夢の王国(キングダム)
二ヶ月に渡る沖縄巡りの逃避行を経て、石垣島から西表島の上原港に着いたのは六月の半ばで、三十度℃を超える夏の始まりだった。
抜けるような青空、憔悴の二人をジープで迎えに出た長身のレイトは、ミラーのレイバンにライトブルーのアロハ、日焼けした肌に、潮焼けの赤茶けた長髪、白のヘッドバンドと、嘗ての青白き美少年の片鱗も無かった。
「めんそーれ!西表へ。これより、レイト・ヨナ・キングダムに御案内しましょう!」
「レイト・ヨナ……キングダム?」
「森の奥深く、仲間達と営んでいる我らが夢の独立王国です」
レイトの工房住宅は上原から車で二十分弱、浦内川を渡り、ウシクの森の麓に広がるジャングルの中に在った。
二基の巨大な白い風車を離れに、聳え立つ苔むした石積みの上にコの字型に置かれ、オレンジ色混じりの琉球瓦に色鮮やかなブーゲンビリアを這わせた白塗りモルタルの大きな建物だ。
それは、巨大な茸の群生を連想させる曲線を模っていた。
「いざとなったら、ホテルでもしようかと、制作工房に付属してバス・トイレ付の居住空間が三十九室あります」
「素敵!まるでメルヘンのお城だわ!」見上げるサチコが感嘆の声を上げた。
「領有地は三万六千坪ちょいで、ヘリポート付きの小川あり池あり泉あり、温泉も湧いてるんです」
蔦が絡む錆びた鉄柵の門を過ぎ、数台の乗用車に大型ワゴン車とピックアップ四駆の置いてある石畳の駐車場に車を停めると、レイトは芝居がかった仕草で車のドアを引いた。
「ようこそ、我らが癒しの王国に!」
屋内から、中肉中背、歳のころは四から五十ぐらい、涼しげな白地のカリユシ・シャツの男と、長身のモデル体型にインドのサリーを纏った極めつけの美女が出迎えた。
「お噂は兼々。以前は、幻影師としてやってましたが、この所はヤマシに勤しんでるマッシーです」
手を差し出した男は、口髭を蓄え赤銅色に日焼けして精悍で豹のような優雅さがある。
「ヤマシ?」
「伝説・沈船等のトレージャー・ハンティングや、金・宝石等の鉱脈探索にロマンを賭けている山師です」
レイトが「表の顔は僕だけど、キングダムを実質的に仕切ってる陰の支配者なんです」と、紹介してから、「でも、マッシーは隠れていないから、陰じゃないね」と、笑った。
美女が「ヨーコです。憧れのリュウ先生と、レイが恋焦がれているサチコママにお会いするのを楽しみにしてました」と、にっこり微笑んだ。
「余計なことを言うんじゃねえって!」レイトは慌てて話を遮る。
ヨーコはレイトを一瞥し、「あら、何時も初恋のサチママとか、瞼の恋人とか聞かされて耳にタコなのに」と、言い足した。
顔を紅潮させたレイトが「ヨーコはヨガのインストラクターで、インド舞踊のダンサーなんです」と、紹介する。
ヨーコは舞を収めるように膝を折った。
「噂通り、リュウ先生って、キュートで超セクシーだわ!」
「その噂が怖い。お手柔らかに」
リュウは帽子を取った。
「ミキとハナは?」
レイトの問いに、マッシーは顎を杓った。
「分蜂の騒ぎで、研修生たちと養蜂場へ行っとる」
「養蜂?」リュウが訝しげにレイトを見た。
「熊蜂と混血のハイブリット蜜蜂によるネクトル・ハネィーは、特別に香り高く、キングダムの薬草花蜜として評判なんです」
「ガラス陶芸、イリュージョニストの山師、ヨガにインドダンス、それに新種の養蜂とはケイオスだな」
「他に、絵画、音楽、工芸、技術、農業、動植物の品種改良、セラピー、観光ガイド、宿泊業等々。それに、概ね自給自足で、ガス・電気・水道等も自前で賄っています」
「凄いな!独立王国とは言ったもんだ」リュウは唸った。
「しかも、キングダム内の日用購買は独自の流通紙幣で行われてるんです」
「真剣に?」
「それが、冗談も好い所。一ドル当たり一レイトで、一レイト札には恥ずかしながら僕のポートレイトがプリントされてます。
後ほど、当座の小遣いに千レイトほどお持ちしますので、フロントロビーの購買店で何か適当に買ってみて下さい」と、レイトは面痒そうに笑った。
駐車場と庭を隔てる白壁を半円に穿った裏の木戸を潜りぬけると、
色鮮やかな花々の咲き誇る庭園から、更に奥へ広がる菜園の目の覚めるような美しさに息を呑む。
薔薇の大アーチを爽やかな風が吹き抜け、数羽の孔雀が降り立ち、極楽鳥と色取り取りのインコ類が一斉に鳴き始めた。
「素敵な香り!此処は別世界だわ。何て綺麗なんでしょう!」
サチコはうっとりと溜息をついた。
入り組んだ広がりを包み込むように小高いジャングルが見られ、その一画に滝と呼ぶには小さい一筋の流れが、鱗木と巨大羊歯に囲まれた靄の漂う池へ清水を落としている。
大型犬特有の野太い一吠えがあった。
茸型の離れ屋に咲くハイビスカスとトランペット花群から陽炎を割るように、アラビア風の白いワンピースにストローハットを被った二人の娘が、精悍なドーベルマンの雄犬と、豹がらの大きな家猫を伴って現れた。
灰色の鸚鵡を肩アテに止めた長身金髪の美女と、花の精とも見紛うキュートなショートウェイヴの娘だ。
長身のミキは、北欧のハーフで竪琴奏者、吟遊詩人であり、画家兼ガラスと磁器の絵付け師。
妖精もかくやのハナは、キングダムの医療と健康管理を担当する同種療法士兼特殊アロマ療法士で、当園のチーフ・ガーデナーと、紹介した。
…… ……
建ち並ぶ白塗りログのコテージの一つに、二人の手荷物を置くや、レイトは早々に制作工房へ案内する。
工房では、見習い研修なる数人の若い男女が作業中で、二人を見ると、にこやかに会釈をした。
開放吹き抜け構造の館内は、小川から直に流水が引き込まれ、高熱の炉窯が稼働中にもかかわらず、思いの他に涼しい。
作業台の端のアール・デコ風の陳列棚には、色彩豊かに精緻なガラスと陶芸を駆使した作品の数々が展示してあった。
「工房では、概ねのテーマが、小人や妖精、自然のキノコや羊歯、小動物、昆虫などの小世界メルヘンなんです。
それが、国際市場で思いの外に高額な値が付き、出品すると、直ぐにソールドアウトするみたいです。作品ファイルがありますので、良ければ見てやって下さい」レイトは他人事のように説明する。
工房を皮切りに、レイトは各自個性的な部屋(アトリエ、スタジオ、研究室、ライブラリー、ケアルーム、工作機械室、コンピュータールーム、地下の醗酵所とワインカーヴ)、離れのコテージにトゥリーハウス群、従業員と研修生宿泊施設等、屋内を隈なく案内した。
「空いてる部屋で、気に入ったら仰ってください。全ての空間が、多目的に、あるいはゲスト用にスタンバってますので」
サチコが遠慮がちに申し出た。
「甘えついでに、追々にでも、私たちを夫々別の部屋にして頂ければ……」
「サチはパニック症候群なんよ」と、リュウが言い添える。
「パニック・シンドロームって?」
「……暴露記事以来、駄目なのよ。男性の身近に長く居ると、強烈な不安に襲われてパニくっちゃうの」
レイトは目を見開いてサチコを見ていたが、徐に
「シンクロしてるかも。実は……僕も、長く女性に対していると、居ても立ってもいられない強烈な不安に襲われるんです」と、自らの同様なパニック アタックを打ち明けた。
「レイ君が?]
「諸々あって」レイトは話したくなさそうだ。
…… ……
ガーデンは咲き誇る花々、たわわに実る種々の果物、椰子と巨大羊歯に蘇鉄やバナナの樹と、多種多様な熱帯植物群が陽光に煌いていた。
インコの群れが飛び交い、数匹の緑の羽毛トカゲが、鳴きながら石畳の途を飛び跳ねるように走り去った。
「ウソ!あのトカゲ、小枝を両手に抱えて行ったわ!」
レイトが説明する。
「近くにコロニーを営んでる小竜です。サボテン喰いの小型グリーン・イグアナが、浜ボウフウ喰い二本足歩行で四倍知能の小竜に進化しました。ハナのDNAパワーなんです」
「DNAパワー?」
「ハナは妖精と触れ合い、ハーブオイルや光、或いは祈りの力等で動植物のDNAまでを変えちゃう魔法使いなんです」
「あの可愛いお嬢さんが?」
レイトはくすりと笑った。
「お嬢さん?そう、見かけによらない」
ジョッキ大の食虫壷をたわわに下げた巨大ウツボ蔓に、団扇のような食虫葉の赤い触手を蠢かす大モウセン苔。
樹をゆったりと這う二倍体・黄金色変異のヘラクレス甲虫に、眼前で無警戒に滞空する色鮮やかな数羽のハチドリ。
二人は濃密過ぎるほどの鮮やかな色彩と生命力に圧倒されていた。
「嘗ては温泉とガスの噴出する鬱蒼としたジャングルの中に古代グスク(城)跡の石積みがあり、呪われた亡霊が彷徨い、毒蛇と、毒虫、蛭の巣窟で、まさに闇の世界が支配する禁忌の地でした。
それを山裾まで、ナパーム弾やガソリン等で徹底的に焼き尽くし、抜根してブルで均し、高圧電流を流し、膨大な水晶や磁鉄鉱と炭で、地質を改善したんです。
それから、世界中から好みの動植物を好きなように移入し、変異させ、一からキングダムの自然を創生しました」
「あたかも……創造主のように?」
「そう!不遜にも、創造主のようにです」自嘲するかにレイトが言った。
そして、工房を開くまでの経過を面白おかしくエピソードを入れて話す。
「…………神事を真似るのは人間の最も深く根源的な欲望かもしれません。
毒蛇に咬まれたり、マラリアにやられたり、人間関係等も諸々ありましたが、こうやって御二人を案内しているのが夢のようです。
深夜には今だ悪霊が徘徊して要注意ですが、明朝にも領内を見回って、僕等の描いた妄想の楽園を見てやって下さい」
「悪霊の徘徊ですって?」
「太古の悪霊が白い大蛇に変身し、襲ってくるんです」
「もう何が何だか、……信じられないと言うか、吃驚することばっかりだわ」
サチコは首を振って、大きく息を吐いた。
レイトはくすりと笑った。
「今宵はキングダム挙げて、リュウ先生とサチママの歓迎会を催しますので楽しみにしていて下さい」
「態々、僕らのために歓迎会とは畏れ入る」
「如何いたしまして。独断と偏見で、勝手に御二人の滞在中のスケジュールを決めさせていただきますので、宜しく!」
…… ……
常在のファミリー総員他、長期滞在している世界的大富豪の三男坊ジャック・ロスフェルドとメアリーのヤングカップル、元映画監督のジャンとムネコのダニエル夫妻、人形師のナカマルと、彼の作による人間その物と見紛う精巧な自動人形のミキコ、それに加えて、寄宿の研修生たちや従業員、地元の名士やアルバイト等の多彩なメンバーで歓迎パーティが催された。
メインディッシュは、キングダムの支配人で漁師でもあるシゲ爺が釣り上げた
特大物のミーバイ(ヤイトハタ)とカジキマグロだ。
常在ファミリーのシゲ爺は琉球唐手の師範で、七十過ぎと言うことだが、一見したところ五十そこそこの感じで、二人に会うと慇懃に礼をとった。
「唐手指導の他、総務、管理と言うか、購買所から清掃や畑作一般などの雑用を孫娘のユキとマミ共々楽しんでやっています。
今日は週一の漁労の日で留守にしていて申し訳ありません。レイより御二人の御世話を仰せつかっておりますんで、何なりと申し付けて下さい」
宴の始め、レイトが極彩色髑髏マークの大瓶を掲げて告げる。
「今宵、ソウルメイトでも有り、敬愛するリュウ先生と、憧れのサチコママを当キングダムに迎えることが出来ました。
そこで、我等が料理のマジッシャンこと銀次郎シェフのミーバイ料理に花を添えるべく、コカとペイヨーテ仙人掌発酵のベラドンナ・ワインの封を切りましたので、ご賞味を」
「それ、見るからにヤバそうだが、大丈夫?」
ジャン翁が、妻のムネコを助手に新式のヴィデオカメラと八ミリを回しながらフランス語で尋ねる。
「ウイ、ムッシュ!血のように紅く濃い魔薬ワインの名称は異世界飛行。
音を目で見、色彩を聴くような共感覚。保険認可は絶対不可で、まともじゃないのを請け合います。
ガード犬のダルビーとお喋りヨウムのアレックス、そして見張り猫のソフィストでの御試し済みで、アレックスは試飲後、冠羽が立ち上がりっぱなしオームになり、ソフィーとダルビーは泡を吹いて気持ち良さそうにのたうっていました」
パーティは笑いと歓声に包まれ、歌あり、踊りありで、ジャックのボールジャクリング、少女人形ミキコの歌とダンスのパフォーマンス、シゲ爺と双子孫娘の唐手の型や銀次郎シェフのナイフ投げのアトラクション等、大いに盛り上がる。
取り分け、マッシー&レイトのシタールとタブラによるヨーコのインド舞踏は圧巻だった。
踊り終え、肌をピンクに上気させて一息つくヨーコに「素晴らしいダンス!感動しました」と、リュウが声をかけた。
ヨーコは首を振った。
「今日は乗りが今一つよう!麻とスペシャル・ワインが完全に回っちゃってるわ」
「リュウはインド・ダンスを見るのは初めて?」ミキが側から話に割り込んだ。
「ええ。官能的言うか、凄くセクシーで、痺れました」
「ヨーコがサリーを脱いで本格的に踊ったら、こんなもんじゃないの。ダイナミックで、強烈なパワーに圧倒されるわよ」
ヨーコがウインクする。
「次は、リュウのためにフルヌードで踊るわ。楽しみにしていてえ」
リュウは顔を赤らめ「ダンスは何処で?」と、尋ねた。
「ボンベイのスクール。私はインドのカシミールとアイリッシュのクォターなのう」
そして、耳に口を寄せ「リュウって、めっちゃタイプ。私、ファザコンなの」と、囁いた。
会を進行するマッシーの軽妙なジョークと手品・マジックに歓声が上がる。
「彼も、ピュアな日本人にしちゃあ、ちっとばかし濃いですね」
リュウがマッシーへ顎をしゃくると、ヨーコとミキは顔を見合わせて笑った。
「マッシーはあらゆる言語をネイティヴに話し、博学多彩、博覧強記を地で行く不可能をも可能にする超人よ」
「年齢は?」
「それが、全てがミステリアスで、はっきりとは分からないのう」
ヨーコはリュウに体を凭れかけた。
ミキが話を継ぐ。
「聞いたら、八百歳って煙に巻かれちゃったわ。それに、山師に、ダイバーに、イリュージョニスト、相場師に、科学者と来ちゃうから……」
ヨーコが、秘密ごとのように声を潜める。
「本人曰く、カリフォルニアのシャスタ山からやって来たアルタイ人でえ、錬金術師なんですって」
(シャスタ山から?アルタイ人のアルケミスト……?)
「だけど、マッシーが創るのは金は金でもゴールドじゃなくて、何時もマネーの方なのう。先読みの超能力を活かした金儲けは、彼の実益を兼ねた優雅な趣味の一つで、半端無い目茶目茶リッチなの。
キングダムの運営資金は、殆ど彼の小遣いマネーで成り立っているわ」
「そのスーパーリッチで優雅なアルケミストが、如何してレイトと?」
リュウはレイトとマッシーたちの関係を尋ねた。
「レイとマッシー&ハナの運命の出会いは与那国島。季節労働の砂糖キビ刈りなのう」
「何で…キビ刈り?」リュウは首を傾げた。
「島興し特別キャンペーンの体験労働だってえ」
「超リッチマンのアルケミストと、魔女にガラス陶芸師が、季節労働のキビ刈り?」
「運命の出会いにしても、可笑しいと言うか、私たちも含めてだけど、肉体派で結構怪しい奴等なのよう」
ミキが付け足した。
「マッシーとレイは審神と霊媒なの。レイのヴィジョンと夢をマッシーが解析し具現化するのよ。
私たちファミリーはその構想のパーツとしての役割をエンジョイしているわ。二人の関係を強いて言えば、レイにとっては兄貴か、親友で導師と言ったとこ。マッシーには片思いの恋人……かな」
「恋人?」
「マッシーは男もOKのバイセクシャルなのう。でも、朴念仁でセックス・コンプレックスのあるレイには全然その気が無いんだわ」
「セックス・コンプレックス……?」
ヨーコはクックッと笑った。
「レイにコナ(誘惑)をかけたことがあるんだけど、あれはストイックなんてもんじゃなく、異常よう。焦り方が半端じゃないもん」
「マッシーを始め私達全員が、そんなレイにぞっこんなの」ミキが片目を瞑った。
「全員?レイトがカッコよくてクールなのは分からんでもないが……?」
「リュウはレイの強く神秘的なオーラが見えない?」
「オーラって、君達には見えるの?」
「モチのロンよう。……レイは選ばれし三つ目の竜人、ヨナ中のヨナなのよ」
「三つ目の竜人?ヨナ……?」
「片時も外さないヘッドバンドの下に、驚く無かれ、第三の瞳が隠れているのよ」
リュウは手を振った。
「否。あれは、子供の時、ヤンチャして家の柿木から落ちて前頭骸一部陥没骨折事故の痕よ。僕は事故の当事者でもあるんで、額中央の傷跡は知ってる」
「それが、変異しちゃったのよう。見れば驚くけど、瞼まである完全な瞳なのよ。しかも、あれに見つめられると、催眠言うか、誰もが陶酔状態に陥ってしまうのう」
(傷痕が目に変異だって……?)
リュウは信じ難い面持ちで呆然と二人を見ていた。
「……和の王子……ガイアのプリンス……マイトレイヤー…地球の魂を受け継ぐ……ホルスの瞳…魂の救い……」
意味不明の言葉が木霊のように響く。
スペシャル・ワインの魔力が効いてきたのか、全てが清浄で澄み切った感覚に包まれ、音や言葉が色彩をもって体を吹き抜けて行く。
酔いが強かに回り始め、リュウは体が浮き上がり、茫洋とした大海を海月のように漂っていた。
満天の星空。
月の光は遍く海に降り注ぎ、銀の波を縫ってイルカたちが戯れ集う。
海底に眠るテラスと円柱は永久の時を刻み、
海中から覗う月の輝きも朧に、夜光虫の煌きは炎のごとく火花を散らす。
触れ合い、睦み合い、太古の沈船と揺らめく海藻の森を遊泳し、海面を跳ねて銀の飛沫を散らす時、
波を切る魂は歓喜に震える。
音が遥か遠くから聴こえて来る。