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その31「ねこねっとの中の猫」パート5




「俺と勝負しやがれ、マル! 俺が勝ったらデェトだ」



 勝負、勝負か……


 そろそろ私も覚悟を決める時が来たのかも。



「殺し合いね? いい? チャトラは私に殺される覚悟をするのよ、私はあんたを殺す覚悟をするから」



 二股モード発動。


 妖力全開!


 全身霊体化、巨大化、自動迎撃鬼火放出、各種補助妖術展開、空間支配領域拡大、……戦闘準備、完了!



「に゛や゛あ゛~~~~~っ!!!!」



 私の叫び声で地面が揺れる。私を中心とした円状に民家の窓ガラスがビリビリと震えながら中心から外へと伝播していく。


 今の私は道端いっぱいの大きさの猫。燃え盛る鬼火が私の周りに浮かんでいる。私が常時展開している自動防御の鬼火版、いわゆるオプションってやつ? 見た目の雰囲気作り的にも効果はバッチリ。


 私は巨大化した大きな目でギロリと周辺を見下ろす。キジトラとハチワレは地面にへたり込んで動くこともできなくなっている。少し離れた所にいるにゃん吉さんと後輩ちゃんは後ずさりながらこちらを見上げている。そして至近距離にいたチャトラは口を大きくぽかんと開けて私を見上げている。ふふ、驚いているの。


「あばばば」


「……ばけもの」


「にゃんて妖力にゃ……」


「めっ、目立つっすわ! 先輩! 町中! 目立つっす! チャトラっ、先輩に謝るっす! 今すぐっす!」


「……はっ。ままま待てっ! 待って! 違う! 戦闘、しない! おおおお落ち着けマルぅ!」


 ほぼ真下にいる形になっているチャトラを見下ろしながら私は考える。この後どうしよう? あ、口の端からから赤い炎がこぼれ落ちちゃった。口の端から黒煙が上がり始めちゃったのでベロリと舐めとる。失礼、はしたなかったね。


「……ころしあい、しないの?」


「こここ殺し合いはしない! 紳士にいこう! 落ち着け、な?」


「あ、そう、ふー、」


 しゅるるん、と元の普通の猫の姿に戻る。同時に鬼火も消滅。こうやって時々、妖力は全開で出してあげると意外と気持ちいいのよね。心なしか調子が良くなる気がする。寝た後の体の柔軟体操と同じ要領。のびーってね。ふいー、すっきりしたの。



「どんびきっすわ……」



 後輩猫ちゃんが引きつった顔でこちらを見てつぶやく。後輩ちゃんだけじゃないわね。全員がドン引きしてる。あれれ? 私、やっちゃいました? って、まあ考えるまでもなく、やっちゃってるね。ひょっとして私の冗談を本気にしたのだろうか。



「えと? みんな? まさか、本気にしていないよね? 殺すとか殺されるとか、もちろん冗談なんだけど……? 発想が物騒なのよ」



「分かりづらいボケはやめるっす!!」


「発想が物騒て、マルの姉御が言う……」


「マルの姉さんは存在自体が物騒なんだよなあ」


「冗談に聞こえなかったにゃあ……」


「おお俺ぁ、ただ、勝負を通してマルの猫又検定の訓練に付き合ってやろうって思ってよ……。次は合格できるようにって、」


「よけいなお世話なのっ!?」


 おろおろと言い訳じみた発言をするチャトラの猫。そして大きなお世話なのよ。関門だった芸能の試験は次は何か簡単な楽器をやるという目途が立っているので心配もしていないから。


「にゃ? マルにゃーは猫又検定に落ちたのかにゃ? ありえにゃいと思うにゃが?」


「それが本当なんすよね。謎っす」


「にゃにか理由があるんかにゃ? こっちでちょっと確認しておくにゃ」


 さきほどの窓をビリビリと揺らすほどの振動が気になってか、民家の窓の中から外を伺う人たちがちらほらと出て来た。あ、目立つ。驚かすためとはいえ、勢いだけで叫ぶものじゃないよね。私がついやっちゃってごめん。反省はしないけど。


 私たちはいそいで常世寺に戻ることになった。あそこは敷地が広いし植え込みもあるからね、人の目を避けることができるのよ。





 人の目を避けるため全員駆け足で古寺に逃げ込んだ私たち。


 疲れたびー。よく考えてみれば、チャトラたちと行動を一緒にする必要はなかったのよ。置き去りにすればよかった。



「じゃあ、マル。俺と勝負だ」



 にこやかに再び勝負を仕掛けてくるアホ猫チャトラ。


「学習しないのっ!?」「兄貴! もうやめてぇ!」「あああ、帰りたい帰りたい」「頭おかしーんすか!?」「興味深いにゃあ……」


 みんなから総つっこみを受けるチャトラはそれでも引き返さない。たしかにこれは勇者かもしれない。とっても迷惑な勇者なの。


「……ころしあい」


「殺し合いはしない! 暴力も振るわない! ああああと、妖力を使うのもナシな」


「ずいぶんとヘタれたっすwww」


「それで一体何の勝負ができるっていうのよ?」


「えええと、そうだ、肉体勝負! すもう……じゃなくて、きょ、競争だっ! よし、マル。かけっこで勝負だぜ!」


「さ、帰ろ」


 疲れたなー。


「にゃ!? 駆けっこ!? それは意外にいい案じゃにゃーか? ねこねっとの記念すべき最初の動画の配信にぴったりにゃよ。マルにゃー。駆けっこの様子を撮影するにゃあ」


 家に帰るために踵を返した私を引き留めるにゃん吉さん。アホ猫じゃなくて何故かにゃん吉さんが乗り気になっているの。えー? 撮影するのー? 疲れるし嫌だなー。商品券は魅力だけど、もう面倒くさくなっちゃった。アホ猫が「おい、逃げるのか」とか言って煽ってくるけど、もう完全無視なのよ。出会い頭で潰すのは正しい対応だった。これからもそうしよう。


「妖術も使わない普通の猫の駆けっこを撮影して何が面白いの? なんか、普通?」


「にゃーの発想が普通にゃのは自覚があるんにゃよ。むしろ最初の動画配信は無難で普通なのがいいのにゃ。平和的なのにゃ。普通の駆けっこなら動きも撮影できてちょうどいい具合にゃ! ……お子様に見せられそうにない衝撃映像じゃにゃくて」


 ねこねっとの新機能ねー。自分の仕事を必死に頑張っている様子のにゃん吉さんには悪いけどなー。乗り気しないなー。アホ猫の提案という所がもうね。


「マルにゃーは商品券はいいのかにゃ?」


「もういいかなって。なんか、面倒くさくなっちゃって」


「猫たちはいつもそれを言うのにゃ! すぐ飽きるのは、にゃー達の悪いくせにゃ! ねこねっとの仕事仲間も最初はみんなノリノリで始めたのに、どんどんと飽きたと言っては消えていくのにゃーーーっ!!!!」


 にゃん吉さんの中の何かのスイッチが入っちゃった。


 ふくよか体形の体をプリプリと揺らして怒っている。ねこねっとの仕事をしているのはにゃん吉さんだけなのかと思っていたら前には他にもいたのね、そうかー、飽きたかー。



「マルの姉さん、チャトラの兄ぃは不器用なだけなんです。兄ぃの心はマルの姉さんと遊びたいだけの少年の熱い心持った大人なんです。遊んであげてください」


「マルの姉御。子供の兄貴の面倒を見てやってくれ」


「お前ら……へへっ。熱い心か、悪かねぇな」


「馬鹿にされているのよ……まぁ、いっか。駆けっこね。勝負してやろうじゃないの。ふふん、私を賢いだけの猫だと思ったら大間違いなのよ」


「先輩を賢い猫扱いするのは、話に聞く先輩の飼い主さんだけなんすよねw」


「にゃー。準備は任せるのにゃー」



 結局なんだかんだでアホ猫チャトラと駆けっこ勝負することになっちゃった。うーん、何がどうなってこうなった?




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