少年と師匠
少年は拳法を習っていて、凄腕だった。しかし師匠だけは打ち負かせずにいた。
師匠は言った。
「お前は、俺に勝てないのではなくて、勝つ気がないのだ。お前にはなまじ才能があるから、その気がなくても誰にだって勝ててしまう。だから勝利について、お前は真面目になれてこなかった。
しかし俺が相手となるとそうはいかない。同じくらいに才能があって、その上で、勝利に対して怠けるお前と、たとえ相手がお前如きであっても、勝ちたくて仕方がない俺とでは、天と地なのだ。
俺に勝つために、お前はもっと勝利に全力でなければならない。全部の甘えを捨てて、全部の苦労を拾って、全部の努力を実行しなければならない。そうして、己の内に勝利への渇望を培わなければならない。
たとえば砂漠にいて、全身が枯れて仕方がなかったとしても、水より勝利を求められるようにならなければならない。」
少年は心の底から納得した。そして、何かを思い立って、その日のうちに道場を飛び出していった。
しばらくして、少年は帰ってきた。
少年は、激烈に意気込みながら、師匠に決闘を申し込んだ。
師匠は、久々に見た彼の、全身からほとばしる情熱と気迫にいたく感動して、喜んでこれに応じた。
そうして、師匠の精神が、全霊をもって少年の精神の成長を確かめようとしたそのとき、少年は懐に隠し持っていたピストルを抜き出して、躊躇なく師匠を撃ち殺してしまった。
「どうだ!僕は貴方の言った通り、全部の甘えを捨てて、全部の苦労を拾って、己の内を勝利への渇望でいっぱいにしたぞ!ざまあみやがれ!この結末は貴方の教えの賜物だ!」