幕間 遠き落日 リゼッタ・エンフィールド 前編
遅くなりましたが更新です。
団長ではなく、 ユーリと呼ぶようになったせいか…… どうやら昔の夢をみてるらしい。
私とユーリが出会った頃の夢だ―― 私の運命が変わった時の――。
もしあの時そうしなかったら、 私は今でも田舎でのんびり暮らしていただろう。
『うわぁ! カッコいいなぁ』
空を往く騎竜を眺めて声を上げる。 私はそんな子供だった。 遊ぶのは男の子とばかり。
ただ、 父が怪我の後遺症で身体が弱かった事から、 亡くなった祖父の手伝いをして薬種になる鉱石、 草、 木の実に茸等を教えて貰いながら、 良く森を散策していた。 そのおかげで今では村で一番森に詳しくなっている。
家計の為に、 それらを採取しに森に行く。 祖父が亡くなった後のお供はクロとシェスカ。 そのうちリィオが加わった。
時には、 薬種を探しに来た商人や学者等を案内する事もしていた。
ここの森は浅い場所なら問題ないが、 奥に行くと特殊な環境が広がっている。
進むも引くも冷静に判断できなければ死にに行くようなもので、 その判断や、 絶滅させないために採取する適量を教えてくれたのも亡くなった祖父だ。
その日は、 とても晴れた日で―― 空を見れば何頭もの騎竜。 その騎竜に黒い騎士団の団服を着た人達が騎乗していた。 その数、 十二名。 この国で、 一番憧れる者が多い黒竜騎士団だった。
王子様がいるんだって! と女の子達が騒ぐ中、 私が一番気になっていたのは騎竜だ。
黒くて、 人より大きな生き物。 空を飛ぶ姿しか今まで見た事がなかった。
村人たちが興味津々で見つめる中、 その人は騎竜から降りた。
エイディス・ジン・ファーレンシア王弟殿下。 黒竜騎士団の団長だ。 その後に控える少年―― 灰色の見習い用の団服を着ているのが、 ユリアス・ヴァン・ファーレンシア王子―― この国の第二王子である。
少し幼さの残る顔に浮かぶのは緊張だ。 それもそのはず、 彼等がここに来たのは国王であるラディアス・カイ・ファーレンシア陛下の病を治す薬種を得るためだったから――。
「なぁ、 リゼル。 騎竜みに行こうぜ! 」
「うん。 行こう」
僕に声をかけたのは、 幼馴染のラディ。 本当はリゼッタって名前だけど、 男の子の服を着て男の子と遊んでるうちに仲間内ではリゼルって呼ばれるようになっていた。
ラディや遊び仲間のトットやルズと競争しながら道を走る。 足元にはフクフクとした丸さの残るクロとシェスカ。 空には最近飛べるようになったリィオがいた。
間近で見る騎竜は予想以上に大きい。 大きいって言っても軍馬より二周りほど大きい位なんだけど、 八才の子供の目線からすれば、 小山のように感じられた。
一番早く着いた私が、 そのまま近寄って行こうとするのを、 追いついたラディ達に引っ張られて止められた。
「馬っ鹿近付き過ぎ! 」
「そうだよ。 騎竜は肉食なんだからなっ」
「…… テイムされてるんだから大丈ぶっ」
最後に来たよたよたしたルズに服の後ろを引っ張られて仰け反る。 クロとシェスカは助けてくれずに知らん顔だ。
皆ちょっと警戒しすぎでしょ。 そりゃ、 僕達を見て騎竜がグルグル喉を鳴らしながらカチカチと歯を鳴らす警戒音出してるけどさ。 可愛い顔してんじゃん。 え? 怖いって?? みんな肝が小っさすぎじゃないの。
そんなやり取りをしてたら笑われた。
「ははっ! 一番のチビが一番勇敢なんだな。 けど、 警戒音出してる時はそっとしておいてやれよ。 巡回しながら来たから、 まだ気が立ってるんだ」
苦笑した顔をした少年が、 十五才のユリアス王子だって言うのはもう知っていた。 近所のお姉さんが王都に行った時、 王子様方の絵姿を買ったって散々自慢して見せられたからね。
エクウス学院に通う年齢は様々だ。 貴族や裕福な商家の子供は幼いころから通っているので大体十五才くらいで卒業する事が多い。 ユリアス王子は卒業したてで見習い期間中なのだろう。 灰色の団服は黒の中で浮いてはいたけれど、 王子なだけあって黙ってれば格好良かった。
それはともかくとして、 この時はカチンと頭に来て王子だとかそんなのが頭から飛んでたと思う。
―― 一番のチビって―― 僕はこの中で一番年上だっつーの。
頭に来たので、 僕が喧嘩を吹っかけに行こうとしたのを敏感に察したらしい。 ラディとトットとルズに口を塞がれ、 ズルズルと引っ張られながら連れ去られる。
ユリアス王子がその様子に腹を抱えて笑っているのが見えて余計に腹が立った。
第一印象は最悪。 コイツは嫌い――。 あの時の僕の中ではそう決まってた。
「友達と一緒じゃないのか? ―― 良く飽きないなぁ」
あの後、 ラディ達と別れて僕はまた騎竜の前に来ていた。 少し離れた所に座ってじっと観察する。
騎竜は警戒音はもう出していない。 ただ、 近寄った時に何だお前? みたいな顔はされたけど。
僕のそばでは暇そうなクロとシェスカにリィオが団子みたく丸くなって寝ていた。
そんな僕を後ろから覗きこんで来たのはユリアス王子だ。
「―― なんだよ。 文句あるのか? 」
さっきの事を思い出して、 僕はそう言って睨みつけた。 ユリアス王子は僕のそんな態度に面白そうな顔をしてから破顔した。 端正な顔がクシャッとして、 途端に幼い感じになる。
何がそんなに嬉しかったのか、 どうやらユリアス王子に気にいられたらしい。
「いいや。 騎竜好きなのか? 」
「好きだけど―― 悪いかよ」
ユリアス王子にズイッと顔を寄せられて、 思わず避ける。
「コイツの名前はエリュシオ僕の騎竜だ」
僕が見てた騎竜の、 鋼みたいにキラキラした首筋を撫でながらユリアス王子が言う。 騎竜が嬉しそうに目を細めてクルクルと喉を鳴らした。 ―― 羨ましい。 僕は基本的に生き物が好きだ。 モフモフしてるやつも好きだけど、 騎竜には憧れがあった。
本当はテイマーになりたいんだけど、 テイマーになるためのファルーカ学院に行くにはかなりお金もかかるし、 学校に入学するための試験に必要な参考書を買うお金なんて、 正直もったいないと思ってしまう。
どうせなら二つ下の弟―― 長男のティオにそういうチャンスをあげられた方がいいしね。 この村の初等学校で一番頭いいんだもん、 アイツ。 だから、 僕はいい。 来年には弟か妹も産まれるし。
「何だ? さっきチビって言った事、 まだ怒ってるのか? 」
ジト目で睨んでたら、 ユリアス王子にそんな事を聞かれた。
「身長くらいそのうち伸びるだろ? 」
「ウルサイ」
キョトンとした顔をするユリアス王子の身長はその年の平均身長からすると高い。 そんな奴に僕の気持ちが分かってたまるか。 普通小さい頃って女の子の方が身長高かったりするのにさ。 近所の年下の男の子にはあっさり抜かれるし、 ティオに至ってはつい先日、 僕と同じ身長になった。
ユリアス王子が僕の頭をワシャワシャとかきまぜる――。 すっげえ子供扱い。
「やめろってば! 」
僕はイラっとしながら、 ユリアス王子の手を振り払った。
「そうだぞー、 その少年には敬意を払っとけ? 」
騎士団の青年が騎竜の後ろからにゅっと顔を出した。 ニヤニヤとユリアス王子に笑いながらこっちに歩いて来る。
「ユクト? 何だよ急に」
「その子が案内人だってさ」
ユリアス王子の問いかけに、 悪戯っぽい顔でユクトって人が言った後しばらく沈黙が落ちた。
「はぁっ! 子供じゃないか」
近くで大きな声を出さないで欲しい。 僕は、 驚いてこっちを見るユリアス王子を呆れ顔で見上げた。
寝ていたクロ達が今ので起きてモゾモゾし始める。
「お前だって子供に毛が生えたようなもんだろが」
また別の人物がやってきた。 年若く、 ユリアス王子に年齢が近そうな青年だ。
ユリアス王子をからかうようにしてそう言うと、 僕に向かってウィンクする。
「アイズだって俺より三つ上なだけなんだから、 そんなに変わんないだろ? 」
「俺はお前さんと違って見習いじゃないの。 正式な団員だから」
ムスっとした顔で文句を言うユリアス王子に、 アイズと呼ばれた青年は自慢げに団服をつまんで見せた。 ユリアス王子の顔がイラッとしたものに変わる。 この王子、 意外と子供っぽいらしい。 噂話に聞く、 文武両道の礼儀正しい王子様は噂でしかなかったようだ。
「まぁまぁ、 お前ら子供同士仲良くしとけ」
今度は二人連れの男だ。 一人は―― 糸目の中年のおっさん。 無精ひげを撫でながらそう話す。
もう一人は、 落ち着いた感じの男だ。 二人ともやはり騎士の団服を着ている。
「「おっさんは黙れや」」
ユリアス王子と、 アイズがそう言って同時に睨みつける。 ―― 見習いって普通こんなに態度デカイもんなの? それとも、 彼が王子だからなのだろうか?
「…… セイ君や。 若者がおっさんに冷たい」
ヨヨヨヨと、 泣きまねをするおっさんが、 落ち着いた男―― セイに慰めてとか言っている。 見てるだけでウザったい。
可愛い女の子ならまだしも、 中年のおっさんが泣きまねしても残念なだけだと思う。
「からかったりするからですよ、 レンさん」
嘆息したセイが、 おっさんにそう言った。 どうやらおっさんの名前はレンとゆーようだ。
「で、 本当にこの子がナビなんですか? 」
「森の奥に行くなら僕がナビで間違いないと思うよ。 この村の中であそこを案内できるくらい詳しいのは僕くらいしかいないもん」
セイの言葉に僕は答えた。 基本的には大人は皆、 畑仕事で忙しい。 農閑期くらいしか森には入らないんだよね。 しかも浅い所しか入んないし。 うちの祖父ちゃんが異常だったんだよ。
大往生したのが二年前。 九十八才のじい様がカクシャクとした足取りで森を闊歩する様は村中の尊敬を集めてた。 前日も森に連れてって貰ってて凄い元気だった、 けど次の日の朝ぽっくり逝ってたんだよね。
哀しむ前に無茶苦茶驚いた。 クマと闘って勝てる祖父ちゃんが死ぬと思って無かったんで。
「ガイノーアの森の奥は原初の森だぞ? お前みたいな子供が…… 」
ユリアス王子が戸惑ったような声で言う。 信じられないって気持ちが強いんだろうな。
実際に学術調査とかで来た人の案内する時も大抵最初にそんな事を言われる。 特に女の子の格好は駄目だ。 余計に面倒くさくなるからな。 こんな小さい女の子は連れてけないとゴネられるのがオチだ。
―― 腹立つ。
「じゃあ、 行くの諦めたら? それこそ、 原初の森を案内できるナビは、 祖父ちゃんが死んでから僕しかいないよ」
これは本当の事なのでハッキリいって置く。 まぁ、 最初は不信がられても実際にナビする様子を見て貰えればだいたい納得して貰えるんだけどね。
「ほほぅ。 お前さん、 チビっこい割には優秀なんだなぁ」
おっさんがそう言ってしげしげと僕の顔を覗きこんで来た。
「チビっこいは余計だ。 おっさん」
「ほら、 お前らが口汚く俺の事おっさんとか言うから、 イタイケな少年が真似しちまったじゃねぇか」
冷たい目でそう僕が言ったら、 不貞腐れた様子でユリアス王子とアイズにおっさんが文句を言う。
いや、 元から心の中でおっさんて呼んでたし。
「いやいや、 レンさん。 貴方がチビとか言ったからだと思いますよ」
チビの言葉にグリンとセイの方を睨みつける。 セイがパチパチと目を瞬かせた。
「お前も言ってんじゃん」
アイズがそう言って僕の方を見て苦笑する。
「…… 不可抗力です」
セイが、 目で僕に謝りながらそう言った。 花形騎士団とは思えないやり取りだ。 黒竜騎士団は随分楽しそうな人達だったらしい。 騎士より、 村とかに護衛で来てる傭兵っぽいんだけど。 騎士ってもっとお上品な言葉を話す人達だと思ってた。
「お前さん達、 何やってんの…… って、 おぉ! 黒いのと白いのを連れた少年。 君がリゼル君かな? 俺の名前はエイディス・ジン・ファーレンシア。 親しみを込めてエイス団長と呼んでくれ」
制止する隙もなく、 クロとシェスカが餌食になった。 グイグイと頭を撫でるエイス団長。
シェスカが完全に嫌がってるんだけど……。 さっき助けてくれなかったお返しに見物する。
エイス団長の手から逃れたシェスカが身づくろいをしながら不満げな目で僕を見る。 クロは楽しかったらしくてエイス団長にジャレはじめてた。
「…… おっさんが増えた」
「中々辛辣なお子様だな。 おじさん傷つくわ…… 所で、 リゼル君。 君のお父さんの名前って何て言うの? 」
僕のポツリと呟いた言葉に、 エイス団長はわざとらしい傷ついた顔をした。 オーバーな仕草がレンと被る。 同じような性格らしい。 けど、 次には真剣な顔で僕の父さんの名前を聞かれた。
「へ? ジョシュア・エンフィールドだけど…… 」
「そうか…… じゃあ別人かな…… 」
名前を告げると、 エイス団長が難しい顔をして黙りこむ。 父さんの事を聞かれてこんな反応されれば流石に気になって、 聞き返した。
「何? 」
「親友に似てる気がしたからソイツの隠し子かなって」
エイス団長が、 ニヤっと笑ってとんでもない事を言いやがった。
「僕の両親は結婚してるっつーの」
「悪い悪い。 そう怒りなさんな。 ナビとして村一番の腕を持ってるんだって? 」
噛みつくように怒って言う僕に、 エイス団長が悪い悪いと謝罪する。 ウチにはちゃんと父さんがいるぞ? ちゃんと結婚して僕が産まれてんだからな。 僕は父親似の顔をしてるけど、 似てるって言うんならその親友とやらと父さんが似てんだと思う。
「…… 村一番は死んだ祖父ちゃん。 僕は二番目だよ。 石膏病に効く薬種だろ? 今の時期だと岩竜は原初の森の方にしかいないんだ」
石膏病―― 結界の一族の中で、 稀に見られる業病――。
ある日突然、 身体が白化しその部分が石化していく病気。 結界の力を持つ者にしか現われず、 二百年まえに特効薬が見つけられる前は不治の病とされていた。
この国の王様は、 一年前からこの病に侵され、 今は実質的にマリウス王子が執政を行っている。
国王陛下は最新式の特効薬では効果が無く、 古い、 昔の製法の薬を試すという噂があった。
昔の製法の薬は薬効が高いが薬種を揃えるのにとても手間がかかる。 けど、 そう言ってられない状況なのだろう。
「ロックドラゴン? 必要なのは、 石の花だぞ? 」
ユリアス王子が不思議そうな顔をした。
「その、 石の花がロックドラゴンの背中にしか生えないんだよ」
花は地面にだけ生える訳ではない。 共生するものだってあるしね。 石の花もロックドラゴンと共生している。 ロックドラゴンの背中から分泌される血が変質したブラールという液が石の花が成長するためには必要なのだ。 対してロックドラゴンは、 普段は石とか岩とか食べてるんだけど、 石の花の蜜が好物。 繁殖期の今は特に重要。 オスもメスも石の花が沢山生えてる方がモテるのだ。
「それから報酬の件だけど、 あんなに要らない。 半分でいい」
「多い分には貰っておいた方が良いのでは? 」
僕の言葉にセイが不思議そうにそう言った。 ユリアス王子も、 他の騎士も疑問に思ったようで視線が僕に集中する。
「物事には適量ってもんがあるんだよ兄ちゃん。 祖父ちゃんが言ってた。 報酬も、 適量じゃ無ければ毒にしかならないってさ」
薬種の採集も適量。 報酬も適量。 それが祖父ちゃんの口癖だ。
多く貰い過ぎれば身を持ち崩す事もある。 それに適正な価格でなければ、 他の領やどこかでナビをする同業者に迷惑をかける事もあるかもしれない。 だから、 むやみに安く請け負うのも高く請け負うのもいけない事だと教えられた。
「ははぁ。 しっかりした祖父さんだったんだな」
「そ。 あんな大金を受け取ったら、 草葉の陰から張り倒されるぜ」
エイス団長が感心したように言うのを見て、 僕はちょっと嬉しくなった。 これを言うと、 商売人には向かないねとか言うヤツがいるんだよな。 そう言う奴等をナビする時には、 良い採取ポイントには連れて行かない。 つっても、 ご依頼の薬種がある所には案内するよ? ちょっと質が落ちるだけだヨ。
ナビにも感情があるんで、 それ位は許して欲しいって思う。
「そうか。 それは失礼した。 王都での過去の流通価格を参考にしたんだが」
「王都まで行くのに何人の手が入ってると思うのさ。 しかも、 今回はナビだけだぜ? エイスのおっさん。 気を付けろよ? そのうち悪徳商人にボッたくられるぞ? 」
エイス団長の言葉に僕は呆れた顔をする。 誰も気付かなかったんだろうか。 採取した人、 それを買い付けて運ぶ人、 さらに商店に卸されて―― 下手したらそこからまた別の所を経由して最終的な客の所に辿り着く。 最初は安かったソレが人を経由するたびに値が上がって行く…… それが普通だ。
王都でエイス団長達の所に行くまでにはさぞかし良い値段がついてる事だろう。 しっかりしてそうでエイス団長はかなり抜けてそうだ。 詐欺とかに注意した方が良いと思う。
「あー、 団長ありそう」
「確かに―― 叔父上ならやられそうだな」
ユクトがそう言って苦笑した後に、 ユリアス王子がそう言って笑った。
「ちょっと! お前達さぁ…… 酷いんじゃない? 」
エイス団長がそう言って、 拗ねる。 良い年したおっさんが拗ねても可愛くないぞ。
「やー。 団長あんた…… 剣の腕と戦闘中の指揮はスゲェのに、 通常時は駄目人間だしなぁ」
レンがそう言って髭を撫でた。 僕が言っていいのか分かんないけど、 皆団長に容赦ないな。
最後の希望とばかりに、 エイス団長がセイに詰め寄った。
「レンまで?! セイ…… 君は違うよね? 」
「…… 難しい事は、 私には分かりかねますね」
目を逸らし、 視線を彷徨わせるセイ――。
「逃げたな」
「逃げたね」
アイズとユクトがほぼ同時にそう言って、 顔を見合わせて笑った。
「俺、 黒竜騎士団の団長だよね? もうちょっと俺に優しくしようよ皆」
寂しそうにそう呟きながら、 エイス団長が肩を落とす。
「…… 取りあえず、 エイス団長がどんなヤツかは何か分かった」
「リゼル少年―― どんな理解をしたのかな? 」
僕がエイス団長の肩を叩いて慰めてやりながらそう言うと、 不審げな目をしてそう返された。
僕は元気づけるようにニッコリと笑ってやる。
「戦闘時以外は役に立たないおっさん」
言い切ってやれば、 エイス団長が本気で泣きそうな顔をする。
―― 流れ的にトドメを刺す感じだったと思ったんだけど言い過ぎたかな? 僕の発言に周囲は呆れ顔だ。
「俺、 そろそろ凹んでいいよね」
「…… ハッキリいうなぁ。 お前」
地面にのの字を書き始めたエイス団長を見た、 アイズが僕の方を向いて言う。
「一応、 叔父上は良い人だぞ? まぁ、 ちょっとアレだ…… 抜けてるけど」
ユリアス王子。 フォローが、 フォローになってない気がする。 案の定、 エイス団長の背中に哀愁が漂った。 甥っ子の言葉がザクザク刺さってるっぽい。
「ユーリ…… 最後の一言が余計だよ…… 」
諦め顔で溜息をついたセイがそう言って、 顔を顰めた。
他の団員達もやってきて、 エイス団長を慰めること一時間――。 拗ねに拗ねたメンドクサイおっさんに、 僕はおっさんをからかうのにも適量がある事を学んだのだった。
前編、 中編、 後編で考えてるんですが…… 入りきるか不安。
まずは、 リゼとユーリが出会った時の話。
次回は森の中です。
誤字脱字と一緒に微調整を入れる予定です。 大筋には変化はないかと。
修正してて、 編集が反映されない事があると発覚しました。 修正が終わるのに時間がかかりそうです。
『不注意で世界が消失したので異世界で生きる事になりました。』 も更新しました。




