姉に婚約者を奪られたので
家出しました。
私はファウエル男爵家の末娘、タリアと申します。
私には幼い頃に決められた婚約者がいます。
いえ、『いました』と言ったほうがよろしいでしょうか。
我が国の誇る素晴らしき第一王子。
エルヴァルド殿下が私の婚約者だったのです。
畏れ多いことではありますが、私の母ナターシャはフェリシア妃殿下の侍女をつとめていたことがございました。
フェリシア妃殿下にはとてもよくしていただいたそうです。
そして、母が侍女を辞めたあとも妃殿下と母の交流は続いておりました。
そんなある日、妃殿下が仰ったことがきっかけで私とエルヴァルド殿下の婚約が決まったのです。
エルヴァルド殿下は私よりも8歳ほど年上でしたが、姉には既に夫がいました。
そのため私と、ということになりました。
しかし、ですね。
本日私がエルヴァルド殿下にお会いしに行きましたところ、姉がエルヴァルド殿下と睦み合っておりました。
私は咄嗟には頭が働かず、エルヴァルド殿下の止める声も聞かずに屋敷へと戻りました。
真っ青になった私に案ずるような声をかける者もいましたが、人払いをして部屋に閉じこもりました。
「よっしゃ、よくやったバカ姉!!」
泣いているとでも思った?
ざーんねん!
むしろいい口実ができたから顔がにやけてにやけて仕方ない。
改めまして私、タリア・ファウエルです。
成り上がり貴族ファウエル男爵家の娘。
家族が大嫌いな16歳の乙女です。
父親は自己中心的。
母親は高慢。
姉は男好き。
弟は気位だけ高い役立たず。
よく我慢したな、私。
王族の方々は本当に素晴らしいんだけど、うちの家族の猫かぶりが上手すぎて未だに本性に気づいていない。
そんな家族と生活するのは良くも悪くも普通な私には苦痛で仕方がなかった。
エドヴァルド殿下は別に嫌いじゃなかったけれど、だからといって好きでもない。
貴族の結婚なんて打算がほとんどだから恋愛なんて期待してなかった。
でも、いつかこの家から飛び出したいって思ってた。
無理だっていうことはわかっていたけれど。
いや、バカ姉本当にありがとう。
姉上とでもお姉さまとでも好きなように呼んであげよう。
傷心中のタリアは旅に出ますわ。
皆様お元気で。
なんて心の中で思いながら屋敷を出た。
さて、まずは冒険者にでもなろうかな。
一人の剣奴隷と恋に落ち、彼が新たな国をつくるだなんてその時の私は知らなかった。
祖国がその国に滅ぼされるということも。