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その41「商店街で買い物を」パート3



「…………」


「うにゃ? 何かにゃ? にゃーの顔に、にゃにかついているかにゃ?」


 こっちに気づいている? 私たちが知り合いの猫の変化だって気づいているのに、それでも気づかないふりをしている? 


 ジロジロと見る私を不審がる人間の店員の姿をしたにゃん吉さん、かっこ仮。



 これは……どっちなの?



 わざわざ人間のふりをしているのならば、妖怪の変化だと気づいても素知らぬふりをするのは、お互いのためのマナーよね。私たちが人間に化けられると人間に気づかれるのも色々と問題があるもの。秘密は隠さなくちゃいけない。そもそも、特徴が一致しすぎている赤の他人という可能性だってあるのよ。北原もいることだし、ここは慎重に。


 ふくよかな人物の白いシャツの胸に留められているネームプレートに気が付く。


 プレートには『猫田にゃん吉』と書かれていた。



「ちょっとは隠してよぉ!?」



「にゃ!? にゃに!? にゃんの話っ!?」


 振り返って後輩ちゃんを見る。下を見てぷるぷるしとる。これはにゃん吉さん確定か。にゃーにゃー言っているし。もうね。


 にゃん吉さん、普段からこの場所で人間のふりをして生活しているの? にゃーにゃー言っていて人に怪しまれない? 飼い主さんとかいるの? 彼……彼よね? 彼にちょっとだけ興味が湧いてきた。ここで聞くわけにもいかないし、話し出すと長そうだから関わらない方向でいくのよ。


 にゃん吉さんっぽいこの男が私たちに気づいていても無くても、炊飯器を買うのよ。そして帰ろう。このままそっとしておこう。


「炊飯器をください。予算は7万円で」


 はっきりと目的を告げる。こういうのが大事。


 後輩ちゃんはまだ下を向いて笑いをこらえているようだ。その横で北原も微妙な表情。


「にゃ? 炊飯器かにゃ? こっちにゃよ。これがオススメにゃ」


 どうやら真面目に店員の仕事をやっているらしい。にゃん吉さんと思われる男の店員さんの案内で店の奥へと入っていく。


「最新式の土鍋方式の圧力釜! ごはんの甘味を最大限に引き出すハイエンドの逸品にゃ。お値段、にゃんと14万9800円!」


「予算オーバーしてるってのよ!? 7万円って言ったでしょう!? 聞いてた!?」


「にゃ!? ごめんにゃ、久しぶりのお客で、ちょっーと舞い上がっている自覚があるのにゃ」


「やっていけてるの、このお店っ!?」


「にゃー。実はこの電気屋は実家……みたいなものなのにゃー。にゃーは最近まで東京で暮らしていたんにゃけどね、久しぶりの実家……みたいな所への里帰りってやつなのにゃー。ちょうど、このお店のオーナーの前の飼いぬ……おじいちゃんが、ちょっーと体調を崩していて、今はにゃーがお店番をやってるのにゃ」


「聞いてないよっ!? 店員さんの過去話とか聞いてないからっ!? 世間話とかいらないっ!? いいから炊飯器買わせてっ!?」


「ぶふぉっ!www」


 ああ、もう、ついに後輩ちゃんが吹いちゃったじゃないの。後輩ちゃんと並んで大人しく佇んでいた北原は「またキャラが濃いのが……」とかつぶやいてる。


 とにかく、とにかく私は普通に買い物がしたいの。ゴチャゴチャの棚の中に1万9800円の炊飯器を見つける。


 ……見つけると言うか、にゃん吉さんオススメの15万の炊飯器以外に置いてある炊飯器がこれしかない。このお店、本気で商売をしているという気が感じられないのよ。


 けど、いいの、色も基本の白色で、お値段もとってもお手頃。気に入った。うん、これでいい。これに決めた。さっと買って、さっさとこのお店を出るの。


「これをくださいな」



「むむむ、そこの人たち……」



 買うものをスパっと決めて、にゃん吉さんに話しかける。そのにゃん吉さんは私を無視して北原と後輩ちゃんを見て唸っている。


 もしや私たちが猫の妖怪で、しかも知り合いだとバレた? あああ、後輩ちゃんの人間の時の姿、目立つし、白猫の時の特徴残っているから……


「カッコいいお兄さんにカワイイお嬢さんだにゃー、動画配信に興味は無いかにゃ? にゃーは最近、動画撮影と編集に凝っているのにゃ。撮影させてくれたら商品券をあげるにゃ」


「そういうのは、ちょっと……」


「今、にゃーはここの商店街を盛り上げる企画を考えているのにゃ。美男美女のカップルは絵になるのにゃ! コマーシャル効果抜群にゃ!」


「すんなり炊飯器買わせてよぉ!? あと、美男美女っていうなら何で私に声をかけないの!? いや、かけて欲しいわけじゃないんだけどぉ!!!」


「ぶはっ!www もうやめるっすwww、先輩、それ以上あっしを笑わせてくれるなっすよwww 腹が、腹が痛いwww」


「店員さん、この子とカップルはやめて、冗談でも本当にやめて欲しい」


「おお? あの北原が言うようになったっすなあ! 女の子が苦手で話しかけることすら出来ない奥手な北原はどこいったっすか? ぎゃははwww」


「あの北原って! 君は僕のことをどれだけ知っているの!? あと、君らはもうあの枠だから、その、あれ、変態枠!」


「変態枠は先輩と、そこにいるにゃん吉だけを入れとくっすよー!?」


「にゃー。楽しい子らなのにゃー! ぜひ動画で撮らせて欲しいにゃー!」


「…………」


 もうね。手の付けられないこの状況。どうしよう。


 こうしよう。


 霊体の一部をほーんのちょびっとだけ切り離す、三毛柄ケセランパサラン生誕。ふわふわとお店の天井に上げていく。そして膨らます。イメージは風船ね。そして、


「パァーーーーーンッ!!!!」


 私の霊体から生み出した三毛柄ケセランパサラン、激しい炸裂音を出して消滅。ふう、切ない命なのよ。


「にゃ…にゃにゃにゃ!? にゃんの音っ!? 金玉がヒヤッってなったにゃ!?」


「……にゃん吉さん、オスだったんだ」


 知ってた? 三毛柄の猫ってさ、ほとんどがメスで、オスの三毛柄というのは本当に希少だって言われるからね。だから、にゃん吉さんも、オスっぽくてもオスじゃないかもって少し思っていたのよ。なんだか遺伝子のどーたら、こーたらで。にゃん吉さんに金玉があるなら……コホン。


 とにかく、にゃん吉さんはオスらしいってことがわかった……それがどーしたって話よね。



 シーンとなった電気屋さんの店内。



「この、1万9800円の、炊飯器を、今すぐ、売って、……ね?」


 にゃん吉さんに貰った商品券を2枚出して、にっこりと笑う。それを受け取った人間形態の店員、にゃん吉さんはコクコクと頷いた。


 はぁー。ようやく目的の物が買えそう。


 商店街での買い物って、疲れるの。





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