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その34「やけマタタビ酒とおつまみ4選」パート2



 頭の上に狸の耳が付いている子供っぽい喋り方をする人が狸の妖怪変化でタヌキさん、狐の耳が付いている大人っぽい喋り方の人が狐の妖怪変化でキツネさん。この前、ここで会って以来なの。お久しぶりの挨拶をしてくれてから二人は奥のカウンターの椅子に座った。


「お久しぶりなの、あ、こっちの白い子は私の後輩ちゃんで本名ハツユキちゃん。ついこの前に20歳を超えた猫なのよ。今は人化の術に苦戦中」


「先輩、余計な情報言うなっす。……ども」


 後輩ちゃんは安定安心のいつもの人見知り。


「おおお、白い猫さん、かわいいっ! 両目の色が違うんだねっ! 撫でてもいいかなっ?」


「いいわけないでしょう。ごめんなさいね。タヌキさんは、その……タヌキな感じだから」


「キツネさん!? タヌキという言葉をおかしな意味の言葉として使わないでっ!?」


 後輩を見ながら目を輝かせて両手をワキワキ動かすタヌキさん、すかさずつっこみを入れるキツネさん。相変わらず仲がよさそうなの。


「それで、人化の術に苦戦中って? あ、お誕生日おめでとう、ハツユキさん」


「おめでとー!」


「くっ! 何故か知らない人たちに祝われているっ!? 明らかに先輩の責任っす!」


「責任はとりませーん。とる必要もありませーん。とにかく人化の術の説明って難しいのよ。こう、ぐってして、そのあとはぽーんと勢いで……」


「先輩のは説明にすらなってないんすよ!」


「マルさんは人化が出来るのよね?」


「マルさんの人の時の姿!? うわー、見てみたい! 人化してくれないかなっ!?」


 興味津々と言った感じで私たちの会話に加わる二人に頑刃マスターが喋りかける。


「おい、ここは酒と喰いもん屋だぜ。妖術談義だけじゃなく注文もしな」


「あわわ、頑刃の旦那が怒ったあ」


「……怒ってねぇが」


「頑刃さん、私はザル蕎麦と冷酒を頼みます」


「ぼくは、ええっと、何にしようかな? 猫まんまもこの前食べたし、ええと、ええと、ええと……」


「頑刃さん、彼女にはドッグフードを」


「食べないよっ!?」


「あら? 狸は英語でラクーンドッグじゃなかったかしら? ふふ、イヌ科。そういえば、この前、動物園に行ったときに狸にドッグフードをあげている飼育員さんを見たわよ? 狸たちは喜んで食べていたわね。それともタヌキさんはドッグの付かないラクーンの方だったからしら?」


「ラクーンはアライグマだからっ!? って、キツネさん、知ってて言ってるよね? 狐も狸と同じイヌ科だし……あー、もう、ぼくもキツネさんと同じもので!」


 会話を横で聞いているだけで楽しい二人なの。延々と聞いていられる感じ。


「マルさんたちは何を飲んでいるのかしら?」


「マタタビ酒ー!」


「猫にマタタビだー! うわー、本当に猫はマタタビに酔うんだねっ。猫にマタタビをあげると踊るんだよね?」


「それはマタタビに含まれるネペタラクトールという成分に反応しているらしいわね。ネペタラクトールは蚊が嫌がる成分で、蚊よけのために体に擦り付ける行為が酔っ払って踊るように見えるのだとか」


「へー」「へー」「へー」


 薄暗い居酒屋の店内に三つの「へー」が重なる。キツネさんは物知り。猫たちも知らないような知識を持っている。ねぺたらくとーる? とか言う単語すら知らなかったのよ。そうかー、へー、兄たちがマタタビの粉でグネグネのウネウネになっていたのは実は蚊よけのためだったの、当人にも理解してなかっただろうけど。


「タヌキさんとキツネさんの二人は人化の術、上手いよね? 何かコツとかあったらアドバイスして欲しいのよ」


「まあ、ぼくら狸たちは変化にかけてはちょっとしたものだしねっ! キツネさんにも引けはとらないよ!」


「あら? じゃあタヌキさん、ハツユキさんにアドバイスをしてあげてごらんなさいな」


「えーとね。体の奥でぐあーってして、後はポンって感じで」


「駄目っす、この人、先輩と同じタイプっす」


 タヌキさんを一刀両断にした後輩ちゃんに苦笑いをしながらキツネさんが語りかける。


「ハツユキさんに適したアドバイスかどうかはわからないけれど、賢くて物をよく考えるタイプの人が人化に手こずるのは、何でも自分でやろうとするから、なんて話もあるのよ。これは人化の術に限らずだけれど、ある程度は世界に任せるといいらしいわ」


「……世界っすか?」


「そう、この世界は、自分たちも知らない、しかるべき姿や形を、あらかじめいくつも用意してくれているのだ、と、そう思うのよ。そしてそれに託す。無責任な丸投げじゃなくて、信用から来るお願いね。神頼みって言い換えてもいいのかしら? 私はこれこれこうしたい、後は神様、ちょうどいいように細かい部分はお願いしますってね」


「そう、そういうことを説明したかったのよ、私も」


「ぼくも」


「先輩とタヌキさんは黙るっす……細かい所は世界に任せて? なるほど、ちょとやってみるっす」


 後輩ちゃんが椅子から降りて横に立つ。向こうではタヌキさんがキツネさんに「ぼくが賢くなくて物を考えてないってことなの?」と詰め寄っているが、ごめんなの、私にはフォローできない。


 カウンターの奥では頑刃マスターが茹で終わった蕎麦を氷水にさらしている。


 固唾を飲んで後輩ちゃんの姿を見守る私たち。二本足で立つ後輩ちゃんの体が妖力で満たされていくのがわかる。


 彼女の猫の体が、ふわっとした白い光に覆われたかと思うと、そこには完全に人間の姿をした後輩ちゃんがいた。


 肩より長い白い髪をした少女の姿。白いワンピースを着ている。肌も抜けるように白くて綺麗。猫耳も猫尻尾も存在しない完全な人の姿。


 目をつむっていた後輩ちゃんがゆっくりと目を開く。片方の瞳が金色、もう片方は青色の瞳。とても神秘的な雰囲気を持つ美少女がそこにいた。


「うおおっ! 初成功っす! 初めて完全人化に成功したっすよーっ! キツネさんに感謝っす! あと、ついでにタヌキさんと先輩も感謝枠に入れるっすよ! やったったっすーっ!」


 こぶしを握り締めて天を衝き、喜びながら「っす」「っす」言う少女の姿からは神秘的さが失われていた。


 後輩ちゃんは喋らない方がいいかもなの。





まだおつまみパートに行かない、だと……(-"-)

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