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廃棄世界に祝福を。  作者: 蒼月 かなた
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逃げようとか考えないで下さい。

人身売買組織殲滅前にやっておかなければならないこと。

 何とか無事に騎士団会議が終わって、 一安心。 二日後に今回の作戦を合同でする白竜騎士団の第一分団の面々と、 顔合わせがされる事になりました。 

 今回のカザル地区の件は、 ユーリが頑ななまでに作戦に参加する事を決めているようなので、 その前に我が騎士団の団員達と、 ユーリの距離を少しは縮めておきたいと思うのは私の我儘でしょうか?


 いや、 我儘ではないはず。 客観的に考えてみて欲しい。 


 他の騎士団の前で、 仲の悪いうちの騎士団の団長と団員。 それを見て、 カザル地区の巡回を任せたくなるだろうか。 私だったら任せたくない。 

最低限の連携が取れない騎士団なんて、 最悪死人が出てもおかしくないからだ。

 なので、 お互い言いたい事はあるだろうけど一旦それを飲みこんで大人の対応をする努力は必要であると判断しました。 

 作戦が決まる前は追々、 腹を割って話せる仲になれればと思っていたのだけどね。

ちょっと前のそうのん気に考えてた自分に溜息が出る。

 荒療治になってしまうけれど今回の件が、 和解への良い機会になる事を祈ろう。


 と言う訳で、 白竜騎士団と顔合わせする前にユーリと団員の皆の親睦会を開きました。

仕事が終わった後、 宿舎の入口で待ち合わせてお店に出発。 ドレスコードは無いけれど一応ちゃんとしたお店なので、 小奇麗な服に着替えて貰いました。 団服で飲み屋とか無粋にも程がある。


 「…… 」

 

 後から部屋に着いた私達を見て、 ユーリが絶句して立ちあがった。


 「…… 」


 緊張感とともに見つめ合うユーリと団員達。


 「すっきりしたんでその人が誰だか分かりませんか? うちの騎士団の団長ですよ」


 私の言葉に答える声は無い。 沈黙がこの部屋の中を支配していた。 

珍しく壁で仕切られている個室がある飲み屋なので周囲の視線は気にする必要はない。 睨めっこが続いていても、 大きな声を出しても大丈夫。 

 団員達には、 今後の騎士団についての打ち合わせと言って―― 


 ―― ユーリにはこっそりレーゲン様にお願いして『飲みに行こうぜ』 と呼びだして貰った。 

大分渋られたらしく、 『貸し一つな。 リゼッタちゃん』 とレーゲン様に嬉しそうに言われましたよ。 貸しは、 無理難題吹っかけられる前に返す主義なのでレーゲン様の好きだと言う銘柄『竜殺し』 と言う滅茶苦茶強いお酒を送っておいた。 

 まぁ、 レーゲン様なら無理難題はふっかけて来ないとは思うけど。 

 

 「見つめ合ってないで、 さっさと中に入って座って下さい」


 場の空気をぶち壊すように私が言えば、 我に返ったユーリが地の底を這うような声を出す。


 「ガント…… あのおっさん……。 変だと思ったんだ。 二人で飲むのにこの広さとか。 嵌めたなエンフィールド」


 毎度毎度、 嵌ってくれて有難う。 ユーリって実は素直なんじゃないかな。

 じっくり話が出来るように広めの部屋を取ってみた。 

ゆったりとできそうな調度品に明る過ぎない照明が部屋に落ち着きを与えている。 

 ここは、 レーゲン様も友人と来るお気に入りのお店だそうな。 何処か良い店を知りませんかと聞いたらレーゲン様が教えてくれた。 商人が商談に良く使ってるお店でもあるらしい。

 先に入ったヴァイさんが立ち止まっているため、 私の身体が半分扉の外だ。 

早く入れとグイグイ押してみる。


 「帰る」


 不機嫌な顔でヴァイさんが踵を返した。


 「帰るなら、 私を倒して下さいね」


 私を押しのけようとする手を掴んで二コリと笑って牽制する。


 「…… どう言うつもりだよ」


 「私がどういうつもりかは、 皆が座った後に話します。 団長も良いですね? 逃げようとか考えないで下さいよ。 まぁ、 私が入口付近を陣取るんで誰が逃げても捕獲しますけど。 ちなみに私そういうのも得意なので、 店員さんに縛られてる所を目撃されたくなければ、 大人しくしている事を勧めます」


 そう言って脅しはしたけれど、 入店して部屋に入ったら会議をするので、 声を掛けるまで放っておいて欲しいと店員さんには言ってある。

ヴァイさんの手を離した後、 両手の袖口からジャラりと重しの付いた長い銀鎖ぎんさを垂らす。 特殊な金属で出来たこの細い鎖は、 柔軟性はあるのに切れにくく魔獣の捕縛にも使われる一般的なものだ。

熟練者が使えば、 大型の魔獣も雁字搦めにして動けなくできるであろう。


 「私がコレの熟練者かどうか身を持って体験したい人はいますか」


 全員が私から高速で目を逸らせた。 確認したい愚か者はここにはいないようだ。 残念。

―― この場にいる全員の中に奇しくも同じ気持ちが芽生えたらしい。


 コイツは本気でやる気であると。


 無言の承諾を得ました。 諦めたように皆、 それぞれ席に着く。 

長方形の装飾の施された重厚なテーブルの左側ににユーリが、 右側に団員達がいるのが現在の状況だ。

最後にテーブルの短い幅の部分、 扉の近くに宣言通り私が座る。 


―― 片側に五人が固まっているのは大分窮屈そうだけど、 まぁしょうがない


 特にガルヴさんは大きい身体を一生懸命小さくしようとしていて大変そうだ。 

アスさんは俯いて挙動不審。 ヴァイさんは、 ユーリを睨みつけてルドさんは反対にまったく見ようとしない。 エイノさんは白けた様子でユーリを見てる。

 それで肝心のユーリはと言うと、 そんな顔出来たんですねって位に無表情。


 「さて、 言いたい事は沢山あるとは思いますが、 まず黒竜騎士団として進展があった事を一つ報告したいと思います。 今まで、 街の巡回を我が騎士団は白竜騎士団にお願いしている状態でした。 知ってました? 」


 私が、 そう問いかけるとユーリ以外の皆が顔を見合わせる。


 「昔は、 あたしたちの騎士団にも王都に巡回担当の地区があったのは知ってるわ。 けど、 今白竜騎士団がそこの巡回をしてるのはそう変更したんだと思ってた…… 本来は違うのね? 」


 あたし達が入った頃にはもうそうだったから、 とルドさんが言う。


 「外の巡回は皆さんご存知の通り団長の判断で私達は出る事はできませんけど、 街の巡回の方はうちの騎士団にその力が無いって事で、 人数が多かった白竜騎士団の方達に一時預かりという形で『お願い』 してたんです」


 ユーリを見ながら私が言えば、 ヴァイさんが今にも吠えかかりそうな声で言葉を吐きだす。


 「確かに外の巡回は団長様の判断で、 だな。 おかげで巡回もしない俺達は騎士としてゴミ屑同然だ」


 昔、 直談判に行った時の事でも思い出したのかもしれない。 ヴァイさんはギリギリ音が出そうなほど歯を食いしばっている。 その言葉を聞いて痛みを堪えるようにユーリが顔を顰めた。


 「そうですね。 でもその団長様が騎士団会議に出席してくれたお陰で、 街の巡回を戻して貰えるかもしれないチャンスを貰いました」


 ヴァイさんの言葉は理解できるのでワザと肯定しておいた。

姿勢を正して、 副団長として話を続ける。


 「…… 」


 私の言葉に団員の皆が驚いた顔をして固まった。


 「今、 カザルでは少女の誘拐事件が起こっています。 ウィントスで行われた犯罪の摘発により人身売買組織が王都に流れてきたとの見解が強いですね。 この場合攫われた少女達の行先は」


 「娼館か、 個人の変態のところね」


 ルドさんが吐き捨てる。 そういう奴等の気持ちは考えたくもないって事かな。

私も同意見だけれど、 少女達を見つける為にはそうも言っていられない。 


 「その通りです。 幸い、 少女達がまだ王都を出た様子はないですが…… 時間の問題とも言えます。 白竜騎士団の団長から、 この人身売買組織の殲滅を白竜騎士団第一分団と協力して解決しカザル地区を任せるに足ると判断出来れば巡回を戻す、 と確約して頂きました」


 「…… マジかよ」


 「ほ、 本当に? オレ達が騎士として働けるって事?? 」


 ヴァイさんが思わず呟き、 ガルヴさんが身を乗り出して聞いて来る。


 「えぇ。 ただし、 任せるに足りれば、 です」


 「はぁ……。 あんたが言いたい事、 分かったわ。 そんな条件がついてるのに、 団長とあたし達の仲が悪ければ、 巡回を戻す話が無くなる可能性もあるってことね」


 ルドさんが右手を頬に当て大きな溜息を吐く。


 「成る程な。 それでこんな無茶な事をしたのか」


 エイノさんが呆れたような声を出した。 

場の空気の変化を感じて、 私も話し方を楽な口調に戻す。


 「まぁ、 そうです。 ちなみに第一分団との顔合わせは二日後ですからね」


 「くそっ。 なんだよそれ」


 時間はあまりないです、 と告げるとヴァイさんが両手で顔を覆った。


 「私としては、 もうちょっとゆっくり事を運ぶつもりだったんですよ。 そうも言ってられなくなったから、 ちょっと無理してもらいますけど。 …… 上辺だけの笑顔で仲良くやって欲しいって事ではないのであしからず。 『仕事』 として最低限のやりとりを出来るようにして欲しいんですよねー」


 「エンフィールド。 俺はあの事を話すつもりはないぞ」


 まぁそうですよね。 話せば大分状況が変わると思うけれど、 そこは期待してないです。 


 「団長が話たくない事を無理に話せとは言いませんよ。 でも、 歩み寄る努力位はして下さい」


 ユーリに諭すように言っておく。


 「随分意味深ね」


 「そうですね。 私達の団長には秘密があるって事です。 秘密を私が言う気はないですけど、 ただ皆に知って貰いたいのは団長は貴方達を認めてないから外の巡回に連れて行かないんじゃないって事ですかね。 団長なりに黒竜騎士団が大切だから連れて行かないんですよ? 」


 ルドさんにそう言われたので、 秘密の中身には触れないで―― 言っても差支えなさそうな事だけ言ってみる。

 ユーリは絶対言わないだろうしなぁ。 

だけど、 嫌がらせで巡回に行かせない訳じゃないのは分かって欲しい。

こう曖昧じゃ、 理解のしようもないかもしれないけど。


 「はぁ? 意味分かんねぇ」


 ルドさんは私の言葉に考える仕草をみせるけど、 ヴァイさんはイライラと身体を揺する。


 「エンフィールド」


 きつく、 鋭さを潜ませたユーリの声。 

殺気を込めた目で牽制されて私は両手をあげて了解したと告げる。


 「はいはい団長。 それ以上は言いませんよ。 今言った秘密は皆が団長に信頼されれば教えて貰えると思います。 ちなみに私が知ってるのは副団長という役職についているからですからね」


 私が信用されている訳ではないと誤解のないように強調しておく。 

―― いつか私も信頼して貰えると良いけど。


 「それは俺達が信頼に値しないってことか」


 流石にちょっと不機嫌そうにエイノさんが言う。


 「そうですね。 今はまだ無理だと思います。 今まで貴方達は団長の信頼を得るための努力はしましたか? 少し前の宿舎の有様をみれば『した』 とは言いきれないと思いますけど。 同じように団長も、 団員達に信頼して貰える努力を怠ってるんだから同じ穴のなんとやら、 ですけどね」


 バッサリとお互い信頼し合えないのは自分達の所為って切り捨てて言っておく。

それぞれ胸に思い当たる事があるのだろう。 言い返して来る人はいない。


 「まぁ、 新参者の副団長が言えた義理じゃないですが。 わだかまりって言うのはなかなか解消するのは難しいものです。 けど、 そこにばかりこだわってると見えなくなっちゃうものもあると思うんですよ。 例えば、 許せるかもしれない可能性。 例えば友になれる可能性。 あぁ、 別に友達ごっこしろって言うんじゃないんで勘違いしないで下さいね」


 友達という言葉に、 ヴァイさんが嫌そうな顔をしていたので可能性の話だと改めて言っておく。


 「面白いもので嫌いだと思うと人間、 その人の嫌な面ばかりが良く見えるようになるって知ってました? 極端な話、 全部自分の心次第なんですよ。 こだわってる気持ちを手放せれば…… もしかしたら、 その人の良い所が見える可能性が出てくる気がしませんか」 


 一人ひとり顔を見て話して行く。

 

 「もちろん私にだって嫌いな人はいますよ。 だから―― さぁ皆でわだかまりを乗り越えて手を取り合い、 愛と思いやりを持って生きましょうなんて聖人君子みたいな事は言いません。 ただ、 私達が黒竜騎士団で有り続ける為にはそう言う視点を持とうとする努力はしても良いんじゃないかと思うんですよ」


 嫌っている人間の良い所を探すのは、 感情を横に置いて物事を公平に見れる人でないと難しいと思う。

嫌いな人がもしかしたら良い人かもしれないなんて、 それってもしかしたら自分の方が嫌な人間なのかもしれないって事になりかねないし、 良い所が無いって思ってた方が『嫌われて当然の人』 として安心して嫌っていられるからだ。

 

 「…… 確かにエンフィールドが言った通り、 俺はお前達に信頼して貰えるような事はしてないな。 宿舎にも寄りつかない団長など、 信頼に値するかどうか以前に居ないのと同じだ」


 「…… 」


 ユーリの言葉に部屋の中が静まる。 

この部屋で話をしていてはじめて団長が団員にかけた言葉だからだ。 


 「今はまだ、 エンフィールドが言った『秘密』 を話す気はない。 それはお前達を信頼するかしないかという問題だけではなく、 俺自身がそれを話す事を恐れているからだ…… 『ゴミ溜騎士団』と呼ばれるに任せていた俺が言うのもなんだが、 俺が譲れないと思っている所以外の事はどうにかしたいと思うように…… いや思えるようになった。 今更お前達にとっては業腹な話だろうとは思うが、 協力して貰えないか」


 私はちょっと驚いた。 ユーリが話すのが怖いと言いきった事に。

今までのユーリは自分の思いは一切話さず、 改善を求められてもただ一言必要ないと切り捨てていたと聞く。 そんなユーリが話すのを恐れていると言い、 騎士団の事をどうにかしたいと思うと言ったのだ。


 「確かに今更だな団長様」


 ブスッとした顔でヴァイさんが言った。


 「けど、 放って置かれた今までよりずっと良い」


 「そうね。 まだマシかしら」


 エイノさんが苦笑して、 ルドさんが悩みながらもそう言う。


 「オレは団長がそう言ってくれただけで嬉しい…… です」


 「ん。 僕は…… 協力する」


 ガルヴさんが半泣きの状態で、 アスさんが下を向いたまま呟く。


 「俺は…… 正直言って皆ほど割り切れねぇ。 けど、 努力はする」


 そっぽを向いてヴァイさんがそう言いきった。


 「済まない。 感謝する」


 ユーリの顔が何かを堪えるように歪む。 

それが笑顔なのか、 それとも泣きそうな顔だったのかは分からないけど、 嬉しかったのだと言う事だけはハッキリ分かった。

 


 

ユーリと団員の皆の仲に修復の兆しが……。

次は白竜騎士団との打ち合わせです。

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