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その53「猫と妖怪ハンター」パート3



 木々が生い茂る起伏に富んだ山地に見渡す限りの鳥居そして階段。まだ昼前だったはずなのに、ここでは夕日が照らす鳥居たちが赤く、朱く染まり、幻想的な風景を作り上げている。時間帯もそうだけど、決して現実ではありえない風景。有無を言わせない圧倒的な神性さがそこに広がっていた。突如として異界に放り込まれた感、すごい。私たちは呆然とするばかり。


「家に案内するね、こっち、こっちだよー」


「タヌキさん、あなたの家ではないでしょう?」


「キツネさんの家にはもう何度も遊びに来てるんだもの、もう僕んちと言っても過言じゃないね!」


「過言です。乗っ取る気ですか?」


 元気なタヌキさんに案内されて鳥居を潜り、階段を上って辿り着いた場所には一軒の大きな古民家。さも田舎にある古民家ですって佇まいをしているけど、別に古びてはいない。


「さ、遠慮なくあがってください」


 キツネさんに一番先に反応するのはオウムの人、ムーたん。人化して礼を言う。


「お邪魔します」


 黄色い髪の毛をした美人さんの姿。いつも叫んでばかりのイメージがある人だけど、今は普通に大人しいのよ。人の姿で家の中に入っていく。ところで何で人化したの? 対抗して私も人化する。なんとなくで。お邪魔しまーす。「何で人化する必要があるんすか?」なんて言いながらも後輩ちゃんも人化して家の中へ。空気の読める子。


「せ、拙者、拙者、完全な人化はちと苦手でござって、そ、外で、外で、」


「人化しないと家の中に入れないルールなんてありませんから!? どうぞそのまま!」


 涙目でおろおろし始めたシメさんも家の中に入るよう促すキツネさん。


「すっごい所なの。 キツネさん、ここは結界の中なの? 常世のおばあちゃんがやっているような?」


「結界とは少し違います。異空間が正しいでしょうか? 固有空間の公営化……ここは妖狐たちが共同で利用する世界です。多くの妖狐たちの力で維持しているんですよ? 最初に創られたのも古い古い時代です。長い時間を掛けて広くなっていったと聞いていますね」


 そういう力の使い方もあるのか。言われてみれば他に沢山の誰かの気配がするみたい。庭の見える座敷に通されて座る私たち。夕日に照らされている部屋には5人の女性、およびサバシロ柄の猫。猫が一番緊張しているのよ。私も少し緊張しているけどね。いきなり本題に切り込む。


「えー、キツネさんたちが私を探していたというのはやっぱり工事現場の件なの?」


「え? 違いますけど? 工事現場というのは爆音騒ぎのあれですね。あそこに行ったのは隕石のカケラでも落ちていやしないかと思って探しに行ったんです」


「隕石ハンター様! それから関係者さまごめんなさいっ!?」


 事情を話すと二人は笑って答えてくれる。


「それで、僕たち、妖怪ハンターに追われているって? あはは! 人が死んだり、妖怪が絡む大規模な破壊工作だったりじゃないと僕らは動かないよ?」


「そうですね。工事現場の件が問題になったとしても、マルさんたちは注意を受けるくらいでしょうか。あるいは人を害すような大事件になったとしても、会話が出来て人の社会にも馴染んで生きているマルさんのような方には、先ずは交渉と事情を聴くために国から人材が派遣されてくるでしょう」


「そんな感じなんだ……」


「会話可能かって所が重要だねっ! 悪そうなやつで意思疎通の見込みナシって場合なら問答無用で狩る時あるよ? その場合は何も悪い事してなくても、だね」


「拙者が余計な事を言ったせいで……」


「僕、さっきから気になっていたんだけど、シメ・サーヴァントさん? なんだか工事現場で会った時と喋り方が違うなーって」


「シメ・サーヴァントはしばらくお休みでござる」


「どういうシステム?」


「あ、あのっ!」


 今まで黙って大人しくしていたムーたんがキツネさんたちに話しかける。隣に座る真っ白少女の後輩ちゃんは例によって人見知りモード。


「あたしっ、妖怪ハンターに憧れがあって、お二人の事も存じ上げてましたっ! どうやったら妖怪ハンターになれるんですか? スカウトですかっ!?」


「ずいぶんと喋ってきてしまいましたが、お茶をしながら話ましょう。お茶請けのお菓子も用意してます」


 キツネさんが立ち上がって紅茶とロールケーキを持ってきてくれた。そのままお茶会になる。なんだかんだで大事にならなさそうで安心。さすがに反省した。巨大満月風船爆弾は封印技にするのよ。……次はもうちょっと、控えめな風船爆弾を作ろう。


「今日のお茶請けは僕が決めたんだよ! 四国愛媛の銘菓、一六タルト。召し上がれ」


「え? タルトなの? ロールケーキじゃなく? タルトって、もっとこう、ホール状で切り分けて、ええと」


「ふふん、言いたいことはわかるよ、けれど愛媛でタルトと言えばロールケーキのことなのさ」


「ふふ、タヌキさんは、この前の居酒屋で攻めてないと言われたことを気にしていたのよ? 攻めたお菓子は無いかって考えていて、結局決めたのはお店で売っている普通のお菓子、無難よね」


「ちょっとは攻めてみたんだよ!?」


 そうなんだ、いや攻めてる。タルトと言われても見た目は完全に輪切りにされたロールケーキ。スポンジケーキにこしあんがくるまれている。「の」の字に収まったこしあんの黒が、どことなーく狸っぽい見た目を連想させる。いただきます。フォークで切り取り、スポンジケーキ部分とこしあん部分を一口で口の中に。ふあ、柚子のかおり! 遅れてやってくる甘さ、スポンジはカステラだ。甘い、いや甘すぎない。うみゃあ。


※猫に柑橘系はNGです。マルたちは訓練された化け猫ですから平気ですが、化け猫ではない一般猫には触れさせないようにしましょう。


 好き嫌いの多い後輩ちゃんはやっぱり一口でギブアップしている。後で貰おう。


「あら、ハツユキさんは苦手だったかしら。そういえば猫は柑橘系の匂いを嫌うという基本常識を忘れていたわ、もうタヌキさんたら、考えないと」


「ごめんよ~、ポテチとかもあるから! あ、けどマルさんはバクバク食べてる」


「とってもおいしいのよ。一本丸ごといける勢い」


「あっしはどうも甘いの全般が駄目なようっす」


「猫の舌には甘味を感じる機能が無い、なんて話もあるわね。普通の猫の話ですけどね」


 一六タルトだけじゃなく、他のお菓子やスナック菓子、漬物までも出てきて話は弾む。キツネさんとタヌキさんはオウムのムーたんの疑問に丁寧に答えている。ほうほう、妖怪ハンターって国家資格なの? 裏国家試験? 大変そうなお仕事なの。縁故採用もスカウトもやっているそうなのでムーたんは紹介されるようだ。安定した人化が出来るってだけで資格は十分だって。舞い込んだ話にムーたんは純粋に喜んでる。はー、やりたいことがあるのは素敵ね。やがて話は将来のことに。


「www。んじゃ先輩はこれからどうするんす? ずっと今の飼い主さんの所にはいられねーっす」


「え?」


 え?


「普通の猫の寿命は長くても20と数年っすよ? それ以上一緒にいりゃあ人間に化け猫だって怪しまれてしまうっす。だから猫又になるような猫の多くは、時期になったら飼い主の元からひっそりと去っていくんす……ちっ……」


「………………」


 後輩ちゃんが言ってしまったという顔をする。しかし私はそれどころじゃないのよ。今まで考えた事が無かった……。それは、確かに、そうだ。


 え? 離れる? あづき達と? 化け猫だとバレないうちに? ひっそりと? え?


「………………」


「げ、元気だして! そういえば! 飼い主の元ですごく長生きした猫だっているって聞いたなー! ええと、なんかおいしそうな、何だっけ?」


「クリームパフという名前の猫ですね。海外ですが、人間の記録によると38歳と3日だそう。マルさんも一つ所に留まりギネス記録に挑戦するというのも。メディアなどでは騒がれるでしょうが」


「……ふ、ふんっ。猫は大変ねっ! 人間なんかに縛られてっ! 鳥を見習いなさいよ、私たちは何にも縛られなくて生きていけるのっ。飼い主とか……すぐに……忘れる……し……」


 私が何も言わないのでタヌキさんたちが慰めてくれている。ムーたんのは分かりづらいけど。


「……ほっ……本題忘れてたあっ!!!」


「ひえっ!」


「タヌキさん、突然大声出しては駄目でしょう、いえ、しかし、確かに忘れていました。マルさんを探していた理由ですよ」


「ずばり、マルさんにプレゼントがあるんだよっ!」


「え? プレゼント?」


「そう! この前の居酒屋で商品券をもらったからね! そのお返しさ!」


 居酒屋、商品券、……あ、完全に忘れていた。忘れていたというかあの時の記憶が無いのよ。後から後輩ちゃんに聞いたから知ってはいるけど。後輩ちゃんに目配せを送る。記憶にないってことは黙っていてね、恥ずかしいから。後輩ちゃんはうなずく。


「断る二人に押し付けていたんすけどね。ちなみに先輩はその時の記憶が無いらしーっすよ。酒の飲み過ぎで記憶が飛んでるんすwww」


 案の定ちくりやがったのよ。


「そーなんだ、しっかりしている感じだったけど意外だね。……もってけ妖怪……くぅ」


「ぷふっ」


 肩を震わせて笑いを堪える二人。何があったの? あの時の私……っ!?


「ま、先ずは私からいかせて貰うわね。どうぞ、マルさん。特別製の手ぬぐいです。使ってください」


「手ぬぐい……」


 キツネさんが何処かから取り出した綺麗に包装された包みを受け取る。思ってもいなかった突然のプレゼントに胸が熱くなる。何で手ぬぐいなのかはわからないけど。


「……ありがとう」


「私のはマルさんとのあの時の約束を守る形になった贈り物ね。実用品ですし、約束にこだわらずにどんどん使ってくださいね? これを被ってマルさんがダンスをする姿の動画、楽しみにしているわ」


「何の約束をしたの私はっ!?」


「次は僕の贈り物ねっ!」


 待って。追いつかない。何の? 何の約束!? ダンスの動画? 待って。


「贈り物って難しいよね、あまりにも実用的だと引かれるんじゃないかと思うし、実用と非実用の境目が難しいんだよねっ! はい、じゃーん。信楽焼の狸の置物! 可愛がってね?」


「かけらも実用的じゃない!? 振り切ってるから!? 非実用に振り切ってるから!?」


 きょとんとするタヌキさん。食べ物は攻めないのに、プレゼントは攻めすぎてるのよ。どこかの空間から出してきて座敷に鎮座する信楽焼の置物。傘を被って酒瓶を持った狸。猫の姿の時の私よりもずっと大きい。これを貰ってどうしろと?


「そ、それでもありがとう。使いどころは無いけど……手ぬぐい、見ていい?」


 キツネさんの許可を得て包みから取り出して広げる。白地の肌触りの良い手ぬぐいには、でかでかと黒字で『マル参上!!』の文字が染め上げられていた。


「これも使えなぁーーーーーーーーいっ!!!」


 え? 何これ? これを普段使えと? 恥ずかしいのよ。使えない。絶対に使えない。


 お二人を見るといたずら成功みたいな顔で笑っている。からかわれている。うぉのれ。けど嬉しい。期待してもいなかった商品券のお返しのプレゼント。使えない手ぬぐいと意味の分からない置物になって返ってきた。置物の狸を叩きながら大爆笑中の後輩ちゃんを見ながら思う。嬉しい。


 それからのお茶会は女子会の様相。ムーたんとクーたんの出会いの話や、私の人化した時の三毛柄の髪の毛の話からファッションの話。全国ご当地のスイーツの話や温泉の話。いつまでも夕日に照らされたままの古民家の座敷で時間を忘れて話込む。とっても楽しい。



「拙者の場違い感よ……」



 仲良くお喋りする私たちの横で、いつまでも緊張のほぐれない様子のシメさんだった。





 あの狐さんたちの空間はずっと夕刻だった不思議な空間だけど、外に出ても夕方の時間だった。あづきたちはまだ家に帰っていない。外ではいつの間にか雨が降っていた。



 ――いつまでも一緒にはいられない。



 猫の生きる時間と、人の生きる時間は違うから。



 わからない将来の事なんて悩んでもわからない。


 悩んでも仕方のないことは悩んでも仕方ない。


 仕方ないったら仕方ない。


 とにかく猫は日々を生きるので精いっぱいなの。


 とにかく今を。





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