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癒しの国のヨナ  作者: 沙門きよはる
ヨナ・キングダム
9/23

束の間の別離に

 キングダムに持ち帰った宝石と粒金のサンプルは山師マッシーの嘗て無い快挙として大いに盛り上がり、大宴会となった。


 「リュウさん、やったわね!一生左団扇うちわの貴石と金鉱脈の発見だって?」

 ワインに上気したサチコが興奮の態だ。


 「と、言いたい所だが、僕はマッシーとダルビーに付いて行った付録みたいなモンでね」

 「全然OKよう!これで、心置きなくキングダムに居候できるわあ」

 サチコは勝手に頷いている。



 「工房の方は如何?創作にハマっているようだけど?」リュウは話を変えた。

 サチコは一瞬息を止めて「……此処は天国よ。この歳になって、人生をエンジョイする本当の意味が分かったの」と、顔を染めた。


 「与那国行きはパスして、このまま此処に居座っちゃう?」 

 リュウにとって、スキャンダルによる針の筵に大学を退職しては見たものの、寄る辺無い不安に苛まれる逃避行である。

 それが此のところ漸く、キングダムの目くるめく酒と薔薇と冒険の日々が安らぎを齎していた。


 サチコは声を潜めた。

 「まだダメだって!人の噂も何とやら、此処に落ち着くのは、時のロンダリングを経てからよ。与那国で時間を稼ぎ、世間の熱りを冷ましてからだわ」


 

    ……  ……



 サチコとリュウの与那国行き壮行パーティが催された。

 宴もたけなわ、花束を抱えたナカマルが、パーティドレスにきめた美少女人形のミキコを伴って、フォーマルウエアーで現れる。

 ナカマルは顔を歪めながら必死の形相で二人に声をかけて、花束を差し出した。

 「おっ御二人が与那国を終えて、ぶっ無事に帰還されるのを切望しております。いっ居らっしゃる間、リュウ先生とサチコ先生にはカウンセリングやら諸々のアドバイス等をいただきたかったんですが……。

 次回に、おっ御会いできるのを心待ちにしております」 

     

 「否々、天才中の天才には、マッドな発想と素晴らしい発明特許の数々に驚くばっかりです」

 「お恥ずかしい。とっ特許は心に浮かんだのをマッシーのアドヴァイスで適当に申請しているだけなんで……」

 「それと、このミキコ人形!あまりに精巧で何と言ったら良いのか!」


 ナカマルは我が意を得たりと、にっこり微笑んだ。

 「かっカラクリ機械人間創りは、一生のライフワークと決めてるんで、ひっ日々改良を重ねています……」


 「天才君に、一つ御聞きしたかったんだが、何故ヒュウマノイド型の機械人形にそれほど拘るのかね?」

 「ピノキオ物語と漫画の鉄腕アトムが、ぼっ僕のバイブルなんです」ナカマルは恥ずかしそうに答えた。


 「老婆心だが、新人類を創るなら、クローンのように生物学的方法でのアプローチの方が容易なんじゃないかな?」リュウは酔うと節介癖が出る。


 「ぼっ僕は時計職人の成り損ねなんで、マシーンでしか発想が浮かばないんです。

 おっ仰るとおり、せっ生物学の知識があれば、出来損ないのマシーンじゃなくて、ゆっ有機炭素体の人間そのものを創りに行ってたかも知れません。こっ今度じっくりその辺りのお話を伺いたいです」


 「出来損ないなんて、とんでもないわ!表情と言い仕草と言い、ミキコは人間以外の何物でもないわよ!

 貴方は創造主のように機械人と言う新たな人種を創っているわ!」

 少女人形を見るサチコは感嘆しきりである。


 「まっまだ、これ等は外見と仕組みだけで、単なるデーター集積によるマニュアル反応か、わっ私の遠隔操作で動く、じっ自主判断とは言い難い代物なんです」


 「如何見ても、生身の人間としか思えない」

 リュウはしみじみとミキコを見つめる。


 ミキコが顔を赤らめた。

 「私は主人ナカマルの言う通り、有機シリコンで覆われた人間紛いの機械の玩具に過ぎないんです」


 「なっ何とか、ピノキオのように魂を吹き込みたいんですが……」

 と、ナカマルはミキコの言葉を継いだ。


 すると突然、側からほろ酔いのミキがナカマルに絡んできた。

 「それって、何時かこのマシーンを本物の私にしたいってことう?そんなことを思いながら、私より若くキュートに作られたセクソロイドに改良を重ね、毎夜同衾してるなんて、考えるだけでもおぞましいわよ!」


 ナカマルは不意を衝かれ、泡を食ったように顔を真っ赤にした。

 「いっいえ、その、別に、そっそう言うわけじゃなくて」


 「私、外見主義じゃ無いし、ナカマルのマニアックさも嫌いじゃないわよう。一度、ピノキオ抜きの二人だけで、じっくりと話し合わない?

 エチオピアンはハンサムで超セクシーで良く出来ているけど、所詮は貴方の影に過ぎないわ。

 それに、私の入浴時に、毎度のバレバレで下手くそな覗き趣味に付き合うのも飽き飽きしてるの。さりげなく体を見せるのも結構大変なのよ。

 明後日、野外スケッチのために浦内川のジャングルクルーズをしたいんだけど、私のヌードの拝観料代わりに荷物持ちをしていただけない?」


 思いもかけないミキの誘いに、ナカマルは眇めの目を白黒させ、しどろもどろになった。

 「ふっ二人だけって。明後日は、いっイオン発電所の試運転があるんで。あの……かっ代わりに、そのアダムじゃダメですか?」


 「あら、嫌ならいいわ。そしたら、もう出歯亀をさせて上げないから」

 「いえ!よっ喜んで、僕でよければ、お供いたしますです」

 ナカマルは慌ててミキの申し出を承諾した。


 「トゥリート!ナカマルって、ホント可愛いわ!アダムはキスが最高に上手いけど、本物は如何なのかしら?」

 ミキが悪戯っぽい眼差しで片目を瞑った。


 場を和ませるかに、ハナが皆に報告する。

 「最新ニュースを申し上げます!今日、王国のメカニックを受け持って頂いているナカマル師が遂に、我らがファミリーに成るべく、はあなとホメオパシー検診を受けましたので、皆さんの温かい御支援を宜しくお願いします」

 期せずして、冷やかしの口笛と拍手が湧き起こった。


 ヨーコがベリーダンサーの弟と腕を組んで現れ、リュウに新しい恋人としてのキアヌを紹介した。 

 「御免なさい。恋をしてない空白に耐え切れないの。

 キアヌに、リュウの去る事情を話したら、キアヌ自ら暫しの恋人に立候補してくれたの」

 「キアヌは幾つなの?」

 「十七です」

 ほっそりした長身のペルシャンは頬を染めて答えた。


 「ヨーコはファザコンじゃなかったん?」

 リュウは寂しいようなほっとしたような複雑な心境に成っている。


 「瓢箪から駒だけど、若い子に求められるのも悪くない感じよ」

 ヨーコは満更でもなさそうだ。


 「そう言うことね」リュウは声のトーンが落ちる。


 「と、言うわけで、リュウとは暫く恋人解消だわ」

 ヨーコはウインクした。



 酔いの回ったダニエル夫妻が二人をハグし、ジャンが告げた。

 「流浪の人生にようこそ!運命に導かれ、心躍る旅立ちの始まりですな。

 良き航海を(ボン・ボヤージュ)!」



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