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廃棄世界に祝福を。  作者: 蒼月 かなた
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友情の証

エマちゃんとシアちゃんに会いに行きました。

 あの事件から一週間。 不眠不休のありさまで事件の処理に追われてた。 

孤児院の院長、 その他の職員はモチロン捕縛された。 今は牢屋で裁判を待つ身だ。 

 院長達は路地にいる孤児の子供達に近付いて、 暫くはご飯を食べさせる。 足しげく通って笑顔で優しくし続けて。


 『可哀想に…… 孤児院においで』


 警戒が薄れて子供達が慣れた頃…… そう言って孤児院に連れて来ていたらしい。

イオみたいに甘言を信じない子もいた訳だけど、 そう言う子は夜中に薬を嗅がせ孤児院の一室に閉じ込めた。 

 何故、 そんな手間をかけるのか? 

答えは簡単。 夜中に孤児と言えども消え過ぎたら目だつからだ。

 孤児院の人間が孤児を保護するほうが目だたない。 孤児たちへの給付金は院長と職員達が着服していた。 それだけでも十分な罪だが、 死ぬと分かってる先へ子供達を売った事…… おそらく極刑は免れまい。

 院長の甥で自警団に居たバ―ズも今は裁きを待つ身だ。


 『俺だけじゃない』


 そう言ってバ―ズが告げたのは、 長年自警団に所属してたラドカという男。 

真面目な男だったが女に騙されてから博打にはまり、 借金を返す金欲しさに何年も自警団を裏切っていた。 バ―ズが自警団に入るのに口ききをしたらしい。

 ラドカはバ―ズが拘束されるとヤバイと思って逃げたが、 結局逃げ切れず3日後には捕まった。


 ―― 下水道の中に隠れるとか…… 頭がいいんだか悪いんだか。


 ラドカの行方は知れず他の領に逃げられたかとの話しが出る中―― 下水道に隠れるのが限界で、 這い出して来た所を捕まった。 

 人身売買の組織の連中はあれで全員だったみたい。 組織って言うほど人数がいなかったのは、 組織としては半壊状態だったからのようだ。 

 被疑者死亡という面倒な状況ではあったけれど、 連絡役をしていた職員の男がアジトの場所を知っていたので残されてた資料から最初の頃、 売られた子達はどうにか見つけられそうだ。 

 アインの情報はほぼ無い。 日誌のようなものに破格の値段で孤児を買う男が度々出て来たくらいだ。

黒衣の―― とか、 仮面の―― しか出て来ない。 手掛かりにはなりそうもなかった。

 

 ―― エリュネラちゃんは見つからず…… か。


 見つける事も安否の判断も出来なかった商人の娘―― エリュネラ・ルゥア・クルツ

事件直後、 報告をするために父親に会ったがアレには腹が立った。 子供の心配より後継ぎの心配をしてるだけだったからだ。

 現状では、 安否が分からず手がかりもないと伝えると、 直接ではないものの無能と当て擦られ五日間も無駄にしたとウィントスに帰って行ったのが六日前――。

 そのすぐ後、 ウィントス領の紫鷹騎士団からその商人の家で惨殺事件があり…… 店も全焼という知らせが届いた。 幸い商人自身は無事のようだけれど…… 聞けば大分酷い状況だったようだ。

 行方不明になった子の家がそんな事になる…… 偶然だろうか……? 

紫鷹騎士団の方でも頭を抱える案件らしい。 深夜の事で目撃情報は皆無だそうな。


 「暫くぶりのカザル―― 」


 私は、 カザル区の前に立ちそして再び歩き出した。 なんてことない普段の一日。

カザルは何事も無かったかのように穏やかな様子だ。

 事件の一部は秘匿されている。 自警団や街の人達には騎士団の協力の元に人身売買の組織が殲滅されて、 孤児院の職員の悪事が暴かれて捕まった事くらいしか知らされていない。

 今日は普段着。 髪もバレッタでサイドを止めただけで下ろしたままだ。 短いズボンの上に緩く巻いたロングのスカート。 上には白いシャツを着ている。

 色々あって早めに仕事が終了したので――。


 ―― これから、 エマちゃんとシアちゃんに会いに行く――


 行く途中で、 生地屋さんに寄ってみた。 なんのお詫びにもならないかもしれないけれど――。

若葉色のリボンとスミレ色のリボンを購入した。 太すぎず細すぎず…… 丁度いい位の幅にお揃いの刺繍が入ってる。 白い糸で花に蝶々そして蔦模様…… 値段は少しだけ高い。 けど、 我慢してお小遣いを貯めたら買えなくもないものだ。

 あまり高すぎるプレゼントだと普段使いにくいし、 目立ち過ぎて良くないかと思ってこれにした。

お揃いの色のものは二人で相談しあって買えばいい。 模様を一緒にしたのは、 こういうお揃いもいいかなって思ったからだ。


 「少し緊張するなぁ…… 」


 救出した時は、 彼女達は眠っていたし……。 一応、 白竜騎士団の方から私が実は騎士だって話しはされてるはずだけど……。 まぁ、 嘘ついてた訳ですし…… 私のせいで攫われたようなものですし?

 嫌われちゃってるかも―― と思ったんだけど……。

後始末がひと段落して謝罪に行こうと考えてた矢先、 あちらの方から会いたいと連絡を貰った。

 場所はエマちゃん家。 暫く歩いて行けば、 可愛らしい作りの雑貨屋さんがあった。 今日は定休日らしい――。 カーテンの閉められたお店の前にエマちゃんとシアちゃんがいる。 

 ミエナじゃない私を見て、 二人の顔は緊張していた。 


 「あの、 あのあの…… ミエナちゃんじゃなくて…… その…… 」


 シアちゃんが緊張した様子で一生懸命話そうとしてくれる。 けど、 私の名前はちゃんと知らないかもと思ってあらためて自己紹介してみた。

 

 「こんにちは。 エマちゃんにシアちゃん―― この格好だと初めまして、 かな。 私の名前はリゼッタ…… リゼッタ・エンフィールドだよ」


 「リリリ、 リゼッタお姉さん! 」

 

 ありゃ? しっかりもののエマちゃんが顔を真っ赤にして私の名を呼ぶ。


 「「私達を助けてくれてありがとうっ! 」」


 エマちゃんとシアちゃんに、 謝るより先に感謝されてしまった。


 「…… 騙しててゴメンね……。 でも、 二人が無事で本当に良かったよ」


 本当に、 本当に良かった――。 二人が無事じゃなかったら、 私はきっと自分を許せなかっただろう。

薬が良く効いてたらしくて、 彼女達は二日眠ってた。 ケイオスから、 二人が無事に目を覚ましたと聞いた時には泣きそうなくらいに安堵したほどだ。


 「お仕事だったって聞きました。 リゼッタお姉さんは騎士だって…… 事情があったから許してあげてって騎士団のお兄さんが言ってた…… ました」


 エマちゃんがそう言って私の右手を取る。 シアちゃんが、 私の左手の袖を引っ張って下から見上げて来た。


 「あのその、 リゼッタお姉さんには感謝しかしてませんわ。 お姉さんのお陰で悪い人達が捕まったって…… 」


 シアちゃんの言葉に苦笑した。 ロービィあたりが、 私の株を上げようとしてくれたらしい。


 「うーん、 私だけの力じゃないよ? 白竜騎士団の人達や、 うちの黒竜騎士団の人達が協力してこの結果が出せたんだよ」


 この子達には言えないけれど、 どちらかと言えば後悔の方が強い。 たられば、 と考えても意味の無い事だと分かってはいるけれど、 もっと早く気付ければ―― との思いは一生消える事はないだろう。 

 それだけ助けられなかった子…… 亡骸すら弔ってあげられない子達の数が多すぎた……。


 「あのね、 お茶とお菓子を用意し…… ました! 私達で作ったのよ? じゃなくて作ったんです! リゼッタお姉さんに…… お礼がしたくて」


 「お母さんに教えて貰って作りました。 だから、 その…… お茶して行きませんか! 」


 二人とも、 緊張した様子でそんな事を言う。 一生懸命なその様子が嬉しくて少しくすぐったかった。


 「ふふ! 嬉しいよ。 ありがとう…… それから、 ミエナだった時と一緒の話し方でいいよ? 疲れちゃうでしょ? 」


 そう言って笑顔で話したらエマちゃんは、 ぱぁっと明るい笑顔になった。 シアちゃんは少しモジモジしてる。


 「いいの? 年上のお姉さんに失礼かと思ったんだけど…… 」


 どうやらそこが気になってて、 敬語を話そうとしてくれてたみたい。


 「えぇ…… だってこんなに年上のお姉さんだと思わなかったの…… ごめんなさい」


 シアちゃんが、 へにょりと眉尻を下げて言った。 そこまで言われると気になるのがミエナだった時にどう見られてたかだ。 


 「…… ちなみにいくつ位だと思ってたの? 」


 「んー。 身長は高いけど、 十三歳位? 」


 「私は十四歳位かと」


 思い切って聞いてみれば、 エマちゃんとシアちゃんからそう答えが―― メイクって凄いよね?

そんなに若く見えるとか詐欺だろう。 いや、 まさか今は…… ダイジョウブだよね……?


 「―― そっかぁ」


 少し遠い目になったのは、 傷ついたからじゃ無いですよ? 童顔なんて気にしてないよ??

メイクしたらもっと年上に見せる事もできるかもなんて絶対に考えてない! お化粧下手だしねっ!!


 「あっ! でもでも、 今は違うよ! ちゃんとお姉さんに見えるから! 」


 私の答えに何かを察してくれたらしいエマちゃんが慌ててそう言った。 シアちゃんもウンウンと頷いてくれる。


 「くっ! アリガトウ」


 子供に気を使われる私っていったい…… 今はちゃんと十八にミエテルトイイナ。 

―― 怖くて聞けないですけどねぇ。

二人に手を引っ張られて定休日の札がかかる入口へ、 それから店内を抜けて二階の住居部分に案内された。

 そこに居たのは、 エマちゃんのご両親とシアちゃんのお父さん。 丁寧に頭を下げられて感謝された。

どちらかと言うと私が巻き込んだような物だし心苦しかったんだけど……。 いなくなった子達の話を知っていたご両親たちはもう駄目かもしれないと生きた心地がしてなかったのだと言う。

 ちなみに、 家に問題があった子達は今は別の親戚に預けられてるようだ。 今度の所では幸せに暮らせるといいんだけど。

 ご両親達に挨拶した後、 半ば強引にエマちゃんの部屋に通された。 小さなテーブルの上には沢山のクッキーが入ったお皿が一つ。 ここで待ってて! と言われて二人は外へと出て行った。

 私はクッションの上に大人しく座って、 不躾にならない程度に部屋を見た。

女の子らしい可愛い部屋だ。 ベットカバーにも刺繍が施されている。 これはお母さんの手仕事かな?

 もう一つある作業机の上は片付いているけど、 やりかけの刺繍が置いてあった。 今作ってるのはクッションカバーらしい。 苦戦しているようだ。 窓際にはピンク色の花が飾られていて窓から入る風にゆらゆらと揺れている――。 平和だ―― とても。


 「お待たせ」


 シアちゃんが扉を開けて、 紅茶の入ったお盆を持ったエマちゃんが入ってきた。 ヨロヨロとしていたのでお盆を受け取る。 シアちゃんの手の中にはアプレの砂糖漬け。 紅茶に入れると美味しいんだよね。

 なんだか、 友達とお茶会してる気分だ。 幼い少女に友達っていうのもどうかと思うけど。


 「リゼッタお姉さん、 良かったら食べてみて? お口に合うと良いんだけど」


 勧められてクッキーを一口。 少し硬めだけど、 クミルの実と、 刻んだ干しアズレンが入っていて香ばしくておいしい。


 「とっても美味しいよ? 」


 そういったら、 二人とも花が咲いたように笑って喜んでくれた。


 「よかった! 慣れない割には上手にできたと思ったんだけど…… 食べて貰うのって初めてだったから」


 心配だったんだ―― とエマちゃんが言って、 シアちゃんもほっとしたように頷く。

紅茶にアプレの砂糖漬けを入れてそちらも頂く。 程良い甘みと酸味、 そしてアプレのいい香りがした。


 「うん! こっちも美味しいね」


 二人が本当に嬉しそうにしてくれるものだから、 私も何だか嬉しくなった。

暫くはそんな感じで他愛のない話を続ける。

 暫く話した後、 思い切ったように顔を上げたシアちゃんが私の目を見た。


 「あのっ! あのね…… 私、 本当はあの日、 言いたい事があったの…… 」


 「うん」


 多分生地屋さんで言いかけた事だよね? そう思って、 ちゃんと聞こうと居住まいを正す。


 「リゼッタお姉さん…… あの時はミエナちゃんだったけど…… お兄さんが仕事が決まったら田舎に帰るって言ってたでしょ? …… だから、 その…… 一緒にお揃いのリボン買いたいって…… 離れちゃっても友達でいてって、 お手紙書いてもいい? って聞くつもりだったのっ! 」


 思い切って言うシアちゃんの顔は真っ赤だ。

あの日別れた後、 やっぱりそれを言いたくて二人で私の後を追いかけたらしい。

 そこで、 私の後をつけるイオを見て大人に知らせるかどうか迷ったけど結局、 様子を見ながら後をつける事にしたと……。

イオが路地から走り去った後、 慌てて路地に入ったけど私はもうそこにはいなくて後ろから口に布を押し当てられたらしい。


 「それで、 次に気が付いたら何日か経ってたんだよ。 お母さんとお父さんまで大泣きしてるし…… 本当に訳が分からなくて…… 」


 どうやら、 怖い思いを感じる間も無く夢の中だったようなので、 それは感謝したい所だ。

あんな場所で目が覚めてたらトラウマだろう。


 「あの、 それでね? リゼッタお姉さんみたいに年上の人に言うのも変な話だと思うんだけどさ…… 」


 照れくさそうにエマちゃんが言った後、 シアちゃんが両手を突きだした。


 「私達の、 お友達になって下さいっ! 」


 いきなりズィっと目の前に握りしめた小さな紙袋を渡されて驚いた。 見た事がある紙袋だ――。


 「開けても? 」

 

 シアちゃんがギュッと目を瞑ったままコクコクと頷く。 「二人で買ったんだ」 そう教えてくれたのはエマちゃんだ。

 私はそっとそれを開けた。 中に入っていたのは赤いリボンだ。 

 

 ―― 花に蝶々そして蔦模様。 


 白い糸で刺繍されたそれに思わず笑いが零れる。


 「えっ! 駄目だった? ロービィお兄さんが、 リゼッタお姉さんはお仕事中髪を纏めてるからリボンなら使うって言ってたんだけど」


 慌てて言うエマちゃんに違う違うと手を振る。 この子達は自分達がお揃いで買うはずのリボン代を持ち寄って私にこれを買って来てくれたらしい。 嬉しくて顔がほころぶ。


 「じゃあ、 私からもこれ…… ね? 」


 ポケットの中から、 同じ紙袋を二つ取り出す。

エマちゃんとシアちゃんが目を丸くしてそれを受け取った。 ガサゴソと紙袋を開ける二人にワクワクしながらその反応を待つ。


 「おそろいだわ! 」


 驚いた声をあげるシアちゃんの手には、 スミレ色のリボン。 エマちゃんは茫然と若葉色のリボンを手に固まっている。


 「信じられない…… 色違いの一緒のリボンだぁ」


 エマちゃんが思わずと言うように呟いた。 まさかねぇ…… 私もこんな偶然は考えて無かったよ? このリボンは色違いのお揃いのデザインだ。

 いや、 本当に生地屋に寄って来て良かったよ。


 「ねぇ。 こんな偶然ってさ、 友達だからだと思わない? 」


 悪戯めいた顔でそう言えばエマちゃんもシアちゃんもコクコクと頷く。


 「友情の証ね! 」


 シアちゃんが真っ赤な顔で嬉しそうに笑った。

 せっかくリボンをもらったので、 バレッタを外した。 右側から細い三つ編みを作って左側に流し小さなお団子を作ってリボンをつける。 簡単に手早くやったそれに、 エマちゃんとシアちゃんの目が輝いた。


 「―― やろうか? 」


 コクコクと頷く二人に苦笑しながら、 まずはシアちゃんの髪を結ぶ。

普段は項を出すような髪型をしていないみたいだったから、 左側の髪の毛を上から緩く捩じって右側の耳の下あたりに持ってきた。 そこに大き目のお団子を作ってリボンで結ぶ。 残った髪をそのまま右肩に垂らしてあげれば、 少しだけ大人っぽい雰囲気になった。

 次にエマちゃん。 エマちゃんはいつもポニーテールばかりらしいので髪を下ろした後、 左右からの編み込みを後頭部の真ん中あたりに持ってきた。 そこにお団子を作ってリボンを結ぶ。 三つ編みを少し崩してフワッとさせたら可愛い感じの雰囲気に。


 「きゃあっ! かわいい!! 」


 「シアちゃんもだよ! 」


 とっても喜んで貰えたみたいだ。

お化粧は下手だけどね。 髪を弄るのは得意ですよ。

 二人に喜んで貰えて私も嬉しい。 今度、 自分で出来る髪型を教えて欲しいって頼まれた。

幼い時の友達は男の子ばっかりで、 こう言う事をして来なかったからね。 ちょっと楽しい。

 今日は年下の、 女友達ができました――。 


 カザルの件は一応こういう形に決着しました。

リゼには新しい友達ができたようです。

 次回は懇親会的な雰囲気の話になるかと……。


『不注意で世界が消失したので異世界で生きる事になりました。』 もこの後、 更新します。

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