それは実に興味深い
視界に入ったその人に、少し興味をもって視線をそそぐ。
僕は創作という観念が大好きだ。
いやむしろ愛してる。
それは漫画であれ小説であれ絵画であれ音楽であれ、創るということにいつでも興味津々なのだ。
ストリートミュージシャン。
おそらくそうなのであろうその人にも、そういうわけで興味が湧いた。
しかも人前で自分の姿形を晒してまで創作をしようとしている。
僕はその人に僕と似通った創作への執着のようなものも感じた。
ここからストリートミュージシャンまでの距離はちょっと遠い。
相手の表情がはっきりしない程度だ。
まぁそれはそのストリートミュージシャンがフードつきジャンパーのフードを目深にかぶっているせいでもあるのだけど。
ストリートミュージシャンはジャンパーにジーパンというラフな出で立ちで、飴色のギターを抱えて立っている。
まだ演奏はスタートしていないようだ。
ストリートミュージシャンは爪先で緩くリズムをとっている。
よくよく見ると目も閉じているようで、あぁ、自分の世界を作り出そうとしているのだと理解した。
僕はストリートミュージシャンに向けて歩きだす。
さりげなく正面へと立ち、特等席を確保する。
人々はストリートミュージシャンを迂回しながらさっさと通りすぎていく。
あ、このストリートミュージシャン、女性だ。
近くに来て気がついた。
なめらかなボディラインと長い睫毛。
フードで隠れていても美人だと容易に分かる。
思ったより、若い。
今度は創作ではない興味をもった。
綺麗な人だ。
しかも創作への情熱をもっている。
心がときめくのを感じた。
理想の人に、出会ってしまった。
ストリートミュージシャンは目を閉じているため、正面に立つ僕には気がつかない。
ゆっくりと、ストリートミュージシャンの腕が動いた。
魔法をかけるような美しい挙動に、僕の目は釘付けになる。
ストリートミュージシャンは目を開かない。
高く挙げられた腕はいつ下ろされるのか。
ただ胸が昂っているのか薄く上下している。
ストリートミュージシャンの時が止まる。
まだ、音は鳴らない。
だんだんと周囲の音は消えていく。
ストリートミュージシャンにだけ、全て神経が尖る。
苦しい時間。
まだ、まだ腕は下ろされない。
音は奏でられない。
創作がなされない。
ふいに、ストリートミュージシャンは、目を開く。
ゆっくり。
焦るなと諭すように静かに開かれる。
射抜かれた。
「いきますっ、」
その一声を合図に、
演奏が始まった。