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その35「やけマタタビ酒とおつまみ4選」パート3



 よほど嬉しかったのか、叫び続ける後輩ちゃん。


 そんな彼女をたしなめて頑刃マスターがザル蕎麦と冷酒をキツネさんとタヌキさんの前のカウンターに出す。


 ザル蕎麦かー、ザル蕎麦も食べたこと無い。おいしそう。私もザル蕎麦を注文しようかな。


「とにかくこれで、後輩ちゃんの味覚も人間っぽく変わったかもしれないの。さー、後輩ちゃん、何でも食べたいものを注文するのよ。誕生日のお祝いなんだから」


「味覚? 何の話かなっ」


「完全に人に化けると味覚も人間に引きずられるよねって話をしていたの。どんな理由でそうなるんだろう?」


「確かに人化をする妖怪はその辺の境界があいまいになるわ。人体には平気でも動物の体では強力な毒になるような食べ物でも平気で食べられるようになるし。その理由までは、ちょっとわからないわね」


 理由なんて「それが妖怪というものだから」とかなのよ。たぶん。


 ずるずるとソバをすするタヌキさんと、上品に食べるキツネさん。見てると私もお腹が空いてきたのよ。


「何でもって言っても人間の食べ物に今まで興味なかったっすからねー。どれを注文していいのかさっぱりっす」


 後輩ちゃん少女は居酒屋の壁にずらりと並ぶメニューの書かれた短冊を見ながら悩んでいる。人間の食べ物に興味津々な私でも食べた事のない物がたくさんある。


 どれもこれもおいしそうで、困った。


「ここにいる4人が壁のメニューの中から一品づつ選んで、後輩ちゃんにお勧めするっていうのはどう? そして後輩ちゃんが一番おいしかったものを決めるのよ、おつまみに合うお酒も一緒に」


「そんなには喰えないし、飲めないっすよ?」


「問題ないのよ、残したものは全部私がおいしく頂くので」


「よし、じゃあ俺からだ。居酒屋で迷ったら枝豆とビールだな。最初はこれだ」


「あ、マスターずるい。こういうのは後になるほど難しくなるのよ」


「次は私ですね」


「あ、キツネさん、目ざとい。その次はぼくね」


「……私が最後、みんな乗り気なのよ」





 頑刃マスターがテキパキと枝豆を茹であげて塩を振り団扇であおぐ、そのまま流れるようにジョッキにビールを注ぐ。狭いカウンターの中で巨大なイタチが動き回っているのに、手足をどこかにぶつけたりすることもない。職人って感じ。


 ほどなく、後輩ちゃんの前には白い泡が綺麗な琥珀色のビールと、軽く湯気の立ちのぼる枝豆の姿。


「これは俺からの誕生日祝いだ。おめでとうさん」との頑刃マスターのお言葉。そして続く私たちの「おめでとー」の唱和。


「ええい、いつまでやるっすか。じゃあ行くっすよ……人間の手って動かしづらい……」


 白い少女姿の後輩ちゃんは、不器用に枝豆のサヤを掴んで口に持っていく、そして中身の豆を口の中に放り込む。噛んで味わい、そのままビールを含み、


 むせた。


「げほっ、げほっ、シュワっていったっすー!? 苦っ!? 口の中が苦いっす!」


「ビールだからな……」


 どうやら後輩ちゃんにはまたちょっとビールは早いようなのよ。頑刃マスターの声も心なしか落ち込んでいる気がする。早々にギブアップした後輩ちゃんに代わりビールをいただく。


 ごくっ。ごくっ。


「ぷはーーーっ!」


 枝豆を一つ貰って食す。いただきます。枝豆はまだほんのりと暖かい。豆自体からくる甘味、生から茹でた豆の歯ごたえ。程よい塩気が口の中から体の中へ。そしてビール。指に付いた枝豆の塩気を舐めとる。そしてビール。これは無限に行けるやつだ。最高なのでは?


「ぷはーっ。うみゃあ!」


「……ごくり」


「うみゃあって名古屋弁なのかしら? それともただの猫の鳴き声? ……それにしても、相変わらずマルさんが食べている姿を見ると……頑刃さん、お手数ですが、こちらにも枝豆とビールをお願いします」


 キツネさんたちも飲み会に参戦するようだ。どんどんいこー。



「次は私のおススメですね、私は前にこちらで頂いておいしかったメニュー、山芋とろろの鉄板焼きをお勧めします。猫も大好きなかつお節も乗っていて、きっと気に入ることでしょう。合わせるお酒は芋焼酎のロック。イモ系の食べ物にイモ系のお酒を重ねてみました」


 かつお節! それはもうおいしいことが確定しているの。後輩ちゃんの前にキツネさんのおススメの山芋とろろの鉄板焼きが置かれる。


 ジュージューと音をたてている丸い鉄板の中には、ふんわりと焼きあがった山芋とろろ。その中央には卵の黄身が埋め込まれ、その周りでかつお節が踊っている。


「どうぞ召し上がれ。私のおごりです。ハツユキさん、お誕生日おめでとう」


 続く「おめでとう」の私たちの唱和に「このくだり、いつまでやるんすかっ!?」と怒るが、顔を赤らめているので、これは照れているね。可愛いのよ。


 後輩ちゃんは先に芋焼酎のロックを手に取って口に含む。そしてむせた。


「げほっ。人化してもお酒はキツイっすわー。飲めなくもないっすけど……」


 後輩ちゃんはそんな愚痴めいた感想を言いながら山芋とろろをスプーンですくって口の中に放り込み、悶絶した。


「!!? あっつぅふああーーっ! ギブ、ギブっす! 口の中を攻撃されたっすーっ!?」


「……ああ、猫舌でしたか。適度に冷まして食べてくれれば……」


 両手で口を覆って足をジタバタさせている涙目の後輩ちゃん。可哀そうなのよ。けど熱々で食べる物は熱々で食べるのが最高なんだと思うけどなー。


「私も頂くね」キツネさんと後輩ちゃんに了承をとってから、スプーンで卵の黄身を軽く潰して山芋とろろを掬い上げる。湯気の立っているとろろにふーふーと息を吹きかけ、食べる。んんー、熱い、そしてうまい。すり下ろされ、熱を加えられ、ねっとりとした食感になっている山芋のとろろは、ダシ醤油で味付けされている。そのままでもおいしいのに、卵の黄身のまろやかさが舌に絡んで一層うまさを増している。脇役としてほんの少しのかつお節の仕事ぶりもいい。はふー。口を開くと湯気が零れる。うまい。ここで芋焼酎をいただく。カランと子気味良い音を出して傾けたグラスから、キンと冷えた液体が口内へと注がれる。冷たい。気持ちいい。その冷たい液体をゴクリと飲み込むと、カッと喉の奥が熱を持つ。うはー。これはやられたってやつなの。熱さの二段攻撃。口から芋焼酎というお酒が持つ独特の香りを伴った呼気が零れる。熱い、もう火を噴かんばかり。楽しい。おいしい。最高なのでは?


「うみゃあのよー。これは芋と芋の時間差こうげき、さいこー、キツネさんはすごいのの」


「先輩、口調がおかしくなってるっすよー?w 酔っ払ってるっすかー?www」


「よってないですけど」


 これしきで酔うものですかってんですよー。




マルの口調が怪しくなって飲み会はいよいよ危険な領域へ。


飲み会の雰囲気が苦手な方は次回は飛ばして次へ。

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