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廃棄世界に祝福を。  作者: 蒼月 かなた
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騎士団会議

タイトル通り、 騎士団会議。

 私が会議室の前でイライラしながら待っていると、 ユーリが走ってやって来た。

 大分酷い格好だ。

慌てて着たらしい団服がかなり乱れてるわ、 昨日綺麗にした髪も微妙な感じになっている。 私は櫛を渡して髪を整えるように言った後、 ユーリの服を整えた。  

 扉を守ってる衛士の唖然とした顔を気にしてる暇はない。 急がないと会議が始まる。

なんとか見られるようになったので会議室の扉を開けて貰った。

 開けたとたん中に居た騎士達が、 ざわりとどよめく―――。


 --- さてここで、 話は、 二日前に遡る。

 

 「団長、 お願いがあるのですが。 団員達と、 宿舎の修繕を終わらせました。 鍛錬はしていますが、 騎士団としての仕事を与えてやりたいんです。 街中の巡回だけでも彼等と出来るようにしたいのですが」


 最近の定番となりつつあるユーリの中庭での昼寝。 目が覚めた後のユーリに私はそんな提案をした。

修繕や鍛錬なんかで騎士の充足感なんか産まれるはずもない。 民の為になってこその騎士だと思う。


 「前にも言ったとは思いますが、 彼らには騎士として誇りに思えるものがありません。 日がな一日鍛錬しててもそれは仕事とは思えないでしょうから。 それとウチの財源を確保出来る流れを作りたいので、 クアトに薬を作らせて販売したいと思っています。 当人にも確認は取りますけど、 それも勝手に販売する訳にもいかないので騎士団会議で許可を得たいんです。 お願いですから協力して下さい」 


 「……… 」


 久しぶりに困った顔を見た。 会議に出たくないのだろう。 けど、 私の言っている事は正論である。

ユーリの、 団員の安全の為に外巡回に連れて行きたくないって考えにも抵触してないし。


 「もちろん外の巡回じゃないですから問題は無いかと。 明日の会議くらい部下の事を思えば出られますよね? もちろん。 うちの団長は団員の事を考えられる人だって私、 信じてます」 


 「……… 分かった」

 

 ぐぬぬという声が聞こえてきそうな顔でユーリが言う。 会議ってそんなに嫌かねぇ。

更に私はついでとばかりに言葉を続けた。


 「よし、 じゃあそのもっさりした見た目もどうにかしましょう」


 「はっ?! 別に、 コレはいいだろ? 」


 ユーリが慌てて起きあがろうとするのを、 ひょいと近づいて胸を手で押してから腹の上に乗る。

裏切られたって顔をしてユーリが固まるのを見ながら私は笑顔で言い切った。


 「良いわけ無いでしょうが。 こんな小汚い格好で会議なんて出られませんよ」


 そう言って、 片手をあげて合図をする。

そうすると、 ハサミを咥えたルカ、 櫛を咥えたリィオ、 リュックを背負ったシェスカとクロがやってきた。


 「何―――? ってオイ! お前は俺が飯を分けてやった鳥と猫……… まさか。 グルか。 この恩知らずが」


 恩知らずって言われても困ります。 諦めが肝心ですよユーリ。

言われた二匹ふたりもどこ吹く風。 笑いをこらえて歩いてくる。 いや、 リィオは飛んでだけど。


 「あら、 ルカとリィオにご飯をあげてくれたんですか? 有難うございます。 さぁ皆、 団長が動けないように囲んで」


 ユーリの太ももの上に一番重たいクロがのしりと横たわる。 その上におまけとばかりにルカが乗った。

シェスカはユーリの右側に、 リィオは左側に陣取る。

逃げられないように固定してから、 私は立ちあがって嫌そうに上半身を起こすユーリの後ろにまわった。


 「おい、 ちょっと待て、 やめろ」


 「可愛いこのコ達に酷い事はしないですよね? 大丈夫ですよー。 髪を切るのは得意です。 弟達のを良く切ってたんで。 動かないでさえいてくれたら、 良い感じにしますから」


 ハサミと櫛を受け取って、 クロの背中のリュックに入っていた布を広げてユーリに巻きつける。

その布が、 例の垂れ幕にしたテーブルクロスを買い取って綺麗にしたものだと言う事はココだけの秘密だ。


 「この……… やろう」


 「私は女なんで野郎ではありません」


 「……… 」


 シャキシャキと髪を切る音が響く。 サイドと襟足は短めに。 トップは長さを残す。 前髪を短く切って横に流せばできあがり。 まぁ、 我ながら悪くは無いと思う。 無精ひげ以外は。


 「さて、 後は髭ですね」


 「髭はいい! 自分でやる」


 死守って感じで左手で髭を隠すさまに思わず噴き出す。

けど、 絶対忘れて来そうなんだよな。 この人。


 「やるって言ってやらなさそうなんですよね。 自分でやるなら、 今やって下さい」


 「ぐうっ。 分かったよ貸せ」


 カミソリを渡そうと思ったんだけど私からハサミを取って全開にして、 器用に刃を当てて剃って行く。

ハサミの切れ味が良いのか、 ユーリの腕が良いのか判断しかねる光景だ。 普通髭そりはクリームとかつけるんじゃなかろうか。 一応持って来てたんだけど必要なさそうですね。 


 「終わった。 これでいいか」


 私はそう言うユーリの顔を見て剃り残しがないかを確認していく。 皮膚が強いらしく、 赤くなってる所もない。 とは言えこのままじゃあ肌荒れしそうなので、 シェスカの背中から化粧水と瓶に入れてきた濡れタオルを出した。 

 ユーリの顔をタオルで拭いた後、 化粧水をグリグリと塗っておく。

うん。 綺麗。 これなら王弟殿下と言って疑う人も出まい。

 本当、 顔は良いよねユーリ。


 「よし。 完璧です。 明日はお酒臭いのは駄目ですよ? 後、 万が一逃げたらこのコ達に追いかけさせますから」


 てきぱきと後片付けをしながら言う私にユーリは「逃げるかバカ」 と言った後、 もう一度寝ると言って私達を追い払った。


 と言う感じのやり取りをしたのが昨日の午後。

 ユーリはむっつりとした顔をしながら空席だった自分の席へと向かう。

王都以外の五領の騎士団の団長と副団長、 合わせて十人の視線が突き刺さった。 驚いたもの、 冷たいもの、 好意的なもの、 敵意があるものと様々だ。


 「へぇ。 王弟殿下がお出ましたぁ、 ビックリだな」


 私達が通り過ぎる時にそう言ったのはファイオス領の赤虎せっこ騎士団団長ガントゥス・ゼノ・レーゲン様だ。

ユーリの母、 ファイオス領主、 ジザベラ・メル・レーゲン様と結婚して二男、 一女をもうけている。 だが、 この人はユーリの義父ではない。 

ジザベラ様は兄が死んで領主を継ぐ事になったため前王陛下と結婚できなくなり、 定められた制約に基づき産まれた子を王の子として手放したからだ。

 ユーリの母が誰かと言う事は誰もが知ってはいるけれど、 ユーリの法令上の母はユーリが産まれるもっと前に無くなった前王妃、 レミノア様という事になっている。

 ユーリは無言のまま、 私は軽く会釈して続く。

ユーリが席に着き、 私がその席の後ろに控えると同時に、 王の扉が開き、 陛下が姿を現した。


 「ふむ。 今日は全員揃ったようだな」


 ニヤリと笑って私とユーリの方を見る。

ユーリの仏頂面ぶっちょうずらが酷くなったけど、 もう気にしないでおく。 だってユーリの座り方といったら……… 足を組んでるんだもの。 苦笑するしかない。


 「さて、 今日の議題はなんだ」


 「カザル地区で少女の誘拐が多発しております。 最近ウィントスで行われた摘発により人身売買組織が王都に流れたようです。 今の所、 他領への移動は認められませんが娼館あるいは個人に売られる可能性がありますので、 他騎士団にも警戒を願いたい」


 立ちあがって陛下の問いに答えたのは白竜騎士団団長、 サイファス・レン・クラレス様だ。

相変わらず、 表情の読めない顔で淡々と話す。 その後ろに居るのはケイオスの双子の弟のクレフィス・ラト・クラレスだ。 双子といっても二卵生なので、 顔はあまり似ていない。 

髪は黒、 目は榛色の爽やかな美青年ですよ。 温厚な性格でのんびりとして見えるが、 血縁関係を無視しても騎士団の副団長に抜擢される位には強い。 


 「カザルは今、 白竜騎士団の担当であったな」


 「はい」


 「さて、 カザルは元は黒竜騎士団の管轄であった。 人数が足りなくなったため、 白竜騎士団に代理を任せて来たが。 今回は珍しく無断欠席をし続けた黒竜騎士団が来ているな? 」


 助け舟有難うございますと心の中で陛下にお礼を言う。 

ちらりとこちらを見る陛下に私は敬礼してから発言の許可を願い出た。


 「発言をお許し願います」


 ざっと、 会議室中の視線が集まる。


 「黒竜騎士団副団長か。 良いぞ。 許可する」

 

 陛下の許可に目礼して言葉を続ける。


 「皆様には今までご迷惑をお掛けした事と思いますが、 黒竜騎士団は現在汚名を返上するべく騎士団を立て直しております。 その先駆けとして、 カザル地区の巡回を白竜騎士団にお任せ願えませんでしょうか」


 「だ、 そうだ白竜騎士団団長」


 陛下が、 厳しい顔をするサイファス様にそう告げた。


 「随分と簡単に言ってくれるな黒竜騎士団。 今まで我々、 白竜騎士団が貴殿等の尻拭いをしてきた訳だが。 それを、 今すぐ自分達に任せろと? カザルの自警団はクセが強い。 貴殿等はその信頼を失っている。 そんな状態で今、 重大な事件の起きているカザルの巡回を任せろとは笑わせるな」


 サイファス様の嘲笑を交えた淡々とした話し方。 冷気を孕んだその視線。 

相変わらずこの人は容赦ない。

背中の産毛がちりりとする。 視線に殺気を込めるのを本気でやめて貰いたい。


 「では、 機会を頂けませんか。 カザルの自警団との事ははいずれ我々が向き合わねばならぬ現実。 また、 現状で白竜騎士団の皆様に負担をお掛けしている状態も我々にとっては不本意です。 それにカザルでそのような事件が起こっているのであれば人手は多い方が良いでしょう……… カザルの巡回、 いえ現在起きている人身売買組織の殲滅を白竜騎士団の皆様と合同でやらせては頂けませんか」


 「つまり、 その様子を見て判断しろと? 」


 無表情のまま嘲るようにそう言われる。 

会議室の中には一触即発といわんばかりの緊張した空気が漂っていた。


 「はい」


 睨まれたら視線は逸らすなと師匠に言われた言葉を実践する。 視線をそらせば負けだ。

引く気はないと視線でサイファス様に訴える。


 「………… いいだろう。 ただし、 私が納得できるまでは殲滅作戦後もその状態を継続させる」


 サイファス様から視線を外され緊張がほぐれた。 私の身体の筋肉がゆるむ。


 「俺のする仕事を取られたな………。 白竜騎士団団長、 感謝する」


 ユーリがそう言って姿勢を正してサイファス様に礼を取った。


 「お礼はソレに言って下さい」


 片手をあげて礼を辞すると溜息を一つ吐き、 サイファス様はゆっくりと席に座った。


 「では、 カザルの件はそのように。 我が国で人身売買など、 もってのほかだ。 しっかり根絶やしにしてくれたまえ。 作戦はお前達に任せるよ。 結果を楽しみにしている」


 陛下のその一言で、 カザルの件は決着がついた。 次は薬の件だ。  

その後の会議は、 主に定期報告が行われた。 最後に、 各騎士団からの要望等が聞かれる場があったので黒竜騎士団の副収入の件をそこで願い出る。 薬に関しては陛下から薬室の協力を得られればという条件付きで許可された。


 「では騎士団、 定例会議を終了とする」


 今回の議長役であるサイファス様がそう宣言し、 会議は終了。 

満足げな顔で陛下が立ち去った後、 ウィンディア領の青狼せいろう騎士団団長レニウス・ミレ・ユージェス様がやって来た。 ユージェス様の後ろでファティマ副団長がオロオロしている。


 「他の方達はどうか知らんがな、 私はお前を認めないからな」


 ユーリに押し殺したような声でそう告げた後、 一睨みして立ち去った。 ファティマ副団長がこちらに一礼した後、 ユージェス様の後を追う。

どうやら、 敵意ある視線はユージェス様だったようだ。


 「おーおー、 レニー坊ちゃんが早速噛みついてんな。 まぁ、 元気そうで良かったよ。 ユリアス坊ちゃん」


 気さくに話かけて来たのはレーゲン様だ。 後ろに控えている副団長のテルゼ様はニコニコと嬉しそうにこちらを見ている。


 「その呼び方はやめてくれ、 ガント」


 「へっ。 そんなのはうちのカミさんを心配させなくなってから言いな」


 赤い髪に金の瞳。 くたびれてるのに何処かカッコいいおじ様に鼻で笑われてユーリが呻いた。


 「ぐっ」


 返す言葉もなさそうだ。 確かに、 ユーリのあの有様じゃあジザベラ様は大分気を揉んだのじゃなかろうか。 ましてや、 気軽に会える関係では無いのだし。


 「まぁ、 お前さんがココに帰って来る気になって良かったさ。 噂は聞いてるぜ、 リゼッタちゃん」


 「ろくでもない噂じゃないと良いですが」


 いきなりのリゼッタちゃん呼びに少々面食らったが、 にっこり笑って愛想良くしておく。 

なんとなくだけどこのおじ様とは気が合いそうだ。


 「まぁ、 色々な噂だなぁ。 少なくとも俺とカミさんは感謝してるぜ。 これからもコイツの事、 宜しく頼む」


 そう言って、 ユーリと私の頭をワシワシ撫でるとレーゲン様はウィンクして去って行った。


 「サイファス様」


 近くを通ったその人に声を掛ける。 会議室の中はもう四人しかいない。


 「なんだ」


 「済みません。 有難うございました」


 「何がだ? 」


 私がお礼を言うのに、 無表情で質問を返された。


 「カザルの件です」


 「感謝される事もない。 私はお前達に無理だと思えば巡回を戻す気はないからな」


 失敗すれば、 最後だと。 サイファス様の目はそう言っていた。


 「それってちゃんと出来れば戻すって事でしょう父上」


 後ろに控えていたクレフが笑いながら、 話に入って来る。


 「……… 我ながら、 甘いと思うか? クレフ」


 大きく溜息を吐いて、 サイファス様がクレフに聞いた。


 「父上からしたら甘いとは思いますが、 他の方達には甘かったかどうかなんて分かりませんよ」


 釘はしっかり刺されましたしね。 とクレフが面白そうに言う。


 「サイファス殿はエンフィールドと知り合いか? 」


 まぁ、 ここまでくれば気がつきますよね。 親しいって。

私は過去にあった色々な出来事を思い出しそうになって慌てて記憶に蓋をした。


 「私はサイファス様から剣を教わったので。 まぁ師匠ってやつです」


 「残念ながら。 コレは私の不肖の弟子です」


 ほぼ、 同時に師匠と私の声がかぶる。 

無表情で、 淡々と、 死にそうな猛特訓を施されました。 修行中の事はなるべく思い出したくありません。 師匠は目で人を殺せると思う。


 「成る程、 団員を打ち負かした剣技はサイファス殿が」


 納得したとばかりにユーリが頷いた。 師匠の強さに一目置いているらしい。


 「例の件ですか。 打ち負かしたと言ってもまだまだですね。 それにコレは剣技より体術の方が得意な跳ねっ返りです。 もう少し、 女性らしければ可愛げがあるのですが」


 師匠、 跳ねっ返りは余計なひと言です。 可愛げなんてもの母のお腹の中に居る時に置いてきましたよ。 だてに、 小さい頃少年のフリとかしてないですからね。

ていうか私、 師匠に団員とやりあった件は伝えてないんだけどな。 どこから漏れたんだろ。 相変わらず怖い人だ。

 


キャラがどんどん増えて行きます。 人間関係が少々ややこしくなって来ました。

次回からは暫く、 少女を誘拐してる人身売買組織の殲滅がメインです。

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