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その2

「…なるほどねぇ。じゃあ、まだ免許皆伝に至ってないわけだ?」

時雨しぐれがイチゴ牛乳のパックを咥えながら興芽こうがに問いかけた。

「まあ…そういう事」

興芽はフルーツオレのパックを握りしめた。

「だいたい、酷い話だと思わないか!?今まで、散々目立つな、忍べって言われたから、女子ともろくに話さず、学校生活を過ごしてきたっていうのに!いきなり嫁を見つけろだなんて。ヨメどころか彼女だっていたことねーし!!」

興芽は今まで彼女が居なかったのは、忍びの訓練のせいだと言わんばかりの口調で言った。

時雨はそれは単に興芽がヘタレなだけでは?と思ったが、言うと面倒なのでスルーする事にした。



屋上の給水タンクの上。

ここが二人のいつもの場所だ。

一応、屋上は立ち入り禁止なので滅多に人は来ない。

タンクはドーム型で、上に乗るには安定感がなく、給水タンクへのハシゴは錆付いていているので、普通は登ってこない。(安全管理上どうかは疑問だが)

昼休みは大抵ここにいる。

もちろん、忍者の修行のため。


興芽は大きくため息を吐くと、頭のバンダナを付け直した。

「…お前はいいよなぁ。いんは右肩だっけ?俺なんて額だからよ〜。バンダナって夏は蒸れるんだよね」


隠我流忍者の特徴として、産まれてすぐに身体のどこかにいんが出てくるのだ。

幼いうちは薄いが、成長するにつれ、印も濃くなっていく。

もちろん、誰かに見られてはいけない。

興芽は印が額にあるため、バンダナをつけて隠している。


「なぁ、前から思ってたけど、バンダナつけると逆に目立たねえ??…別にいいならいいけどさ。でもまぁ、印の場所コレばっかりは選べねえしなぁ。」

時雨は自分の肩を触ってみせる。

「んでも、額の印は能力の高い、選ばれし者しか出ないんだろう?流石、本家本元の頭領候補!あの服部半蔵太も印は額だったって聞くぜ?」

時雨は茶化し気味に興芽に言った。


時雨は赤目あかめ流忍者の末裔だ。

元々は隠我流と一緒だったのだが、いつからか枝分かれしていったらしい。

今では数少ない忍者仲間だ。

まぁ、でも俺本家?こいつは分家?みたいな??

俺、選ばれし者?こいつは…


「お前今、なんか失礼なこと考えてない??」


流石忍者…鋭いな…。


「え?イヤイヤ!とにかく、これじゃあ、バンダナつけてオタクのフリするしか学園生活を目立たず過ごすスベはないだろう!?」


「しかないって事はないと思うけど…」


ガチャっ。


?!


すぐに興芽と時雨は息を潜める。


屋上のドアが開いた。

「ねぇ?入っていいのぉ〜?立ち入り禁止ってなってたじゃん?」

「平気平気、バレねーよ。」

男女二人組みが屋上に入ってきた。


興芽と時雨は給水タンクの上で身を潜めて様子を伺っていた。


「そんな事よりさ、な?ここなら誰も来ねーだろ??」

「そうだけどぉ〜。」

「な?いいだろ??」

「あっちょっとぉ、やだぁ、待って…あっ…」


二人が側にいるなんて、つゆ知らず。

オトコとオンナは情事を始めだした。

オンナのくぐもった声が聞こえてくる…。


ゴクリっ。

オトコ二人は唾を飲み込んだ。


キーンコーンカーン


「あっ!予鈴なっちゃったよぉ?」

「ちっ…!なぁ…俺、このままじゃあ…。」

「フフッ。今日、家に来ていいよ♡」

そんな事を言いながらオトコとオンナは屋上を後にした。



「フウっ。」

オトコ二人は息を吐いた。


「全く、近頃の若いもんはけしからんデスな!」

「同感ですナ!時々いるんですよ!立ち入り禁止をいい事にああいう事を始め出すやからが!!」

二人は顔を見合わせた。

ニヤつきが隠せ無い。


「しかし…松池って確か、三組の河北さんと付き合ってなかったっけ?」

「あぁ…そのはず。」


俺たちは昼休みは大抵ここにいる。

もちろん、修行の為に…。

こうやって、人の裏の繋がりなどを調べるのも忍びにとって必要な事だ。


決して、人さまのオトナの情事を見てニヤニヤする為ではない。

決して…。


「さっ、俺たちも戻るぞ。」

そう言うと興芽は屋上のフェンスにのぼると、ポケットから、ピアノ線の様な物を取り出した。

それの金具のついた方をフェンスに引っ掛けると、スルスルと降りていった。そして、あらかじめ開けておいた窓から中に入っていった。

北階段の踊り場は滅多に人が通らない。周囲に誰もいない事を確認すると、興芽は時雨に合図を出した。


先ほどのデレデレした顔とは打って変わって真剣な表情だ。


無駄のない身のこなし。

「相変わらず、忍びとしての腕は大したもんだよな。」

時雨は素直に感心すると、自分も後に続き、窓めがけて降りていった。

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