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その5「ある日の猫の日常」


 あづきと娘ちゃんが、寝室のある二階から降りてくる。階段を下りる足音で私も目を覚ます。今日も朝からドタバタと忙しいことで。


「うにゃーう……ふぁふ」


 前足を思い切り前に出して、のびーる。のびーる。


 降りて来たあづきと娘ちゃんの足元に頭をぶつけてすーりすり。おはようの挨拶。朝のルーティンね。


 さーて、あの生意気な後輩猫に笑われて久しぶりにやる気が出ているぞ。今日はダンスの特訓をしようか。


 まーとりあえずは、前足を舐めて、顔を洗う。体をコテリと横に倒して、背中を舐める、反対側も。体を起こして胸元からお腹、腰、足へと丁寧に舐め上げていく。毛並みを整えるように。ふむ、今日も毛艶がよろしい。我ながら美ネコだと思う。思うくらいタダだしね。


 あづきたちの今日の朝ごはんは、オートミールってやつね。あんまりおいしくなさそう。そして私の朝ごはんは、カリカリ、いつもの。


 いや、まぁ、嫌いじゃないけどね。代り映えしないのよ。食べるけど。


 食事を終えるとあづきがブラシを持って近づいてくる。なーに、朝からブラッシングがしたいの? しょーがないわねー、ま、いいわよー、許してしんぜよーう。


 うにゃうにゃ。そうそう、舌の届かないあごの下とか気持ちいいの。あづきのブラッシングの技術の進歩は目を見張るようね。うん、褒めてあげていい。娘ちゃんはちゃんと見て覚えるのよ。娘ちゃんは雑だもの。え、もう終わりなの? ちょっと短いんじゃないかしら。


 慌ただしく外出していくあづきと娘ちゃん。もうちょっと早起きしたらいいのに。朝はのんびりに限るのよ。


 あづきたちが出かけて行って静かになったことだし、寝るか、いや待て。ダンスよダンス。


 ダンスと言ってもねー、どうすればいいの……


 いい天気だし、よし、座布団を干そう!


 天気予報もしばらくは晴れって言ってた。今の季節は春のはじまり。寒かったのが噓のように毎日ごとに暖かくなっていくのがわかる、いい季節。ずっと春だといいのに。


 私は猫又……じゃない只の猫だけど、座布団くらいは自分で干せる。


 まずは基本。霊体の物質化! えいやと気合を入れればポンと尻尾が二つに分かれる。分かれるというよりは、一本は物質化した霊体の一部なんだけど。まぁこれが出来ないと猫又とは言えないわよね。基本中の基本。


 さらには全身を霊体化、あーんど、霊体の物質化! これが出来るようになると色々なことができる。若い未熟な猫又にもこれが出来るのは少ないらしい。とうぜん年を取った猫又には造作の無い事だけど。


 この若さで、って枕詞を付けるなら、私は結構すごいのだ。検定落ちたけど。


 そのまま二本足で立って巨大化どーん! 


 これは後で知ったことだけど、巨大化とか人化とかって、幻術を使ってするのが普通らしいわね。全身霊体化の方を先に覚えたからむしろ幻術の方が苦手だわ。これ、後輩に言わせると先輩は頭おかしいとか言われるのだけど、一応、褒められているのよね?


 座布団を持って二階に上がる。おっと、忘れてはいけない。ちゃんと人の目につかないように透明化! ベランダに出てお気に入りの座布団を日の当たる場所へ固定する。ふぅ。いい運動。それにしても、やっぱりいい天気。ぽかぽかベランダで霊体化を解いて猫に戻って横になる。むにゃ。


 ……はっ! やばい、今日、何もしていない! ああ、結構時間が過ぎている、もうお昼じゃないの? お昼ご飯食べないと!


 お昼の分のカリカリをカリカリ……


 ダンスの特訓と言っても何から手をつければいいものか。


 わからない事があれば、常世(とこよ)のばあさんの所に行って相談するのが一番手っ取り早いのよね。私の一応の師匠にあたる大大大先輩の猫又ね。しかし、検定に落ちたのを報告しなきゃいけないわけで、ううむ、気が重い。


 あと相談できるのは、商店街の辻裏で居酒屋やってる頑刃(がんじん)マスターか。こちらも私の師匠に当たる人。やはり同じ理由で顔を出しづらい……


 そういえば「ねこねっと」に相談コーナーとかあったような気がする。猫又検定の受験資格を得る時と落選のメールを受け取った時と、あとは後輩猫と連絡を取る時にしか使ってないや。にゅー、面倒。


 こういう新しい技術っていうの、よくわからないからストレス貯まるのよねー。猫又検定を受けるのに必須とはいえ、よく契約まで漕ぎ着けたものである。ワガハイすご……ワガハイは無しで。


 むにゃ……あかーーーん! 現実逃避してるじゃないの! これじゃ何も進歩しない! いかんいかん。あっ、急に曇ってきた。座布団を取り込まないと。巨大化どーん!


 巨大化して座布団に手をかけて、ふと下を見ると、こちらを見上げる人の姿。


 田辺のババーーーーーー!!!


 目が合った!? いや、大丈夫、田辺のババは何事もなく去っていったし、うん、大丈夫、気づかれてない、知り合いのベランダに二本足で立つ巨大ネコとかいたら、もっと驚くもんね? 私ならすごく驚く、そして逃げる、うん、よし、大丈夫! 危なかったー。


 今度こそ油断なく座布団を回収して家の中に。ふかふか。気持ちいい。いい匂い。


 寝る。


 起きる。


 ……やヴぁい、何もしてない。


 ちりーん、と鈴の音が鳴り飼い主帰宅。家はにわかに騒々しくなる。


 にゃ、とりあえず、ダンスは明日だな。うん。明日がんばろう。明日もきっといい天気!




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