泡沫(うたかた)の如く
目覚めると、白の世界だった。
(天使が居る?)
「天国……?」
「ここは天国でも地獄でもないわ」
天使に見紛う白衣のアイカ嬢が微笑んでいる。
(看護婦?……アイカちゃんが?)
リュウは白い天井扇が回る診療所のベッドに横たわっており、腕には点滴のチューブが繋がっていた。
「先生と奥様を呼んできます」
ナース姿のアイカが席を外した。
「ビックリしたわよ!飲んでたら、目を白黒させて突然意識を失うんだもの。
アイカちゃんが非番で居て良かったわ」
リュウを見るや、サチコがほっとしたように言った。
レッドコーラルのネックレスにショートパンツとTシャツ、サチコは四十歳ぐらいに見える。
「急性アル中です。宿に帰って安静にしていて下さい。そろそろ、お互い無理が出来ない年齢ですな」
髭面の医師が笑った。
「……一体、何が何だか、如何なってる?」
リュウは呆然とサチコを見ている。
「やだ!憶えてないの?ティンダハナの引越しを控えて、……豊年祭の前祝いとか調子に乗って、富久山荘の皆さんと飲み続けだったの。そうしたら、急に倒れちゃって、診療所に担ぎ込まれたのよ」
リュウが一切憶えていないのを告げると、医者は首を傾げた。
「半日も休めば、元に戻るでしょう。ま、富久山荘にはアイカも居ることだし、大事には至らないっしょ!」
…… ……
リュウを送迎するワンボックスカーが富久山荘に着くと、宿客と富久山家が総出で出迎えた。
「部屋に布団を敷いてますんで、ゆったり休んでて下さい。とにかく、元気そうで良かったさ。今、冷たいシークワサーとゴーヤのジュースを、お持ちしましょうね」
富久山が労わるように言った。
部屋に落ち着くと、サチコは尋ねた。
「何か思い出せて?」
「否、思い出せないんじゃなくて、憶えている記憶が大分違ってるんで、如何説明したら良いのか……」
「記憶が違うって?」
リュウが掻い摘んで、西表からヨナムン・マティの大団円まで話すと、サチコは狐に抓まれたような面持ちで息を吐いた。
「西表のキングダムを体験していなければ、イカレた妄想と思うのでしょうが……。現実も十分メルヘンティックで、リュウさんの話に交錯しているわ」
と、蒼く変色しつつある両手を翳す。
サチコはリュウの記憶を確かめながら、認識の異なる西表を出港してから此処に至るまでの経過を話した。
…… ……
西表島から石垣島に渡る途中、紫の濃霧と突然の雷雨と暴風に襲われる。
「でも、雷が船には落ちなかったわ」
「一発も?」
「そう。少なくても、リュウさんが言うように、何発もの落雷はなかったのよ」




