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廃棄世界に祝福を。  作者: 蒼月 かなた
19/69

幕間 ユリアスとセト

今入れて置いたほうが良いかと思って幕間にしました。

 夜の街を彷徨い歩き、 酔いも醒めて来た朝方に城に戻る。 いい加減そろそろ宿舎に帰れるようになれば良いと思っているのに気持ちとは裏腹に身体は別の所に向かった。 ―― 北の塔だ。

城の中で一番高いこの塔は城下町も周囲にある森も良く見えるのでお気に入りの場所だった。

 とはいえ、 どっかの誰かが余計な事をしたお陰で、 最近は足が遠のいていたのだが。 


 ―― 余計な事…… 

 

 思い出しかけて思考に蓋をする。

リゼッタ・エンフィールド。 俺の意志を無視して心にズカズカと土足で入ってきた、 本来なら俺の右腕となるはずの娘。 …… あの娘は自分が女だと言う自覚が無さ過ぎる。 

ヴァイノスが何故動揺したのか結局気付きもしなかった。

 だから平気であんな事を…… イライラとして拳を壁にぶつける。


 「やぁ。 元気かい」


 物思いに耽っていると、 声が響いた。 今まで、 誰もいなかったハズなのに唐突にソレが存在を表す。 俺はこの感覚が嫌いだった。 自分の知覚の外から今まで様子を伺っていたのかと思うと、 どうにもコイツの事が好きにはなれない。 ふわふわと空中に浮かぶ男。


 ――セト。 


 この国に何百年も前からいる魔族の男。

かつて絶えたと思われていたゲーティアの血を引く娘をこの国に連れて来た救世主。

 民の間では『黒の賢者』 と呼ばれ昔話に出てくる人物。

自らもゲーティアの血に連なり、 その血にはべる男。 ―― 愛する者をただ待つために。 

セトの存在を知る者は限られている。 故に存在を知る者は国にとって重要な人物達だけだ。

 ならリゼッタは……。 俺は多分答えを知っている。 けど、 今はそれを考えたくなくてセトに向かい合った。

 

 「…… リゼッタが探してたぞ」


 俺は不機嫌なのを隠さずにセトにそう告げる。 

リゼッタからセトを見かけたら探していたと伝言して欲しい―― と、 頼まれた事を思い出したからだ。 


 「知ってるさ。 でも怒られたくは無いからねぇ。 もう暫く放置かな」


 どうやらセトは知っていてリゼッタの前に姿を現していなかったらしい。

リゼッタの言っていた『逃げてる訳じゃ』 と言う発言はあながち間違ってはいなかった訳だ。

 ヘラヘラと笑うセトに俺のイライラが加速する。

初めて会った時から何故だか俺はコイツが苦手だ。

 

 そもそも、 この人を喰ったような性格が嫌いなんだ。 


 し か も、 コイツはそれを分かっててで遊ぶのだ。 

義兄上あにうえには気にするから、 余計にからかわれるんだと言われたが絶対にそれだけではないと俺は思う。


 「何をたくらんでるんだ」


 「酷いなぁ。 私ってそんな風に見えるの? 」


 睨みつけながらそう言えば、 笑いながら平然とそんな事を言う。

お前が笑いながら人を落とし穴に落とすような性格だって事を俺は知っている。

実際に落とされたからな。 落とし穴。 そっちは幼い頃に物理的な方の落とし穴だけどもよ。

思い出したら余計に腹が立ってきた。


 「そんな風にしか見えない」


 腹立たしさそのままに言葉を吐きだす。

 ゲーティアには総じて楽しそうな事が好きという性質があるが、 その最たるものがセトだ。

あのサイファス殿ですら、 その性質は受け継がれている。

面白そうだと思えば、 より面白くなりそうな厄介事を携えて来る。 それがゲーティアだ。


 「ユーリは昔から・・・変わらないな。 本当に面白いね」


 まただ。 セトは時々こういう言い方を俺にする。 それはまるで、 俺が知らない俺を知っているかのような口ぶりで…… そしてこれを聞くと決まって俺の心の奥からイラッっとした何かが沸き起こるのだ。

まるで、 俺の心の奥に別の誰かがいるかのように。


 「リゼッタにあまり迷惑をかけるなよ」


 どうせロクな事をしないに決まっている。 せめて、 リゼッタの被害が少ないようにと俺はそう言葉を絞り出した。 今日はやらなければならない事が沢山あるのに朝からこんなにイライラさせられるとは思ってもみなかった。 とんだ一日の始まりだ。


 「嫌だなぁ。 大事なリゼにそんな事はしないよ」


 嬉しそうに、 楽しそうにそう告げる言葉。 


 その言葉に俺は愕然とした。

基本他人に興味がないこの男の優しい笑顔に俺の心は引きつり悲鳴を上げる。 

ギシリと絞めつけられる心に戸惑いながらセトを見上げて俺は――


 「まさか…… 」


 ある可能性に思い至って、 そう呟く。 できれば考えたくない可能性だ。

もしそうなら俺はコイツを―― 


 「あぁ誤解させちゃったかな。 違うよ? あの子は私の妻じゃない・・・・・


 その言葉にほっと息を吐く。 えもいわれぬ安堵に力が抜けた。 もしリゼッタがセトの妻であった・・・・・なら彼女にお悔やみを言う所だ。 この男の執着心は妻一人に捧げられたかなり重たいものだからだ。 本当に良かったそれならいい・・・・・・

 そんな俺の心の動きを知ってか知らずかセトが意地の悪い笑みを浮かべた。


 「一番大事なのは私のティーア。 次が両親と兄妹、 その次聞きたい? 」

 

 ニヤニヤとからかうように告げられて、 俺は苦い物を飲む様な気分で目を逸らした。

わざと俺をからかう嫌な顔だ。 こんな顔をしている時は反応を返さない方が良いと分かっているのに思わず口から言葉が漏れた。  


 「要らん」


 「冷たいな。 …… でも折角だから教えてあげる! リゼと君だよ。 ユーリ」


 要らないと言ったのにそんな事を嘯く。 しかし、 リゼッタはまだ理解できるけれど…… 俺?

もの凄く嫌だという顔をしたと思う。 実際嫌だしな。 セトが俺の事が大事とか槍が降るだろ? それ。

 セトは俺のその顔にケタケタとお腹を抱えて笑い転げてやがる。


 「なんで俺が入る」


 気持ちが悪いので、 そう聞いた。 セトは俺の周りを飛び回りながら楽しそうに笑う。


 「今はまだナイショ。 そう言えば、 女の子の格好をしたリゼは可愛いだろう? キスの味はどうだった?? ねぇ抱きしめたくはならなかったの? 」


 俺の真後ろでピタリと止まり、 耳元でそう囁く。 チリチリと背中の産毛が総毛立った。

その 声は 耳から心に沁み込む  毒  


 ここで、 リゼッタに薬を飲まされた時の事を思い出す。 真剣な顔をして文句を言う強いその眼光ひかり。 幼いと思っていたその顔は見返せばそれほど子供では無く、 不意をつかれたのは見惚れたからだ。

魂の奥に触れる何か。 ざわざわと浸食しようとして来るその熱に浮かされた。


 柔らかい唇  甘い吐息  伏せた目の長い睫毛

   朝、 目が覚めた時の穏やかな気持ち  彼女の足の滑らかな手触り

 それから―― 昨日の―― 


 手に爪を立てて現実を取り戻す。 コイツは見ていたのか―― あの時ここで。

見られた事も腹立たしいが、 それを揶揄されたような気がしてセトの胸倉をつかむ。


 「お前、 なにを」


 胸元を掴んだ手をどかしもせずにセトは俺を睨みつけた。


 「僕は何でも知ってるさ。 君がそれに戸惑ってる事も。 ユーリは昔からそうだ。 始まり・・・がそうだったからかな。 いつでも最初は認めようとしない」


 まただ、 また俺には理解できない事をセトが言う。 始まりってのは何だ? 俺が何に戸惑ってると?? 疑問は尽きない。 けれどセトがどこか不機嫌なのは分かった。 


 ――コイツは俺に対して怒っている。 


 俺が何かを認めない事を、 か――? 

そんな俺の様子にセトは、 イライラした様子で唇を噛んだ。


 「何を 言ってる…… 」


 「教えないって言っただろ。 今はちょっと意地悪な気持ちなんだ。 こんなに君たちの傍にいるのは初めてなんだよね。 だから私もこの感情に戸惑ってる。 リゼに対してはまるで父親にでもなったような気分だ。 だからねぇ。 泣かせたくないんだよ」


 セトが言っている事が理解できない。 ただセト自身、 自分の感情を捕らえあぐねているのだろうと言う事は理解できた。 そしてセトなりにリゼッタが大切なのだという事も。 その事に何故だか無性に腹が立って唸るように聞き返す。


 「からかって遊んでるのにか」


 「それはそれ。 傷つけるような事はしてないし、 する気もないよ。 じゃないと怒られるからねぇ」


 誰に、 とは聞かなかった。 セトを怒れるのはセトの家族だけだ。 けれど疑問は残る。 何故リゼッタを傷つけるとセトが怒られるのか…… とかな。

 けれど、 どうせ答える事はないと思えたので聞くのは諦めた。


 「私の知る中で、 君だけが唯一リゼを傷つける。 だからね、 泣かせない事だ。 じゃないと私はユーリ、 君を苛めてしまうかもしれないよ」


 俺は馬鹿みたいな顔をしたんじゃないかと思う。 俺がリゼッタを傷つける? リゼッタは強い女だ。

騎士としてどうこう言う前に精神的な部分で。 ましてや、 俺はリゼッタとの付き合いが浅い。 そんな俺がリゼッタを唯一傷つけられるなんて変な話だろう。


 「馬鹿な。 そんな事は」


 ありえない。 そう続く言葉はセトによって止められた。 俺の言葉を最後まで聞く事なくセトは口を開いて言葉を告げる。


 「ありえない? そうかなぁ。 過去にもリゼを傷つけたのに」


 俺の目を真っ直ぐに覗きこんでセトが言う。 その言葉に思わずセトの胸元から手を離した。

 まさか俺は以前にもリゼッタに会った事があると? …… いや、 リゼッタが副団長になるまで俺はあいつの存在を知らなかった…… それともこれはセトの…… いつもの俺が理解できない類の話だろうか。


 「過去、 だと」


 「そうだよ。 ユーリも知らない過去もあるけどね」


 この口ぶりだと、 俺の知る過去のなかにリゼッタとの接点があると言う事か……。 けど、 どこで?

考えても思い出せない俺の様子にセトが溜息をこぼす。


 「いっその事、 シちゃえばいいのに。 その方がよっぽど簡単だ」


 言われた言葉に一瞬にして思考が停止する。 セトが言った言葉を俺の頭は理解できなかったようだ。 

 シちゃえばって何だよ、 オイ。

考えるな考えるな考えるな。 考えたらロクな事にならないぞ俺。 取り敢えず、 落ち着け。

セトがいつもの調子でからかっているだけだ。


 「何をだ! いい加減にしろ。 リゼッタは」


 どうにか気持ちを立て直す。 からかわれて動揺する自分が恥ずかしい。 

赤面しそうになりながらセトにバカバカしい事を言うなと告げる。 そんな俺にセトが以外にも真剣な表情をして言葉を続けた。


 「そんな対象じゃない? それこそつまらない冗談だ。 リゼの母親は同じ年にはもう結婚してたよ。 背が低いし幼く見られがちだけれど、 あの娘は間違いなく女だ。 当人に自覚が足りないのが難点だけどね。 だから、 ヴァイくんに腹が立ったんだろう? 」


 知ってるさ。 リゼッタが女である事位。 確かにだからこそ腹が立った。 けどヴァイノスにじゃない。 無防備なリゼッタにだ。 そうだ俺はリゼッタに怒ったはずだ。 

ヴァイノスの反応は…… 男として理解できる。

 

 けどヴァイノスは…… 

 アイツは…… 


 「…… 」


 ―― 無防備なリゼッタを見た・・


 黒い何かが心の奥底から滲み出してくる。 俺の最も深い所にいるナニかがそれを許すなと囁く……。


 「腹を立てたくせに、 自分の感情に向き合う気はないんだね」


 そうセトに言われて我にかえる。 俺は今…… 何を思った?

セトが俺の事を可哀想な子供でも見るような目で見て来た。 

 それに怒りを覚えながらも俺はセトを見返して言葉を続ける。


 「あいつは大事な血の末裔すえ だろうが」 


 リゼッタの持つ色。 従う動物達…… あれで気付かない方がおかしい。 だから彼等・・は探すのを止めたのだ。 リゼッタが見つかったから。 ならば俺は絶対・・リゼッタに惹かれてはならない・・・・・・・・・。 父上も叔父も諦めたのに俺が手を伸ばすのは間違っている。

 それに一人だけ生き残った俺が幸福しあわせを求める資格なんてあるはずがないんだ。


 「これは意外だね。 それに気付いてたんだ。 ケド―― だからダメだって言うの? 意気地無しめ。 そんなのはどうにかするって言う気概が欲しいものだ」


 意気地無し…… その言葉に心がささくれ立つ。 けど、 何と言われようと俺にはその気は無い。

セトはこれ以上言っても無駄だと悟ったのだろう。 長い、 長い溜息を吐くと俺の傍から離れた。


 「頑固者め。 まぁ、 いいさユーリをからかうのにも飽きたし。 そろそろ退散するよ。 君もリゼも早く大人になって欲しいものだね」


 それだけ言い残してセトは空に溶けるようにして消えた。 俺の心に僅かなトゲを残して――。

セト様とユーリには何か因縁(?) がある模様。 

ユーリには理由があってリゼを恋愛対象外としている事が明らかに。

意識的にしてる部分と無意識でしている部分があるのでユーリとしては大分混乱したのではなかろうかと思います。 

次回は本編に戻ります。


同時刻に 『不注意で世界が消失したので異世界で生きる事になりました。』 も更新予定です。

そちらも宜しかったら読んで下さい。


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