その50「猫だって癒しは欲しい」
「謎の爆音……うわー。この辺りにまで音が届いていたんだって。寝てたから気がつかなかった。マルは聞こえた?」
いつも慌ただしいあづき達にはめずらしく、なんだか余裕のある朝。あづきたちはバナナと玄米クラッカーだけの、ちょっと簡単すぎない? って感じの朝食を早々に済まして、私のマッサージに取り掛かってくれていた。ゴムの突起の付いたブラシ。生え変わりの季節にこれでなでられるとゴッソリと毛が取れて気持ちのいいやつね。けれどあづき、気もそぞろで適当にやってるのよ。普段、幼児向け番組くらいしか見ない湯島家のテレビでやっている、家のご近所で起きた珍事のニュースにくぎ付けだから。
しょうがないよね。こんなにも近くで起きた珍事がニュースになるなんて、まずないものね。娘ちゃんはニュースに関心もなく手で私の尻尾を執拗に撫でつけている。パタパタと振って応える。
(爆音か、ふ、私にはまったく関係の無い話よね)
「音がする前には鳥たちが集まって騒いでいたという証言?」
(騒音問題ってやつね。迷惑な話もあるもんなの)
「音の出どころと見られる工事現場に異変なし、だけど様子を見るために工事は一時中断」
(私にはまったく関係の無い話だけど、工事の人たち、ごめんなさい)
「空中爆発した隕石説が一番有力、隕石のカケラが落ちていないかと日本全国から隕石ハンターがぞくぞくと?」
(全国の隕石ハンター、および関係者のみなさま、ごめんなさいっ! 私にはまったく関係の無い話だけどっ!!)
いたたまれない……
あれは事故。満月風船は軽い気持ちで作っただけで、本気で爆発させる気は無かった。だから事故なの。
あの後、ちらほらと目を覚まし始めた鳥たちがまったく事態を飲み込めていないのをいい事に、猫たちだけを連れて逃げた。イチゴたちには誰にも言わないでってお願いをして、目を覚ましたチャトラたちにも、あなたたちは何も見ていない、いいね? と念を押して。
いやぁ、誰も怪我をしてなくてよかった。至近距離でアレを喰らったオウムの彼女も、羽が爆発したみたいになってたけど、怪我まではしていなかった。さすが人化できるだけの力を持つ妖怪は丈夫なの。……頭がクエスチョンマークで一杯になっていたようだけど。
とにかくあれは事故。一介の、猫又にもなれない只の猫であるところの私とは無関係な事故、以上。
悪いのは妖怪たちを惑わす満月。そう、お月様がすべての元凶……
癒されたい……
◇
「私って、ほら、いつも誰かに癒しを与えている存在なわけじゃない? 猫ってだけでさ。けどそんな癒し猫の私を癒してくれるのは誰って話なのよ」
シャコッ。シャコッ。
「頭、湧いてるんすか? 先輩は与える方じゃなくて削る方じゃないっすか? いつも誰かの正気をwww」
相変わらず失礼。ああ、私の癒しはどこに。
いつもの四畳半の固有空間、いつもの後輩猫ちゃんと、いつものコタツに入っている。けど、いつもと違うのは二人とも完全人化している。私は大正時代の女学生風の恰好に割烹着を着ていて、後輩ちゃんは上から下まで真っ白ないつもの姿。オッドアイが神秘的なの。
「さ、召し上がれ。猫まんま、マル風」
「マル風www」
こっそりと練習していたかつお節削り器の扱い。ちゃんと扱えるようになったのよ。上手く出来るようになるコツは完全人化してから使うってこと。人間が使うように考えて作られた道具なんだもの、人間の恰好で使えばいいのは考えてみたら当然よね。
そんな削りたてのかつ節で作った猫まんまを後輩ちゃんに振る舞う。後輩ちゃんの箸の扱いは相変わらずたどたどしい。お茶碗を置いてお行儀悪くご飯を食べている。うーん、食べ方のよろしくない神秘的美少女。見ていて癒される? 癒されない?
「どう?」
「どうって……ご飯にかつお節と醤油をかけたって味っす」
「振る舞いがいが無いのよ。削りたてのかつお節、すごいいい香りでしょ?」
マタタビには惹かれないけどかつお節の匂いは大好き。少し削られたかつお節を掴んで頬ずり。すーはーと匂いを嗅ぐ。ああ、いい、癒されるかもしれない。
「……やべぇ画になってるっすよw」
「うまく出来る様になったら常世のおばあちゃんにも振る舞ってあげようと思っているんだけど……。私の作る猫まんま、頑刃マスターの作ってくれる猫まんまよりピンと来ないのは確かなのよね。ご飯の問題なのかな?」
私も同じものを食べながら自分で作った猫まんまについて考える。簡単なように見えて実は深い料理なのかも。舐めてた。猫まんま。
私の固有空間の部屋に備え付けで存在する洗面台の上に、ででんと鎮座する買ったばかりの白くて綺麗な炊飯器を見る。部屋にあるのは拾ったものがほとんどだから、ほぼ新品の家電製品は目立つ。ちゃんとおいしく炊けるし不満は無いけど、にゃん吉さんが進めてくれた10万円越えの炊飯器が気になってしまう。ないものねだり、よくない。
「猫まんまがおいしく作れるコツの書かれた料理の本、落ちて無いかなあ?」
「かつお節と醤油かけただけの猫まんまを料理として紹介する本とかなら捨ててしまえwww。あーゴチっす。あーうーまかったなー」
「棒読みなのよ……。どういたしまして。ああ、癒されたい」
「癒し癒しって言うっすが、先輩ほど緩く自由に生きてる化け猫をあっしは知らねーっす」
オッドアイの白猫に戻って手を舐め顔を洗う後輩ちゃん。
「昨晩の工事現場の爆発だって、あれでどうして先輩の所に妖怪の取り締まりが来ないんすかね?」
「あ、あれは事故……何で知って……じゃなくて……いえ、私には何も関係ありません」
「カマかけ成功w。やっぱり先輩だったっすw。手遅れw。自白乙w。なんか反論するっすよwww」
「にゃーん」
「雑な誤魔化し方っ!?」
可愛らしい顔で可愛い鳴き声をしても誤魔化されてくれない。後輩ちゃんは判定が厳しめ。
「はぁ、どこかに私の癒し、無い?」
「まだ言うか。ヒマならまた北原あたりをおちょくりに行くっすか?」
「それは、……名案ね」
「ちょ! 冗談っすよ!? 人間にちょっかいをかけ続けていると本気で目を付けられるっすよ!?」
「私も冗談なのよ。私は人に迷惑を掛けない良い妖怪。ほのぼのしたほっこり癒し妖怪猫、あ、温泉行きたいかも。テレビのコマーシャルで見たことある。温泉に入る猫のやつ」
「あっしは行かねーっすからね? 先輩と一緒に温泉旅行なんてどんな事態に巻き込まれるやら」
「わかった、わかった。温泉に着いたら固有空間で呼ぶね?」
「行かねーっつってるんすよ!? それこそ北原あたりを先輩の巻き添えの犠牲者にするっす!!」
「北原はこの前の喫茶店でおごってもらったしなー。別の犠牲者を探すのよ」
「もう自分で犠牲者ゆーてるじゃねーっすか……」
「冗談なの」
「冗談に聞こえねーんすよ……」
「じゃあ後輩ちゃん、どこかに癒しを探しに行くよー」
「あっしが一番の犠牲者なんすよねえ!」
どこに遊びにいこうかな?
https://ncode.syosetu.com/n0251hy/「凶刃の化け猫、岡崎悲爪譚」
思えば↑を書き始めてからパソコンの調子が悪くなり、書き終わって投稿したら調子が戻った気がする……
上の作品は読んではいけない。いけないけど万が一読んでしまった人は☆評価を付けてヒロインの成仏を祈りましょう((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル




