【特別編】「四月二日につく嘘は」エイプリルフール記念
その14と、その15の間のお話になります
「ねぇ、後輩ちゃん、知ってる? 今日って四月の一日よね? 今日はエイプリルフールなのね。でもってエイプリルフールにつく嘘は何でも許されるのよ。だから今から後輩ちゃんに嘘をついて騙します」
「……つっこみ所が、とっちらかっててヤベえっす」
いつもの四畳半の固有空間に、いつものように招いた後輩ちゃん、オッドアイの白猫、そろそろ二十歳を迎える生意気盛りの美猫さんを相手に、昨日ウトウトしながら考えていた、とっておきの嘘を披露する。
「じゃーん! 実は私、猫又検定にぃ……なんとぉ……受かってました! わーい」
「話、進めんなっす!!! つっこみ所が増えたぁ!」
私の妖術で作った固有空間に備え付けのコタツの天板を両前足でバンバン叩きながら怒る後輩ちゃん。情緒不安定なんじゃないの?
桜の季節も終わりかけ。天気も悪く、外出も億劫。ちょっとした暇つぶしとばかりに人間の風習を真似してみるのよ。わざわざ嘘をついて、そんでもって許す日とか、時々、意味がわかんないことするよね、人間って。
「どう? 騙された?」
「騙されるかぁっ!」
ひときわ大きな音を出して天板を叩いた後輩ちゃんが立て続けにまくしたててくる。
「突然の拉致をするなって言ったっすよね!? あっし、言ったっすよね!? 何すか、先輩の、その手を招いただけで誰かを拉致できる凶悪な妖術!? 頭おかしくなるっす!」
「何すか、とか言われても……何ゆえに猫がにゃあと鳴くのかと聞かれるようなもので、出来るから出来るよね、って話で……」
「こわぁ、怖い、一周回って笑えて来るレベルっす」
出来るから出来るものを説明するのは難しいのよ。だって出来るから。
「それと嘘をつくのを事前に言う奴があるかっす」
「えー、ちゃんと事前に心構えをしてくれないと、傷ついたりしない? 嘘って誰かを傷つけるものだし、怒られたくないし、それと後で、騙されたとわかった時に、笑ってくれないんじゃないかなって」
「律儀かっ! てか小心者かっ!」
律儀なのは後輩ちゃんも、なのよ。私の言う事にいちいちツッコミ入れてくれるから何気に安心する。それを期待している部分もあるのよ、口にはしないけど。
「悲しい嘘もやめろっす。現実を見て悲しくなんないんすか? www猫又検定www不合格のwww現実をwww」
怒っている表情から一転、今度は私を見て笑ってくる白猫。
「うっ、それを言われると、ツラい……ツラいよ、後輩ちゃん……つかなきゃよかった、こんな嘘……」
「だーっはははっははwwww」
今更になって猫又検定に落ちたとわかった時の悲しみがふつふつと込み上げてくる。もっと他に良い嘘はなかったの? 私。馬鹿。つかなきゃよかった、こんな悲しい嘘。
天板を叩いて笑う後輩ちゃんをジト目で見る。そんなに笑うこと無いじゃないのよ。
「ちょwwwこっち見んなっすwww眉間のwwwしわwwwがwww」
眉間のシワに見えるのは三毛の柄だから。怒っているように言われるけど、別に普段からも何も怒ってなんていないんだから。
「それと、今日最大のつっこみ所っす、先輩、心の準備はいいすか?」
「な、何?」
「先輩www、今日は四月の二日っすよ?www」
「えっ!? 嘘っ!?」
四月の二日!? だって、あづきと娘ちゃんが今日の朝、エイプリルフールの話をしていたから、私は今日が当然そうだと思って……あ、別にあづきたちも今日がエイプリルフールだって言ってなかった気がする。
「い、言い訳させて欲しいのよ。猫って、ほら、日付とか、いい加減じゃない? 標準的、一般的な猫の話よ? まぁ、私だって、いわゆる普通の猫と変わらないわけだし?」
「マwwwジwwwウwwwけwwwるwww」
腹を抱えてヒクヒクと震え出した後輩ちゃんが逆に心配になる。呼吸出来てる?
「はぁー、はぁー……ところで先輩、猫又検定の話で思い出したんすけど、検定資格が今度、20歳から25歳に引き上げられるらしいっすね」
「え!? 嘘っ!?」
「嘘っすww」
「騙されたぁ!?」
騙されたぁ! ありうる、すごくありうる話だもの。最初は10歳越えた猫が誰でも受けられた猫又検定、猫の寿命が伸びていくにつれて、検定資格の年齢も次々と引き上げられていたのを知っていたから。
「やられた……後輩ちゃん、ちょっと嘘つくのが上手すぎじゃないの? 息、大丈夫?」
今度は横になって笑いながら畳を叩いている後輩ちゃん。
「悔しいのよ……こうなれば四月の二日も嘘をついて良い日にしてしまうのよ」
「はぁー、はぁー、また、おかしなことを言い出したっすね、死ぬかと思ったっす……」
笑い死にとか、やめて欲しいのよ。弔う方も微妙になっちゃうでしょ。
「いい考えじゃない? どうせ最初からエイプリルフールなんて意味不明なんだし。四月の二日につく嘘は……今はそうじゃないけど、いつかそうなればいいなって嘘をつく日にするの」
「するの、って、そう簡単に人間の風習は変わんねーっすよ?」
「よく考えてみるのよ、後輩ちゃん。こういうのってさ、何事も最初に言いだした人がいて、徐々に広がっていくものでしょ? 今度は四月二日の嘘が広がっていって、それが世界の常識になるのも別におかしくない、うん、おかしくないのよ。四月二日は希望の嘘の日。未来の夢、願望を嘘にして言葉にする日。うん、いいかも」
「先輩が言うと、鼻で笑って済ませられない感じの、底知れぬ不安がするっす。あれ、何だか寒気が……」
「先ずは、そうね、馬鹿チャトラあたりから広めましょう。天気は悪いから、また今度でいいか」
「あ、すごく安心したっす」
「ほうじ茶、飲む?」
「いただくっす」
後輩ちゃんにお茶を振るまう。このほうじ茶は田辺のババの家からくすねてきたものだけど。あのババ、わざわざ私の前で、あたしは新しいお茶しか飲まないんだよー、とか言って捨てるの。十分新しい良いお茶じゃないの、もったいない。だから私が拾って有効活用。ふふん。贅沢ババはきっといつか痛い目を見るのよ。
後輩ちゃんは、私の淹れたほうじ茶を、ふーふーと息を吹きかけて冷まし中。猫舌だよね、彼女。普通か。私は熱いの平気だけど。
熱い淹れたてのほうじ茶を飲んで、ほっと一息をつく。
猫又検定に合格した。嘘だけど、それはまだ達成されていないだけの嘘。今は嘘。
その嘘を、本当にするように、がんばるんだ。
それには先ずは、やるべきことをやらないとね。今回の猫又検定では不合格になったこと、お世話になった頑刃 マスターや常世 のおばあちゃんに報告に行かないと。
そうしよう。
行動しよう。
天気が良くなれば、うん。
こういうのは、無理のない範囲で頑張ればいいものなのよ。猫ってそういう生き物だから。
この後、家に帰ってカレンダーを見て、今日が本当は四月一日だったことを確認して、めちゃくちゃ腹が立った。
おのれ後輩ちゃん。
彼女、嘘つくの上手すぎじゃない?
第二期開始
するのかな、しないのかな?




