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その59「公園で笑う猫」



 蒸し暑い……


 家にいても、進撃の幼女の娘ちゃんに追いかけまわされるので逃げてきた。まったく元気が在り余ってる。もっとおしとやかにしてくれないと。


 ご近所にある、そこそこ大きな公園で日向ぼっこ、のつもりが、なんだかもう暑い、そして蒸す。梅雨の季節ももうすぐに終わるはず。夏になれば、うかうかと外に出てこれないほどに暑くなる季節になるんだろうな。毎年同じ、今年も同じ。季節は順調に廻っている。


 テレビの予報ではこれから天気は下り坂に向かうとのこと。春先からこっち、いろいろ出歩いていたからね。行動範囲も広がったし、いろいろな人や妖怪たちとも知り合いになったのよ。わりかし狭い範囲で生きる猫にとっては、だけどね。


 公園のベンチに香箱座りをしていると、通りがかった人からカシャカシャと写真を撮られる。んー? まぁいいのよ? ただ座っているだけでごめんね? 可愛く撮ってね? せいぜい後で見返して癒されるといいのよ。


 そういえば、と、ねこねっとに繋いでみた。


 にゃん吉さんがねこねっとを通して私にメールを送っているけど返事が無い、なんて話を後輩ちゃん経由で聞いたのよ。居酒屋の時ね。知り合い同士でも連絡が取れるというので、後輩ちゃんと一緒に火輪姐さんともメール登録させてもらった。ふふ、姐さんからはまた3匹で演奏会して遊びましょうとのありがたいお言葉を頂いた。


 してメール機能をオン。意識するだけで妖術が展開する。相変わらずの謎技術。あった。にゃん吉さんからのメールが10通近く……


 とりあえず一通目を開いてみる。


『拝啓まるにゃーさんへ。本日行われた猫レースの、一部切り抜きシーンの動画が完成したから……』


 パス。削除ってどうやるの? あ、出来た。


 消した一通目のメールは私が屋根から落ちて行く動画に関しての内容だった。二通目も動画が人気だというメール。削除。三通目も似たようなもん。もう見るやめようかな。え、何? あの落下動画、ずっとついてまわるの? 失敗が記録されて残り続けるなんて、今は恐ろしい時代なのよ。それとも開き直った方がいいのかな? カシャのカリンみたいなあだ名をつけてさ、えーと、高所からカシャンと落ちる猫のマル、とか。いや我ながら酷い、酷すぎる……


 4通目あたりからは全部、今後の動画作成に関する提案、というより要請になっていた。出演して欲しいとか企画や演出をして欲しいとか、そういうの。最後の方では悲鳴になっていた。にゃーには才能がないにゃー、助けてにゃー、とか。


 ねこねっとの中の動画配信の領域を意識してみる。……くっ、あるのよ。私の動画。『衝撃のハプニング面白猫動画!』……消したい。


 見ないようにして他の動画を探す、いつぞや後輩ちゃんが言っていた、にゃん吉さんが作ったという『癒しの猫動画、町の猫たち』を見つける。再生は、ええと、意識すればいいだけか。謎技術。


 私の視界の一部を使って再生される映像。基本は無音、時々車のエンジン音、町の中にいる普通の猫と思われる猫たちを遠くから撮っている。時々カメラアングルがズームするように揺れ動いて気持ち悪い。極めつけは、時々入るにゃん吉さんの音声『いいにゃぁ~……かわいいにゃぁ~』とのボソボソ声……


 想像の100倍ヤバかった!?


 本気で!? にゃん吉さん、本気でこれを作っているの!? ふざけているとかじゃなく? たしか人化して働いている電気屋で地元の商店街を盛り上げる企画とかにも挑戦しているんじゃなかったっけ? そっちはどうなってるの? ここまでくると逆に気になる! にゃん吉さん、人間の中でちゃんとやっていけてるの?


 にゃん吉さん(人)が、人間の間でどんな引かれる企画ものを作っているのかに思いを馳せて、にゃん吉さんに送るメールの返答を考える。


 ええと、私は動画作成に関わりたくない事、それでもにゃん吉さんには動画作成を頑張って作って欲しい事、あまり人間の前でおかしな素振りを見せるのは良くないと思う事……


『拝啓、にゃん吉さんへ。変態なのはよくないと思います。私に関わらないで』っと。よし、これで私の思いは伝わるかしら?


 メール返信。っと。


 人に変化して、人として人と共に生きる猫又がどんな生き方をしているのかを考えていると、公園の中に見知った気配を発見。


 んー? あらぁ。北原くぅん、来たのぉ? ちょうどヒマしてたのよぅ?


 ってね、まぁあいつがこの公園を散歩コースにしているのは知っていたし、なんとなく会える気もしていたからね。して、その北原と思われる気配を出す人物は、ここから少し離れたところで知らない人たちと一緒にいるようだ。


 さてと。よし、北原いじりに行こう。





「最近、北原君って変わったよねー? 前は話しかけるなよオーラ出まくってた感じだったしー」


「そうそう、孤高の人って感じ、あはは」


「……い、う、出しているつもりは、ないけど、うん、そんな、感じだったかもしれない……」


「北原君って彼女はいるのー?」


「え、いや、その、いない……」


「えー、北原君、格好いいからモテるでしょー?」


「あ、いや、そんな、ことは……」


 気配を消して近づくと、北原を取り巻くようにして三人の女子が歩きながら会話をしているのを発見。そしてなんと北原のやつ、モテてやがるのよ。グイグイと北原に迫る女子たち、それをしどろもどろになりながら相手をする北原の図。見ているだけで北原のストレス値がグングン上がっていくのがわかる。かわいそう。ぷ。



「じゃあ、北原君、また講義でねー?」


「あ、うん、あ、じゃあ……」


 女子たちから解放されてぐったりとした北原は公園のベンチに座って大きなため息をつく。私はこっそりと北原の真横に座ってスタンバイ。気配消し解除。さあ来い。


「はああああ、疲れる……って猫ぉ!?」


 横にいる私に気がついて期待通りのリアクションをする北原、両手を上げて座ったまま飛び上がる感じが実に良いの。10点満点をあげる。


「気がつかなかった……え? いた? いなかったような……どこかで見た猫だぞ」


 私をまじまじと見つめながら独り言をいう北原。


「眉間にシワが寄ったような特徴のある三毛猫、あづきさんの家で飼われている猫だ……だよな? 名前はなんていったっけ?」


 マルですよー。賢くて可愛いマルですよー。まったく北原ったら、好きって思っている人の家の飼い猫の名前くらいは覚えとくべきなのよ。マイナス10点。


 私を見て、つばを飲み、ぎこちなく手を伸ばしてくる北原。


「撫でていいかな? 怒らない? 撫でるよ? いい? いくよ? いくからね?」


 猫に話しかける変態北原。つーほー案件ですよこれは。まー、しゃーないね、猫は可愛いもんね。北原にはこの前お世話になったから許してやるのよ。ほれ、撫でるがいい。


 頭を差し出すと北原は優しく撫でる。「ふあー」「大人しいなー」「可愛いなぁ」つぶやきながら満面の笑顔で撫でる北原。そんな通報ものの顔をした北原から、可愛い、頂きました。


 とはいえ猫の姿だしね。猫が可愛いのは当たり前。こいつには人間の時の姿を可愛いと言わせるのが目標なのよ。


 撫でるのを堪能した北原は私から手を放しベンチに座りなおす。そして遠くを見ながら溜息。


「猫はいいなぁ、猫になりたい」


 いつぞや聞いたセリフなのよ。猫も色々と大変よ?


「最近変わった、か、そうなのかな? ……孤高の人ってなんだ、いや女の子に話しかけられるのが怖くて逃げるような動きはしてたか。聞いてくれるかい? 猫ちゃん、僕は女の子が嫌いってわけじゃないんだよ、というか好きだよ、男だもんね、そりゃあ僕だって女の子は好きさ、大好きと言ってもいい。だけどさ……」


 なん、だと……、こいつ、猫相手に一人語りを始めやがったのよ。そんな話を聞かされる猫はどうすればいいの? 聞かされる猫のことを考えなさいよ。


 霊体をすこし千切って風船爆弾、じゃなくて爆発しない風船を作る。ただし今回は月じゃなく自分の姿。ふっふーん、新技「自分風船」完成。ようやくネズミ以外の生き物が上手に作れるようになったの、といっても今は猫の自分の姿だけっていうのが限界だし、ネズミのように自由に動かすことができないからね。今後も精進を重ねねば。


 この妖術が完成した暁にはなんだか色々出来そう、そんな可能性を秘めた自分風船を作ってから自分自身は人化する。お忍びアイドルバージョンね。眼鏡っ子のやつ。眠り猫のポーズをしたまま固まる自分風船は膝に乗せる。さあ、北原。カモン。


「……僕が変わった切っ掛けがあるとしたら、やっぱりあの子だろうな。あのとんでもなく非常識な女の子と出会ってからだ。その子と何度か話していたら、他の女の子にもそれほど緊張しなくなった。はは、といってもまだまだ緊張はするんだ、けど、ね………………」


 ベンチの横に座る私と目が合う。すごく合う。至近距離。見つめ合う二人。


「……ぅしゅぇぇぇぇぇぇ」


「ぶふっーーっ!? 何その驚き方! 何か漏れた! 何かが漏れた音がしたの! あははっ」


「どっ、どっ、どっ、どっから!? どっから!?」


「どっからでもいいのよ。ほれ」


 のけ反ってどっからどっから言ってる北原に向かって頭を差し出す。


「な、な、な、なに、何を」


「ほれ、私の頭を撫でながら”可愛い”って言いなさいよ」


「出来るかっ!? 脈略が無さすぎる! 脈絡があっても出来ないけど! いや、どっから現れた!? 君はっ!」


「まーまー落ち着きなさいな北原。私がどこからやって来たのかなんて知らないくていいの」


 自分風船を作っているからね、まさか猫が人に変化したなんて思うまい。偽装工作は完璧なのよ。


「ああ、十分に落ち着いたよ。本当に神出鬼没だな君は、さあてと、道行く人に聞いて君という存在が僕以外にも見えるかどうか確かめないと」


「ちゃんと見えるから! 落ち着けってば」


 周囲を探す北原だが、たまたまベンチの周りには人がいない。残念でした。そして私のことは自分の妄想が生み出した存在じゃないかと疑っている北原。笑える。


「今日はね、どうしたら北原があづきともっと仲良くなれるのかを考えてみようと思うの」


「また脈略が無いことを……いや、余計なお世話だって言いたい。僕の事は放っておいてくれ」


「お手紙を送るといいと思うの。メールだっけ? 連絡先を聞いてやり取りしないと何も進まない、どう思う? 他に案がある? 率直な意見を聞かせて?」


「率直な意見を言うなら、僕の事は放っておいてくれとしか言えない」


「じゃあもう処置ナシなのよ。このままじゃ永遠に進展しないと思う。いい? 男と女なんてね、想ってくれている何もしない人より、下心が満載でも何かしてくれる人と結ばれる、そういうものよ?」


「し、下心とか、」


「女の子が大好きな北原くん」


「ぐふぅ」


「大丈夫よ、知っているから、若い男なんてみんなそう。私は詳しいの。北原も壊れたパソコンの中身だけを取り出してえっちな本の隠し場所にしているんでしょう?」


「持っていないから! 何その手の込んだ隠し方! 実在する人!? 君の知り合い!?」


「あとは、そうね、えっちな本の隠し場所は工作の勉強と称して自分で作った、」


「いいから! もうやめてあげて! たぶんその人泣いてる! いや君は僕のことを何だと思っているのかな?」


「孤高の人」


「ぐふぅ」


 ベンチの上でよろめく北原を置いて、私は立ち上がり別れの挨拶をする。


「というわけで、自分で行動しないと何も起きないよ? じゃあ私は行くから」


「どういうわけだよ。突然現れてすぐに去っていくし、わけもわからずに通り魔にでも会った気分だよ。……なんで? なんで君は僕の事を、ええと、応援? してくれるのさ? 前は違ったよね?」


「別に、あづきや娘ちゃんの助けになるような人間なら多い方がいいってね、ふとそう思っただけ」


「……どこかに行くのか?」


「どこにも行かない。あとは、そうね100のうち99は暇つぶしかな? 北原面白いから」


「ほぼ全部かい。その猫も大人しく寝ているね、湯島さんの家に連れて行くの?」


 北原は私の腕の中におさまっている猫(風船)を見ながら問いかける。


「マルっていう名前だからね、賢くて可愛い猫だから、ちゃんと名前を覚えておくようにするのよ」


「はいはい、マル、ね。僕は君の本名も知らないんだけどね、マルヤマさん。じゃあ、またね」


「じゃあ、ね」


 北原を置いて公園を去る。


 そうね、あづきたちを好きでいてくれる人は多い方がいい。それだけ。





 公園から家への帰り道、またもや知ったる気配。アホチャトラどもだ。


 自分風船を道端に設置……、おっと、そのままだと軽くて安定しないのね、ちょっと粘着するように変化させて道路にくっつけてみる。できた。そのまま離れて隠れる。遅れてアホがやって来てさっそく私、というか自分風船に絡んでくる。その積極性を北原と足して半分こにすればいいと思うの。


「いよぅ~。ま~る~、そんな道端で寝てどうしたよ? あん? 車にでも轢かれたのかよ? それとも餅か? そりゃとろけた餅のマネしてんのか? 良い出来だぜ、がはは」


「や、やめましょうよチャトラの兄貴……、後が怖い」


 アホチャトラは気がついていないようね。我ながらいい出来に仕上がったものよ。ちょっととろけたお餅みたいになっちゃってるけど。キジトラも気づかず。おばか。


「チャトラの兄ぃ、ちょと待って。マルの姉さん、なんか、気配が薄いような……?」


「はん?」


 ハチワレが気づいたよう。遅れてチャトラやキジトラも気がつく。さすがにちょっと観察されるだけでもバレちゃうね。将来的にはその身代わり妖術で外出とかのアリバイ作りとかするつもりだからね、精進しないと。


「そんな……マルの姉御……まるで……死んでいるみたいだ……」


「なん……だと……」


 何か盛大な勘違いをし始めたぞ。面白そうなのでそのまま観察。チャトラは足をガクガクとさせながら私(風船)に近づいていく。


「うそ、だろ……お前、なんでこんなところでくたばってやがんだ? お前が死んじまったら俺はこれから誰と遊べばいいんだよ? 俺ぁ、俺ぁ、お前に、お前に振り向いてもらうために、お前を倒して、お前に俺を認めさせるために、どれだけ努力してると……、おい起きろよ。お前はこんな所で野垂れ死にするようなタマじゃねえだろうがっ! 車に轢かれて死んじまうようなマヌケじゃねえだろっ! 冗談なんだろっ!? おい、起きろよ……起きろマルぅーっ!!」


 猫の前足で強く風船を掴みかかるチャトラ、爪が引っかかる。「パーン」と弾けて消える自分風船。


「!?」「!?」「!?」


 びよーんって飛び上がり、転んで、立ち上がり、一目散に逃げだす3匹のアホ猫。ぐほっ。駄目、こんなん笑う。


 死んでいると勘違いするアホ具合もそうだけど、立ち上がって逃げる時に、足、カシャカシャして空回りしてたもん。アニメかっ!? アニメとかでよく見る描写かっ!? あははは。


 かなり離れた所から、弾けた自分風船のあった場所を恐る恐る覗き見る3匹の猫。私は気配を消したままその場をそっと離れていく。


 チャトラたちも、じゃあね。




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