柒話 牡丹の羽織
遅くなりました!すいません!
「着きましたよぉ六花さま。目を開けても大丈夫です」
あまりの速度に硬く目を瞑ってしまっていた私は四鬼さんの言葉に、恐る恐る目を開けた。
「広い・・・っ」
目に飛び込んできたのは畳が香る和室だった。
手前に書字台が置かれ、奥の衣桁には牡丹が咲き誇る色鮮やかな羽織が掛けてある。
「どうです?私がこの部屋準備したんですよ〜」
四鬼さんは誇らしげに胸を張った。床に下ろしてもらった私は羽織のことについて聞いてみる。
「あれ、何でしょうか」
「さぁ・・・私にもよくわかんないんですよ。部屋を整え終わった時に大奥さまが運んできたので」
「大奥さま、ですか?」
「あ、ご当主様のお母さまのことですよ。そのうち会えると思います。あーでも、もしかすると大奥さま嫌がるかも・・・」
その通りだ、と思った。
人間で、鈴みたいに可愛げがあるわけでもなく、何かこれといって特技があるわけでもない。愛嬌はないし、暗い性格。おまけに身なりもこのボロボロさでは心証が悪くても仕方がない。
ずうぅんと落ち込む私。四鬼さんはしまった、というようにバツが悪そうな顔をすると、慌てて取り繕った。
「あぁっほら、まだわかんないですし!たぶん、六花さまが思うような『嫌』ではないので安心してください!あ、お湯が沸いたみたいなので湯殿にいきましょう!ねっ
薬湯ですから芯まで暖かくなりますし、薬湯ならではのあのキツイ独特の匂いが全くしないんです!
うちの薬湯は一条鬼が直接術を込めて作るので特殊なんですよ!結構いい匂いがします」
落ち込む私を励ますように明るい声でお風呂の話をする四鬼さん。
「かなり霊力を含み妖にも人気なんでたまに銭湯のように解放してるんですよ。ただちょっとお値段が高い・・・。でも入ったあとは本当に調子が良くなるんです!」
美肌効果もあるんですよ〜という四鬼さんの言葉に私は青ざめる。
「そんなものに私なんかが入っていいんでしょうか」
「六花さまだから入っていいんですよ!ご当主さまの奥さまになるんですし、そもそも、椿姫というだけであなたはとても尊い存在なんですっ!六花さまが六花さまでいるだけで、私たちはとても助かりますし、とっても嬉しいんです」
私が私でいるだけで、嬉しいーー
その言葉は私が一番望んでいて、今まで私が一番手に入れることのできなかった言葉だった。
「どうかしました?六花さま」
「いえ、なんでも・・・何でもないです」
四鬼さんが私をまた抱え上げる。そしてまた、えげつなく速い四鬼さんによって湯殿に向かったのだった。
◇◇◇
「すごい・・・ほとんどの傷が治ってる・・・」
「椿姫さまは人間ですけれど、細胞の一つ一つに霊力が宿ってますから。霊力を補給する事で細胞が、活性化?するんですって。それで傷が治りやすくなるんだとか。そこの仕組みは妖と似てますね」
幾重にも重なった傷跡はなかなか治らないからこれから何度も薬湯に使って治さないといけないらしい。
「ここまでしていただいて・・・」
「ご当主さまに感謝ですねぇ〜」
「はい」
今は四鬼さんに傷んだ髪の手入れをしてもらっている。一条邸の庭に生える椿から取った油を毛先から丁寧に揉み込む。そのあと木の櫛で丁寧に解いて四鬼さんの術で温風を当てて乾かす。
「結構艶が出てきましたね。長期戦です!
いつかご当主さまがめろっめろに惚れ込んでしまうくらいの美少女にしますからねぇ〜‼︎」
「あ、えっと、お手柔らかに・・・?」
やたらとやる気に満ち溢れる四鬼さん。髪が完全に乾いた私はまた四鬼さんによって部屋へと運ばれ、六年ぶりの暖かい布団をかぶって眠ったのだった。




