その30「ねこねっとの中の猫」パート4
私と目が合う。
ダッと逃げる二匹の猫。
左の前足を上げてクイってする。
私の前に現れる二匹の猫。
「――ちょっと話があるんだけど」
「ハギャアアアアア!?」
「逃げたのに!? 何が起きたの!?」
こいつらはいつもチャトラのアホ猫とつるんで一緒にいる猫たちね。まだ20歳にもなってないと思うけど、人間の言葉はちゃんと喋れるのよね。キジトラとハチワレとか言われていたけど、本当の名前かどうかはわからない。それぞれの呼び名そのまんまの柄をしたオス猫。わかりやすいの。今は私の目の前でへたり込んで私を見ながらガクガクと足を震わせ呆然としている。
何なのかしらね? 鬼か悪魔にでも出会った時のような顔して震えているの。
「今度は何が起きたにゃ? ユキにゃー、説明をプリーズにゃ……」
後ろでは「ねこねっと」の仕事をしているふくよかチョイ三毛こと、にゃん吉さんが後輩猫ちゃんに説明を求めている。にゃん吉さんの足元には潰れたチャトラ、こいつも本名は知らない。
「先輩は前足をちょっと動かすだけで、物とか猫とか好き勝手に引き寄せることができる能力持ってるんすよ。あ、原理とか説明できないんで、そういうもんとして受け入れろとしか言えねーっすw」
「まるで招き猫にゃー」
「相手の了承なしで引き込むからタチの悪い招き猫っすw 凶悪w 笑えないっすw」
この能力、落ちている物を拾うのに便利なのよね。自動販売機の下の隙間に落ちている小銭を拾う時とか。便利に使うだけだから凶悪とか言わないで欲しいのよ。この力に限らず、私は妖術だって悪事に使ったことなんて無いの。
【※落ちている物でも拾って自分のものにするのは犯罪です(人間の場合)】
「ところで、あなたたちに聞きたいことがあるのよー。何でもいいので、今、見たい映像とか知りたい情報とか、ある?」
「はあ? 何の話してんだよっ!?」
「ぼくは今まさに、ぼくが置かれているこの状況について知りたい」
生意気そうなのがキジトラで、マイペースそうなのがハチワレね。そしてまだ彼らは混乱中と。話ができそうに無いのよ。そうこうしている内にチャトラのアホ猫がぺりぺりと地面から体を引き剥がして復活した。なかなか頑丈で自由な体をしているのねー。カートゥーンアニメとかにそのまま出れそう。
「おいぃ、マルぅ、てめえいつもいつも、」
「ねこスタ……」
「待って! チャトラの兄貴をこれ以上潰さないで!?」
キジトラの猫に必殺ねこスタンプを止められた。チャトラをかばう様に前に出たキジトラの猫に話しかける。
「潰さないでって言われてもねー、このアホ猫に好きに喋らせたところで、喧嘩を売られたり馬鹿にされたり嫌味とか言われたりするだけなの。私はもう学習したのよ、付き合うだけ無駄って。見かけたらとにかく潰そうって」
「兄貴の普段の言動が兄貴に全部帰って来てる!?」
「マルてめ……」
「兄ぃはちょっと黙っていて、ぼくが話すから。マルの姉さん、チャトラの兄ぃはマルの姉さんに話があるんです。潰すのはちょっと待ってくれますか?」
ハチワレも間に入って来た。
「はなしぃ? で、何の話なの? 話があるなら早くして欲しいのよ。あと姉さん呼びしないで欲しい。姉さんじゃないから」
興味津々と言った感じでこちらの話の行方を見守っているにゃん吉さん。笑ってる後輩猫ちゃんに、アホと二匹の取り巻き、そして私。
人通りの少ない静かな住宅地の道端とはいえ6匹の猫が固まっているのは目立つから、どこか静かで目立たない所に場所を移したいのよ。そろそろ学校を終えた子供たちが帰宅する時間だしね。容赦という言葉を知らないあやつら子供という生き物から見たら、道端に6匹で固まっている猫なんて、もう追いかけまわしてくれって言っているようなものだもの。危険。
「兄ぃ、ほら、前に言っていた通りに言うんでしょー」
マイペースなハチワレに促されて体格の良いチャトラの猫が前足で鼻をすすりながら言う。
「へへっ。マル。デェト、しようぜ?」
「…………」
どおしてくれるのよ、この空気。
全員何も言えなくなったじゃない。そして何、照れているの? このアホ猫は。
「あっ、兄貴っ! 色々すっとばしてるっ!? もっと、こうっ!? 今までの、強引に迫っていたことへの謝罪とか、なんで兄貴がマルの姉御を好きなのかとかっ、こうっ、打ち合わせしたじゃないすか!?」
「あ、駄目そうだね、逃げようかな、逃げれるかな」
キジトラとハチワレがごちゃごちゃ言っているけど、どうせ答えは決まっているのよ。あと姉御ゆーな。
「普通にお断りなの」
「あー、もう、うるせえわ! つべこべ言わずに俺について来いや!」
「兄貴ぃ!? それじゃあ、いつもと一緒じゃないですか!?」
「ぼく、電柱に吊るされるのも、潰されるのも嫌だなぁ」
「だはははwww 先輩がっ! 告白されてるっwww 道端でっwww チャトラw あんた勇者っすかw 勇者wwww」
「興味深いにゃあ! 好きになった経緯を詳しく話すにゃー。ラジヲのネタにするにゃー!」
ああ、もうこれ収集が付かない。潰そう。そうしよう。
チャトラのアホ猫は周りがゴチャゴチャ言い出したのを受けて、まるで応援されたかのように生き生きとしゃべり出す、笑顔で。
どういう性格をしているのか、本当に理解ができないのよ。
「マルぅ! 俺たちが出会った時のことを覚えているかっ? あれは、そう、いつだったか忘れたけどよう、月の綺麗な夜だったなぁ。ただ道を歩いていた俺と目が合って、その後、お前に襲われて喧嘩したよな。俺ぁ忘れもしねえぜ、ボロ雑巾のように切り刻まれて俺が負けた、あの日の事を」
「ただ道を歩いていただけなのは私の方なのよっ! 一方的に難癖つけて来たのはあんたの方でしょうが! 私から襲っても無いし! あと切り刻んでもないから! 一体全体どういう記憶力をしてるのよ!? あ、切り刻んだのは、少し? したかも?」
「あの日以来、俺ぁ、あの夜の事を思い出すと胸の高鳴りが止まんねーんだよ、マル、お前の姿を見てもな。だからデェト、しようぜ?」
「それ、襲われた時の恐怖がトラウマになった動悸じゃにゃーか?」
「www笑顔でいうことかwwwwwww」
「マルの姉御、どうか兄貴とデートしてやってくれ! じゃないと兄貴は次に進めねぇ」
「マルの姉さん、兄ぃとデートしてあげて。もう兄ぃは手遅れなんで」
「先輩www、デートしてやるっすwwww、勇者っすよw、これを逃したら、先輩の前にはもう二度とこんな勇者は現れないかもしれないんっすよ? だははwww」
「適当なこと言わないで!? 嫌なのよっ!?」
チャトラの猫は数歩前に進んで私に近づく。
「俺と勝負しやがれ、マル! 俺が勝ったらデェトだ」
断られたら勝負て、なんでそうなるのよ?
そして、なんでこのアホ猫は自信満々なの?
吊るされたり、潰されたりしたこと、もう忘れたの? なんで? それがわからない!




