参話 縁談
「うっ、ぐすっ。ひ、酷いわお父様。鈴を一条に嫁がせるだなんて!鈴は藤也さんが好きなのにぃっ!」
「あぁ、可哀想な鈴。でも大丈夫だよ。僕がきっとお父様を説得して見せるから」
見事に2人だけの世界が出来上がっている。するとお父様が鈴に優しく声をかけた。
「その通りだ鈴。大丈夫。お前が一条に嫁ぐことはないさ。愛娘を化け物の元へ嫁がせるものか」
「当たり前でしょう⁉︎あなたっ!」
それにかぶせて義母が怒鳴る。
そしてからようやっとお父様がこっちを見た。
「この度、鈴に縁談が持ち上がった。相手は…一条のご当主さまだ。」
「一条…!」
妖たちを束ね、その筆頭を務める鬼の一族。それが、一条。華族の中でも有数の財力を誇り、妖の中の頂点に立つ。そんな一条が…。
「なぜ一条がうちに…」
「知るか!しかし、一条は妖とはいえ我が家よりも上の序列。この縁談を断ることはできん。」
そこでお父様は一度息をつく。
「…そこで、だ。一条はうちの娘を欲している。まだ鈴は幼く、成長すれば、浜ノ家との婚約も望める。
…だから、お前を鈴の代わりに嫁がせることにした」
「私が…?」
私はゆっくりと瞬きした。私は、一生結婚することができないと思っていた。
けれど…
一条には有名な言い伝えがある。
『一条には近づくな。一条の鬼は人を喰う』
子供の童歌。それは、童歌になる程に有名だ。
一条の一族の鬼は、古代人を喰らって生きていた。
それ故に一条には逆らわないし、関わらない。
そうして一条は孤高の存在となっていった。
そして、基本妖は妖としか番わない。そんな妖に人間である私に嫁げということは…
「私に、死ね、と、おっしゃるのでしょうか」
つい、声が震えてしまう。すると、お父様はそんな私の言葉を鼻で笑った。
「だから、なんだというのだ。役立たずで疫病神だったお前がやっと役に立つのだ。
…化け物には化け物がお似合いだろう?」
化け物。
それは私が生まれてきてから何度も何度も言われてきた言葉。私の心に染みついてしまった傷跡だった。
額から油汗が伝う。乱れる呼吸を正そうと深呼吸をした。
「お姉さまにぴったりの縁談よ。しかも!私の代わりになれるのよ?ありがたく思いなさい」
「あぁ、こいつの顔を一生見なくて良くなるのだと思うと清々するわぁ」
いつのまにか泣き止んでいた鈴と義母が嘲笑う。
私に求められるのは、一条に嫁いで、死ぬこと。
けれど、それで役に立てるなら、と思う自分がいた。
私は三つ指をつき、深く首を垂れた。
「その縁談、わたくし、六花が謹んでお受けいたします」
やっぱり声が震えてしまった。私の人生が、こんなにも早く終わってしまうだなんて思っていなかった。




