… 今から憂鬱よ…… きっと会ったら満面の笑みで迎えられる自信があるわ」


 その様を思い浮かべたのか、 ルドさんが疲れたような口調で遠い目をした。

 私も思わず、 ニコニコと人の良い笑みを浮かべて、 両手を広げてルドさんをハグするアイオロス様を思い浮かべてしまった。 思い浮かべた光景の中のルドさんは死んだ魚のような目をしている――。


 「あぁ―― 『僕の義娘と結婚したいんだって? おぉっと! まだ駄目だよ? まずは義娘に相応しいかどうか、 確認する所からだ。 ―― 所で、 君は義息子になりたいのかな? それとも義娘―― ? 』 とか嬉々として言いそうだな」


 ケラケラと笑うヴァイさんをルドさんがギロリと睨みつけた。


 「ヴァイノスちゃん? ヤメてくれる?? それ、 本気でありそうなんだけど…… はぁ…… 」


 そんなコトあるわけ無いでしょ! と言うかと思ったら逆ですか。 ありそうなんだ―― それ。 嬉々としてって所がポイントだよな―― とヴァイさんがエイノさんに同意を求めると、 エイノさんは呆れた顔をしながらも頷いている。

 ガルヴさんは困ったような顔をしながらも否定しないので、 同じようにありそうだと思ってそうだ。

 ユーリがボソリと「アイオロスなら、 結婚したいなら試練を受けろとか言いそうだな」 と呟いた。 「ヤメテヨ! 」 とルドさんが身震いして頭を抱える。 「ん。 やると思う」 とアスさんが止めを刺した所で、 真顔のエイノさんが口を開いた。 


 「その前に、 エルナマリア嬢が、 ルドと結婚したいと思ってるかどうかが先だと思うが」


 真剣な表情で、 ルドさんを見ながらそう話す。


 「エイノ―― あんた何かあたしに恨みでもあるの? 」


 「いいや? ただ単に、 ルドで遊べると言うまたとない機会だから、 楽しんでいるだけだ」


 ジト目で睨むルドさんに、 耐えきれなくなったように笑いながらエイノさんがそう話した。

ちょっと、 意外な一面だ。 こんな風にエイノさんが誰かをからかう事があるなんて。

 いつも一歩引いた所で様子を見ているか、 ヴァイさんに突っ込みを入れる姿とかの印象の方が強いんだけど。


 「てめぇ、 覚えてろよ? お前に結婚話が出たら死ぬほどからかってやる」


 男言葉に戻ったルドさんに、 そう睨みつけられて、 本当に珍しくエイノさんが破顔した。 大声でひとしきり笑った後、 ニヤリと笑う。

 本当に珍しい事だったんだろう。 他の皆も目を見開いて驚いていた。


 「ははは! 安心しろ。 俺はもう結婚してるぞ? 」


 「は? 」


 エイノさんの言葉に、 私は思わず聞き返した。 え? 資料には妻帯者だとか書いて無かったはずだけど……。 基本的に、 宿舎を使うのは独身の者。 伴侶が居る場合は当直の時だけ宿舎に泊って、 後は自宅からの通いになるハズ……。 

 ルドさんの件が上手く行って、 結婚する事になれば王都で家を借りるか買うかして宿舎から出なければならない。 そう―― その規約に則るのなら、 エイノさんは宿舎を出ていないとおかしいはずだ。 


 「便宜上だがな。 だから、 宿舎も出て無いだろ? 」


 「「「はぁ――――っ!? 」」」


 しれっと、 言い切ったエイノさんに何人かの叫び声が重なる。 ユーリは流石に知っていたらしい。

何だ、 話すのか? と言った顔つきだ。 そんな中でガルヴさんの「どういう事だい? エイノ」 とか「お前が結婚とか冗談だろ? 」 と言うヴァイさんの声が会議室に響き渡る。


 「いや、 便宜上て何なのよ…… 」


 混乱した顔をしながらも、 おそらく事情を知っているユーリ以外、 確認したいと思った事をルドさんが聞いてくれた。

 ヴァイさんが、 身を乗り出してエイノさんを見つめる。


 「まぁ何だ―― 昔悪さをしてた時に、 ぶん殴って―― 実の息子みたいに接して―― 俺を更生させてくれた恩人の娘だ。 その親父が死んだ後に、 その娘が―― まぁ…… タチの悪いのに見初められてな。 そいつに手を出させない為に結婚した訳だ。 お互い紙の上での事だと承知しているし、 あっちに好きな男ができたら別れるつもりだが…… 」


 ははぁ。 それで便宜上の結婚かぁ。 この感じだと、 随分前に結婚してたっぽいよな…… 便宜上とはいえ、 結婚してるんだったら一応教えておいて貰いたかった所だけれど、 団長であるユーリが黙認してるのなら、 私がとやかく言う事じゃないだろう。

 今、 皆で聞いたしね。 まぁ、 秘密にしていたのも理解できない訳じゃないし……。 

 素行が悪かった頃の皆の騎士としてのお給金は、 今よりももっと少ないものだ。 多分だけど、 その状態で宿舎を追い出されても暮らしに困るからだと思う。 

 便宜上の結婚だと言うのなら、 相手に頼る事も憚られたのだろうとも考えられた。


 「―― 成程な。 てーか、 お前に好きなオンナが出来たらどうすんだ? 」


 「多分、 無いと思うが―― まぁ、 万が一がおきたら―― そうだなぁ、 信用できる代理の男でも探すかな―― アスとかガルヴとか」


 ヴァイさんの言葉に、 エイノさんはふ―― と考える仕草をした後、 アスさんとガルヴさんの名前を上げた。 ガルヴさんはキョトンとしてたし、 アスさんはブンブンと首を振る。 

 ガルヴさんはまぁ納得だとして、 アスさんは良い人だとしても、 対人関係とか苦手って言ってたしなぁ…… その人選はどうなのか。 けど、 特に会わなくても良いんなら問題無いのかな? まぁ、 アスさんのこの反応を見る限りは難しそうだけど。


 「おい待て、 何でそこに俺の名前が無い」


 低い声で文句を言ったのは、 ヴァイさんだ。 

 ユーリはまぁ、 王弟という―― この場合は枷にしかならない地位があるし、 ルドさんには愛しのエルナマリアさんがいる…… そこから考えれば、 二人の名が出なかったのは理解できるけど……?


 「―― 俺は、 お前がどうでもいいと思ってる女への対応は信用してない。 手でも出されたら親父に顔向けできないしな」


 嘘か本気かは分からない。 正直、 エイノさんの目が据わってるんだよねぇ。 さっきから、 様子が変な気がする。 


 「喧嘩売ってるのか? ダチの恩人の娘とか手ぇ出すわけねーだろ! 」


 カチンと来たのか、 ヴァイさんがお怒りモードでエイノさんを睨みつける。

睨まれても何のその。 エイノさんは、 はぁヤレヤレと言うような素振りをした後、 ヴァイさんを正面から見つめた。


 「馬鹿。 冗談だ。 一応、 気を使ってお前の名前は入れなかったんだぞ―― 察しろ。 好きな女がいる―― 」


 わぁ。 物凄い満面の笑みだぁ……。 エイノさんまるで、 ご機嫌な酔っ払いだよ。

とは言っても、 勤務時間が終わったばっかりで、 お酒を飲むような隙も無かった訳で……。 そもそもエイノさんが飲んでも、 今までこんな風にギキゲンに酔った状態を見た事が無いし。

 それより、 余計な事を言おうとしたエイノさんの口をルドさんが塞いでくれた。 ぐっじょぶ。 


 「はいはいはい。 あたしは察したわよ。 ―― 別のお話しましょうか」


 「うんうん。 ヴァイも落ち着こう? 」


 笑顔でエイノさんをホールドするルドさんに、 ヴァイさんを宥めるガルヴさん。 

私は、 ぶーたれてるヴァイさんを見ながら溜息を一つ。 ヴァイさんは、 エイノさんが言おうとした事には気が付いて無いみたい。 まぁ、 その方が良いのかも。

 チラとユーリを見れば、 特に変化も無いし。 私は、 ルドさんとガルヴさんにそっと目線で感謝の意を示した。

 ガルヴさんは苦笑して、 ルドさんは疲れた顔で手を振った。 ハンドサインは『モウゴメン』―― つまりは、 あんなユーリは二度とゴメンだって所か。 私も思わず苦笑い。


 「エイノ―― お嫁さん、 今は何処にいる? 」


 アスさんが気を利かせて話題を変えてくれた。 あぁ、 それは私も気になる。 好奇心半分、 副団長としては把握しておきたいな―― と言う気持ち半分で。


 「俺がいた孤児院で、 住み込みの院長補佐をしてる」


 「あぁ、 アイニスさんかな―― 」


 エイノさんが確か十歳の時に保護された孤児院を思い出して私はそう呟いた。

 その言葉に、 エイノさんの顔が驚きに染まる。 どこの孤児院か位は知っているとしても、 よもやお嫁さんの名前を当てられるとは思わなかったらしい。

 だって、 エイノさんに釣り合う年齢の女性―― ランガ―タ孤児院だと彼女しかいないんだもん。

 それに――


 「っ! リゼ―― 何で知ってるんだ? 」


 「ん? あぁ、 一時期、 友人の一人が王都にいる美人さんランキングなるものを作成してたんですよね…… その中で若いけど有能な院長補佐として、 ランガータ孤児院の彼女の名前が挙がってたんです」


 「つーことは、 美人って事よね」

 

 思い出しながら言った私に、 ルドさんがニコやかに笑って言った。 その笑顔の裏には、 今度会わせなさいよ―― との気持ちが多分に込められているようだ。 妙な圧迫感も感じるしねぇ。 


 「あぁ―― そうだな」


 更にユーリも肯定する。 って言うか、 その様子じゃあアイニスさんの顔を知ってるようだ。

 私は、 緩やかなウェーブのかかった黒髪の―― スラッとして―― 出るトコ出てて―― おしとやかな女性らしい―― 青い目の女性を思い出した。

 美人さんランキングを作るにあたり、 付き合わされて見に行った奇麗な女性ひと

 そうかぁ…… ユーリにとっての美人さんはあぁ言うタイプか。 ま、 ソウデスヨネ。


 「―― あ―― まぁ…… アニスは美人ではあるな…… その―― 気が強くて、 クチも悪いが…… 」


 二人の言葉を受けて、 エイノさんが唸るように考えながらそう答えた。 美人である事は知ってるけど、 認めたくない―― みたいな渋い口ぶりに私は首を傾げる。


 「私、 おしとやかで優しいお嬢さんだって聞いたんですけど…… 」


 「それは営業用の外面だ。 怒らせてみろ。 罵詈雑言が飛んでくるぞ―― あれだけはなぁ…… 親父も後悔してるって言ってたな。 『男手一つで育てた所為かオレの話し方を真似しゃあがって―― 嫁の貰い手がねぇぞありゃあ―― 』 ってな」


 例の、 タチの悪い相手と言うのにも最初『ふざけんなクソ野郎! 一昨日来やがれっ』 と言って塩をまいたらしい。 けど、 相手がそれを喜んじゃう変人だったため流石に気持ち悪くなってエイノさんに助けを求めたみたいですね――。 心中お察しします。 

 あまり、 身上の良くない連中とも付き合いのある商家の主だったらしいけど、 良い年をしたオッサンに粘着質な上にもっと『罵って欲しい―― 』 とかどんな悪夢。

 どこの誰かと思ったら、 結構な大店おおだなの主だった…… うわぁ……。 どうしよう、 面識あるわ。 次に会ったらどんな顔をすればいいんだろうか。


 「さて、 俺の話はもういいだろう? エルナマリア嬢はそれで良いとして、 ナイア嬢はどうするんだ? 」


 いい加減、 照れくさくなったのだろうか? 少しぶっきらぼうな風にエイノさんは言うと、 話を本題に戻した。 そうだった。 重要な作戦会議のつもりだったのに、 エイノさんが爆弾投下してくれたもんだから話が逸れてたね。


 「まぁ、 そこはナイア嬢にも確認してみて―― だな。 働き先はどうとでも紹介できるし…… エルナマリア嬢にも、 ナイア嬢を通して確認を取ろう。 まぁ、 これ位しないと父親からは逃げられないだろうから、 ルカルドの求婚を受けるかどうかは別としても、 養女の件は飲んで貰わんといけないんだが」

 

 ユーリの言葉に私も頷く。 ルドさんと結婚するかしないかは置いといて、 彼女を父親や義妹から救い出すには、 アイオロス様のような有力貴族の養女にする事は動かせない。

 正体隠して逃がしても、 義妹―― しつこそうだしね。


 「実際、 結婚してもらえねー可能性あるもんなぁ…… ルドのあまりの変わりように、 百年の恋も醒めちまうとか」


 ルドさんを上から下まで眺めて、 ヴァイさんがそんな事を言った。

 まぁねぇ。 格好いい男性だった筈のルドさんが、 フリフリしたシャツを着たオネェさんになってたらビックリするよね普通。 しかも、 付き合う―― ないし結婚って事になったら、 ルドさんのかつての悪行を吹聴して来る人なんて沢山いるだろうし。

 まぁ、 ちゃんと誠心誠意込めて人助けのためにやったのだと、 説明できれば大丈夫だと思うケド。


 「ヴァイノスちゃん? 振られたらあんたの奢りで飲み明かしてやる! 財布を寄こしな!! 」


 「ははっ! 振られたら奢ってやるよ」


 ヴァイさんが、 鬼のような形相で自分に掴みかかろうとするルドさんの手を掴み返して、 睨みあう。 

 そんな二人を見守りながら私は思わず苦笑した。 力は拮抗しているようだ。 と、 言うよりヴァイさんが、 ルドさんをからかって遊んでる感じだね。

 まぁ、 純粋な筋力で言えば、 ヴァイさんの方があるからなぁ…… ソレが気に食わないルドさんの目が段々据わって来てるけど。


 「悪いな、 ヴァイ―― 皆―― ルドが振られたらヴァイが奢ってくれるらしいぞ? ルド―― 安心して遠慮なく振られて来い」


 そんな二人にそう声をかけたのはエイノさん。 ケタケタと笑いながらのその様子に、 思わずユーリと顔を見合わせる。 やっぱりちょっと―― いやかなり変だよね…… エイノさん。


 「「はぁ!? 」」


 ルドさんとヴァイさんは、 エイノさんの言葉に一瞬止まった後、 仲良く同時に声を上げた。


 「ちょっ! 俺が奢るのはルドだけだぞ!! 」 「遠慮なく振られろって、 どーいうことよ」


 文句の中身は違えど、 勢い良く文句を言い始める二人を見て、 笑い上戸の酔っ払いのように腹を抱えて笑うエイノさん。 本当にどうした。 

 

 「落ち着け、 二人ともエイノルトが言いたいのは―― 」


 エイノさんの様子を見て、 更に腹を立てるヴァイさんとルドさんにユーリが仲裁に入り、 更にアスさんが言葉を続ける。


 「ヴァイのお財布―― 中身が寂しい―― 皆に奢るのは絶対無理」


 「あぁ―― 無理なのにヴァイが奢るって言うって事は、 エイノはルドが振られないって信じてるって事だね…… 」


 「あぁ、 成程―― 」


 アスさんの言葉と、 ガルヴさんの言葉で私は納得して頷いた。

 分かりにくいエールだこと。 やっぱり今日のエイノさんはどこか変だね。 流石に心配になってきたよ。


 「あぁら、 エイノちゃん―― そんなに、 あたしの事を信じてくれてたなんて! 感激しちゃう」


 さっきとは打って変った猫なで声で、 エイノさんをからかう様にルドさんが笑う。 

更に、 ニヤニヤしたヴァイさんが追い打ちをかけるようにエイノさんに耳打ちをした。 「―― 耳赤いぞ。 エイノ」 ヴァイさんの意地悪そうな笑みに、 エイノさんが閉口する。


 「煩い」


 ニヤニヤした二人にそう言われて、 エイノさんは不貞腐れたような顔をしてから、 そっぽを向いた。

少し子供っぽい仕草に思わず苦笑していたら、 考えるような顔をして、 エイノさんを観察しているアスさんが目に入った――。 

 

 「ねぇ―― さっきから―― 気になった、 んだけど…… 」


 首を傾げてウンウンと唸った後、 アスさんがおもむろに口を開いた。 そして、 一旦言葉を切ってもう一度考えるような顔をした後、 続きを話す。


 「誰か、 エイノにカジュンの実―― 食べさせた? 」


 「?―― カジュン…… 実は食べさせてないけど、 果汁を練り込んだクッキーなら」


 カジュンの実――? そう言われて、 私はちょっと前の廊下でのやり取りを思い出す。

 仕事終わりらしい侍女さん達が、 きゃわきゃわと、 レーヌベールの新作クッキーを食べてた訳だ。 

仕事中では無いとは言え、 廊下で食べるなんて侍女頭さんとかに見つかったら、 無茶苦茶怒られる案件な訳ですよ。 行儀だって悪いし、 クッキーのカスが廊下に零れるしね。 何で、 彼女達は自分達の部屋まで我慢しなかったんだろう……。

 で、 そんな時に私と目が合った訳だ。 いつも、 人気の少ない場所だからねぇ…… 誰も来ないと思ってたんだろう。 全員が固まった。

 だが、 残念。 ここは、 黒竜騎士団の宿舎に行くには近道だ。 ウチの団員は良く通ります。

 『み、 見なかったコトに…… 』 私と顔見知りだった侍女さんが、 そっと賄賂を差し出した。

まぁ、 危ない事や禁止されてる事をしてる訳ではないしね。 ちゃんと片付ける事と、 見逃すのは今回だけだという事を言い含めて、 賄賂を頂きました。 

 レーヌベールの新作なら、 口を閉ざす価値はある。 で、 そこに通りかかったのがエイノさんだった訳だ。


 「俺、 食ってねーぞ? 」


 「貰いものだしね。 廊下で―― ね。 焼きたてで美味しそうだったんだけど、 皆に配る程の数は無かったから、 たまたま通りかかったエイノさんと分けて食べたんだよね」


 侍女さん達が廊下で立ち食いしてたのは黙って置いて、 私はニコやかにそう告げた。

ズッリーとかヴァイさんに言われたけれど、 しょうがないじゃん。 二枚しか無かったんだし。  


 「それだ。 エイノ酔ってる」


 納得したようにアスさんに言われて、 私は思わず聞き返した。 「は? カジュンで?? 」 私からすれば何言ってるの? アスさん―― だ。

 カジュンって言うのは、 黄色いベリー系の果物。 丸いコロンとした小粒で、 ベリー系なのに柑橘系の香りがする不思議なヤツ。 

 確かに、 お酒が作られたりもしているけど、 クッキーに入っていたのはリキュールとしてのカジュンじゃなくて、 果汁としてのカジュンだ。 


 「たまに、 体質が合わない―― 人がいるんだ。 エイノがそう」


 猫がマタタビに酔うように、 カジュンで酔ったみたいになる人は、 何千人に一人位の割合でいるらしい。 

 柑橘系の香りだから、 気付かずに口にしてしまうと、 今のエイノさんのようになってしまうようだ。

 

 「果汁って言っても、 香りがする位で味はほとんど分からなかったよ? 」

 

 慌てた私がそう言えば、 アスさん曰く、 少量だったから『この程度で済んでる』 との事。 

 うわぁ、 昨日間違ってお酒を飲まされた事で大分ユーリを詰ったんだけど、 人の事言えなくなっちゃったよ……。 

 何がツボに嵌ったんだか、 ケタケタ笑い始めたエイノさんから目を逸らす。 ―― ユーリからの視線が痛い。 『故意じゃない方がタチが悪いでしょうが! 』 ワザとじゃないって謝ったユーリに言った言葉が、 まさか自分に返って来るとか……。

 次の日、 エイノさんに『恨むぞ』 と言われました。 カジュンが入ってるって知ってたら食べなかったそうです。 『あ! エイノさんクッキー貰ったんですけど、 食べます? 』―― 確かに。 クッキーとしか言わなかったね。 ごめん…… けど、 カジュンにそんな効果があるなんて、 知らなかったんだよ……。

 後日―― レーヌベールに行った時、 そのクッキーの成分表を確認したら、 注意書きで『体質が合わなかった場合、 酔ったようになる事があります。 ご注意ください』 と書いてありました。

 何とか2月中に更新出来ました。 遅くなって申し訳ありません。

中々集中して書くことができず、 遅くなってしまいました。 少し、 書き方を考えようかと思います。(一話を一気に書くのではなく、 小説A→小説B→小説C→小説A→小説B→小説C と言うような書き方をしていました。 スミマセン)


 しれっとエイノさんが結婚(一応便宜上)してました。 いつか番外編で書ければ良いですが、 奥さんは本編には出てこないかも(未定)です。

 誤飲で飲酒したリゼとユーリに何があったか(もしくは無かったか)は、 この回終了後(エルナマリアさん救出後)幕間で書く予定です。

 

 中々更新を早く出来ない事も多いですが、 気長にお付き合いお願いします(泣)

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