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廃棄世界に祝福を。  作者: 蒼月 かなた
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幕間 遠き落日 リゼッタ・エンフィールド 中編

長いです。 読みにくかったら申し訳ない(汗)

 エイス団長、 ユーリにレン、 セイとアイズそしてユクトと森を進む。 クロにシェスカは僕達の後をついて来てるけど、 その姿は見えない。 指笛を吹いて呼べば来てくれると思うけど。 

 リィオは自由に空を飛べる仲間みたいな騎竜を気に入ったらしくて、 巡回組について行った。 

そう言えば「ユリアス王子」 って呼び方は、 却下されたので今はユーリって呼んでる。

 七人と二匹で森の中を進む。 今日は森の中で一泊の予定だ。 ここは森の奥、 原初の森――。 いつ何があってもおかしくない。

 持ち物は動きやすいように簡素なもの。 剣はしょうがないけど、 道なき道を行く事もあるので団服は置いてって貰って、 ご近所さんに持ち寄って貰った服を着てもらってる。 食べ物はヒワという雑穀以外は現地調達。 鍋に木の椀と水筒、 人数分の縄―― 強度の高いこの縄が実は野宿するのに一番大切なものだ。

 さすが、 騎士団の精鋭だけあって、 ここまで来るのにいつもより時間がかからなかった。 

商人や学者さんだとこれの三倍は時間がかかると思う。 正直この人達の体力を舐めてた。


 「リゼルは迷いなく進むなぁ」


 レンがそう言って腰を伸ばした。 低木のアーチをくぐってきたから腰を伸ばしたかったらしい。


 「そりゃ、 この辺は僕の庭みたいなもんだもん」


 「ここを庭って言えんのは凄いな」


 僕の返事にユクトがそう言って笑う。


 「祖父ちゃんに散々しごかれたからね。 祖父ちゃん…… 教えるのの最後の仕上げだって言って僕の事、 原初の森の奥に放置して帰ったんだよ? 自力で帰って来いってさ」


 「は? 」


 僕が苦笑して言えば、 ユーリがそんな声を上げた。 他の人達は感心したり呆れたりと反応は様々だ。


 「祖父ちゃん頭より身体で覚えろの人だからさ。 あぁ、でも後から聞いたら死なないように気配を殺して僕の後ついて来てたらしいけど。 あの時は僕、 帰れなくて死ぬと思ったよ」


 今日と同じ軽装備。 食べ物は現地調達。 教えてもらった知識を必死で思い出して、 森の中で一夜を過ごした。 クロ達は祖父ちゃんの指示で留守番してたから本当の一人っきり――。

 あれ程、 心細い思いをした事はない。 村になんとか辿り着いたとき、 のっそりと後ろから現われた祖父を見てしがみついて大泣きしたのは秘密だ。

 四歳児にする仕打ちじゃ無い気がするけど、 『人に頼るうちは知識は自分のもんじゃない。 自分で考えて使って知識が初めて自分のもんになる。 良くやったな』 祖父ちゃんはそう言って肩車をしてくれて家に帰ったっけ。


 「凄い、 お祖父さんですね…… リゼル君はその―― か弱いと言うか…… 」


 セイがそう言って感心した後言い淀む。


 「―― 何? 」


 「いえ、 何でもありません。 その方がいいでしょうし」


 僕の問いかけにそう答えて、 視線を逸らした。 あれ? これってバレてる……。 


 「どうしたんだ? セイ」


 「―― ユーリは気付いてないんでしょうね…… 」


 苦笑する大人達の中、 ユーリだけがキョトンとしてた。 セイがその様子をみて、 申し訳なさそうに僕を見て来る。 どうやらユーリ以外には女だってバレてるらしい。 ―― おかしいなぁ。 今までバレた事なかったのに。 それとも皆、 気付いてて見てみない振りをしてくれたんだろうか。


 「ないだろ」

 「ないなぁ」


 ほぼ同時にユクトとアイズが笑いを噛み殺して言ったりするから、 ユーリが不機嫌そうな顔になる。

エイス団長なんて後ろを向いてるけど肩が震えてるし……。


 「何がだよ? 」


 「まぁ、 気にすんじゃない。 黙っててやるのが紳士ってもんだ」


 ムスッとしたユーリの言葉にレンがヘラヘラと笑いながら頭を撫でようとして手を思いっきり叩かれてる。


 「―― なんで―― 」


 思わず、 僕が呟くとユーリ以外の全員から間髪いれずに返事が来た。


 「「「「「カン」」」」」


 「だから何がだよ! 」

 

 カンでバレるとか…… 野生動物じゃあるまいし。 理由を教えて欲しかったんだけど。 じゃないと対処しようがない。 ユーリの叫びが、 薄暗くなってきた森の中に響いた――。


 場所は変わって、 細い川のそば……。 今はエイス団長と全員の水筒に水汲みしてる。

他の人達には道々で採取してきた食材で夕飯の準備をして貰ってる。 エイス団長は、 気付いたら後ろについて来てた。 なので手伝って貰う事にする。


 「今までバレた事ってなかったんだけどな」


 「まぁ、 それぐらいの年齢だと、 まだ誤魔化しはきくんでないかい? 」


 僕の呟きに、 エイス団長がそう返す。


 「けど、 バレたじゃんか」


 「まぁねぇ。 オジさん達が勘が良かっただけだよ? 多分巡回組も気付いてるけど」


 ムスっとした僕の声に、 苦笑したエイス団長の声が重なる。 ―― 巡回組にも気付かれてるの? 僕。

なんだか自信なくすわ。 村でも父さん母さん以外、 扱いは男の子なんだけど。 


 「ユーリは気付いてないぞ」


 他は気付いたのに、 ユーリだけが気付かないって言うのは何だかモヤモヤした。

ここまで皆が気付いてるんだよ? なんでユーリは分かんないのさ。 バレるのが嫌だと思うのに何故かイラッとした気持ちが止まらない。


「あいつは、 都合の悪い事を見ないようにする所があるからなぁ。 魔物とか、 敵に対しては逃げたりしないのに何でだろ? 」


 しみじみと、 エイス団長がそう言って首を傾げた。 どうやら、 ユーリは都合が悪くなると逃げるクセがあるみたいだ。 けど、 僕が女だと何が悪いっていうんだ?


 「都合悪いって何がさ」


 「リゼル君が女の子って事だよ。 甥っ子のユーリ君はちょっとだけ女性不審でね。 見た目だけに群がって来る女…… 特に、 王子って名前に惹かれて来る女に嫌悪感がある訳よ」


 「それと僕が女だって事に何が関係あるのさ」


 「ユーリは君の事が気に入ったのさ。 それが嫌いな女じゃ都合が悪いんだよ。 まぁそんなのも思春期の一過性のものだとは思うけどな」


 僕の問いかけに、 エイス団長がそう話す。 ユーリは昔、 『女なんて花に群がる毒虫みたいなもんだよな』 とか言ったらしいので…… 僕的には、 そうとう拗らせてる気がするけど…… エイス団長曰く、 好きな子ができれば変わるでしょ。 だそうです。 好きな子ねぇ。


 「村の山猿がお城のお姫様と同列とか…… ユーリは頭大丈夫なの? 」


 好きな子、 云々は置いといて。 エイス団長の話だと、 それってお城でキラキラした服きてる女の子だろ? それと僕を並べてもしょうがないと思うんだけどな。 だって基本素材が違うし。 別物じゃん。


 「オジサン的には嬉しい変化だけどねぇ。 ―― ま、 どっちも自覚が無い所が可愛らしいけど」


 クックックッと、 楽しそうに笑ってエイス団長がそう言った。 僕は、 胡散臭い笑いに警戒しながら聞き返す。 自覚が無いってなんだろう。


 「? 何が」


 「イヤイヤこっちの話。 村長さんも人が悪いよなぁ。 リゼルって紹介されたぞ? 所で本当の名前は何ていうんだい」


 エイス団長に笑顔でそう聞かれる。 

 僕がリゼルって紹介されたのは当たり前だ。 だって村長にはそう紹介して欲しいって頼んであるからさ。 旅人―― 特に森に用がある人達は、 一番最初に村長の所に挨拶に行くからね。 そこで、 ナビを紹介して欲しいって話になったら僕の名前を言ってくれてる。

 前は正直にリゼッタって言って貰った事もあるんだけど、 名前聞いただけで、 女って分かるし、 しかもそれが子供だって言うんで信用して貰えるまでに時間がかかった。 だから紹介はリゼルでしてもらってる。 おかしいよな。 子供な所は一緒なのにさ。


 「リゼッタだよ」


 「良い名前だね。 時に何で男の子の格好をしてるんだい? 」


 名前を告げれば、 エイス団長が柔らかな微笑みを浮かべる。 そう言えばこの人も元王子だったっけ。

ユーリと言い、 黙ってれば普通に貴公子的な感じなのになぁ。 黙ってれば。 


 「女の子の格好してると、 こう言うナビの仕事で余計にナメられたり侮られたりするんだもんさ」


 少しだけ口を尖らせて言ってしまったのは、 馬鹿にされた時の事を思い出したからだ。

あんまりにも酷いヤツの依頼は断ったけどね。 僕の足元見て散々嫌味を言ってから、 お金を地面に落して拾えとか言うヤツとか。 

 そういう奴等は『お客様』 を強調しがちで勘違いしてるけど、 残念ながら僕にも断る権利はある。 予定がどうとか言ってたけどシラネ。


 「うーーん。 そもそも女の子の君がこんな仕事をしてるのは何故か聞いても? 」


 エイス団長から聞かれた事はもっともだったので、 少し逡巡した後言葉を続けた。 エイス団長なら言ってもいいと思えたからね。 僕もカンだけど、 信用してもいいと思って。


 「エイス団長は良い人そうだから言うけどさ。 ここだけの話、 ウチ父さんが怪我の後遺症で身体弱いんだよ。 調子が良い時は畑仕事もできるんだけどさ」


 「怪我の後遺症? 」


 流れる清水を水筒に汲みながら、 僕はそう話すとエイス団長が、 真剣な顔をして聞き返す。


 「ん。 森の奥にさ…… 滝があるんだ。 父さんはそこで瀕死の重傷を負って倒れてる所を、 母さんと祖父ちゃんが見つけて村に連れて帰って来たんだよ。 だから、 元々村の人間じゃないんだ」


 母さん曰く、 二週間程生死の境を彷徨ったらしい。 父さんがお医者先生の許可が出て動けるようになるまで3カ月。 その間、 献身的に看病してくれた母さんに父さんは今でもベタ惚れだ。

 僕の話に耳を傾けていた、 エイス団長が考え込む様にして水を汲む手を止めた。 


 「…… お父さんの出身地を聞いてもいいかな―― 」


 「分かんない。 父さん記憶ないんだ。 その時の怪我がさ…… 神経? って言う所を傷つけてて麻痺が残ってる。 毒と言うか呪術的汚染? ってヤツで症状が日によって酷かったり軽かったりするから―― 酷いと全身に激痛がはしって動けないんだよね」


 真剣な表情で聞かれて答える僕に、 エイス団長は少し哀しそうな顔をしながら頷いた。

父さんの記憶は結局戻らなかった。 服の生地が良かったから、 良いとこの坊ちゃんじゃないかとアタリを付けて祖父ちゃんは、 アースゲイドの領主様がいる街でも捜索願が出てないか聞いて回ったらしい。

 けど結局、 父さんの捜索願らしき物は出ておらず、 記憶喪失者の保護情報と新しく住民申請を出し戸籍を作った。  

 

 「そうか―― 苦労してんだなぁリゼル君」

 

 ポツリと呟くエイス団長に、 僕は呆れた顔をしながら溜息をついた。


 「苦労なんかじゃないよ。 家族は助け合うのが当たり前だろ。 僕―― 父さん好きだし」


 実際の話、 父さんと母さんと結婚する時に、 身体の弱い男なんて、 と村の中にも言った人がいるらしいけど。

 そんな『忠告』 をした母さんの友達だったらしいその人と、 近所のおじさんの事を母さんはまだ許してない。

 対応が、 他の人達と違うんだよねぇ。 事務的と言うか何と言うか。 そんな母さんの事を父さんは苦笑しながら見てる。 父さんはまったく気にしてないんだけどね。 どうしても許せないらしい。

 僕達は、 父さんの為に苦労してるつもりなんてサラサラ無い。 僕も母さんもティオも、 死んだ祖父ちゃんに祖母ちゃんだって、 父さんの事が大切で好きだから家族としてやってけてるんだ。


 「マジで良い子だわ。 俺もこんな子が欲しかったなぁ…… リゼルが産まれててくれて良かった―― 」


 突然、 エイス団長にそう言われて、 僕は正直引いた。 だって、 少しウルウルしてるんだぜ?

良い年したおっさんが。 


 「―― なんだよ気持ち悪いな」


 思わず、 睨みながらそう言ったら、 エイス団長が破顔する。 吃驚するほど優しい笑顔で、 そして少し泣きそうな顔でそう言われて、 僕はどうしたらいいのか分からなくなった。


 「はは。 悪い。 ちょっとオジさん嬉しくて―― やっぱり生きてたんだなぁ」


 囁くように言われた言葉に、 万感の想いが込められていると感じたのは気の所為か。

僕の頭をクシャっと撫でる、 エイス団長のその手を振り払えなかったのは、 その手が温かかったからだ。


 「――? 」


 言葉の意味を聞くべきかどうか逡巡していると、 後ろの方からガサリと草をかき分ける音がしてユーリが現われた。 どうやら、 様子を見に来たらしい。


 「水の補給にどれだけかかってるんだよ」


 腰に手を当てて、 言うユーリを見てエイス団長の雰囲気はガラリと変わった。 さっきまでの、 しんみりした感じが消えてニヤリと笑ってユーリを見上げる。


 「なんだ? 迎えに来てくれたのか? ユーリは優しいなぁ」


 エイス団長が立ちあがって両手を広げるとユーリを抱きしめようと近付いた。 嫌そうな顔をしたユーリが避けると、 傷ついた顔をして手を下ろす。


 「叔父上が油売ってないか見に来ただけです」


 ユーリがそう言って、 水を入れ終わった水筒を持ちあげた。


 「おま。 信用ねぇなぁ」


 「日頃の行いを振りかえってクダサイ」


 不本意って顔をしたエイス団長を、 横目で睨みながら冷たくそう言うユーリ。


 「日頃の行いって? 」


 「―― サボり魔。 僕だって信用したいですけどね」


 僕が聞くと、 そうユーリが言葉を返す。 口調がやや丁寧なのは嫌味を言ってるかららしい。


 「はいはい。 一応ちゃんと水汲みしてたよ――。 サボってないです。 はぁ。 他の連中もサボってると思ってるんだろうな……。 じゃ、 俺は先に行くから。 ユーリ、 リゼル―― 後は任せた」


 エイス団長は旗色が悪いと思ったのか、 ほとんどの水筒を持ってそそくさと立ち去った。 

その姿を見てユーリが溜息をつく。


 「まったく…… 」


 「ユーリ達って仲良いよな。 普通団長と団員とかって上下関係は厳しいと思ってた」


 僕が、 思った事をそのまま言うと、 ユーリが当然と言うように頷いた。


 「厳しいぜ? 正式な場所とか格好つけなきゃいけない時はな。 ただ、 確かに黒竜騎士団は緩い方だと思う。 団長の叔父上がアレだからなぁ」


 二人で残された水筒に水を汲んでからエイス団長の後を追う。 ユーリが、 そう言って苦笑しながら僕の方を見た。 ユーリの口調からも、 表情からも…… 黒竜騎士団がどっちにしても好きなんだろうなって事が伺える。


 「楽しそうでいいじゃん」


 僕はそう言って笑った。 正直言うと、 ちゃんとして礼儀正しい黒竜騎士団が想像できないんだけどさ。 僕は、 馬鹿な事言って笑いあってる黒竜騎士団の方が好きらしい。 


 「あぁ。 帰って来たみたいですよ」


 セイがそう言って手を振った。


 「団長、 置いて来ちゃ駄目でしょうが」


 ユクトがそう言って、 呆れ顔をエイス団長に向ける。 どうやら、 僕達を置いて帰って来た事を責められていたらしい。 


 「水筒のほとんどは持って帰って来たよ? リゼル君はこの森のなかなら俺達より上手く立ち回るさ」


 プロだからね―― エイス団長にそう言われて、 ちょっと嬉しくなった。 僕がニコニコしてるのを見てユーリが苦笑する。 夕飯はもうだいたい出来ていて後は、 よそうだけらしい。

 今日の夕飯はヒワというコメよりもっと小さな穀物だ。 炊きあげればモチプチっとした食感のものになる。 それに茸や干し肉を切ったものを入れた雑炊である。

 焚火にあたりながら雑談をする。 夕飯と言うにはまだ明るいんだけどね。 ここは火を怖がらない夜行性の動物が出るので、 早めに夕飯を済まして寝る準備をしたいのだ。 

 明日は日の出と共に出る予定。 


 「はぁ。 結構食えるもんだな。 それに、 食べた量の割りに満腹だ」


 アイズさんが、 腹を叩く振りをしながらそう言った。 


 「ヒワは腹の中で膨らむからね。 栄養価も高いし、 少量で満腹感を得られる優れものだよ」


 僕は、 そう答えてから考えた。 ヒワを穀物として育ててる所は無い。 村だと道端に良く生えてるヒワが食べれるって知ってる人がいなくても当たり前か。

 ましてや、 王都は田舎の村と違って石畳の道が多いって聞くから見た事すらない人もいるかもしれない。 


 「ふむ。 王都ではまず見られないよねコレ。 コメより持ち運びしやすそうだし携帯食に出来そうだなぁ」


 エイス団長が、 興味津々に袋の中に残ってるヒワを見る。 これは脱穀して、 もみすりした後だから原型を留めてないけど。 道端に生えてるヒワは箒を逆さにしたような形状をしている。


 「脱穀して乾燥させればまぁ。 コメよりかは持ち運びしやすいね。 でもコメなら干飯ほしいいとかでもいいんじゃん? 」


 「干飯? ってのは何だい」


 僕のその言葉にレンがそう聞き返す。

 ヒワはコメより粒が小さいからねぇ。 持ち運びには便利かも。 けど、 携帯食っていうか保存食としてなら干飯の方が保存期間が長いはず。

 

 「知らない? まぁ、 正直言えばあんまり美味しくはないけど。 炊いたコメを一週間天日干しにしてカラッカラにすんの。 水分飛ぶと結構軽くなるよ? 食べる時は熱湯に入れて戻すか雑炊にするか…… 二十年位持つから携帯って言うより非常時の保存食かな」


 不作時の非常食って母さんに教えて貰ったんだけど、 王都には干飯ないのか……。

まぁ、 ここ数十年、 不作になる事もなかったみたいだし。 けど、 ウチの戸棚の奥には祖母ちゃんの作った十年ものの干飯が今も残ってる。

 

 「へぇ。 そんなのもあるんですねぇ」


 セイさんが感心したようにそう言って、 頷いた。 残念ながらここにいるメンバーは、 干飯を誰も知らないらしいと思った時、 ユクトがあぁ、 と声を上げた。

  

 「あぁ。 それなら知ってるな。 俺んトコだと乾飯かれいいって言ってたぞ」


 「ふうん。 そんな呼び方もあるんだ。 そっちは知らなかったや」


 知ってる人がいた事に少しだけ嬉しい気持ちになった。 場所によって呼び方が変わる事もある訳だね。

乾飯…… 覚えておこう。 食事の後片付けを手早くしながら焚火を消す。 

 夜、 この森で火を焚くのは夜行性のバスズというオオトカゲの危険種を呼びよせる事になりかねない。あいつらは巨体で肉食だし。 人を殺せる生き物だ。 それに避けれる戦いは避ける方が疲れない。

 なので、 今日の寝床は木の上だ。 

木のぼりの方法は色々あって、 足にツメをつけて登る方法、 マタギのおっちゃん達が良く使う、 ぶり縄と言う方法。 後は手縄、 足縄とかな。

 けど、 足にツメをつけるのは木が傷つくからって祖父ちゃんからは知識しか教わってないし、 ぶり縄とか手縄とかは―― 騎士さん達はどうだろ? できるかもしれないけど……。 商人のおっさんや、 学者さんは無理だったよな。 傭兵のおっさんは出来る人もいたけど。

 なので一番簡単な、 ロープの端に枝を括りつけて投げて木の枝に引っかけて登って貰った。


 「お前、 猿だな」


 皆が上った木に後から手縄、 足縄を使って登り降り。 言い方は違えど、 今のユーリと同じような事を言われた。 ユーリが落っこちないように、 ユーリが登って来たロープを使って枝と身体を固定してやる。


 「普通の結び方じゃないな」


 「名前は知んないけどね。 解けにくいんだってさ」


 ロープで身体を固定する僕を興味津々で見るユーリ。 僕は手早くユーリを木に固定しながらそう答えた。 祖父ちゃんから教わった方法だけど、 祖父ちゃんも、 その祖父ちゃんから教わったらしい。

 名称は特になく、 木に固定するヤツとか呼んでた。 


 「お前はどこで寝るんだ? 」


 ユーリにそう問いかけられて、 僕は少し上に生えてる枝を指さした。

ワザワザ降りて、 また登るのも面倒じゃん? もう、 だいぶ暗くなってるしそろそろバスズも活動時間だ。


 「ユーリで最後だからその横の枝で寝るけど」


 そう言ってから、 枝によじ登る。 


 「そうか―― その、 な…… リゼル。 お前がナビで良かったよ」


 ユーリが、 ふと思いついたようにそんな事を言った。 自分で言ったくせに、 言ってみたら照れてるらしい。 そっぽを向いた耳が赤い。 急にそんな風に照れられて、 僕もなんだか落ち着かない気分になった。 ちょっとだけ顔が暑い。 


 「…… なんだよ急に―― 変なヤツ」


 それだけ、 言うと身体を枝に固定するのに集中してる振りをして、 顔色を誤魔化す。 

ユーリが、 僕の方を見る気配がした。


 「僕はさ。 まぁ、 黒竜騎士団に入るまで、 王子扱いして来るヤツしか知らなかったんだよな。 学院でもそうだ。 友人―― と言ってくれる者も居なかった訳じゃないが、 皆何処かに一線があった。 けど、 お前は最初から怒ってたし、 王子扱いしなかっただろ? だから、 ちょっと嬉しい」


 随分と真っ正直に話すユーリに僕の方が恥ずかしくなってくる。 ユーリは恥ずかしかったりしないのかな、 と横目でチラリと見れば意外にも真剣な顔をしていた。 流石は天然ものの王子様。 素直すぎてこっちが困る。


 「怒ったのはユーリが一番チビとか言ったからだろ。 一線―― か。 ユーリがもっと王子様っぽかったら僕も一線引いてたかもな」


 あんな風に話かけられなければ、 僕はユーリを王子様として扱ったかもしれない。 そうしたら、 ここでこんな風に話す事もなかったんだろうなって思うと、 こうなって良かったと思う。

 第一印象では嫌いだったのに可笑しな事になったもんだ。


 「王子様っぽくないって初めて言われたぞ? 」


 「―― 黙ってれば王子様っぽいよ。 けど、 喋ると僕の村にいる連中と変わんないんだもん」


 ユーリの言葉に僕は正直に答えた。 本当、 顔は良いんだよな。 黙ってニッコリしてたら、 女の子にキャーキャー言われるのも理解できる。 そりゃ、 花に群がる蜂みたく寄って来るだろうよ。


 「王城にいる時はこんな話し方じゃないからなぁ…… 」


 しみじみとそう言うユーリに僕は思いついた事を言ってみた。


 「ソレなんじゃん? 」


 「何が? 」


 きょとんとした顔で問い返されて、 僕はユーリの顔をしっかりと見る。


 「ユーリが『王子様』 してるから皆そう扱うんじゃないの? 友達になりたい人にはもう少し砕けて話してみたら? 」


 まぁ、 相手も確かに王子様って思ってるのはあるんだろう。 実際王子だし。 けど、 ユーリもユーリで王子様の仮面をかぶってる訳だから、 おあいこだよね。

 もしかしたら、 『王子様』 じゃないユーリの友達になりたいって人もいるかもしれないし、 『王子様』 じゃないユーリの事が好きな人もいるかもしれない。

 少なくとも、 ユーリが友達になりたいなって思った時、 『王子様』 の仮面を外したら、 違う変化が起こると思うんだ。 だって、 話してみたら意外と良いヤツだったし。


 「―― 成る程。 一線引いてたのは僕って訳か。 それじゃあ友人なんて出来ようもないな」

 

 思いっきり溜息をつきながらユーリが夜空を見上げた。 葉っぱの隙間から月明かりがチラチラと見えてる。 少し寂しそうな横顔に僕は、 そっと声をかけた。


 「けど、 アイズやユクトは年が近いだろ? トモダチじゃねーの? 」


 そう聞くと、 ユーリは一瞬黙った後にうーん、と唸った。


 「…… 友人かって言うと少し違うな。 同僚? 」


 「同僚だって友達になれんだろ? ―― それに…… 僕で良かったらなってやるぞ―― 友達」


 同僚。 そりゃ同僚だろうけどさ。 同僚だったら友達になれない訳じゃなかろうに。 ユーリって少し思いこむ所があるのかもしれない。 なので意を決して言葉を続けた。

 正直言ってから後悔する。 今まで村の子達とは友達になろうなんて言わなくても自然と友達だった。


 「ぶっは! お前、 照れながら言うなんて可愛いトコもあるんだな」


 「ウルサイ。 嫌ならいいよ」


 可愛いところってなんだよ。 僕が女だってことも気付かないくせにさ。 腹を抱えて笑うユーリに腹が立つ。 ぶっきら棒に言い返したのは、 恥ずかしい事を言ったって自覚があるからだ。


 「嫌じゃ無いぞ? ありがとな―― 僕の初めての友達」


 「ふんっ」


 嬉しそうにそう言われて、 余計に恥ずかしくなった。 

ユーリが、 手のひらをコッチに向ける。 僕はその手のひらを思いっ切り叩いてやった。 ユーリの方が手の皮が厚いから結局、 僕の方が無駄に痛い目をみた。 

 僕はジンジンとする手のひらを握って拳をユーリの方に向ける。 ユーリが苦笑しながら僕の拳に拳をぶつけた。 なんだか楽しくなって二人で笑う。 その日の夜はそんな風にふけて行った――。

 遅くなりました(泣)

テンポ良く書けると良いのですが、 中々上手く書けなくて申し訳ないです(汗)

 前編、 中編、 後編の予定ですが、 もしかしたらⅠ、 Ⅱ、 Ⅲ、 Ⅳ に変更するかもしれません。 纏められると良いんですが……。 長くなったら増やすかもです。

 

『不注意で世界が消失したので異世界で生きる事になりました。』 も更新しました。

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