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その43「商店街で買い物を」パート5



 唐突すぎるあづきの登場に、慌てて固有空間に逃げ込んじゃった!


 私の四畳半の固有空間の畳の上で、つい先ほど放り込んだ後輩ちゃんがノビている。


「後輩ちゃん! 大丈夫!?」


「ぅあー……面目ねぇっす……最後の飲食がまずかったっすね……もうちょっといけると思ったんすけど……」


「私こそ面目ないのよ。気が付かなくて本当にごめんなの」


 とりあえず後輩ちゃんは大丈夫そう。人化が解けたってだけみたい。安心した。そして冷静になってみると、慌ててあづきから逃げ出すことは無かったなーって思う。あづきは私の人間形態を知らないしね。とにかく、外が気になる。


 霊体をちょっと切り離して偵察ねずみを作って固有空間の外に出す。


 最後に見たのは、あづきの声に飛び上がって慌てて後ろを振り返る北原だったからね。その後どうなった?


 物陰に隠れた偵察ねずみの目で見る北原はまだ慌てている。そしてあづきの姿も確認。あづきは出て行ったままのお出かけ用の恰好。本当にびっくりしたの。


「ごめんなさいね、北原君。声を掛けちゃった。誰かと話しているみたいだったけど迷惑だった?」


「あの、その、えと、これは、」


 あづきを前にして北原がポンコツへたれモードに突入している。顔を赤くしたり青くしたりして完全に不審者だコレ。


「こっ、ここっ、この子は何でもなくてですね…………え、いない?」


 私のいた場所を振り返って唖然とする北原。うん、当然そこには誰もいない。急に消えてごめんね。


「………………」


「……北原君?」


「……っぅお!? あ、あづ、湯島さん」


「はい、湯島です」


「つかぬことを聞きますが、さっきここに女の子がいましたよね?」


「え、ごめんなさい、直接は見てないんだけど、北原君が誰かとしゃべっているのは聞いたかな」


「…………俺の妄想……って、んなわけ無いだろっ! 荷物残ってるし! あいつ、どこに消えた? っと、ごめんなさい湯島さん。さっきまで話していた子が急にどこかに行ってしまったので、……たぶんダッシュで……」


「……あ、あは、そうですか」


 しまった! そう言えば北原に荷物を持っていてもらっていたのよ! 北原の両手にある私の炊飯器とお米と醤油とかつお節。ああ、回収しないと。焦る私の事も知らずに北原はあづきと会話を続ける。


「あ、あの、ゆ、湯島さん、ええと、丸山という名の少女と、お知り合い……ですよね?」


「丸山さん? ごめんなさい、ちょっと思い浮かばなくて」


「そうですか、そうですよね、なんか明らかに偽名だったし! っつ、変な事聞いてごめんなさい」


「いえ」


「変な事ついでに、つかぬ事をお聞きします。湯島さんに、戦友って、います? 戦う友で戦友」


「……………………」


 静寂。そして爆笑のあづき。


「ぶふっ! あ、あはは、いやだ、ごめんなさい、北原君ってば、真面目な顔でそんな事聞いてくるから! あはは、もう!」


「……忘れて、ください」


「それじゃあ、私は家に帰るのだけど、北原君は、」


「ぼっ、僕も帰りです! 帰ります!」


 まて、北原まて。ちょっとは消えた私を気にしてよ。帰るのはいいけど、せめてその手にある荷物を置いてけ。お~い~て~け~。おいてけ妖怪と化した私の思念もなんのその、食い気味に返事をした北原は、あづきと隣り合って家の方向に向かって歩いていく。


「駄目だ北原、完全に舞い上がっている……」


 ああ、私の猫まんまセットよ……




 大学生活がどうの、バイトがどうのと何気ない会話をしながらあづきの家の前に到着する二人。別れの挨拶をしてあづきは家の扉の鍵を開ける。門の外にいる北原を振り返って、


「北原君、さっきの質問の答えね、戦友、いるよ。うん、私には戦友がいる」


 笑顔、とびきりの笑顔だ。


「強くて、賢くて、可愛くて、とっても素敵な戦友の女の子、大事な私の家族。……ありがとう北原君。じゃあまたね」


「あ……」


 呆然と立ちすくむ北原を残してあづきは家の中に消えていく。


「お礼を……言われる……ようなことは……」


 私は固有空間から出て、ボソボソと一人でつぶやいている北原の真後ろにスタンバイ。へいカモン。


「あ……いけない……あの子の荷物のこと忘れていた。どうしよう、探してるよな? 消えた理由もわからないけど。またすぐに会えるのか? とりあえず商店街まで戻るか」


 後ろを振り向く北原。目が合う。飛び上がる北原。


「ぎょえ!」


「ぶふっ! ぎょえ、って! あはは」


「きっ、君はっ! 心臓に悪いなっ! いや、さっきはなんで消えた? ひょっとして湯島さんに会いたくないのか? 君と湯島さんの関係がますます気になってきた。君は一体、」


「せんさくふよー、なの」


 北原は私と、あづきの入っていった家を見ながら質問してくるけど、当然はぐらかす。


 あづき。


 戦友、か。それって私の事だよね? 強くて賢くて可愛いって言ってたし。そうかあづき、あづきも私と同じ気持ちだったかー。は!? いやまてよ、人が猫のことを戦友なんて思うのかしら。女の子って言っていたし。それに、さっきの条件じゃ娘ちゃんにも当てはまる、それ以外にも、ええと、田辺のババとか……いやそれだけはない。ないない。


 少しだけ気になったのよ。なんだか、あづきの様子がちょっと変だったから。今日、何かあったのかな? あづきは最近疲れているのかもしれない。頑張り屋さんだからね。人間はもうちょっと気楽に生きればいいのよ。猫を見習って。


「荷物、持っててくれてありがとう。受け取るから。荷物だけじゃなくて色々と今日はありがと。北原、じゃあまたね」


「……うん」


 北原から荷物を受け取り、別れの挨拶を告げて商店街の方面に戻る道を急ぐ。


 さあ、猫まんまをつくるぞー。





 私の固有空間の中。四畳半の畳の部屋。コタツあり。人化をやめて今は二足歩行モード。


 後輩ちゃんは横たわって休んでいる。


 私は今日買った炊飯器を箱から出したりしてせっせとスタンバイ。


「いまから作るんすか? さっきのケーキで腹一杯じゃないんすかねー?」


「猫まんまは別腹だから。後輩ちゃん、さっきはほとんど食べなかったでしょ? 後輩ちゃんにも私の手料理をふるまってあげるからね!」


「ただかつお節をかけるだけのご飯のことを、まだ料理と言い張るかwwwww」


 そして取り出したりますは、これこそ今日の本命。丸ごとかつお節。じゃじゃん。ご立派。


 袋から出す。すぅー、はぁー。ふぁ、いい香り。どうやったらこんなにも魅力的なものが作れるのかしら。人類、やるじゃないの。


 箱から取り出したかつお節削り器をこたつの天板の上に滑らないようにしてセット。いざ。


 ゴ……ゴリッ。……ゴリッ。くっ……難しい。


 削った物が落ちて行く箱の中を見ると、ボソボソで粉の様になっている。どうすれば綺麗な削り節になるの? あきらめずに再挑戦。


 もうちょっと強く削らないとだめか? 両方の前足でしっかりとかつお節を持って削り器に滑らせる。


 ゴッ! ガッ! ガリッ!!?


 押し付ける力が強すぎて刃物に引っかかって止まるかつお節。かつお節から離れた前足は流れる様に刃物へ吸い込まれていき、そのまま前足の爪をゴッソリと削る……


「ふぎゃあああっ!!!」


「なんすかっ!?」


 飛び上がって驚く後輩ちゃん。


「爪がっ! 爪が削れたぁああっ!!」


「…………ふ……ふははw、だーはははっwww、間抜けっすか!? 先輩!? 馬鹿なんすか!? あははははwwww」


 畳の上をのたうち回って笑う失礼な後輩猫を無視して、爪をゴッソリ持っていかれちゃった両方の前足を見る。悲しい、きのうの爪切り……必要なかったの……


 不貞腐れてグテーって横になる。


 くすん。もうなにもやりたくない。




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