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48話 アイナ向上委員会

時間がありましたので。


単発のお話です。

今日は休日です。私シオン・ブロッサムはゆっくり本を読もうとしていました。しかし、朝食後に届けられた手紙はアイナからの至急の呼び出しでした。読みたい本があったのですが、心を切り替えてアイナのところに向かいました。


向かった先は王城の中にあるカフェで端っこに1人でアイナは紅茶を飲んで待っていました。この時間帯は夜勤が終わったあと、つまりアイナのオフ時間です。夜勤明けのせいか少し目が血走っていますが、彼女は主に”監視”が仕事なので仕方がないことかもしれません。しかし、それよりも気になるのはいつもの元気がないことです。いつもなら遅いじゃない!とか言ってくるのに今日はやっと来たのとボソッと独り言のようにしゃべっただけです。


隣の席について私も紅茶を頼みました。アイナは何か相談事でもあるのか話したいという雰囲気が伝わってくるのですが、アイナはチラチラとこちらを見るだけで話そうとしません。中々話を切り出せないようです。しょうがないのでこちらから言葉をかけることにしました。


「どうしたの、悩み事?」

「ん!ん〜、そ、そんなことないわけではないんだけど……はあっ。なにやってんだろ私。」

「相談に乗るよ、友達でしょう?私達。」


アイナは私の言葉に嬉しいような、困ったような顔をしたあと、ようやく話してくれました。


要約すると悩んでいることは最近部下が冷たい態度をとってくることらしい。私を見つけられなかったことと魔族の侵入を許したことが原因らしく、今までは強気に命令すると全部やってもらえていたのが、最近は反対されることが多くほとんど何もやってもらえなくなったと元気なく話してきました。


彼女が任されている警備の仕事は経験が必要なことが多く経験や知識の豊富な者達の意見に、経験のない13歳でしかない彼女は反論できないらしい。

さらに本人は悔しいと思うと同時に納得しているらしくこれからどういう態度をとったらいいか、ほとほとわからなくなったようです。


これは今まで強く押さえつけていた反動なのでしょう。う〜ん、アイナの自業自得の部分が多々あるので、しょうがないといえばしょうがないのですが。


「そういえば、噂で聞いたんだけど私がくる前に誰かを左遷したんだって?」

「あのエロ親父のこと?態度がでかい上に私のこと子供扱いして、笑ものにもしたのよ。だからちょっと調べてみたら奥さん以外にもたくさんの女に手を出していたのよ!あんなのいなくなって当然よ!」


アイナは全く悪いことはしていないと言った顔で言い切りました。少し頭がまわるなら”気に入らない相手のプライベートを平気で調べる”ということが周りのもの達に対して、ものすごーく嫌われる原因になることに気がつくのでしょうが。


やっぱり……アイナは良くも悪くも真っ直ぐなんだ。彼女はこの前魔族の侵入があったときに私にした嫌がらせなどは次に会ったときに”ごめんなさい”と誤ってくれました。ちょっと直情的で加減を知らない13歳の女の子なのでしょう。そんな裏表のないアイナに、私は協力することにしました。


まず行うことは、アイナの現状を把握をすることです。


「あいな、君の守護精霊のトゥルーアイって非会話型だっけ?勝手に何かしてくれたりしないんだよね。」

「そうよ、だから”サウザンド・アイ”もすべて自分で操作するのよ。」

「どれだけ視点を作れるの?」

「視点だけならいくつでも。範囲はこの王城の城壁のあたりまでよ。それより先は試したことないわ。」

「それぞれの視点で見えているものをしっかり認識することができるのは?」

「う〜ん、大体50から100ぐらいかな。あんまり気にしたことないから。」


自分のトレードマークとも言えるオリジナル魔法なんだからもっと気にしてほしいですね。それは別の話なので後にしましょう。それより聞きたいことがある。


「その視点で文字を読めて、その内容を理解することはどれだけできるの?」

「……やったことないからわかんないわ。いまやる?」

「やって。対象は詰所のみんなの事務机の上の書類。」

「いいわ、”サウザンド・アイ”!……だいたい、5つくらいかしら。慣れればもっといけそうだけど。」


つまり5つの対象を同時にしっかり認識できるのか。


……あれ?


「じゃあ、アイナは勉強の本を5つ広げたら、同時に勉強できるんじゃない?」

「あっ!……今5つの書類を同時に見て内容まで理解できる!凄い!私の勉強力ってひとより5倍なんだ!私人より覚えるのが2倍遅いからダメ人間だと思ってたけど。これならそれを差し引いて3倍じゃない!」

「えっと、そこは引き算じゃなくて割り算なんだけどまあいいや。アイナの凄いところ発見!だね♪」

「うん!ありがとうシオン!」


私の両手を掴んで握手してブンブンして喜んでいるアイナを見て思わず微笑んでしまいました。アイナって本当は年下なんじゃないかと思ってしまいます。まあ、前世分をカウントすればそうなんでしょうが。


「これで周りのみんなにまた、大きな顔ができるわ!」

「おいっ!」


残念な子なんじゃないかとも思ってしまうのは、いけないことかな?


「そんな風に上から目線になっちゃダメだよ。仕事で大事なのはチームワーク!上司部下の関係の前に仲間としての意識を持たなきゃ!」

「うっ!で、でも、大きな顔しなければ大人はいうことを聞いてくれないわ!」

「大きな顔をすることよりも、周りから信頼されることをもっと強く意識してよね。」

「そんなこと出来たらとっくにしてるわよ!」


確かに。でも元気になってきた。

しかしちょっと声が大きいな。内緒の話ができないですね、場所を移動しましょう。


「アイナ、ついて来て。一ついいことを思いついたから。」

「なに?なに!もったいぶらないでよ。」



・・・・・・・


ここは、とあるメイドたちの更衣室、アイナの指示で場所を特定してここまで来ました。


「へへへ。」

「更衣室に入ってくるなんて!来ないで!人を呼ぶわよ!」

「呼べるものなら呼んでみな!そんな格好では困るのはお前の方だろう?」

「ううっ!」

「そう嫌な顔するなって。だいたいお前が俺を誘惑するのがいけないんだぜ。」

「してないわよ!こんなことしてたらアイナに見つかるわよ!すぐ人がくるわよ!」

「はん!来ないよ、あの”瞳の絵”が描かれたところ以外は見えないって話じゃないか。ちゃんと避けて来てやったぜ!」

「そんな……いや!」

「いいからおとなしくおぶっ!」


いきなり顔に張り付いた水に驚き引っ掻く男。勿論取れません。あんまり騒ぎにしたくなかったので水の魔玉で口を塞いだのです。


「宮廷魔術師のシオンと申します。アイナ様の指示で助けに来ました。」

「あ、あ、ありがとう~シオンちゃん、あっ!ごめんなさいブロッサム様。」


安心したのかぺたんと座り込んで安堵の顔を浮かべる年若いメイドさん。

男の方はそのままでもよかったのですが、しかたなく水の魔玉を顔から外しました。


「けはっ!」

「迷惑刑で逮捕します。」

「ぜい!なんだガキか、失せろ!俺は悪くない!これは大人の……ひっ!」


男は驚愕に顔を歪めました。私が何かをした訳ではありません。ただ指を上に向けただけです。そう、天井には”瞳の絵”が描かれているのです。


「一部始終をアイナ様がご覧だ。それでも言い訳があるなら牢屋で聞きますよ。因みにアイナ様は女性の敵には特に厳しいですよ。」

「ひえ〜!」

「メイドさん、貴方の尊厳はアイナ様が必ず守ります。では。」


そして、水の魔玉をロープ状にして縛り上げてから男を引っ立てて牢屋まで連れて行きました。


翌日、メイド長からアイナのところにお礼状が届きました。あのメイドさんはメイド長に連絡して夕べあったことを全部報告したようです。勇気ある女性ですね。


詰所の一室で私とアイナはその手紙を見ながらその内容について話をしていました。アイナは感謝の言葉に素直に喜んでいました。私はことがうまく運んだのでホッとしています。


今回の件はこういうストーリーです。


まず、アイナは実は”瞳の絵”が描いてあるところしか見れないと嘘の情報を流しました。今までは無色の魔法の絵の具で書いていたけどばれたので色の出る絵の具に変えて描くことにしたのだだと。これは侵入者や犯罪者の油断を誘う作戦です。そしてそれ以上に”いつも見られている”とプレッシャーを感じている人たちのアイナへの嫌悪感をなくすことが目的です。


次に、北伐で警備が薄くなっているため犯罪が増えていることに注目しました。特にセクハラ系が問題視されていることを私はメイドさん達から聞いて居たのでこの作戦を練りました。


これは手柄をあげることよりも、メイドさん達をアイナの味方にすることが目的です。セクハラ系に容赦ないアイナの性格がここで生きてきますし、なによりメイドさん達は王城の中ではアイナの強い味方になってくれると思ったからです。


「ありがとう、周りの目も少し変わってきたみたい。」


それは周りが変わったんじゃなくて君が変わったんだよというと、満面の笑顔でシオンのおかげで、だよ♪とお礼を言ってきました。


”瞳の絵”を描くことにかなり時間を使いましたが、どうやらいい結果を残せたようです。ラピス様からも褒められました。



アイナはあらゆる意味で残念な子ですが、一生懸命なところはシオンにも負けていません。


シオン同様、アイナも応援していただけたら嬉しいです。


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