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再会

ルノヴァナ観光協会

ルノヴァナ北部には険しい山々が聳え立っており、毎年冬には命知らずの登山家達がチャレンジしています。

 戦争が終わって、2年程は平穏だった。皆が復興に向かって力を合わせていた。ある程度復興が進むと、政府は新しい政策を進めた。再び敵国の侵攻を許さぬよう、すぐに反撃が出来るよう、軍備拡張路線へと漕ぎ出したのだ。予算を大幅に増やし、戦車や航空機の増産も決定した。また東の隣国、連邦との軍事同盟締結も視野に入れ始めた。全ては平和のためだった。しかし、それが混乱の原因となった。

 

 次なる侵略戦争の準備、軍事独裁国家の下地作り、先の戦争は金儲けのためのシナリオ……。そうした陰謀論が囁かれるようになった。「侵略戦争で100万人死ぬなら、革命を起こして1万の犠牲に留める」そうした思想も現れ、一部の人々が革命へと走り出した。彼らは革命派と呼ばれるようになった。以来、ルノヴァナでは過激なデモや暴動が頻発していた。暴動を起こすのは革命派だけではない。それに対抗する保守派も、国家への攻撃こそしないが騒音を撒き散らし、革命派やその他左派勢力への暴力行為を行なっている。


 朝、昨日の打撲を引きずりながら、ガリナは出勤した。正式配属から2日目だ。

「今日もよろしくね」

会って早々、タチャーナは装備を身に付けるように言った。昨日と同じく、フル装備で事務作業を任された。今日の「任務」はいらない紙をハサミで切ってメモとして使いやすいようにすることらしい。ガリナは事務員にやらせれば良いと思ったが、よく考えたら彼らにも仕事がある。だからこうした雑務は自分のような新入りにやらせておけば良いのだと納得してしまった。出動要請がなければ実際暇なのだ。しばらく紙の裁断を続けていると、タチャーナが戻って来た。

「戦果はどう?」

「半分程です」

「順調そうね。少尉が出張から戻られたから、挨拶に行きなさい。我々の小隊長よ」

そう言ってガリナを連れ出した。ヘルメットや防具も外すように指示された。そして、2階にある将校のオフィス、その1つに案内された。

「若い女性だから安心してね」

それだけ伝えると彼女は去って行った。ガリナは扉のプレートに書かれた名前を見て驚いた。レイラ・ペトロフスカ。知っている名前だ。

「あの、この方って……」

思わず振り返った。だが、その頃には既にタチャーナは1階へと降りていた。ガリナは身だしなみを整え、扉をノックする。


 中に入り、その将校と目が合うと息を呑んだ。後ろで結んだ色の薄い金髪、澄んだ緑の瞳。あの頃と変わらない。いや、時が経ってより綺麗になったようにも見える。

「……本当に貴方だったなんて。久しぶりね」

彼女はゆったりとした動きで椅子から立ち上がった。

「お久しぶりです。レイラ……少尉殿」

懐かしさに包まれながらも、ガリナは姿勢を正して敬礼した。彼女もそれに返してくれた。

「名前を見た時は驚いたわ。まさか私の部下になるなんてね」

「私もです」

感動の再会に、ガリナは胸を躍らせていた。もう会えないと思った人とまた会えて、それどころが同じ所で働けるだなんて。

「感動の再会だけど、部下になった以上特別扱いはしないからね」

取り繕いや気取った感じのない、常に自然体で接してくれる彼女は相変わらずだった。

「入って2日目ってことは、初心任務中かしら」

「はい。書類の裁断中であります」

「……随分楽しそうね」

いつの間にか口角が緩んでいたらしい。

「だって、レイラさんにまた会えたのが嬉しくて……」

「そう。でも、挨拶は済んだから任務に戻りなさい。言ったでしょ?特別扱いはしないって」

残念ではあるが、今は彼女と会えただけで充分だった。その事実だけでガリナは重い装備も、暴徒に殴られた痛みも忘れる程だった。レイラとは戦時中に、とある戦地で会って以来だった。4年前、ガリナは友人と出掛けた先で戦闘に巻き込まれた。そこで当時陸軍少尉だったレイラと軍曹のタチャーナと出会ったのだ。数日間行動を共にして、ガリナ達は安全な後方へ。レイラ達は次の戦場へとそれぞれ向かった。レイラは命の恩人であり、あの戦場で正気を保てた要因でもあった。


 昼休みガリナは食堂へ向かった。この時間だけは、装備を脱ぐことを許されていた。身体も、心も軽い。食事のプレートを持って座る場所を探していると、レイラが近くに座ったのが見えた。ガリナは彼女の前に移動する。

「……何か用?」

「いえ、単純に色々と話したくて」

「そう」

彼女はどこか素っ気なくも、親しみやすいように返した。

「それにしても驚きました。まさか保安隊で会えるだなんて」

「憲兵から派生した組織だから、今も陸軍との癒着が強いのよ。陸軍上がりは珍しくない」

「タチャーナ軍曹もですね」

「そうね。誘ったら来てくれた。ロベルトも」

彼女はランチを食べながら答える。その所作からも優雅で上品な雰囲気が感じられた。

「そのスープ、美味しいですよね」

「……まだまだウブね」

レイラの言った意味が分からず、首を傾げた。

「種類が少ないから飽きるのよ」

「それはそうと」と彼女はガリナの方を見た。

「私こそ驚いた。まさかこっち側に戻って来るなんて。今までは何をしていたの?」

雑貨屋の店員をしていた、とガリナは答えた。変わり映えのしない日々だが、それなりには楽しかった。だが、自分のやりたいことを考えた上で、今の仕事に進むと決めたのだ。ガリナはそのようなことをレイラに伝えた。

「ま、後悔しないようにね」

少ししてレイラは話題を変えた。

「それはそうと、4年前とあまり変わってないのね」

「どういう意味でしょうか?」

「もう少し鍛えた方がいい。お肉、よかったら食べる?」

「いいんですか?」

「この味には飽きてるの」

そう言うと彼女は、まだ手を付けていない鶏肉の切り身を勧めた。ガリナはお礼を言ってそれを貰う。甘めの味付けがされている。

「私は好きですよ?これ」

「……携帯食糧に比べればご馳走だけど」

そのまま2人は静かな会話をしながら食事を済ませた。食事が終わるとレイラは会議があると言ってすぐに立ち去ってしまった。それでも、彼女とまた会えただけで充分だった。

ルノヴァナ観光協会

ルノヴァナの郷土料理といえば甘いソースをかけた鶏肉ですが、地元の人にとっては伝統というより食べ飽きた味だそうです。

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