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廃棄世界に祝福を。  作者: 蒼月 かなた
36/69

幕間 リゼとユーリ

リゼ視点の朝です。

 

 「う―― 」


 ん? なんだろう暖かい…… シェスカ? クロ? ―― 違う。 二匹ふたりなら毛が生えててフカフカしてる。 それに何だろう…… スパイスみたいな香り……。 クンクンと匂いをかいでみた。 何だか美味しそうなニオイだ。

 私の手が触れるのは熱いとすら感じる滑らかな何か。 そんな感触のものが私の部屋にあったっけ?


 「起きたか? 」


 「うぇ? 」


 そう問われて目を開ければ目の前に、 浅黒い肌がある。 私の手が触れているのは人の胸だ――。 

はだけたシャツから覗くその胸には、 引き締まった筋肉がついている―― おおよそ女性の胸ではない。 

 私は一気に目を覚ますと、 そのまま硬直した。 これはどんな状況だろう? ぶわっと冷や汗が出て来た。 今の私の格好は? …… 大丈夫だ服は着ている……。 んでもってベットの上っぽい。 私はソロソロと両手を胸から離した。 

 顔が上げられない。 いや、 答えは知ってる。 だって今の声は―― ゆー……  


 「どうした、 リゼ? 」


 耳元で囁かれて、 心臓が破裂しそうなくらいの速度で動く。 ―― リゼって―― 呼んだ。

あぁ、 分かったコレはきっと夢だ。 もう一度寝れば、 現実が返って来るはず…… そう思って目をつぶったまま上掛けを掴んで、 くるまろうとした時だった。 


 パキリ


 何かを折る音がして、 私の両手はベットに固定された。 驚いて目を開けると――


 「んく」


 ―― 何っ?


 ユーリが口に含んだ何かを私に飲ませる――。 抵抗しようにも、 私の両手はユーリに片手で押えられていて動けない。 反対側の手は私の喉元を探るようにくすぐる。 そうして私の喉がトロリとしたそれを嚥下したのを確認した後、 ユーリの唇が離れた。

 喉元にあった指が私の口に入れられる。 ユーリの指が口の中を確認するように動いた。


 「ちゃんと飲めたな? 」


 今、 何が起こった? まるで北の塔での再現だ。 ただ、 立場が逆だけど。


 「な、 何? 」


 「二日酔いの薬だ阿呆。 どうせお前の事だから、 ろくに覚えてないだろう? お前は、 間違えて酒を飲んだんだよ」


 混乱中の私に、 ユーリが渋い顔で答えをくれた。

私の頭の中に、 昨日の光景が甦る―― そうだ。 確かオレドのジュースを一気飲みしたら味が違って?


 「―― っあ」


 「少しは思い出したか? ちなみにここは俺の部屋だ。 勘違いするなよ? お前の部屋の鍵が見つからなかったんだ。 クロ達は寝てて起きやしなかったし……。 ベットで一緒に寝てたのはお前が俺のシャツを離さなかったからだ」


 ユーリにそう説明されて、 飲み物を飲み間違えたと言う事は思い出した。 何となく、 ユーリに絡んだような気がするのもウッスラと思い出す。 ユーリのシャツを握りしめて離さなかったとか…… 恥ずかしすぎる。 私―― 他には何をしたんだろう……。 急に頭が痛くなってきた。

 

 「…… 」


 「リゼ、 お前どこまで思い出した? 」


 頭の中が真っ白で、 思考が上滑りしてる私の顔を覗き込むようにしてユーリがそう言う。

ヤバイ。 どうしよう。 何か恥ずかしい事を言った気がする――。 

 そうだ、 取りあえず逃げよう。 いやこれは逃げるんじゃない。 戦略的な撤退である。 それでシャワーでも浴びて取りあえず冷静に思い出して対処をどうするか考えるべきだ。


 「…… 団長、 そのご迷惑をお掛けしましたので私は部屋に帰ろうと思います? 」


 パニックのあまり、 おかしな言い方になってしまった。 けど、 言い直してる暇はない。

私はベットの上に起き上がると、 ユーリの返事を待たずにドアに向かおうとした。 そんな私の腕を捕まえて、 ユーリが引っ張る。

 あれ、 何だか 背中が暖かいんですけど…… これって―― 


 「…… ユーリって呼ばないのか? 」


 抱きしめられた状態で、 耳元で囁かれた――。 何だこれ? 何でこんな事になってるの?


 「はい? 」


 思わず出た問いかけに、 後ろで笑う気配がする。 


 「昨日さんざん呼んでただろうが? 」


 「呼び…… ました? 」


 低い囁きに全身がザワザワする。 ダラダラと冷や汗が流れた。 『ゆーり』 自分の声が脳内で再生される……。 何だこれ? 私―― こんな声でユーリの名前を呼んだの?

 断片的に記憶が浮かぶ。 駄々をこねてユーリの服を掴む私。 ユーリに抱きつく私。 子供みたいに泣く私――。 死にたい……。


 「あぁ。 可愛い声で」


 重低音で、 ユーリが耳元で囁く。 何この心臓に悪い感じの声――! 吐息が首筋にかかってくすぐったい。 ぎゃーっ! しかも何言ってるのユーリっ。 か、 か、 かわいい? 可愛い声とか言ったのこの人ぉ!!


 「ばっ 馬鹿な事言わないでくださいっ」


 思い出した記憶の一部を無意識の領域に押し込もうとしながら私は声を上げた。 駄目だコレは誤魔化さないと…… いっそ覚えてない振りをしてやり過ごすべきだ。 振り返って否定すると、 怖ろしい程近くにユーリの顔があった。 私はそのまま硬直して動けなくなる。


 「嘘だな。 その顔、 少しは覚えてるだろう」


 ユーリが意地悪そうな顔をして声を出す。 吐息が重なりそうなその距離に、 私はもうどうしたらいいのか分からなかった。 北の塔でユーリに薬を飲ませた自分を勇者と讃えてやりたい。 

 どうにかしなきゃ、 と思い詰めてたとは言え良くそんな事したな―― 自分。


 「そう思うなら察してくださいよっ! 」


 これ以上は耐えられそうもなかったので、 ユーリの身体を押しやりながら私は叫んだ。

近すぎて、 ユーリに口移しで飲まされた二日酔いの薬を思い出した。 キ―― いや、 あれも私の時と同じ医療行為だ――。 人 助 け だ。


 「絶対に嫌だ。 ごめんこうむる」


 一刀両断に断られて、 ユーリはこんなに意地悪だったかしらと泣きそうになった。


 「ありえない…… こんな失態…… 」


 両手で顔を覆う。 逃げ帰って布団をかぶって寝てしまいたい―― そうすればこれは実は夢だった事にならないだろうか――。 けど、 逃げ道は塞がれている。  ユーリの腕が私を囲い込んでいるからだ。

 逃がしてくれるつもりは全くないらしい。


 「疲れてたんだ―― 飲み間違えたのは仕方がないと思うぞ? 」


 両手を掴まれて、 ユーリが私の顔を覗きこむ―― 瞬間―― 唇の感触を思い出した。

北の塔の時じゃない―― さっきのヤツでもない―― もっと深く…… 柔らかくて―― 熱い――


 「忘れて下さいっ! 今すぐ忘れてっ」


 思い出しちゃいけないものを思い出して、 真っ赤になってそう叫ぶ。 


 何したの私?! 


 そもそもしたの? されたの? どっちにしても確実にキスしたよね!! 

あぁぁあああぁぁぁぁぁああああああああっ。 お酒なんて、 お酒なんてっ絶対もう飲まないんだからっっ! うぅ。 ろくな事になってない……。


 「嫌だ」


 私の叫びに不機嫌そうにユーリが答える。 嫌だってなんでさ。 ユーリにとってだって迷惑な記憶だろうに――。 ヤバイ本気で泣けてきた。 


 「何でですかっ」


 「何でだろうなぁ? ―― まぁ、 けどいい勉強になっただろう。 今もそうだが―― 俺がその気になればどうなったかぐらいは分かるよな? 」


 半泣きの状態で、 私が責めるように言えば―― ユーリが諭すようにそう話す。 

その言葉に私は反論できない。 だって、 昨日のあの状態じゃ何されても文句なんて言えないだろう。

 ついでに言えば、 私は抵抗すらできなかったに違いない。 ユーリがその気にならなかったから良かったようなものだ。 なのにちょっとだけ傷ついてる私がいる。

 ユーリを観察してた時、 ユーリが目で追うのはスタイルの良い美人さん達ばかりだった――。 昨日のあの状態で手を出されないって事は、 私が子供っぽいから対象外って事だよね。 良かったんだけど複雑な気持ちが残る。

 

 「…… 」


 「いいか、 俺の忍耐力がたまたま持ったから、 犬に噛まれた程度の事で済んでるんだぞ? さんざん言った事だが…… 女として自覚を持てよ」


 私が凹んだ顔をしてたからか、 ユーリが頭を撫でながら優しい口調でそう話す。 犬に噛まれたって言うのはきっと私にキスした事だよねぇ。 そうか、 犬に噛まれたって事は事故って事か。

 でもそうだよね。 私なんて、 子供の恰好したって疑問に思われない位だし。 そもそも、 そう言う対象に私の事は見れないっていうのは当然だ。 なのに何で私は傷ついたような気持ちになるんだろう。

 今後はユーリに迷惑かけないように気を付けるようにしなくちゃ。


 「…… はい。 ごめんなさい―― ユーリ」


 私は素直にユーリにそう謝って、 俯いた。 私はほとんど覚えてないけど、 この感じじゃユーリはバッチリ全部覚えてるよね。 確認したい―― けど、 自分が何をやらかしたのか全部知るのは怖い。

 だったら、 ユーリが忘れてくれないかなぁ……。


 「あの、 でも色々と忘れて欲しいんですけど―― 」


 思い切って顔を上げてユーリに訴える。 冷静に考えればそんな事、 無理だって分かっているのにそれでもそう言ってしまったのは、 私は自分が自覚するよりも動揺していると言う事か。


 「どうやって? 現実的にムリだろ。 あいつらも覚えてるだろうし」


 サァっと血の気が引いた。 いや、 ちょっと待って? あいつらって誰。 ううん。 私は分かってる。 昨日、 岩熊亭にいたヤツ全員だ。 何したっけ? 何か文句を言ってたような気がする。 それは覚えてる。 けど、 それ位ならユーリはこんな言い方しないだろう。 じゃ、 後は――?


 「…… 岩熊亭でも何かしました? 」


 おずおずと、 伺うように私が言うとユーリがニッコリと笑顔になった。 ―― 嫌な予感しかしない。


 「暑いっていって服を脱ごうとしたり、 スカート上げて―― この足を見せてたな」


 「ちょっ! ユーリ?! 」


 ユーリにいきなりスカートをめくられて、 私は思わず抗議の声を上げる。 その後の言葉を飲み込んだのは、 ユーリに鋭く睨まれたからだ。


 「素面では恥じらいがあるようで何よりだ」


 これは―― ユーリが満面の笑顔で怒ってる? ユーリは怒りながらそう言って、 まくりあげたスカートの中から現われた私の太ももを撫でる。


 「さわっ…… 」


 ユーリは短いズボンと肌の境界線を滑るようにして触れて行く。 これは殴った方がいい案件? いやけど―― 今朝の私の方が酷かったよね。 ユーリの胸を触ってたし…… 多分頬ずりもした気がする。

 混乱が頂点を極めようとした時、 そっと手が離れた。


 「今更? 昨日さんざん抱きついて来たろうが。 ま、 俺も抱きしめたけど」


 混乱したまま真っ赤になって震える私にユーリがそんな事を言って来る。 まるで舌舐めずりしそうなくらい意地悪そうな顔をして、 笑うユーリが怖い。 多分、 相当怒ってらっしゃる―― そして怖ろしい事にそのまま、 抱き寄せられた。


 「―― ! 」


 「お前さんの所為でぐっすり眠る予定が寝不足だ。 少しくらい遊んだって許されるよなぁ? あぁ…… そんな顔するなよ。 余計に、 苛めたくなるから」


 間近に見えるユーリの顔に、 もうどうしたらいいのか分からない。 頭の中はグチャグチャだ。

心臓だって壊れそうなくらいにバクバクいってる。

 これは、 二度とこんな失態するなよ、 というユーリなりのお仕置きなのだろうか。

それなら効果は抜群だ。 てゆーか、 苛めたくなるって何ですか? ユーリそんなキャラじゃなかったデスヨネ。 蛇に睨まれた蛙ってこんな感じなんだろうか。

 多分怒られてるはずなのに、 恥ずかしい方が先に立つ。 


 くきゅるーっ 


 緊張感に耐えられなかったのか、 私のお腹が鳴った。 窓から差し込む光から察するにもうお昼なんだろう。 正直すぎるぞ、 私のお腹――。 ただでさえ居たたまれなかったのに、 更に羞恥心が募る。

 口を引き結んでプルプル震えていたら、 真顔になったユーリがブハッと吹きだした。

お陰で、 変な空気は払拭されたけど。 払拭されたけれども! 何だろう。 この敗北感。


 「―― おう。 もう昼だしなー? 腹減ったよな。 ぐっふっ。 飯でも行くか。 クロ達も連れて来い。 俺は他の連中の部屋を見て来るから―― あぁ、 そういやお前の部屋の鍵のしまい場所は分かるか? 」


 「えぇっと…… 」


 笑いを噛み殺しながら言うユーリを押しのけて、 私はポケットの中を探していった。

いつもは右ポケットの中に入れてるんだけど、 どうやら別の所にしまったらしい。 自室の扉の鍵が閉まってるなら持って出た事は確実なハズ。 

 全身くまなく探したんだけど出て来ない―― 後は―― 私は首から下げたお守り袋を引っ張り出した。

そっと中を見ると、 思った通り鍵が一つ。 それを引っ張り出して、 私は何とも言えない顔をする。


 「―― あぁ。 何でまたそんな所に」


 ユーリにあって良かったな。 と言われましたが、 私にも何でこんな所にしまったのか皆目、 見当がつかなかった。 

 お守り袋の中身はユーリには見せられない。 見せたら私が誰だったか分かっちゃうかもしれないし。 そうしたら、 今以上に子供扱いされそうだ。 下手したら弟扱いかも……。 それは流石に嫌だった。


 「多分無意識に…… 」


 考え事しながらしまうと変な所にしまったりするよね? ここは私も初めてだけど。


 「そりゃ探しても無いはずだな。 ―― どうした? 」


 探したのか、 ユーリ。 どうやって? そもそも、 さっきのお仕置きはかなり過激だったんじゃなかろうか、 とか色々脳内を駆け巡った。 聞くべき? けど、 私の本能的な部分が止めておけと警告する。 聞けば後戻りはできないぞ、 と。 


 「いえ…… その…… 何でもないです。 クロ達を起こしてみます」


 結局私は本能と言う名の直感に従って、 聞くのを諦めた。 人間聞かない方がいい事なんて沢山あるに違いない。 

 

 クロ達は、 起こしても起きなかった。 本能とか何処に置いて来たの? ってくらい大の字で伸びてる。 寝息が健やかじゃなかったら死んでんの? と言いたい位に無防備だ。 リィオとか、 いつもは止まり木で寝てるのに、 墜落して床でベチャッてなってるし。 取りあえず、 羽を痛めないようにして置いてきた。 

 ウチの団員は岩熊亭に皆お泊りしたようで誰もいなかったらしい。

結局ご飯はユーリと二人で食べた。 何故だかいつもの出入り口をユーリが使いたがらなかったので抜け道から街に出たんだけどね。

 天気が良くて、 気持ちが良い午後だった。 人ごみではぐれないようにって何故か手を繋ぐ事になったりして変な感じ。 まるでデートみたいだなって思ったのは誰にも秘密だ――。 

 ユーリのアプローチが効いてるんだか効いてないんだか……。 とにかくリゼの中ではお仕置きと断定されたようです。 ユーリ不憫。

 次回は、 まだ幕間が続きますが、 リゼの過去話を何本かお送りしたいと思ってます。

そろそろ、 腹をくくって誤字脱字に向き合おうと考えてます。 そのせいで更に不定期になるかもしれません。 ご迷惑をお掛けしマスが、 お付き合い頂ければ幸いです。


『不注意で世界が消失したので異世界で生きる事になりました。』 も更新しました。 お時間ありましたら、 そちらも宜しくお願いします。

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