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廃棄世界に祝福を。  作者: 蒼月 かなた
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苛めてる訳じゃないよ。

 一応、 一人のまま置いておくのは心配なので、 ルドさんの所にクロを送りこんでから暫く経った後―― まだ、 騎竜のいない裏の竜舎に買ってきた荷物を置いてきた買い物組が、 ドカドカと足音を立てて帰って来る。

 後ろにチラリと見えたシェスカは、 ユーリとの連絡用に着いて行って貰っていたんだけど…… 何故か疲れたような顔をして私の部屋に戻って行った。


 『団長と、 お前とルド―― 何たくらんでんだ』

 

 そんな事を聞かれたのは、 買い物から帰って来た皆に、 ルドさんが調子が悪いようだったから休ませた―― と私が伝えた後の事だ。

 ヴァイさんにそう言われて、 コッソリとユーリを睨む。 カザルの時はそれなりに上手く演じてたと思うんだけどな……。 何でバレてるの?


 『たくらんでるって何のこと? 』

 

 取り合えず、 空っとぼけてみましたよ。 これで誤魔化されてくれるとは思えないケドね。 万が一…… と言う事もある。 まぁ、 もちろん無理だったけど。 逆にこんなんで誤魔化されてくれたら、 全員鍛えなおさなきゃいけなくなるわ。


 『たくらんでるんじゃなきゃ、 俺らに何か隠しているだろ』


 腰に手を当てて眉をしかめるヴァイさんは、 目で誤魔化される訳無いだろう? と訴えて来る。

エイノさんが腕を組んで、 私を見ながら嘆息した。


 『まぁ、 買い物が終わって帰るかとなる度に、 次の用事が出てくれば―― 嫌でも何かあると思うのが道理だな。 しかも白いのと団長が、 しょっちゅうアイコンタクトしているときた』 


 エイノさんにはっきりそう言われて、 ユーリが私から目を逸らす―― もうちょっとどうにか出来なかったんですか? ユーリ。

 無言のままのガルヴさんは心配そうに、 アスさんは上目づかいで、 こちらが責められてる感がハンパ無い。


 『―― 現状では伝えられる事はないね。 ルドさんにも少し時間をあげてよ。 もし今乗り込んで聞きだそうとするやつがいたら、 クロに噛まれると思うし―― 私も容赦しないよ? もうそろそろ、 銀鎖の修理も終わって帰ってくるからね? 逆さ吊りがいい? それとも公衆の面前で裸に剥こうか? 』


 すっげぇ笑顔で言ってあげたら、 ヒトデナシを見るような目で見られましたよ。 失礼な。 ただ脅しただけだよ? そんな事、 本気でする訳ないじゃないか…… あ、 一回やってたね。

 ていうか、 ユーリまでその目はなんなの……。 まぁ、 兎にかく脅しは成功したみたいです。 これならルドさんから無理やり聞きだそうとはしないだろう―― 特にヴァイさん。

 まぁ、 こんなやり取りが終わった後―― 通常業務をこなし、 夕食も済ませ今は私の部屋でユーリと向き合ってる訳ですが……。 ちなみに、 ルドさんは夕食にも降りてこなかった。 さっき、 クロにバスケットに入れたご飯を預けて来たけどね―― ちゃんと食べてくれるかどうか。


 『傍にいるだけでいいのか? さっきから起きてるのにまったく動かないんだ』


 ルドさんの部屋のドアの前―― 心配そうに、 クゥンと鳴くクロの頭を撫でてやりながら私はルドさんとクロの夕飯が入ったバスケットを床に置いた。


 『傍に居るだけがいいんだよ。 今はきっと―― ね』


 『そうか……? なら、 傍にいる―― ちゃんと。 離れない』


 力強く言うクロにバスケットを咥えさせて頷いた。 『お願いね』 とそう言う事を忘れない。

 今傍に居るのは人間じゃない方が良いだろうと思って、 クロについていて貰って本当に良かった。 私も安心できるし、 ルドさんが追い出してないって事はクロがいた方が良いって事だと勝手に思っておく事にしたけどね。

 

 「で、 どうだったんだ? 」


 ユーリにそう聞かれて、 私は溜息を吐いた。

 まだ、 ベットの下でムクレてるリィオは置いておいて、 床に座った私の横にはシェスカがいてユーリと同じように私に問いかけるような視線をくれる。

 何が気に入ったのか同じように床に座るユーリの肩で、 襟巻みたいにダランとしてるルカも―― 顔こそ上げないまでも耳がピクピク動いているから気にはなっているみたいだね。


 「少々―― いやかなり―― ややこしい事になりそうな? 」


 そう言ってから、 事の次第を報告する。

 話を聞いて一番憤慨したのはシェスカだ。 当人はあまり認めたがらないが、 恋する乙女である所のシェスカには完全に我慢できない展開らしい。 

 苦悩するルドさんに対してもイライラしてるみたいだけれど、 レラン伯―― それからファーリンテ嬢…… 会ったら腕の一本や二本―― 噛みちぎらんばかりの勢いだ。


 『信じられないわ! 何なのそいつ等―― そのひとが可哀想だとは思わないわけ? ニンゲンって良くそんなザンコクな事ができるものね』


 「仰る通りです。 返す言葉も無いですシェスカさん―― だけどそんな人ばっかじゃないよ……? なので、 彼らと同じニンゲン枠に私は入れて欲しくないんだけど」


 あぁいった人種と十把一絡げにされるのは、 正直ごめんこうむりたい。

シェスカの怒りに「俺も同じニンゲン枠には入れて欲しくは無いぞ? 」 とユーリ。


 『入れる訳ないでしょ? 私だってそんな節操無く責めたりしないわ―― 何よ―― ルカ』


 『節操無く責めなくてもさぁ、 シェスカが噴火してる時は、 クロの尻尾がクルンってお尻の下に隠れてるって知ってる? 今、 ここに居なくて良かったネェ! 』


 ちょっ! ルカ? 火に油ぁ――!! シェスカの声が氷点下に下降する……。


 『―― ナニガイイタイノカシラ』


 『あんまり苛めると嫌われちゃうよ? 』


 良い笑顔だね! ルカ。 けど急にどうしたの。 シェスカの気配が怖いんだけど。 冷気がビシバシ当たるんだけど……。


 「ルーカー…… 」


 思わず、 責めるようにそうルカを睨めば、 ルカはヤレヤレと嘆息した。


 『リゼ―― 苛めてる訳じゃないよ。 そんな目で見ないで欲しいなぁ。 シェスカが素直になれないのは知ってるさ。 ケド、 クロは激ニブなんだから…… 怒ってばっかりいたらどうなるか―― それ位、 気付いてあげなよ。 一応これでも仲間のヨシミで心配してあげてるんだよ? ―― クロがこの前…… 『オレってシェスカに嫌われてる? 』 って落ち込んでたよ。 馬鹿だから怒らせてばかりいる―― ってさ』


 『……―― 』


 あぁ―― シェスカが落ち込んだ―― 鼻っつらを私の腕の下にねじ込んで、 完全に凹んでる。

クロ、 ルカにそんな事を零してたのか……。 まぁ、 確かにクロは激ニブ―― というか察しが悪い―― というか、 間が悪かったりするよね……。 だから、 ツンデレ気味なシェスカさんの事を誤解するって事は十分にあり得る話しだ。


 「…… お前、 もうちょっと優しく言ってやれなかったのか? 」


 ルカが言った事はもちろん正論ではあったけれど、 直接的すぎて攻撃力が高かったからね。 ユーリがそう言ってルカに苦言を呈す。


 『優しく言ってどうするんだい。 シェスカだって分かっていて治せてないんだから、 これ位言わないと駄目だろう? 私としては、 放っておいて事の成り行きを楽しむ―― と違った…… 見守るつもりでいたんだけどねぇ。 ちょっと最近、 身の回りがバタバタしているだろう? だからシェスカ達まで面倒な状態になって欲しくないんだよ。 契約してない身の私としては破格の譲歩だと思って欲しいね』


 ルカさんや、 言ってる事は正しい事を言ってそうに聞こえるけど、 しっかり『成り行きを楽しむ―― 』 って言ってたね。 楽しむ気だったのか……。 まったく。


 「契約―― してない? 」


 ユーリがそう言って私の方を見た。 私はユーリに頷く事で返事をする。


 『そうだよ。 私は友情と言う名の純粋な好意で、 リゼに協力してあげてるだけだからねぇ。 飽きたり、 他に用事ができたりしたら―― 私はいなくなる』


 師匠との特訓中の森の中で出会ったルカは、 木の上から『面白そうなコトしてるねぇ』 と言って私が死にそうな目に合ってるのを見学してたんだよね。 私は全然面白くは無かったんだけど。

 そんな事が何回かあって、 何が気に入ったのか私について来た訳ですよ。


 「―― 何だろうな―― 今まで、 こんなに話している所を聞いたことがなかったから、 分からなかったが…… セトみたいな奴だな」


 しみじみと、 ユーリが言った事に私は「でしょう! 」 と声をあげた。


 「やっぱりユーリもそう思います? 絶対に気が合うと思うんですよねぇ…… けど、 タイミングが合わなくて、 ルカだけ未だにセト様に紹介できてないんですよ…… まぁ、 会わせない方が周りは幸せかもしれませんケドね…… 」


 「―― 確かに…… この人で遊ぶ感じ―― 一人でも持てあますのに増えるとなぁ」


 トラブルの種が倍になる気配しかしないもんねぇ。 種が倍と言う事は、 被害者とかそう言ったものも倍になりそうで少し怖い。 会えない現状は世の平穏に貢献しているかもね。


 『失礼だなぁ…… まぁいいや。 リゼ―― 私はこの件が解決したら、 暫く実家に帰るからね? 』


 「え―― もしかして怒った? 」


 少し言いすぎだったかな。 そう言ってルカを見れば苦笑を返された。


 『違う違う―― 友人に頼まれごとをされてね…… 調べ物をちょっと…… 後は暫く実家に帰っていなかったし丁度いいかなぁってさ』


 成程、 と頷いて怒ってなかった事に安心する。 まぁ、 ルカってあんまり怒ってる所は見た事ないんだけれどね。


 「そうか…… 私も随分実家に帰って無いよなぁ…… 落ち着いたら私も里帰りしようっと」


 「―― リゼの出身はどこなんだ? 何だか、 資料が滲んでいてその辺りが見れなかったんだが…… 」


 ルカにつられて里帰りの話をしたのが間違いだった―― ユーリが思い出したとばかりにそんな事を聞いてくる…… 私の資料、 見たんだ? まぁ、 団長だし当然の事なんだけど…… あの書類―― ワザと水を零しておいたんだよ。 何故かって? 万が一ソレで『リゼル』 に気がつかれたら困るからだよ!


 「へ? えあ? ―― なんて事無い田舎ですよ? 特にユーリが気にかけるような所もナイデスシ」


 目を逸らせて言ったのが悪かったらしい。 ユーリが満面の笑みを浮かべてくる。 これは、 良くないヤツだ……。


 「―― 帰る時言えよ? 興味が出たから俺も行こう」


 「えぇ? イヤイヤ、 本当に何にもないようなイナカですから! 」


 興味とか、 持たなくて良いんですが?! ついて来られたら、 確実にバレちゃうでしょうが!

ついてくる、 と言いきるユーリに頭を悩ます日が来ようとは……。 こうなったら、 リアにアリバイを頼んでこっそり田舎に帰るしかない気がする……。


 『ここもまた、 中々楽しそうだねぇ。 見どころたっぷりで嬉しいよ。 リゼが実家に帰る頃には、 私も戻って来ていないといけないなぁ。 ところで―― じゃれるのも良いけれど、 本題から大分ずれて来ているよ? 大丈夫かい』


 楽しそうに、 そう言うルカに思わずゲンナリした視線を向ける。 ユーリも同じように感じたようで、 苦笑しながらルカを見た。


 「―― 元はと言えば、 お前が本題をずらしたと思うんだが? 」


 『そうだったかな? まぁ、 いいじゃないか―― 細かい事は気にするなよ。 男だろう? 』


 細かい事かなぁ……。 ルカのお陰で大分脱線したのは事実なんだけど。

一瞬、 私も一言いっておこうかとも思ったけれど、 また脱線されても堪らないのでリィオが籠ってるベット下を覗き込んだ。 真っ暗な奥に金色に光る双眸と目があった。


 「ねぇ、 リィオ―― そろそろ機嫌治らない? 」


 『…… 』


 無言で目を逸らされましたよ。 こりゃあ、 まだまだ怒ってるなぁ……。 


 「リィオにしか頼めない仕事があるんだけどな―― 」


 『…… 』


 いつもなら、 コレで『何、 何? もう―― しょうがないなぁリゼは! 』 って感じで出て来るんだけど……。 例の私の発言が、 どうにも尾を引いているとしか思えない。 それだけリィオが傷ついたのだと思うと、 悪かったなぁと改めて反省する。 二度と言わないようにしよう。 


 『しょうがないね。 リィオは子供だから―― リゼは大人で頼りになる私に、 仕事を頼めば良いんじゃないかなぁ』


 呆れたような顔をした後、 ルカがそう言ってワザとらしく私にすり寄って来た。 明らかにリィオを挑発してらっしゃる。


 『ダメ――っ!! 』


 バタバタと羽ばたく音がして、 耳を塞ぐ位に大きな声でリィオが叫んだ。 思わず、 ユーリと顔を見合わせて笑ってしまう。 拗ねてても、 仕事を取られるのは嫌みたいだね。


 『駄目――? そんなベットの下でイジケてたら、 リゼの仕事は出来ないだろう? ほら。 私が行くしかないじゃないか』


 更に、 挑発するようにルカが言う。 さぁ、 リゼ―― なんの仕事をすればいい? 私なら、 パパット行ってササット終わらせて来るよ! と言った所で、 ガサゴソとベットの下で音がした。


 『ダメったら、 ダメったら! ダメ――っ!! それに、 僕は子供じゃないやいっ』


 羽を広げた涙目のリィオが、 ヨチヨチとベットの下から這い出て来ましたよ。 可愛いと思った事は胸に秘めておく。 今そんな事を言ったりしたら、 ベットの下に逆戻りしかねないし。


 『まったく。 子供じゃないのなら、 いじけるとベットの下に潜る癖をどうにかした方が良いと思うけれどね? そもそも、 飛竜の件だって―― リゼの仕事の関係なんだ。 どっちが大事かなんて比較する事自体が間違いだよ。 そんな質問をする位なら、 正直にリゼにかまって欲しいって言えば良い』


 仁王立ちしそうな雰囲気で、 出てきたリィオにルカがそう言う。 


 『リゼは、 お仕事忙しいんだ! そんな事、 言えないもん』


 でもでもだって! と言いながら目を逸らして言うリィオ。 一応、 私の仕事が忙しい事を気にしてくれて、 色々と我慢しててくれていたようだった。


 『分かってるじゃないか―― リゼが子供の時とは違うんだ。 リゼには優先される仕事がある。 幼い頃と同じように、 お前をかまってやれないのは当たり前だよ。 『そんな事、 言えない』 と言う癖に結局リゼを困らせているのなら、 『かまって欲しい』 と言ったのと変わらないだろう? それなら、 素直に『寂しかったから、 かまって欲しい』 と言った方がまだ可愛げがあるとは思わないかい』


 『うぅ…… 』


 ルカにぐうの音も出ない位にやり込められて、 見る間にリィオの目に涙が浮かぶ……。 分かっていても、 我慢できなかったんだねぇ……。 『かまって』 って言うのは我慢できてた訳だけど。

 私からすれば、 逆にそこまで我慢できるようになったんだって成長が喜ばしかったんだけど、 ルカからすると全然まだまだだったらしい。 


 「ルカが―― ルカが真っ当な大人に見える―― 」


 ルカが…… あの、 面白い事にしか興味が無くて、 場を引っかき回す事が好きなルカが、 まともにお説教するなんて…… 思わず、 そんな言葉が出たらルカに思いっきり睨まれた。


 『―― ちょっと真面目に話しただけでコレか…… リゼ、 君は私を何だと思ってるのかな? 』


 「ごめん、 ゴメン。 何か、 いつもこう言うの放置してたじゃない。 だから、 なんだか珍しくって」


 契約していないから、 ルカが本当は『何』 なのかは分からない。 悪戯とか好きだし、 精霊とか妖精の類かと思ってた。 まぁ、 あれだ。 年齢的には大人だけど、 性格は子供―― と思ってましたよ……。 


 『暫く留守にするから、 一応ね―― それに私には約束した相手がいるんだ。 すぐに―― という訳ではないけれど、 彼女が来れば私の全ては彼女のためのものだからね―― 今みたくリゼ達と一緒に居る訳にはいかなくなるし。 少しは成長して貰わないと困るんだよ』


 おっと、 それは初耳。 どうやらルカには結婚の約束をしたか、 主従契約をする為の約束をした人がいるらしい。 けど、 この口ぶりからすると結婚の約束でもしているのかな? 

 そんなルカの言葉に、 ユーリが少し反応を示した。


 『おや、 リゼ…… 気になるかい? 彼女はね、 魂の伴侶達の子供なんだ。 やがて産まれて来るんだよ―― 私との約束を果たす為にね』

 

 意味深な雰囲気で言うルカに、 訝しむようなユーリの声が重なる。


 「魂の伴侶―― 」


 「ユーリ? 」


 ふ、 と何かを思い出すかのようにユーリが口ごもった。 そんなユーリを、 ルカが内心を読めないような不思議な目をしてジっと見つめる。

 ぐらりとユーリの上半身が揺れて、 慌てて支えるように寄り添った。 どこを見ているか分からないような目をしたユーリが、 私を見て囁く。 その目の色が一瞬、 赤く色を変えたように見えて息を飲んだ。


 「ありあ? 」


 焦点の合わない茫洋とした目は、 ユーリの意思が感じられず何やら怖ろしいような気持ちになって、 肌が粟立った。 リィオがキョトンとした顔をして何か言おうとするのを、 ルカが前足を乗せて止める。 そんな、 いつも良くある日常の光景の中で、 ユーリだけが異質な何かになったみたいだ。


 「アリア―― アリアって誰です?」


 乾く喉から出た声は、 少し掠れてしまっていて―― 無言のままでいるユーリが、 まるでどこかに行ったまま帰って来ないのじゃないかと不安になった。

 ただ、 ただ無言で私を見つめるユーリを揺さぶって、 もう一度問いかける。


 「アリアって誰ですか? ユーリ! しっかりして下さい」


 バチリと音がして、 ユーリの目が焦点を結ぶ。 私が近くに居る事に驚いた後―― 何を言われたのか理解できたらしい。 訳が分からないと混乱した顔で、 髪を掻きあげた。


 「―― アリアって誰の話だ」

 

 「今、 自分で言ったんでしょう? アリアって」


 ユーリは本当に分かって無いらしい。 混乱するユーリを見て、 思わずリィオと顔を見合わせた。

ルカは、 我知らずとばかりに毛づくろいをしていて、 この件に首を突っ込む気は無いらしい。

 床から起き上がったリィオが、 嘴を開けたり閉じたりしながらルカを見た。 おそらく、 ルカに前足を乗せられて話すのを止められた事を、 話すかどうか逡巡してるんだろう。

 けど、 ルカはもう止める気は無いらしい。 言うなっていうんじゃなくて、 あのタイミングで声を出すなって事だったのかもしれない。


 『今、 ユーリ別の人だったよ』


 「俺が? まさか」


 自信なさそうに言うリィオに、 ユーリが戸惑ったような声を出した。 内心の不安を笑って誤魔化そうとするユーリに、 私は笑う事が出来なかった。 ―― 別の人。 確かにユーリじゃないと言われれば不思議としっくりと来た。 けれど、 じゃあ何故別の人が? と言われるとそれが理解できない。

 まるで、 ユーリの中にもう一人―― いるみたい。 それよりも怖かったのが、 ユーリが居なくなってしまうかのような不安感だ。 その心もとない不安が私の心をザワめかせる。 私は、 粟立った肌を押さえつけるように自分を抱きしめた……。


 ルドさんとエルナマリアさんの話が主体になるはずが、 ルカのお陰で別方向に……。

予想もしてない所から、 予想もしていない人が出て来てどうしたものか…… な今日この頃です。

 

 予定外でしたが、 次回はリゼの幕間、 その次はユーリの幕間になります。 両方短めになるかと……。

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