46話 エピソード明かりを灯す者5
どさり、とシオンが倒れこみます。
「ちっ」
暗闇が訪れた王城の庭で小さな舌打ちの音がしました。年若いメイドがアイナの死角となる位置にいました。周辺に気を配っていなかった自分に毒づきながらもアイナは声をあげました。
「ちょっと!あんた!何のつもり!」
「精神的に追い詰められた少年が切れてお前の殺害に及んだ、としたかったのだがな。まあいい。」
「あんた、男?」
その言葉に、若いメイドはニヤリと笑ったかと思うとくたっと倒れてしまいました。そして身体の中から黒い何かが湧き出てきて人型になりました。
「ま、魔族!だれか!」
「無駄だ。」
「くうっ!これがジャミング?」
アイナは仲間の魔法使いに緊急事態を知らせる魔法を使おうとしたが出来ませんでした。彼女の守護精霊が悲鳴をあげているのが彼女にだけ聞こえます。
「あまり時間もないのでね。うおっと!」
アイナに近づいて来た魔族は飛んできたナイフに気付いて慌てて回避しました。
「”ちっ”、なんてね。」
魔族に自分に突き立っていたナイフを投げつけた少年が笑顔で起き上がりました。
「シオン!」
「小僧!」
魔族とアイナは同じように驚きの声をあげましたが込められた気持ちは全く違うものでした。シオンはよいしょと言いながら服の下から重たそうなものを外して落としました。
「身体能力をあげたいって思って自作の”水入り重り”を身につけていたのさ。防具にもなるから二度お得♪」
シオンはアイナにウインクしながらそう言うと魔族の方を向きました。
「何日か前から付けてたのは気がついていたさ。魔族っぽいとは思ってたけど、まさか人間の中に魔族が入っていたとは思わなかったよ。魔族ってそういうことができるんだ。」
「ふ、ふふふ、面白い少年だ。だが、次はないぞ。」
魔族の手に黒い魔力の塊が作られます。アイナは絶望しました。先ほどは偽装工作のためナイフを投げたようですが、相手には自分たちをもっと確実に殺す方法はいくらでもあるのです。
アイナはジャミングで精霊魔法が使えません。さらにシオンは足かせと精霊封じの魔具をつけています、それをアイナは自分のせいだと思いました。そして、もう終わりだと。しかし、シオンの口から紡がれた言葉は希望と自信にあふれていました。
「次がないのはあなたの方ですよ。光の精霊よ。」
「口寄せ?」
小さな光の精霊がシオンの手のひらのうえに浮かぶ玉の魔法に引き寄せられて集まってきました。王城のあちらこちらから。
「ふむ、それでどうにかするつもりか?」
魔族の問いには笑をこらえるような気持ちが込められています。アイナも同感です。光の精霊はぶつかって相手に衝撃を与える攻撃ができます、しかしそれでは魔族にはあまりにも攻撃力不足。
「十分すぎると思いますよ。」
「はっ!馬鹿が!」
何か作戦があると思ったのか魔族はジャミングをシオンにもしかけてきました。しかし、光の精霊は全く変化がありません。
「私に一度見たスキル(ジャミング)が二度も通じるとでも?甘く見ないでいただきたいな、守護精霊を介さない口寄せにジャミングは効かないはずだよ。」
「ジャミングが通じないだと?だ、だが、精霊封じの魔具をつけているからにはたいしたことは……」
魔族は言葉の後半は言い切れませんでした。なぜなら目の前にいる少年の瞳をしっかりと見てしまったためです。その青い瞳から”絶対に勝利する”ことを疑っていない強い心を感じたからです。




