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廃棄世界に祝福を。  作者: 蒼月 かなた
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団長はヘタレと認定しておこう

予想以上にモフモフにならなかったです。 すみません。

 と、 言う訳で黒竜騎士団での生活が始まる訳です。


 さて、宿舎の説明をすると建物はコの字型になっている。 凹んでる部分が正面。 正面側一階は来客用の待合スペースですね。左側部分が宿舎。 一階は食堂。 二階、 三階が団員の部屋となっている。 団員は少ないので部屋は余っているはず。

 反対に正面から右側に行くと一階が会議室と物置き。 二階が団長、 副団長の執務室、 それから応接室がある。 三階に行くと団長、 副団長の部屋だ。 

 ちなみにシャワーとトイレは個室に完備。 お風呂に入りたい人は城内にある 一般の共同浴場に行く事になっていた。 共同浴場は城内に務める人なら誰でも入れるからね。


 「噂通り、 なんの手入れもしてないなー 」


 かつては真っ白だったはずの壁はくすんだハイイロ。 場末の酒場にある感じの卑猥な言葉の落書きがペンキで書かれてる。 

 これでは貴族のお嬢さん達が寄り付かない訳だ。 外側からしてもう近寄っちゃいけないのが分かる。 

普通、 騎士団の宿舎ってファンの子達が練兵場で鍛錬する騎士達を見て、きゃわきゃわしてる訳ですよ。優良物件がいれば、 出会いの切っ掛けにする…… お見合いの簡易版みたいな?

 だだっ広い練兵場も荒れ果てていて、 かつては塀だったレンガが崩れてる。

宿舎の管理は、 騎士団に任されているもの。 外がこれじゃあ、 中も酷いんだろうな。


 「お客様とか絶対来ないよねぇ…… 異動して初めての仕事は、 宿舎を綺麗にする事か…… 」


 まずは団員の掌握が必要だね。 私に逆らう気が無くなる様にしてあげよう。

そう考えながら、 正面玄関をくぐる。 

 案の定、 常に綺麗にしておかなければならないその場所は、埃だらけだ。 今の副団長にお願いされて朝早くに来たから、 人の気配は無い。 団員はおそらくまだ寝ているのだろう。 

 私は試しに入口横にあるカーテンの閉まった部屋の前、 カウンターに置いてある叩けば音が出る呼び鈴をティンッと鳴らした。 


 「…… そりゃ出て来ないよねぇ」


 その部屋のドアを開ければ、 埃をかぶった室内。 夜中の客…… 緊急時にも対応できる夜番を普通、交代で置いているハズなんだけど、 これも大分前からやってないな……。


 「まぁ、ここまでは予想してたし、 取り敢えずは勝手に失礼して副団長の執務室に行くか」


  そのまま歩いて二階に行くとアイオロス副団長が待ちかねたと言う様子で、 扉から顔を覗かしていた。 私は荷物を下に置くと、 右腕を真っ直ぐ伸ばして拳を作り胸に当てた。


 「あぁ、こんな爺ぃに敬礼は要らないよ。 畏まらなくて良い」

 

 白髪のおじいちゃんが、 にこやかに笑って室内に招き入れてくれる。

私は軽く頭を下げると、 荷物を抱え直して室内に入った。 

埃一つなく整頓された室内は、 本来なら当然のはずなのに外と比較すると違和感を感じる位に綺麗だ。


 「最初はねぇ。 君みたいな若い女性を後任にしたいって聞いた時、 大反対したんだけどね? 陛下から事情を聞いて、 あ、 もちろん簡単な事情だよ? 君ならまぁ、やって行けるかと思ってね。 ここでの引き継ぎなんてあって無いようなものだから、 紙に書いて置いていこうかとも思ったんだけど、 騎士から引退する前に、 こんな所に来たいってお嬢さんに会って見たくてね?」


 私に椅子をすすめながら、 ニコニコ話す副団長。

わざわざ、 簡単な事情って強調されるあたり、 他に理由あるよね? 聞かないけどって言われていると思うのは気のせいだろうか。


 「やぁ、君みたいに美人さんだとは流石に思わなかったなぁ。 僕がもっと若ければ頑張ってアタックするんだけどねぇ」 


 「ご冗談を。 アイオロス副団長が亡くなった奥様を大事に思ってらっしゃるのは、 お噂を聞いて知っています」


 「ふふ。 エィナの事はもちろん今でも愛しているけどね。 もし、 彼女と出会って無くて僕がもっと若かったら…… 分からないよ? 」


 茶目っけたっぷりにウィンクされて、 私も思わず笑ってしまった。


 「さてさて、 まずはこれを渡しちゃおう」


 アイオロス副団長がそう言って黒竜騎士団の団章と副団長用の腕章を渡して来た。 着けなさいと促されたので、 団章は左胸に、 腕章は左腕に着ける。


 「さぁ、 これで僕は元副団長。 君が新しい黒竜騎士団の副団長だ。 引き継ぎはね、 さっき言った通りほとんど無い。 団員は年寄りの僕がどうにか出来るものでもないしね。 団長は、 基本的に宿舎は使って無い。 と言うか寄り付かないんだよね。 あの人」


 「団長が…… 宿舎に寄りつかないですか? 」


 困っちゃうよねと言いながらアイオロス副団長改めアイオロス様が溜息を吐く。


 「殿下はまだ、 尻に殻をつけたヒヨコみたいなもんさ。 いい年して、 親代わりだった元団長やかつての仲間がもう居ないって事実を見たくない…… っていうか見れないんだろうねぇ。 勤務中は城内の何処かで昼寝してるしそれ以外は街に居るみたいだよ」


 ほら、 尻の青いガキでしょ? と言われ思わずわたしは苦笑してしまった。


 「僕のお仕事は、 団長が、 哨戒任務についた時なんかに問題なく終わったって報告書を書くだけ」


 「じゃあ、 その時だけは団長はここに来る訳ですね? 」


 「来ないよ? 副団長を拝命した時に言われたからね。 問題や報告するべき事が出て来たら連絡する。 それ以外の時は問題ないって報告書をあげるようにって言われたからねぇ」


 あー…… 掃除が終わったら、 団長を確保しよう。 嫌だと言っても、 引きずって来てやる。

取りあえず、 団長はヘタレと認定しておこう。 


 「中々良い顔するねぇ。 来たのが君で良かった。 元々引退して妻のお墓のある屋敷でのんびりしようとしてたのに、 ココの副団長のなり手がなくて、 見つかるまでって話しで引き受けたんだけど。 まさか十年かかるとか誰も思わないよねぇ。 僕も流石に飽きたよ」


 「本当にお疲れ様です」


 遠い目をして語るアイオロス様を見て、 さすがに同情を禁じ得ない心持になった。 …… 十年。 それは黒竜騎士団の皆が亡くなってから十年って事でもある。


 「まぁ、 僕は陛下から『現状維持』をお願いされてたからね。 君は大変だろうけど、 好きにやっちゃって良いと思うから、 きっとやりがいだけはどの騎士団にも負けないさ」


 「はい」


 「じゃあ、 最後にコレね。 この部屋の鍵と君の部屋の鍵。 それから団員達の部屋を開けられるマスターキー。 僕はもう行くケド。 頑張って」


 アイオロス様から鍵を貰って握手を交わす。 


 「今までお疲れさまでした」


 そう言って私は、アイオロス様と別れた。

執務室の机の上に荷物を置いて、 ざっと片づける。 酔っ払いどもが起きてくるにはまだ時間がかかるだろう。 なのでは私は取りあえず、二階の自分の部屋に向かった。


 自室に入ってまず目についたのは、ベットの上に置いてある真新しい団服だ。 今、 着ている黒い服は仮のものなので、 脱いで着替える。 上着の内側に名前が刺繍してあるのを見ると、 自分が黒竜騎士団の一員になれたのだと、 思わずニヤニヤしてしまった。 腕章と団章を付け変え終わると、 部屋の窓ガラスが叩かれる。


 『ニヤニヤしてないでココ開けてよぅ』


 その声に振り向くと、 大きな鷹がコツコツと嘴で窓を叩きながら情けない顔をしていた。


 「ごめんごめん。 リィオつい嬉しくて。 ありがとね」


 窓を全開にしてやると、 私の服を入れたカバンを足でぶら下げた鷹、 フェムリオ―― リィオがまず入ってきた。


 『酷いよね。 絶対僕等を忘れてた』


 窓の横の机の上に荷物を放り出して、 拗ねている。

その様子にポンっと頭を撫でてやる。


 『ま、 十年がかりの夢が叶ったんだ。 ちょっと位は見逃してやれ』


 次に窓枠に飛び乗り、 入って来たのは背中にリュックを背負った黒くて大きな狼、 クロムウェル―― クロだ。

頭を擦りつけて来たので、 耳の後ろを掻いてやった。


 『そうそう。 私達にはそうでもないけど、 人間には十年って長いものね? 』 


 白い狼のシェスカティナ―― シェスカが嬉しそうに入って来る。 白い柔らかい毛並みを撫でてやると目を細めて喜んでいるみたい。


 『気にしてるのはリィオ位さ。 あ、リゼ。 噂通り、 この騎士団の団員は五人だよ。 自分達の部屋でグースカ寝てる』


 最後に入って来たのは灰色猫のクーデルカ―― ルカだ。 どうやら待っている間、 暇だったから歩きまわっていたらしい。 こちらも、撫でてやれば嬉しそうに頭を擦りつけてきた。


 「クロもシェスカもルカもありがとね」


 『大した事じゃない。 前の時は、 煩い小僧のせいで一緒に居られなかったが、 今回は陛下から許可とやらが下りたのだろう? オレ達は、 お前の傍にいられるなら、 なんだってするぞ? 』


 『あの最低坊ちゃん。 リゼの傍から消えてくれて本当にほっとしたわ。 最後に噛みついてやれなかったのが残念だけど』


 クロが言えば、 プリプリ怒ったシェスカがバカ坊に悪態を吐く。


 『そもそも、 学院に入った時だって僕等一緒に居られなかったんだよ? リ ゼ の 傍 に。 学院から出たら一緒に居させてくれるってヘーカとセトが言うから我慢してたのにさ。 アイツの所為で駄目になってさ……… 僕も髪の毛毟ってやれば良かった』


 『私は彼に同情するよ? アプローチするには手段を間違えたとしか言えないけど……… 好きな子に負けるってどんな気分だろうね』


 学院に入る事が決まった時、 やけにリィオが大人しかったのはそんな約束を陛下とセト様としていたせいらしい。  


 「ていうか、 なんかルカの言っている意味が分かんないな。 バカ坊は私の事徹底的に嫌っていたと思うよ」


 私のその言葉に、 ルカとシェスカとクロが意味ありげな視線を交わした。 なんだよ。 だって嫌がらせしかされてないよ?


 『…… ま、どうでも良いことだけどね。 私達もリゼも彼の事が嫌いなんだし』


 そうそう。 お互い嫌い合ってるんだから、 二度と顔を見る事がなさそうで本当に良かった。

バカ坊も、 私に会わなくて良くなった事だけはきっと感謝しているに違いない。



不注意で世界が消失したので異世界で生きる事になりました。 もこの後で次話投稿します。

宜しければそちらもお読みください。 

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