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その52「猫と妖怪ハンター」パート2




「わ、私を探してるって?」


 風が吹いてきた。


「ござる」


 シメさんが答える。どこか遠くで雷鳴が響いた気がした。


「人の世に仇なす妖怪を狩る者たちが、私を……」


 後輩ちゃんが私の傍をそっと離れる。


「ちょーい!?」


「無関係! あっしは無関係っす!」


「ど、どうしたでござるか? お嬢? マル殿?」


 閑静な住宅地の道端、三毛猫の私と白猫の後輩ちゃん、そしてサバシロ柄の猫3匹がおろおろとしている。私から遠ざかる後輩ちゃん。追う私。


「ええい! 来るんじゃねーっす! 先輩の巻き添えはごめん被るっすよ!」


「マル殿、マル殿には心当たりがあるのでござるか?」


「え、待って、何で妖怪ハンターが私を探しているの? まったく心当たりが無いなーって!」


「見ぃつけたぁーーっ!」


「ぎゃあああ!!」


 いきなり空から声を掛けられてつい大声で叫んじゃった私。そして驚く相手。


「ちょ! 何よ、ビックリするじゃないっ!」


 甲高い声で喋る鳥は白い身体に黄色い冠、まさに昨日、工事現場でカラスと痴話喧嘩をしていたオウムの、確かムーたん。


「お、お、お、驚いたのはこっちの方なのよ。ムーたん」


「ムーたんって呼ぶなっ! それより地雷女っ! 昨日、あの時、何があったの? あたしたち工事現場にいたはずよね? 気がついたら公園にいたんだけど? 他の鳥たちに聞いても要領を得ないし、クーたん……アホガラスは逃げ回って捕まらないし……」


「地雷女っすか? だははwww 先輩のあだ名にぴったりwww」


「工事現場……昨日……ガッツリ関係者じゃないですか……でござった……」


「地雷女って呼ばないで! マル、大人しい人畜無害な只の猫であるところのマルなのよー。人畜無害猫マルと呼んで欲しいの。にゃーん」


「媚びを売るなっ! 何が人畜無害猫マルなのよっ! 主張が激しすぎて逆に不安になるわっ! って、ふざけてないで、いいから答えなさい、あんた、確か生ゴミがどうこうって言ってたのよね? その辺りから」


 この方、ガッツリ記憶を失っておられる。


「拙者も聞きたいでござるな」


 そういえばシメさん、昨日の爆音騒ぎの原因を調べているんだった。私に詰め寄って来るシメさんとムーたん、後輩猫ちゃんはそんな私からゆっくりと距離をとっていく。癒しを求めて散歩に出たのになあ。こんなことなら四畳半の固有空間に引きこもっているんだった。かつお節さん、私を癒して。


 追い詰められてしまった私は正直に昨日の事情をみんなに話すことにした。あくまで不注意から生まれた事故であり、当方に責任はございません。



「……段々思い出してきたわ。地雷女というより機雷女ね。満月風空気爆弾て、あんたの頭の中どうなってるの?」


「満月を見ていたらね、パーンってなってしまえって思っちゃったのよ。深い理由は無い。今はちょっとだけ後悔してる」


「先輩はたくさん後悔するっすよ。さっさと自首するっす」


「事情は呑み込めたでござる。なるほど、それでマル殿は妖怪ハンターに追われていると……。うーん、どうでござろうな? なんだかんだで人間にも妖怪たちにも被害はほとんど無かったわけで、その程度で動くものではござらんはずなんだけど……」


「余罪を追及するっすよ」


「後輩ちゃんは何で私に厳しいのっ!?」


「本当のこと言ってるのか不安になってきた。気絶したあたしたちを全員、工事現場から公園に転送したっていうのが眉唾でしょ。何それ、ものすごいじゃない」


「拙者は確かに高名な妖怪ハンターの方たちにマル殿のことを聞かれたのでござるが、犯人捜しというより、もっとこう、にこやかというか、緩い感じだったのでござる。ひょっとして力ある妖怪をスカウトするために探していたのかしれません、でござる」


「え、スカウト?」


 シメさんの意外な一言に驚いて聞き返していると私の真後ろに今までいなかった気配が生まれる。む、何やつ、なの。


「いーけないんだー。こんな道端で動物たちがお喋りしていたら、すごく目立つんだー」


 振り返った先にいたのはショートカットの活発そうな美少女。人間形態の頭の上には狸のケモ耳。


「タヌキさん!?」


「私もいます」


「キツネさんも!?」


 こちらも気配もなく現れたロングヘア―の大人の美人さん、当然頭の上には狐耳。


「おお! マル殿を探していたのはこの方々でござるよ。こちらの方々こそ、人の世に仇なす妖怪を狩る者たち、かの高名な妖怪ハンターの妖怪コンビ、その名も『赤と緑』でござる!」


「ネーミングセンス……」


 シメさんの紹介で知るお二人のコンビ名。どうしてその名前にしたのか、むしろそれ以外では思いつかないくらいしっくりと来ることは来るのだけど。居酒屋『錆鉈』で出会って一緒に食事をしたことのある知り合いの突然の登場や、お二人が妖怪ハンターやってたってこととか驚くより先にネーミングが気になってしまう。


「『緑と赤』にするかどうかで揉めたんだー」


「揉めるポイント、そこなんだ」


「実は他にもね、『キノコとタケノコ』にしようかって案もあったんだよ。結局、揉めた末にやめたけどね!」


「戦争案件……」


「これこれタヌキさん。自分で言っておきながら、住宅地の道端で喋っていると目立つじゃないの。場所を変えましょう。あと名前のセンスに触れてはいけません。さ、マルさん、どうぞ」


 キツネさんが軽く手を上げると空間が歪んで鳥居が現れる。鳥居の中はここじゃないどこか別の場所。私に向かってどうぞどうぞと手でジェスチャーをするキツネさん。う、これは断れる雰囲気じゃないのよ。どこに連れいかれるの私。


「さ、関係の無いあっしらは帰るっすかね「ついてきて欲しい」」


「拙者は報告が「ついてきて欲しい」」


「あたし「ついてきて欲しい」ついて行っていいならついていくっての! その、お二人に興味があるし、あのう、あたしもついて行っていいですか?」


「用事があるのはマルさんだけなんですが、ええ、良いですよ」


「みんなでお茶しよっ!」


「やった!」


 浮かれるオウム。いいなぁ、悩みが無さそうで。話が工事現場のことだったらムーたんも関係者、いやむしろ共犯者? 思えばムーたんが突いたから風船が割れたのだし、爆破の実行犯と言っていいはず。そうね、そんな感じでいくことにするのよ。


 ナイスな計略を思いついたことで、いくらか気分が軽くなりながら鳥居をくぐる。


 潜った先は鳥居が立ち並ぶ神社の雰囲気を持つ異空間だった。



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