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その55「ナニかをじっと見る猫」パート2



 地雷女の件はまったくもって納得がいかないのだけど、わざとかそうでないのか、おばあちゃんはボケモードに入って結局うやむやになっちゃった。もう。


 あの後、人に見える黒いモヤについては、人の想念が生み出したものかもしれないし、そうでないかもしれない。幽霊という線もありうるし、また別の可能性もある、みたいな話を常世のおばあちゃんはしていた。もう。


 家に帰って二階のあづきたちの寝室をこっそり覗く。娘ちゃんの体から出ている黒いモヤは健在。ますますはっきりと見えるようになっていた。温和な顔をした湯島春乃、ご主人、その人の顔をして。


 モヤが妖怪の卵だと言うなら、あれは放っておけば成長していずれ妖怪になるの? それとも……


 一階のリビングに戻って、いつもの座布団の上に座って、この後、様子見するか、それとも今すぐになんとかするか決めかねている内にうとうとと眠りそうになっていた。が、叩き起こされたのよ。


 娘が高熱を出して起きないと慌てる母、あづきによって。





 まだ暗い……


 早朝というには暗すぎる時間帯、バタバタと階段を下りて来るあづき。あづきはちょっとしたパニックになっている。


「ど、どうしよう? すぐに救急車を呼ぶのは、ええと、あ、相談、電話、ええと、子供救急ダイヤル、ええと……」


 あづきに釣られて私も慌てそうになる、けど慌てないであづき、娘ちゃんが高熱を出すのは久しぶりだけど、ちょっとは落ち着きなさい。慌てる時ほど慌てないでいるの。先ずは温度計で体温を測って体を冷やしてあげるのよ。ああ、もう。話しかけられないのがもどかしい。


 寝ぼけながら慌てているパジャマ姿のあづきを置いて、私は二階に駆け上がる。ドアが開いたままになっている寝室に入る。


 カーテンが閉め切られている部屋のベッドの上、横になっている娘ちゃんを見る。ああ、もう、何を迷っていたのよ私。ご主人は成仏してもうこの世にいないの! あれがご主人の幽霊なわけが無いのに!



 それでも、それでも、何かを期待して、ご主人の顔をした影に話しかける。


 話しかけてしまう。


 私は、何を、期待しているんだろう。



「ねえ、あなた、話はできる? 何か喋って」


 私の言葉に影が揺らぐ。影はご主人の顔をして私を見下ろして笑いかけている。


「あなたは生まれたばかりの妖怪さんなの? それとも……私のご主人なら……私の事を、覚えている?」


 私は息をのむ。影が揺らぐ。口を開けて笑っている。


「覚えてる? ご主人は、私に姿をくれた。人の姿。綺麗でかわいい女の子の姿をくれた。ねぇご主人、私は、ご主人が私の人に化けた姿だよって言って描いてくれた女の子の姿になれるようになったよ?」


 影が揺らぐ。


「けれど、もう私は知っているのよ……私の姿、ご主人が好きだったアニメ作品から丸々パクった感じになっちゃったんだよね? それでもいいと思うの、私は、あの女の子の姿が好き。私の人の時の姿が好き。知っていることはもっとあるよ? ご主人はそのアニメの二次そーさく? っていうの? エッチな本をいっぱい持ってたよね? 家族どころか私たち猫にも内緒にしていたけど、知ってるよ、ご主人が病気で倒れた後、すごく必死になって処分していたことも」


 心なしか影が苦悶しているように見える。


 これは、どうなの?


「それから、それから……」


 一階のリビングで何かが倒れた音が聞こえた。あづきがいつも持ち歩く鞄を落としたのか。ちりん、と、鈴の音が短く鳴った、気がした。


「ね、こさん……」


 ハッとして娘ちゃんを見る。苦しそうだ。ああ、もう! 何をやっているんだ私は。覚悟を決めるのよ。影をよく見る。じっと見る。ジーっと見る。全部を見通す様に。見逃さないように。


 娘ちゃんの中に何かがあって、影はそこから生えている。何だろう、いや、


「ごめんね、あなたがご主人と関係があろうとなかろうと、妖怪として生まれようとなかろうと、娘ちゃん優先なの。あなたは良くないものだ。私は、子供を、守る。だから、消えろ」


 毛が逆立つ。瞳孔が開く。爪がするどく伸びて、尻尾が二つに分かれる。


 二本足で立ち上がり、影に近づく。よくよく見ると、こいつ、すごく嫌な顔をしている。ふん、本物のご主人はそんなに間抜けな顔をしていないのよ。


 前足を振るう。上から下へ、影ごと、娘ちゃんの中のモノごと、良くないもの全部を斬るように鋭く、娘ちゃんを傷つけないようにやさしく。


 ナニかが小さい叫び声を上げ、細切れになって影は散っていく。


 成敗、かんりょー、なのよ。


 ふう、熱くなってつい使っちゃった。初めて会った時のチャトラのアホに使って以来、あまりにも殺傷力が高すぎて自ら封印した技、その名も「爪を出して腕を振るう、相手は死ぬ」攻撃。よかった、あの時、チャトラの首を最初に狙わなくて本当に良かった、あいつの毛をザク切りにするだけで済んで良かった、悪運の強い奴なのよ。


「ねこさん、ありがと、なの」


「どういたしましてなの……」


「えへへ」


 娘ちゃんと目が合ってるぅーーーっ!?


「亜美っ! 起きてるの……っ!?」


 あづきと目が合ったぁーーーー!?


 私二本足! 立ってる! 猫が! 二股尻尾! 二階に上がってきたあづき! いつの間に!?


「………………」


「………………」



 私と目が合いつつ、ゆっくりとドアノブに手をかけて、パタンと扉を閉めるあづき、再び扉をあけて部屋に入って来る。


 私は四本足の猫の姿に戻っている。尻尾も一本。普通の、いわゆる一般的な、人畜無害猫でございます……


「……ふー……あ、亜美、起きたのね? 熱を測りましょうね。氷嚢を持ってきたよ。これで体を冷やしましょうねー。すごい汗、着替えと体を拭くのが先ね、体、起こせる?」


「うん!」


 どうやら娘ちゃんは元気になったみたいです……


 只の幻覚、気の迷い、うん、そんな感じで済まそう。あづきも只の幻覚だと思っている、はず、そうでなければ、うん、あづき、あなた疲れているのよ。


 あづきの足元をスルリと抜けて、トタントタンと一段ずつ階段を下りる。一階のリビングにある座布団に戻る際に仏壇に置かれている写真を見て「あ、」と声を上げてしまう。


 そこに写っているご主人の顔は大きな口を開けて間抜けそうに笑っている。


 ……これ、あの影の姿だ。人型にしては、やたらと顔だけが大きくて、いびつで、バランスがおかしいと思ったけど、写真立てにある上半身だけのご主人がモヤになって人型をとれば、たぶんあんな感じになる。私が良く見上げる写真。私の目線。


 人の想念から生み出されるモノ。想いからナニかを生み出せるのが人だけじゃないとしたら……


 アレを生み出したのは……私?




 私は、覚悟を決めないと。




鈴「ちりん(約:もうやめて―)」

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