44話 エピソード明かりを灯す者3
エクサ国の王城の一角に王城の警備隊の詰所がありました。今日も人の出入り、品物の出入りなどの検査や城内の巡回、不審物・不審者の摘発などを行っています。その中の一部屋に王城のあちらこちらを見張る役目を受けた人の部屋がありました。アイナという宮廷魔術師の少女でまだ弱冠13歳のサージュの魔法使いです。
アイナは守護精霊”真実の瞳”のオリジナルスペル”千の瞳”という特殊な魔法を使います。複数の場所を同時に見れ、夜でも昼のように見えるため夜の警備の主任者に抜擢されています。そのため、年齢的には過分な権限を与えられていました。
アイナは非常に短気で怒りっぽく、部下に尊大で、周りの者に嫌われていました。しかし、悪口を言ったある部下はその能力をフルに活かして調べ上げられ、ちょっとしたミスを大きく取り上げられた上に、私生活まで暴露されてとても恥ずかしい思いをさせられて左遷されてしまいました。
そんなわけで、今のアイナに、夜勤明けの朝のピリピリした彼女に声をかけられる者はだれもいませんでした。
「おはようございます皆さん。おはようアイナ!」
「呼び捨てにしないで!何度言ったらわかるの!」
「アイナ、はい、差し入れ。」
「うっ」
そんなピリピリした空気の中、1人の少年の爽やかな挨拶が飛び込んできました。シオン・ブロッサムというアイナの部下として働いている少年です。夜勤明けで疲れていたところに、好物のアップルパイとスッキリとしたいい香りを放つお茶を載せたお盆を出されて思わず手を出してしまいました。アイナが受け取った瞬間にはシオンは手を離して敬礼をしています。
「では、明かりを灯しに行ってきまーす!」
「ちょっ、えっと、」
アイナの返答を待たずにシオンは歩き始めました。足かせの鉄球を軽快に引きずる音を残して。
「何なのよ、あの子は!」
同じ部屋にいた多くの職員が心の中で喝采を送る中、アイナは一人毒づいていました。アイナにとって最も警戒する存在が彼だったのです。何故ならシオンは彼女の”千の瞳”から逃れられる唯一の存在だったからです。
アイナは元々、サージュの魔法使いの中では取り立てて期待されていた存在ではなかったのです。むしろ、低能と見下されていました。それが契約した守護精霊が進化したとき、レアなオリジナルスペル”千の瞳”を持ったことが分かってから彼女の人生は一変しました。あれよあれよという間に宮廷魔術師に抜擢され大切な仕事も任されました。
すべてはオリジナルスペル”千の瞳”のおかげです。しかしその魔法をすり抜ける者がいる以上、今彼女の存在意義が問われているのです。アイナは非常に危機感を募らせていました。彼女は何か弱みを見つけてシオンからどうやってすり抜けたか白状させたいと思っていましたが、シオンは”見てはいけない”と命令されている王宮に住んでいるために私生活のチェックはできないのです。
アイナはなにか彼を動揺させたり、焦らせたりして情報を引き出そうとしました。まずは10人程が行う”明かり灯し”をシオン1人にさせましたが彼は平気な顔でこなしました。ならばと足かせを着けさせたり、精霊封じの魔具を身につけさせて守護妖精を封じたりしました。ですがシオンは全く嫌な顔もせずに爽やかにそれらを受け入れました。
さらに彼女はシオンに”アイナ!”と呼び捨てられてイライラしていました。もっとも年下のくせに、などと思う彼女の方が彼よりはるかに多くの年上の部下たちに呼び捨てどころか罵倒さえしていることは頭の中から綺麗さっぱり抜けています。
アイナにはシオンが初めてあったときに言った”君には一生見つけられないよ”という言葉が常に頭の中から離れません。
「せめてなにかギャフンと言わせないと、……そうだ。」
なにか思いついたアイナは人の悪い笑みを浮かべました。
周りの者は何も見なかったことにして、一人の少年の将来起こるであろう不幸を心の中で悲しみました。




