表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

最後の1人

1945年7月15日。1隻の軍艦が進水式を迎えていた。


シャンパン役のLadyによって「彼女」は次の如く命名された。

「合衆国軍艦ジュノー」実は「この」名は「彼女」の「姉」から、

そのまま受け継いだものだった。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


「彼女」の誕生を祝う参列者の中に、1人の「元」兵士がいた。


ヨーロッパの戦いは、すでにして5月2日に勝利している。

特に「この」元兵士は、ずっとイギリスでの後方任務だった。

そのため、対日戦争は後1ヶ月だけ残した「この」時期に本国に帰還もしていれば、

すでに退役して「元」兵士に成っている事も出来たのだが。


そして「彼」すなわち、ライアン「元」兵士が「こうして」本国に戻って来れた事と、

目前で進水する巡洋艦とは、実は無関係では無かった。

だから、こうして参列もしたのだが。


…    …    …    …    …    …    …    …    …    …


1942年11月13日の金曜日。

日本側の“大本営発表”では第三次ソロモン海戦と呼ばれる、3日3晩の戦闘が発生した。


最終的には「ガダルカナル」島に対する日本軍の艦砲射撃と護送船団は阻止されたが、

アメリカ軍の受けた損害も小さくは無かった。


「アトランタ」クラス防空巡洋艦の「アトランタ」「ジュノー」も参戦していたが、

本来は味方空母を守って、敵の航空機と戦う防空巡洋艦としては不本意な、

夜間殴りこんできた、敵の駆逐艦や高速戦艦との殴り合いの末

「アトランタ」も「ジュノー」も損傷して退却した。



間も無く「アトランタ」は力尽きて沈没。

「ジュノー」もまた、潜水艦伊26からの魚雷攻撃で止めを刺された。

「やっぱり13日の金曜日だった」そうアメリカ艦隊を嘆かせた、

この海戦での「ジュノー」からの生還者は10名しか居なかったと伝えられる。


…    …    …    …    …    …    …    …    …    …


特に、大げさに言えば全米を嘆かせたのが「サリヴァン家の5人兄弟」の悲劇だった。


「パールハーバー」の後、サリヴァン家の兄弟は、そろって海軍を志願した。

そして、兄弟が同じ艦に乗り込んで、力を合わせて戦う事を希望した。


結局の処、米海軍は希望を受け入れて、兄弟5人を「ジュノー」に乗せていた。

この時点では、海軍の温情でもあり「美談」として宣伝もされた。


だが、結果として、温情も美談も裏目に出た。

“13日の金曜日”に撃沈された「ジュノー」からの生還者は10名しか居なかった。

その中に「5人兄弟」は1人も居なかった。


………。


……。


…如何に「サリヴァン家の5人兄弟」の悲劇が、当時のアメリカ本国で有名になったかといえば、

逆説的だが、早くも翌43年には「ザ・サリヴァンズ」と命名された駆逐艦を進水させている程だ。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


以後の米軍では「最後の1人ルール」が実施される。


「同じ家族の兄弟は、同じ部隊で、同じ作戦任務に就けてはならない」

「もし、兄弟の内、1人を残して他の全員が「戦死」ないしは「行方不明」になった場合、

 最後の1人は前線任務に就けてはならない」


ライアン「元」兵士もまた、この「最後の1人ルール」を適用されて

「ノルマンジー」から連れ戻された。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


一方で「サリヴァン家の5人兄弟」とともに戦った巡洋艦「ジュノー」の艦名も、

建造中だった姉妹艦に受け継がれ、今日、ここに命名と誕生を迎えていた。


その進水していく「ジュノー」を見つめながら、ライアン「元」兵士は

「これから」の人生を思い迷っていた。


「兄」たちの分まで生きなければならない。それだけが判っていた。


………。


……。


…1960年代も半ばを過ぎて、人生の壮年期に差し掛かっていたライアン「元」兵士は、

ある日「ある」場所を訪問した。


ニューヨーク州バファロー市。

一般にはナイアガラ滝の観光基地として知られている都市だが、

ここには海軍軍人記念公園があり、駆逐艦「ザ・サリヴァンズ」を含めた数隻が保存されていた。


ライアン「元」兵士にとっては「ここ」もまた、1生の間には訪問すべき場所の1つだった。

御意見、御感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ