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資金の行方

 ビジネス街の一角にある古びたビル。そこは「青年政治クラブ」の集会が開かれる場所であった。元々は政治に興味のある若者が思想を問わず集まる場所であったが、最近は革命派の溜まり場となっている。その日の夜、エミール達の「革命研究会」も出席していた。レストランのようになった部屋の中に、様々な革命派グループが参加している。今はそれぞれが近況を報告する時間だ。武力を伴う過激な行動を自慢する団体もいれば、言論による穏健な活動を報告する団体もいた。しかし、どのグループからも武力への非難の声は上がっていない。やがてエミール達の順番となった。

「僕達革命研究会は有志の資金提供、募金活動によって9万ラーンの資金を得ました」

銀行強盗で得た金だが、ヴィクトルは出所を隠して伝えた。金額も実際はもっと稼いでいたがそれも隠しておいた。これもエミールの提案だった。革命研究会は小さく、目立たないグループだ。少しずつ資金を提供し、影響力を高めようという策略だった。いきなり大金を出せば怪しまれる上に、効果が長続きしない。エミールが密かに企む全面戦争を起こすためにも、緻密な計画と組織間の連携が必須なのだ。

「9万も?凄い金額だな」

皆にざわめきが広がった。ここにいる多くが10代20代の若者で、彼らに取っては大金だ。

「ああ。皆の給料を合わせたり、募金を行ったりして貯めたんだ」

エミールは苦労した、というような口調で言った。

「この金は、ここにいる同志の皆と相談して使い道を決めたいんだ。どう思う?」

エミールがそう聞くと、最初に保安隊の車両を破壊したと言った男が手を挙げた。キールよりもがっしりとした体格で、軍人のようにすら見える。彼はオレグと言うらしい。

「やはり、武器を買うべきだ。今の我々は拳銃か猟銃程度の貧弱な武装だ。爆弾は自作出来るにしても、保安隊とやり合うならまずは数、それから接近戦に強い短機関銃が必要だ」

エミールはそれには同意見だった。彼自身も拳銃と狩猟用のライフルしか持っておらず、革命研究会のメンバーも武器を持っているのは少数だった。


 彼に続いていくつか意見が挙げられたが、結局は武器の購入でまとまった。戦場中、義勇兵には小銃や短機関銃が支給されたが、戦後になって政府がそれの回収に乗り出した。銃を返還すると報奨金が貰えるため、金目的に多くの義勇兵が返還してしまったのだ。返還されてない短機関銃の多くは、マフィアが高額で取引しているという。

「それに関してなんだが」

とオレグが口を開いた。

「我々に協力的な町工場があって、銃が手に入れば複製してくれるそうだ。製作費として我々に4万程預けて貰えないだろうか?短機関銃を手に入れるルートは考えてある」

「エミール、僕は構わないけど……」

ヴィクトルが小声で言った。

「ああ。君に託そう。反対の者はいるか?」

そう言って周りを見るが、異論は無いようだった。

「助かる。時間は掛かるが、次期に数が揃うはずだ」

オレグは何度も礼を言っていた。ヴィクトルによると、彼はこの界隈ではそこそこ顔が広い方だそうだ。なのでエミールは少し多めに金を渡しておいた。残りの金額は、何人かの代表者が持ち帰り、それぞれ銃器の購入資金に当てることにした。


 帰り道、オレグはエミール達を後ろから追いかけた。エミールがそれに気が付いて振り向く。

「なあ、あの金は本当に募金や寄付で集めたのか?」

彼は真剣な表情でそうに質問した。

「ああ。中々に大変だったよ」

「9万も集めて、それを簡単に配って良いのか?」

「同志、革命のためだろ?」

「本当は、もっとあるんじゃないのか?」

彼のしつこい問いに、アナスターシャが不安そうにしていた。

「オレグさん、何が言いたいんですか?」

「単刀直入に言おう。その金、盗んだんじゃないのか?」

彼の眼は、それが真実だと分かっているように自信に満ちていた。エミールは内心焦った。もう少しほとぼりが冷めるのを待つべきだったか。

「資本家や軍国主義者から盗んだのなら勿論警察に言うつもりはない。俺だってお尋ね者だ。」

「そうは言っても、なあヴィクトル。俺達は強盗なんて……」

エミールはリーダーであるヴィクトルの様子を伺った。オレグが信用に値する人物かは、彼の方が詳しい。

「いや、正直に話した方がいいよ」

「良いのか?言って?」

「エミール、彼のゲリラ部隊は有名であちこちで強盗や爆破をやってる集団なんだ」

ヴィクトルが耳打ちした。そしてオレグに真実を話す

「あの白鳩銀行の強盗、あれは僕達がやったんです」

「本当か?」

オレグがヴィクトルの顔を覗き込む

「はい。本当です」

オレグの目を見ながらいうと、彼は感心して大笑いした。

「白鳩銀行を襲ったのか!なるほど、通りで羽振りがいいと思ったぜ!」

ひとしきり笑った後、彼は言った。

「実は今、銃を強奪する計画があるんだ。よかったら協力してくれないか?度胸のある仲間が必要でね」


 翌日の昼間、エミールはアーシャと射撃場に来ていた。金を払えば誰でも射撃の練習が出来る場所だ。山の中にあり、時折風も吹くので実戦に近い状態での射撃が可能だ。

「それじゃあ、構えて」

「ええ」

彼はアーシャの後ろに立ち、構えを確認する。彼女も撃つこと自体は出来るが、革命研究会の中でも下手な方だった。この前の強盗は脅しが目的だから、反動の少ない小口径ピストルを持たせていたが、今日は自分の軍用拳銃を貸している。標準的な威力を持つ9mm弾だ。

「スライドは引いた?」

「確かに」

「じゃあ、安全装置を外して撃って」

「やってみるわ」

アーシャは片目を閉じ、緊張した面持ちで的を狙った。


 引き金を絞るとパン、と短い破裂音がした。弾は円形の的を大きく外れ、後ろの砂山に当たったようだった。

「握りが悪かったかな?もっと両手でしっかり握って。それから、撃つときは眼を瞑らない」

エミールは彼女の手に触れて握り方を直した。

「あっ……」

と小さくアーシャが声を漏らした。

「どうかした?」

「ううん、なんでもない」

彼女は首を横に振ったが、顔が赤くなりつつあった。数日前の情事を思い出したのだろう。エミールはもっと揶揄いたくなったが、今はやめておいた。彼女にはせめて、自衛出来る程度になって貰わないと困る。

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