バカにつける薬はない。
初回はあまりテンポ良く読めないやも。済みません。
のんびり更新となりそうですが、宜しくお願い致します。
太陽は中天にかかり、 見上げれば青空。
小鳥が三羽、 王宮の中庭の大きなシレの木から飛び立つ。
シレの木は王家の家紋にも意匠として入っているこの国に知らない人がいない程には有名な木だ。
守護樹と呼ばれるこの木はこの廃棄世界ヴェルムにおいて重要な結界を守る守護石の力を増幅する効果がある事でも有名である。 主に台座に使われる事が多い。
「あ、 ドラゴン」
結界の外側を気持ちよさそうにドラゴンが飛ぶ。 野生のドラゴンかなぁ。 騎士が乗ってる騎竜なのかしら? 真下から見ると逆光でどちらか分かんないなぁ……。
「うん。 清々しい良い天気だねぇ」
ニッコリ笑ってイイ顔しとく。 そんな私の清々しい気持ちを台無しにするような、 聞き苦しい呻き声が下の方から聞こえてきた。
「もが、 んむぅー !!!」
あら、 中庭もちょっと騒がしくなってきたみたいね。 通りかかった侍女さんとか、 従騎士さんとかが、 ざわざわしながら私のいる二階の方を…… 正確には二階の廊下の欄干からぶら下げられたゴミを指さしている。
そのゴミは王宮の中庭で逆さづりされた男だった。 金髪垂れ目の見ただけで良い所のボンボンだと分かる彼は、 逆さに吊られて半泣き、 口にぶち込まれたその辺にあった布の端から涎をこぼしながら、 怒りの声をあげている。 それの横から下げられたテーブルクロスには 『私は身分を笠にきて部下に乱暴しようとした変態です』 と書かれていた。
―― 後でテーブルクロス弁償しなきゃ。
ちなみに逆さづりのゴミは、 ほぼ裸に剥いてある。 下着を残してやったのは、 せめてもの情けと言えなくもないけど、 実はすっぽんぽんにしちゃっうのは公害だよねって思い直したからだったりする。
なんで私がこんなことしたかって? それはちょっと前の話にさかのぼる。
「ふん。 平民がこのボクに意見とは、 相変わらずお前は不敬だな」
金髪のバカとのこのやり取りは、 ほぼ毎日の習慣になりつつあった。
コイツ毎回同じ事しか言えんのか。
今日は廊下で侍女さんに絡んでるこいつを見つけたもんで、 侍女さん逃がしながら『団長、 朝から見回りご苦労様です。 ですが、 書類が執務室に溜まっていますのでそちらを優先して頂けたら幸いです』と言ったのがお気に召さなかったらしい。
元々、 私とは騎士学校であるエクウス学院で同期生であったバカ坊ちゃん改めフィリップ・ゼンフィルド子爵はゼンフィルド侯爵の長男で、 学院での基本方針であるところの『家格を問わず平等に学ぶ』を完全に無視した一部生徒の筆頭だった。
平民は下僕と口に出さずとも思っているのは明白で、 数少ない女子生徒(特に平民出)にはセクハラまがいの事をしては大層嫌われていたものだ。
「聞いているのか、 平民あがり。 このボクがお前を引き取ってやらなかったら、 お前なぞが入れる騎士団なんてなかったんだからな! 」
右から左に聞き流していたのがバレたようだ。 言っておくけど、 私の希望は別の騎士団だったし、 他の騎士団からの誘いもあったんですケド。 バカ坊が私をイビりたいが為に父親にゴリ押しさせてこの配属になったのを知らないと思うなよ? 私が女で平民なのに成績が首席だったのが気にいらなかったらしくて、 在校中これでもかって位に絡まれたからな。
ただ、 それを上手くかわして問題にならない範囲でやり返していたのが、 お偉方の印象に残ったらしい。 問題起こしそうな馬鹿のお目付け役に丁度良いと白羽の矢が立てられた。 じゃなかったら、 ゴリ押しされた所で上がこの配属を許可したりしませんからね。
ちなみに私が今所属している騎士団は通称『お荷物騎士団』と呼ばれている、 黄雛騎士団である。 学園で身分を振りかざしてた馬鹿を取りあえず一旦纏めて置いて、 考え方を矯正させてから他の騎士団に配属させる為の騎士団ね。 貴族主義の団員が多い為、 バカに言う事を聞かせる事ができる侯爵以上の身分の団長が仕切るのが通例なんだけど、 前団長が急病で入院する事になったため代わりの団長がすぐに決まらず、 暫定的に一番身分の高かったバカ坊が団長(仮)になった訳だ。 そしてヤツの勘違い爆走が酷い事に……。
「いいか、 お前はボクに平身低頭して感謝するべきなんだ」
私が聞き流しているのが気にいらないようなのはいつもの事だけど、 今日は唾がこっちにまで飛んでくる程の熱弁ぶりだ。 そんな感じで執務室に着いた訳だが、 室内に入ったとたんバカ坊の暴走は加速した。
「お前はっ! もっと ボクを 敬う べき なんだっ!!! 」
うん。 ごめん正直ちょっと油断した。 バカがここまでバカだと思って無かったし。
押し倒されて、 抱えてた書類と編み込んで纏めていた私の一見黒にしか見えないこげ茶の髪が宙を舞う。
あのバカの目の中には十八歳のくせに童顔の私が『は?』って顔して映ってた。
「前からずっと気にいらなかったんだ…… 女のくせに首席とか、 お前を俺の女にしてやるよ。 平民は大人しくボクの言う事聞くんだな。 さもなけりゃ騎士団にいれないようにしてやる!」
嫌らしい笑みを浮かべながら色々触ろうとしてくるこのゴミに、 私の勘忍袋の緒が切れた。
ここで、 暫くバカのお守をすれば、 希望の騎士団に行けるようにしてくれるって言われてたけどもう知らね。 普通に撃退するだけじゃ、 第二、 第三の被害者出そうだし。 絞めとこう。
私はにこやかに笑った後、 新緑の瞳を怒らせてバカの股間を蹴りあげた。 悶絶するヤツの片手を取って関節を極める。 模擬戦で一回も勝てた事無いくせに、 良く私を押し倒そうとか思ったよなぁバカめ。
手際良く身ぐるみ剥いでいったら『女のくせに恥じらいが』どうとか言ってたから殴って黙らせた。
田舎育ち舐めんな。 こちとら、 子供の頃から川で裸で遊んで来てんだ(さすがに大きくなってからはしてないよ)裸を見た位で悲鳴を上げない自信はあるぞ。
まぁ、 こんな感じで冒頭に戻る訳ですが。
やぁ、 廊下の奥から青い顔をした宰相閣下と衛士が走ってくるな。
いつもは優しいナイスミドルなおじ様が慌てていて面白…… いや申し訳ない気持ちになるね。
「リゼッタ・エンフィールド! 貴女はいったい何をしているのですか!! 」
「宰相閣下におかれましては、 今日もご機嫌麗しく。 申し訳ありません、 皆様にはお見苦しい物をお見せしてしまって…… 汚物を消毒しようと思い立ちまして、 天日干しにしているのです」
清々しい気持ちでニッコリ笑ってあげました。 私をバカのお守役にした一人が宰相閣下だって事、 私忘れてないですよー。
廃棄世界に祝福を。は昔書いた一部の他の小説と関連があります。 関連のある小説は、 廃棄世界に祝福を。が進んだら話を追加する予定です。
追加しないと多分関連性は見えて来ないので………。
まだ、先の話しではありますが、 追加したらそちらも楽しんで頂けたら幸いです。