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廃棄世界に祝福を。  作者: 蒼月 かなた
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差がありすぎる結果は反抗心を挫くと思う。

ちょっと長くなりました。 中の人達が頭の中で勝手に動いて話が出来る時は楽しいです。

時間があれば一日中書いていたい………。

 二階の方でドアが破壊される音が響いてくる――。

 訳の分からない怒声や、 ギャーギャー言う声が聞こえて、 蹴り落とされた男が階段を転がって落ちてきた。 階段の上にいる残りの男達もクロとリィオにせっつかれて慌てたように降りて来る。

 蹴り落とされた男、 セルドレさんが玄関に逃げようとしてシェスカとルカに阻まれて怒鳴り声をあげた。


 「一体全体何なんだよお前ら! 」


 セルドレさんは怒鳴ったら唸り返されて、 シェスカ達と睨みあっている。 しかし降りて来たクロに噛むフリをされて他の連中と共に諦めて、 食堂に連行されて来た。


 「……。 」 


 イライラしながら入ってきた彼等が、 食堂の席に座ってニッコリ笑う私を見る。 面白い程に全員がキョトンとした顔になった。


 「揃ったようでなによりです。 本来なら、 団長から紹介して頂くべきところですが、 それは無理そうなので自己紹介致しますね。 私の名前はリゼッタ・エンフィールド。 春に学院を出たばかりの若輩者ですが、 この度この黒竜騎士団の副団長に就任しました。 貴殿らを起こしに行ったのは私の大切な友人達です。 寝起きの所申し訳ありませんが、 この騎士団の惨状はどうかと思いまして…… 掃除を提案したいのですけど」


にこやかに笑ってそう告げると、 苦虫を噛み潰したような顔が三つ。 

短気そうな赤髪ツンツン頭のセルドレさんと、 銀髪で一見女性に見える程の美形のセティルさん。 そして、 小柄で金髪のマッカートさんだ。

 茶髪で熊かと言いたくなるエンノートさんと、 薄紫の髪に口元を隠したクアトさんはキョトンとした顔のままだ。


 「アイオロスのじーさんはどうしたよ」


 「先程引退されましたよ。 予想位はできるんじゃないですか? 子守は飽きたそうです」


 笑顔を絶やさずそう告げれば苦虫が増量したらしく、 セルドレさんがもっと渋い顔になった。 金色の目を細めて睨みつけて来る。 


 「アイオロス様が引退したとしても、 あんたみたいなお嬢ちゃんが、 副団長とかオカシイでしょ」


 「お疑いなら最終決定を下した陛下に文句言って来て下さい。 貴方達がどう思おうと、 今日から私が貴方達の上司です」


 今日の苦虫は大安売りしているようだ。 セティルさんの顔も渋くなる。 こちらはラベンダー色の瞳を閉じた。 じょじょに眉間に皺が寄っていく。


 「ガキに勤まるとは思えない。 大人しく異動しちまえ。 それが出来ないんなら部屋に籠ってな」


 「笑える心配ありがとうございます。 異動する気も、 子供みたいに引き籠る気もありません。 元副団長から私であれば問題ないだろうと言うお墨付きも貰いましたし…… ね」


 私の言葉にマッカートさんは微妙な顔をする。 こいつ正気か? と青い目が言っているかのようだ。 

 「じーさんのお墨付きだと? ふざけた事抜かすなガキ。 いいかよく聞け。 俺はお前に従う気なんぞないからな! 」


 「あたしもよ。 …… 年下のお嬢ちゃんなんかに従う気はない」


 「…… 俺もだな。 お前さんじゃ無理だ」


 セルドレさん、 セティルさん、 マッカートさんは私に従う気ゼロ、 と。


 「では、 残りのお二人は? 」


 この状況にオロオロしていたエンノートさんと、 表情から何考えているのか分からないクアトさんに問いかける。


 「…… 君には可哀想だけど、 オレも君には従えないよ。 若い女の子が、 何でこんな所に配属になったか知らないけれど、 ここは駄目だよ。 異動したほうが良い」


 優しげな緑の目をしたエンノートさんの言葉に初めて、 この中からまともに私を心配する声が聞けた気がする。 しかし―― ふむ。 エンノートさんも私に従う気は無いと。


 「で、 貴方も私に従う気はありませんか? 」


 マッカートさんにそう問いかけると彼は頷いた。 灰色の目は死んだ魚の目のように淀んでいる。

なんとなく気付いた。 彼はきっと、 すべて諦めているんだろうなぁと。


 「分かりました。 私はこの現状はどうかと思うので変えて行きたい。 でも貴方達は私に従う気はない…… 困りましたね? 意見が合いません。 そこでどうでしょう。 ちょっと練兵場で手合わせしませんか? 私が貴方がたと一人ずつ戦って、 負けた人が勝った人の言う事を聞くんです」


 ね? とっても良いアイディア、 と微笑んでやれば残念な子を見る目で見られましたよ。


 「はっ! ガキ相手に本気で戦える訳ないだろ」


 「なら、 騎士の先輩として胸を貸してくださいよ。 よもやそのガキに負けるのが怖くて戦えない訳じゃないでしょう? 貴方がたが勝てば、 私は二度と口出ししないと言っている。 それとも、 いい年した男が逃げますか? 小娘に従うのは嫌ですものね」


 バカにした嘲笑を向けてやれば流石に、 頭に来たのだろう。 幾人かのこめかみに青筋が見える。

私の中で良い人認定されたエンノートさんだけが、 青い顔でオロオロしていた。


 「あぁ、 それとも上司に逆らったら処分されそうで怖いですか? 脛に傷を持った方しか残ってらっしゃらないですものね。 この 騎 士 団 。 流石にこれ以上問題起こしてクビになったら困りますか? 安心してくれて良いですよ。 なんなら書面にしても良いです。 試合の結果に文句も言わないし処分もしないって……ね? それなら安心して貰えますよね」


 「後悔すんなよ。ガキが」 


 怒髪天を突くってこういう事いうのかな。 

セルドレさんの顔色はどす黒く変色してる。 セティルさんは白い顔がよりいっそう白くなって、 唇を噛み締めていた。 マッカートさんは、 顔色はそのままだけど射殺せそうな目をして私を睨んだ。

 心の傷を抉ったからなぁ。 我ながら酷い事をしている自覚はあるけど、 まずは話せる環境を作らなければ何もはじめられない。 

 無言のまま、 今にも噛みつきそうな顔をしたセルドレさんを先頭に私達は練兵場に向かった。 

私の後をクロ達がトコトコついて来る。 この雰囲気に似合わない―― 面白そうだって思ってるのを隠さずに、 楽しそうについて来るその姿に思わずジト目で睨んじゃったよ。 うんゴメン、八つ当たりだ。


 「さて誰からにします? 」


 手入れをされてない模擬剣を持ったら柄の部分がグラグラだったので、 まだマシな木剣の方を人数分持ってきて渡す。


 「オレ! オレからで!! 」


 おっと意外だ。 勢い良く手をあげたのはエンノートさん。 セルドレさんが、 出鼻をくじかれた顔をしてるけど、 まぁ良いや。 


 「じゃあ、 試合形式は実戦方式で。 一応、 木剣は使いますけど格闘とかもOKなんで…… ようはなんでもありって事ですね。 いいですか? 」


 その言葉に全員が頷く。

私とエンノートさんを練兵場の真ん中に残して、 他は客席に下がった。 クロ達がぶんぶんシッポを振ったりしながら応援してくれている。


 「じゃあ試合、 はじめましょうか」


 そう言ってエンノートさんと向き合うと、 抑えた声で彼が言った。


 「ワザと怒らせるのは駄目だよ。 今、 ヴァイは頭に来ててきっと君に手加減出来ない。 まずは時間を掛けて戦った方がいい。 オレが付き合うから」


 本当に優しいなエンノートさん。 私はあんな酷い事言ったのに。 どうやらセルドレさんの頭を冷やす時間を稼ぐために一番手に名乗りをあげてくれたらしい。


 「ありがとう。 でも大丈夫ですよ。 その心配は無用です。 これでも頭に血が上った人の扱いには慣れてるんです。 エンノートさんも本気で来て良いですよ」


 軽く、 木剣を振りながら対峙する。 エンノートさんは、 え? と困った顔をしていたけど、 そのまま気にせず打ちこんだ。 


 ガッ!


 予想以上に打ち込みが早くて驚いたのだろう、 エンノートさんの腰は軽く引けている。 しかし、 腐っても騎士だ。 体制をなおして私に打ちこんで来た。 

 でも、 その剣筋にはまだ躊躇いが見てとれる。

一合、 二合、 少しずつ速度を上げる。 このままやっても良いけど、 面白くないなぁ。 エンノートさんも真剣になって来たみたいだし、 純粋に打ちあいの力だけだと勝つのは無理だ。 

 

 私はワザと下手に剣を受けて、 木剣を取り落としたふりをする。

エンノートさんは驚いていたけど、 横目で客席を確認すれば、 私がワザと落とした事に気がついたのは、 セティルさんとマッカートさん。 ここからでも何のつもりってだって顔をしているのが分かる。 

 セルドレさんはあれ? 気付いてないな。 頭に血が上ってるからだといいケド。 私を見てざまぁって顔してる。 残念な人だ。

 

 「なんで…… わざと落としたんだい? 」


 「貴方とは打ち合う力だけ・・だと勝てないので」


 ニッコリ笑って拳で打ちかかる。 躊躇いながらも木剣を振るエンノートさんの懐に入って振り降ろされた剣を腕に当てる。 当たる瞬間、 エンノートさんが『しまった』って顔をしたけど当然無視して当てた。


 ガキンッ 


 腕に当たったとは思えない音にこの場の全員が目を剥いた。


 「自衛の為に金属製の半手甲着けてるんで、 強く打ちこんで平気ですよー 」


 私は外側からは見えないように手首から肘にかけて半手甲を着けてる。 

奇襲にも対応できる素敵アイテムだ。

 エンノートさんのお腹に拳を入れる。 良いトコに入ったハズなんだけど、 びくともしませんね。

拳も効かないか…… この人、 腹筋堅過ぎだよ。 ちょっと手が痺れた。

 驚きから回復したエンノートさんが今度は躊躇いなしに打ち込んで来た。 私の打ち込みに温い攻撃では逆に危ないと判断したんだろう。 

 

 私は、 そのままエンノートさんの鋭く打ち込んで来る力を使って……。


 「背負って投げたぁ?! 」


 セルドレさんの素っ頓狂な声が辺りに響いた。

背負って投げた後にエンノートさんの胸の上に膝乗りする。 左手で襟を捻り上げて首を固定し右手の指を二本、エンノートさんの目に突き付けてニッコリ笑ってひと言。

「続けます? 」 と聞いたら「マケマシタ」 とお答え頂きました。


 「さて、 次は誰がしますか? 」


 私の問いに、 クアトさんが木剣を下に置いて両手をあげた。


 「試合をせずに、 負けを認めるって事ですかね? 」


 そう言うと青い顔をしてコクコク頷く。


 「…… 俺もだ。 負けを認めてお前に従う」


 マッカートさんが片手で顔を覆ったあと絞り出すような声で手をあげた。 かなり悔しそうだけど、 自分の実力から考えて勝てないと思ったのだろう。 状況判断が冷静に出来るのは良い事です。


 「次は、 あたしがやるわ」


 真剣な目でセティルさんが前に出た。 

私は落とした木剣を拾って構える。


 「優し過ぎるガルヴが相手だったとは言え、 あんたが口先だけのお嬢ちゃんじゃない事は理解したわ。 正直、 あたしとしても自信はあまり無いケド。 …… あたし女が嫌いなの。 だから、 本気でやるわ…… ね。 ―― いくぞ小娘」


 女言葉から一転、 低い男の声で唸るように剣を振るう。 本気で、 と言った通りその剣戟は怖ろしく早い。 それにフェイントを交えての死角からの攻撃がえげつない。


 「随分エグイ攻撃しますねぇ」


 「はっ! それを涼しげに捌いてるヤツに言われたくはないな」


 戦闘時には男性仕様になるのかな? 表情一つとっても、 先程までの女性らしさはカケラもない。 

これなら女性に押し倒される事もあるかもしれない。

 おっとまた速度が上がった。 なんかちょっと楽しくなってくる。 学院で私の打ち合いに付き合える人って先生以外居なかったからなぁ。 

  

 ココッ カッ ガンッ コカッ


 もうちょっと、 スピード上げても良いよね? わっ! この早さでもフェイント入れるかぁ!!

でも…… 残念だけどこれじゃあ私には届かない。 


 カンッ ガカッ ギシッ カッ カッ カカッ 


 セティルさんの木剣を絡めて跳ねあげる。 跳ねあげられた木剣はクルクル回転しながら弧を描き、 練兵場に突き刺さった。 

 そうして私はセティルさんの喉元に木剣を突き付けた。


 「はっあ、 っはぁ、 っは―――っぁ 負けたわ」


 両手をあげて肩で息をするセティルさん。


 「剣、 速いですね驚きました」

 

 「これだけの手数を打ち合って、 息すら切らしてないアンタに言われたくないわ。 嫌味な子ね」


 「失礼な。 本気で言ってますよ。 だってこんなに楽しかったの久しぶりですもん」


 本当に本気で楽しかったので満面の笑顔を向ければ、 何かを察したような顔でセティルさんが溜息をついた。


 「さっきまでの口調と違うのね…… こっちが素なの? 」


 「あちらは、 営業用です。 外面は良い方が面倒ないでしょ? 」


 「あれは外面良いって言えないでしょ。 あっちの方が腹が黒いわ」


 そうかな? 嫌味満載じゃない時は周りのウケが良いんだけど。 素の方が男の子みたいで詐欺だ! 黙っとけ、 とか良く言われてたから頑張って偽装したのになぁ。


 「セティルさんは、 どっちが素なんですか? 」


 「あたしのは…… 多分もうどっちも素だわ…… 」


 セティルさんはちょっと息を飲んだ後、 目を逸らしてそう言うと手を振りながら客席に戻って行った。


 「さぁ、 最後ですね? 」


 そう言って私はセルドレさんの方を見る。


 「…… おう。 お前をガキだと言ったのは俺の失言だ。 本気で行く。 お前の名前を、 もう一度聞いても良いか」


 「リゼッタ・エンフィールド。 春に学院を出たばかりの黒竜騎士団副団長です」


 「はっ。 ヴァイノス・セルドレ。 …… 行くぞ」


 先程までの怒りは欠片も無い。 

冷静なその目の奥には、 興味と玩具を前にした子供のようなワクワクした感情が読み取れた。

 頭に血が上ってないセルドレさんは、 多分この中で一番強い。 ―― もちろん私は別としてね? 


次はセルドレとの最終戦。 次の次位には団長出せると思います。 団長に早く会いたい。


『不注意で世界が消失したので異世界で生きる事になりました。』 もこの後、 次の話を投稿します。

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