表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

これは久々の感情です

ストリートミュージシャンが音を轟かせる。


奏でるよりもかき鳴らすに近い。


乱暴に音が放たれる。


そして先程とは裏腹に、ストリートミュージシャンは目を開いている。


まばたきもせず世界を見つめる。


その目からレーザービームでも出そうなほど、眼光は鋭く、そして力強い。


雑ではない。


しかし叩きつけられるように歌う。


人々は一瞬足を止めた。


中には眉をひそめる者もいたが、だんだんとその数は増えていく。


彼女に、彼女の演奏に惹かれて足をとめる。


音が途切れることはない。


耳を侵食するその歌声は、天使の咆哮のようだ。


美しく、叫ぶ。


荒々しく、猛々しいのに、なぜ、


こんなにも、美しい。


彼女は吼えるように歌い続ける。


恐ろしく洗練されたその声は、それなのに心が洗われるようだ。


表面上は痛々しく、流行りのビートで歌っている。


しかし、じっくりと耳を傾ければ分かる。


なんと澄みきっていることか。


なんと清らかであることか。


早いリズム、力のこもった声、かき鳴らされるギター。


そんな歌なのに、


僕にはそれが、女神の神託のように思えた。


一瞬、彼女の声が途切れた。


熱の籠められた一曲目が終わったと知り、僕は肩に入っていた力を咄嗟に抜いた。


しかしそれもたった一瞬。


すぐに彼女は腕をふりおろし、弦を力一杯弾く。


今度は躊躇いもない。


焦らされることなく打たれた次の一手。


僕の心臓は大きく跳ねる。


彼女は続けざまに二曲目を歌い出す。


疲労など感じさせない、一曲目と変わらない、猛々しい演奏だ。


僕の心臓はバクバクと先程の比ではないくらいに激しい運動を繰り返した。


知らず息を吐く。


夏でもないのに汗が滲んでいた。


……………………疲れた。


歌を聴いて、疲れた。


こんなことがあるのだろうか。


二曲目を彼女はうたっているのだが、耳に入ってこない。


自分の呼吸する音が僅かに聞こえた。


自分と現実が解離する。


あぁ、この感覚、小説を書くときのやつ。


まるで世界と切り離されて、意識だけが別世界にあるような不思議な感覚。


彼女は歌っている。


相変わらず世界の全てを睨み付けているかのようだ。


なんとも挑戦的で、誇り高く美しい。


辺りには彼女の歌に惹かれて人が集まってきた。


人々は異様な熱気に包まれて、熱に浮かされたように彼女を見つめる。


その数は結構なもので、ちょっとした人だかりが出来る。


警備員とかに見咎められはしないかと周囲を探ってみたが、それらしき人はいないようだ。


北口はもともと人通りが多くない。


これ以上大きな人だかりにならなければ、たぶん大丈夫だろう。


僕は客観的に状況を見ながら、彼女についてぼっと考える。


彼女のエネルギーは底なしとでも言うように音を響かせ続ける。


時折体を大きく動かし、咆哮する。


獣のように創作の貪欲。


しかし創られたものは美しく、澄み切っている。


痛いほどに美しい。


辛いほどにいとおしい。


この創作の天使は、僕を虜にした。


心臓を掴まれた。


心を奪われた。


とにかくまぁようするに、




…………惚れたぜ。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ