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廃棄世界に祝福を。  作者: 蒼月 かなた
24/69

内通者が良くやる手口

ティルさんが殴り込みに。

 バンっという音と、 くぐもった怒鳴り声に目を覚ます。

外は、 まだ薄暗い……。 とはいっても起きるのに早い訳ではなく、 気の早い商店などはもう開店している時間だ。 私はベットから起き上がって暖炉の方を見た。 

この暖炉は、 屋根裏部屋の暖炉と繋がっている。 声はそこから聞こえているのだ。

 このくぐもった声はティルさんだろう。 私は、 起き上がって着替えると屋根裏部屋に向かった。

従業員用の階段を上って行って、 開け放たれた屋根裏部屋のドアを外から覗き込む。

 丁度、 ユーリがティルさんに殴られる所だった。


 「どういうことだ! 」


 簡単に避けられるはずのそれを…… 止めようとしたアスさんを片手の合図で制止して、 ユーリはティルさんに殴られる。 

 腰の入ったいいパンチだけど、 ユーリの身体は微動だにしない。 

ユーリはティルさんのパンチに合わせて首を振り、 威力を減らしていたのでたいしたダメージは入っていないはずだ。


 「…… 少しは落ち着いたか。 激昂されていては話にならん。 とにかく落ち着いて話てくれ」


 ティルさんを話せる状態にするために敢えて殴られたらしい。 騒ぎを聞きつけてヴァイさんとルドさんも上がって来た。 他のお客さんの様子を聞けば、 一応、 寝てるらしいと聞いて一安心する。


 「くそっ! これが落ち付けるか…… おい! お前が狙われるはずじゃなかったのか?!」


 室内に入った私達を見咎め、 ティルさんが更に大きな怒鳴り声を上げる。 扉が開きっぱなしじゃ音が響くだろうと思い、 丁度後ろ手に扉を閉めた所で助かった。


 「…… どういう事です」


 嫌な予感がして、 そう尋ねる。 ギリリと音がしそうなくらい歯を噛み締めたティルさんが絞り出す様に言葉を吐きだした。


 「雑貨屋の娘と、 学者の娘が昨日から帰ってない」


 ―― まさか……。


 「ちょっと待って下さい…… エマちゃんとシアちゃんがですか? 」


 昨日、 笑顔で別れた二人を思い出して、 血の気が引いた。

昨日のうちに? なら何故、 今まで騒ぎになって無かったのか。


 「あぁそうだ! 」


 叫んだティルさんから事情を聞けば、 嫌な偶然が重なって朝まで二人が帰って来てなかった事が分からなかったのだと理解できた。

 話はこうだ。 エマちゃんのご両親は、 娘が帰って来ていない事をシアちゃんの家に泊まる事にしたのだろうと考えた。 また、 泊まりあいっこしたいとエマちゃんが言っていたのもあるし、 以前にも一度そう言う事があったからだ。

 シアちゃんのお父さんは、 論文を書いていた。 彼は、 仕事をし始めると寝食を忘れるタイプ。 朝方の三時頃に娘がいない事に気がついたが、 早朝であるためにエマちゃんの家に確認に行けなかった。

 シアちゃんが、 連絡もしないで外泊した事は無かったので、 気にはなったものの彼もまたシアちゃんはエマちゃんの家に泊まったのだと考える。

 そして、 朝エマちゃんの家が起きる頃にシアちゃんのお父さんはシアちゃんを迎えに雑貨屋さんを訪ねた訳だ……。


 ―― そこで、 初めて自分たちの娘が昨日から帰ってない事に気がついて……。


 連絡はまず自警団に行った。 そして、 ティルさんが怒りのままに殴りこみに来た訳だ。

…… 油断した。 視線はいつも私を見ていたから…… 二人一緒に消えた事が無かったから、 二人の家が大通りにあって、 帰り道も人通りが多いから…… そんな理由を付けて、 あの子達の安全の確認を怠った。 噛んだ唇から血が滲む。

最後の目撃情報は、 私がイオ少年に声をかけられた路地だ。 正確にはそこに向かって歩く二人の姿。

 多分、 何か私に話たい事でも思い出して戻って来たのだと思う。 

そこで攫われたと考えるのが自然だけど、 随分荒っぽい事だ。 今まで二人同時に攫われた事なんてない。 ―― 騒がれる危険を冒してまで何故……?


 「騎士団に連絡は? 」


 ユーリが厳しい顔をして、 ティルさんを見る。 


 「入れてねぇ」


 ティルさんがどうでもいい事聞くなよと言ったので、 イライラした顔のヴァイさんが声をあげた。


 「俺が行って来る」


 「任せた」 


 ユーリの言葉を受けて、 ヴァイさんが部屋を飛び出す。


 「ティル。 お前の好き嫌いを聞いてやる時間は無い。 俺達が嫌いでも話を聞いて貰うぞ。 お前に今日、 話すはずだった事がある。 一つ目は、 攫われた子供達だが、 殺害されている可能性がある。 二つ目、 ルゼラ孤児院も関わっているらしいと情報があった。 そして最後の三つ目だが…… 自警団の中にそいつらに内通してる者がいる可能性がある」


 一つ目の、 殺害されてる可能性を言った時、 ティルさんの唇がワナワナと震えた。

信じられないと呟いて、 怒りをあらわにしようとするのを、 ユーリが殺気を込めた視線でとめる。

 けれど、 最後の内通者には納得ができなかったらしい。


 「ふざけるなっ! 俺達の中に裏切り者なんていねぇ」


 顔を真っ赤にして怒鳴るティルさんに、 私は昨日の話し合いで出た話を簡単に話す。


 「…… まったく、 思い当たらない事ではないでしょう? それとも、 身内可愛さに目を瞑りますか」


 ティルさんは口を引き結ぶと、 黙り込んだ。

その場合、 攫われた子供達は全員死ぬでしょうね。 と残酷な事を口に出す。

 そう、 事は急を要する事になったのだ。 

家出したと思われていた子達とは違う。 普通の家の子だ。 現在もいなくなったと騒いでいれば、 カザルは蜂の巣を突いた騒ぎになるだろう。

 犯人達が、 警戒してまた場所を移す可能性がある。 そのまま今度こそ深く潜られれば、 攫われた子達は永遠に闇の中だ。 


 「…… 可能性があるのは…… 最近入ってきたバーズだ。 あいつが、 ここが怪しいって情報を持ってきてアジトだと思える所に踏み込んだ」

 

 ティルさんの顔色は今や蒼白だ。 裏切り者なんていないと言っていた先程とは違って、 何か思い当たる事に気がついたという顔をしている。


 「その人の情報を信じた訳ですね」


 「あぁ。 アイツは情報に通じていて、 今までも違法薬物を作っていたヤツを見つけたりするのに実際に確実な情報を持ってきてたからな。 それに…… ルゼラ孤児院の院長がバ―ズの父親だと…… 」


 苦痛にゆがむ顔をするティルさん……。


 「…… 俺達は利用されたのか? 」


 適当に正しい情報を掴ませて、 本当に知らせたくない事を隠す。 ―― 内通者が良くやる手口だ。

正しい情報があれば、 自警団の人達からの信頼も得やすかった事だろう。

 騎士団と仲が悪いカザルの自警団は、 何かあっても騎士団を頼らない。 

騎士団の宿舎はカザルに無いから、 自警団さえ押さえておけばかなり自由に動けたはずだ。


 「…… 時間がないわね。 騒ぎが大きくなって逃げ切れなくなれば、 攫った女の子は荷物になる」


 ティルさんの顔が更に歪んだ。

荷物になると言う事は殺されると言う事だ。 それを理解したのだろう。


 「ティル。 しっかりしろ。 お前が頼りなんだ。 何とかして信用できる自警団の連中と協力して、 攫われた子達の親を落ち着かせてくれ。 なるべく、 周囲にも騒いで欲しくない。 これは攫われた子供の命にかかわる問題だ」


 ユーリがそう声をかけて、 ティルさんの肩を揺さぶった。 真剣な目で、 ティルさんにしか頼めない事だと言い聞かせる。 ティルさんは頭を一振りすると、 泣きそうな顔で頷いた。


 「それと、 バ―ズさんを確保しないとですね」


 今聞いた話から考えれば、 この人が真っ黒なのは確実だろうと思われた。 ちょろちょろと動かれたらたまったものではない。 私の言葉に答えたのはルドさんだ。


 「…… あたしがいくわ。 案内して」


 ルドさんは厳しい顔でそう言うと、 ティルさんを引きずるようにして部屋を出て行く。

 

 「マイアス。 ここに残れ。 白竜騎士団が来たら、 孤児院に行って院長を拘束しろ。 名目はなんでも良い。 運営費の着服とかなら、 実際にしてるだろうから丁度いいだろう」


 アスさんが、 力強く頷く。 それを見届けて、 ユーリが私に向き直った。


 「リゼッタ。 孤児院まで付き合え。 例の少年に話を聞きたい」


 「はい」


 闇雲に探しに行くより、 イオ少年の情報に賭けた方がまだ可能性がある。

手早く着替えたユーリが、 預けていた私の剣を投げてよこす。 アスさんが黒の外套を貸してくれた。

フードを目深にかぶり、 ユーリと共に裏口から街に出る。

 元々、 イオ少年に話を聞きに行く予定だったので、 道は頭に叩き込んである。 それが幸いした。

私達は薄闇に紛れながら、 孤児院へと走り出した――。


 「…… 大丈夫か? 」


 少し言いにくそうにして、 ユーリがそう聞いて来る。


 「何がです」


 「…… さっきショックを受けてたろう? 」


 あの状況で良く見ている。 …… 思わず、 血の気が引いた時の事だ。 ユーリは昨日あの子達が私と居たのを知っているからね。


 「…… 受けましたよ。 自分の馬鹿さ加減に腹を立てました。 けど」


 「けど? 」


 「ショックを受けてる暇なんてないですからね」


 確認を怠ったミスはもう起こってしまった事だ。 それを後悔して動けないのは余計に悪い。

怒りは犯人を見つけた時にでもぶつけてやればいい。

 自分が落ち込むことで、 これ以上の後悔はしたくなかった。


 「…… そうだな」


 「助けないと」


 エマちゃんや、 シアちゃんだけじゃない。 攫われた女の子達を。 まだ、 生きていると信じて。

下の道は入り組んでいるので、 屋根の上を最短距離で走り抜ける。 孤児院の敷地内の植え木の陰…… 出入り口を見張れる位置にエイノさんを発見したので、 私はその横に飛び降りた。 


 「驚かすな。 どうした? 団長も揃って…… 」


 「状況が変わった」


 ユーリが、 さっきの出来事を手短に話す。

エイノさんが状況を理解して、 厳しい顔になった。


 「まずいな。 時間が無いって事か…… そのバ―ズってヤツはまだ来てない。 出入りは今の所無いからな…… 少年がいる部屋は一階の奥だ。 そこの通風孔から中に入れる。 そこから梁を通って真っ直ぐ行ったあと右だ。 その突きあたりの部屋に居る」


 「分かった。 ここの監視をお願い」


 エイノさんが示したのは、 孤児院の横…… 木の影に隠れた金網だ。

私はユーリと頷きあうと、 孤児院に向かって走って行った。

 金網をそっと外して中に入る。 下には朝食を作っている子達がいる……。 身綺麗にしているので、 この中にはいないだろう。 人の視線は意外と上にはいかないものだ。 とは言え、 細心の注意を払いながら梁の上をすすんだ。 

 奥の、 湿気の多い薄暗い場所にその部屋はあった。

最初は私だけが入るのが良いだろうと言う事になったので、 そっと下に降りて扉を開けて中に滑り込んだ。 瞬間に感じたのは異臭だ。 外の美味しそうなご飯の香りとは無縁の環境がそこにはあった。

 一番奥には窓が一つ。 窓枠に靴跡がある事から、 ここから外に出入りしていたのだと言う事が分かる。 床に寝ころんでいる子供達には上掛けの一つすらない。


 ―― エイノさんが怒りを堪えて吐き捨てた気持ちが良く分かる。 

 

 部屋の中はとても衛生的とは言えない状況だ。 何とも言えない汚れが辺りにこびりついている。

そしてその部屋で、 垢にまみれボロボロの服を纏った子供達がお互いを暖めあうようにして寝ていた。


 「―― だれだ」


 声に聞き覚えがある。 イオ少年だ。

年かさの彼とあと、 少女が二人…… 怯えたようにして起き上がった。


 「驚かせてごめんね。 私が分かるかな」


 フードを取って顔を晒す。 今日はお化粧をしていないからもしかしたらイオ少年は私の事は分からないかもしれない。 イオ少年は私の顔を凝視した後、 暫くしてから訝しげに呟いた。


 「…… ? お前…… 昨日の…… 」


 「うん。 君に聞きたい事があって来たんだ。 本当は、 信用して貰えるように動くつもりだったんだけどね。 そうも言ってられなくって。 昨日、 私と一緒にいた女の子達を覚えてる? 」


 分かって貰えてほっとする。 私の顔を見て一瞬だけ気が緩んだけれど、 子供達は緊張した様子で私の挙動を気にしている。


 「…… あぁ」


 「その子達が攫われたんだ。 だから、 探したい。 昨日、 私に忠告してくれた君ならもしかしたら何か分かるかもしれないと思って来た」


 目線を合わせながら、 真剣な顔でそう告げる。 

普通の女の子がそんな事をワザワザ聞きに来るはずもない。 イオ少年の顔が疑うようにこちらを伺う。


 「…… お前、 何者だ」


 「…… 騎士だよ。 昨日のアレは囮役をしてたんだ」


 腰に佩いた剣を床に立てて見せる。 柄頭の石に入った黒竜騎士団の紋章が見えるように。

剣を見て、 女の子達の顔には怯えが浮かんだ。 イオ少年は果敢にも怯えを隠しながら、 馬鹿にしたような声を出す。 


 「騎士。 お前がか? 」


 まぁ、 昨日の格好を見られたら騎士とは思えないよね……。 

そう思っていたら業を煮やしたのか、 外で待っていたはずのユーリが室内に入ってきた。 


 「騎士だ。 コレでもな」


 途端に警戒する子供達を前に、 そう言い放つ。

私と同じようにして、 目線を子供達に合わせると苦笑してから私を横目で見た。


 「…… コレって扱い酷くないです? 」


 思わず文句が口から出る。

そうか? と一言いった後、 話し声に目を覚ました他の子供たちに向かってユーリが話を続ける。


 「出来れば騒がないで欲しい。 院長どもを制圧してる暇はないんでな。 この後、 白竜騎士団がここに来る。 できれば、 その時までここで大人しくしていて欲しい…… 院長共は、 捕まえる。 こんな状態で子供を放っておいて、 私腹を肥やしていた罰だ」


 厳しい口調でそう言うユーリに、 女の子の一人がおずおずと口を開いた。


 「アイツ等が捕まるって事? 」


 「そうなる。 …… 君達には申し訳ない事をした。 すまない」


 汚れた床に膝をついてユーリが頭を下げる。 大人にそんな事をされた事が無いんだろう。

子供達が動揺したように、 挙動不審になった。


 「私達どうなるの? 」


 別の女の子が、 そう言ってユーリを見た。 ざわざわと、 起きた子達が不安を口にする。


 「新しい院長と職員が派遣されるまで、 保護される事になるだろう。 …… 安心しろ。 こんな状況は二度と起こさせない。 衣食住は保証する」


 真剣な目で言い切って、 ユーリは一人ひとりの目を見まわした。

黙っていたイオ少年が、 ユーリの目を睨みつけて啖呵を切る。


 「…… 本当か? 嘘だったら、 許さねぇ。 あんたが何処の誰であろうと復讐してやる」


 その言葉に好もしさを感じて微笑んだ。 イオ少年が、 不安がっている仲間を勇気づけるためにそう言ったと感じたからだ。 こんな状況でも他の子供達を想いやれるこの少年の強さにユーリもまた感心したようだった。 すっと顔を上げるとイオ少年の目を見ながら名乗りをあげる。


 「…… ユリアス・ヴァン・ファーレンシアの名に誓って」


 自分の名に誓ってと、 ユーリが言う。 立ち上って、 剣を上に捧げ騎士の礼をとるのはその剣の鞘に彫られた王家の紋章を見せるため―― そして、 誓いを示すためだ。 剣を捧げてされた誓いは命と同等に重いもの。 命をかけて誓うとユーリが示した事になる。


 「…… 王弟殿下? うそ」


 誰かが、 そう呟いた。 ざわめきが広がる――。

イオ少年はポカンと開けた目を何度も瞬かせる。 

それから目を手で擦った後、 ゴクリと生唾を飲み込んだ。 


 「…… まじかよ…… 嘘だろ―― …… 分かった。 俺が知ってるのは、 院長が売った奴等を連れてったトコだけだ。 そこで良ければ案内してやる」


 意を決したように立ち上がると、 イオ少年が窓を指さした。

子供達の間を抜けて、 私達はその後に続いた――。

  

 

孤児院の子供達はどうやらもう大丈夫そうです。

攫われた女の子達は次で見つかるのか? それとも、 まだ何かでてくるのか……。


『不注意で世界が消失したので異世界で生きる事になりました。』 もこの後、 更新します。


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