【短編】あの子からの電話
「もしもし?わたしメリー。今あなたの後ろにいるの」
メリーさん。
誰もが一度は耳にしたことがある都市伝説。その有名な台詞。
今、電話と背後、その両方から私の耳に届いた。
やっとこの日が来たのだ。どれほど待ち望んだことか。
*
私とあの子の出会いは運命的だった。
あの雨の日、電柱の影に隠れるようにしてうずくまっていた彼女と目が合ったのだ。
体に雷が落ちたような錯覚を受けた。
この子だ!
何故か分からないけど、そう思った。
それからすぐにお家へと連れて帰り、お風呂に入れ、可愛いお洋服を着せてあげた。
言葉はわからないけど、あの子が嬉しそうにしていることだけは分かった。
それから私の生活は一変した。
彼女が喜ぶ為なら、なんだってできた。
母からも、何かに夢中になれているようで良かったと言ってもらった。
けどある日、買い物から帰るとあの子が私の部屋からいなくなっていた。
母だ。
直感的そう思った私は、母を問い詰めた。
何故、あの子を捨てたのか。
夢中になるものができて良かったと言ってくれたではないか。
私が激怒するとは思っていなかったようで、怯えた顔をしながら、まさか、ああいうことになっていたとは知らなかったと私に話してくれた。
ようするに、人形遊びに夢中になっているのが不気味に感じたのだろう。
それで、原因である人形を捨てたのだ。
私は母に絶望した。
ところで、メリーさんの話を覚えているだろうか。
そう。メリーさんは捨てられ、その持ち主を探すために電話してその人の元に向かうのだ。
私と状況が一緒なのだ。
だから、私は待った。
彼女がメリーさんとなって、私の元に戻って来てくれるのを。
*
「もしもし?わたしメリー。今あなたの後ろにいるの」
その声が聞こえ、歓喜に震えながら後ろを振り返る。
「ああ、この子も違った」
他のゴミと同じだったそれを、後ろへと放る。
はあぁ。いつになったら私の元に帰ってくるのだろう。
彼女が拾って来たのは本当に人形だったのでしょうか。