壱話 紅い瞳の少女
大倭大倭帝国。時は大正。
私、如月 六花が住まうこの国では、300年も前に人と妖が土地を巡り大きく争った。双方に沢山の犠牲者を出したこの戦争は決着が付かず、『人と妖が同じ土地で共存する』という協定を結ぶことで終結した。
と言っても、ほとんどの妖は人にはでき得ない奇跡を起こすような力を持っていたため、かなりの財力を持つ妖が多い。
九尾なら、火を起こしたり変幻したり。天狗なら、飛べたり風を意のままに操ったり。
今となれば人と同じような形をしているためすぐには見分けがつかないが、その妖たちが持つのは森羅万象に影響を与えるとても強い力だ。
私はそんな時代に如月という華族の元に生まれた。いうところのご令嬢という奴だ。
しかし、私は決して年頃のご令嬢のように煌めいた暮らしをしていたわけではなかった。
赤切れだらけの手。お世辞にも艶やかとは言えない痛んだ黒髪。痣や傷痕だらけの身体。所々破れている着物。そして…真っ赤な瞳。
普通、純粋な大倭帝国の人間なら、黒髪に黒い瞳を持って生まれるはずだった。しかし、私が持って生まれてきたのは黒髪の真紅の瞳。血のような、真っ赤な瞳だ。そして明らかに白すぎる肌。
妖ならこう言った容姿の類いもいるが、私は人間だ。
正真正銘人間の母の腹から生まれてきた。
母は産後の肥立ちが悪く、私を産んだ直後に亡くなった。
『お前の目は母の血を吸った。だからそんなに赤いのだ。』
『母親殺しの化け物が‼︎』
そう言われ、私は人外の化け物として蔑まれてきた。
すぐに父は義母を娶り、私が3歳になった頃に妹も産まれた。
義母は酷い人だった。罵詈雑言を浴びせられ、息をするように私を否定した。そのうちに成長してきた妹でさえも私を見下し、手を上げるようになっていった。
十になるまでは、乳母と侍女一人によって育てられてきた。その二人も勤務態度は悪く、暴力さえなかったものの、罵詈雑言や職務怠慢は日常茶飯事だったのは良く覚えている。
十になった誕生日、父に呼び出された。十になれば認めてもらえる。そう信じていた私は浮き足立つような思いで父の元に向かったのだが、父から告げられた現実は重いものだった。
『この家で暮らしたいならば、明日からこの服を着て使用人と同じように働け』
そう言って私に投げるようにして与えたのはお古の下女が着るようなお仕着せだった。
その時の義母と妹の歪んだ笑みはたぶん、一生忘れることができないんじゃないかと思う。
そうして、今日にいたるまで、使用人と同じように働き、粗末なものを食べ、義母と妹の暴言、暴力に耐えながら過ごしてきたのだ。