ありきたりな朝食〈二次創作〉
しいな ここみ 様 主催の『リライト企画』(企画期間:R5.10.15〜R5.12.31)の参加作品をリライトした作品です。
作者:しいな ここみ 様 の純文学作品『ありきたりなラブストーリー (5217)』 https://ncode.syosetu.com/n6435hm/ が未読の方は、先にそちらからお読みください。
娘が去った。
家にはぽつんと、自分一人が残された。
食後のコーヒーを入れようとして立ち上がると、トースターのそばに置いた食パンの袋が目に入った。
五枚切り。
朝食に、私が一枚焼いて食べた。
残りは一枚。
藤色の風呂敷に包まれた、骨壺が入った四角い箱をそっと撫でる。
まだ若かった。
まだまだこれからだった。
葬儀では、元夫に約十年ぶりに会った。
お互い老けたな、と言われ、苦笑いされた。
どのツラさげて来やがった、と言って張り倒してやりたかった。
養育費も途中から支払わなくなったくせに。
でも、目元が陽菜と同じで、私が引き取ったのに、申し訳なくて、貴方の娘だったのに。
ただ、ごめんなさい、としか言えなかった。
陽菜の気配をずっと感じていたから、火葬が怖くて、でも、骨になって戻ってきても、陽菜の気配はそのままそこにあった。
それから、ずっと陽菜の気配は私のすぐそばにあって、でも姿は見えなかった。
一昨日の晩、テレビをつけたらお笑い芸人のコンビがコントをしていた。
気分じゃなくて電源を切ろうとしたら、クツクツと、陽菜が笑っていた。
昨日の朝は、その前の日にドラッグストアで買った食パンを焼いて食べた。
あとから陽菜も起きてきて、陽菜も自分で焼いて食べていた。
今朝、陽菜は慌てた様子で食パンをくわえて出て行った。
元気な、いつも通りの陽菜だった。