その29「ねこねっとの中の猫」パート3
さーて、どうしようかにゃあ。口調が移った、ごめんなの。
つい無言で帰ってやろうかと思ったけど、思い起こせばコレ、常世のおばあさんの紹介から始まった話なのよね。常世のおばあさんには世話になったから、彼女の顔はできるだけ立ててあげたいのよ。「面白そうな猫」というワードで私の名前が出て来た理由については問いただしてあげたいけど。
「そうね。常世のおばあさんから話を聞いてみる? 挨拶もしなきゃだし」
「とこにゃーは今、ぐっすり寝てるにゃ。寝ているとこにゃーは現世にいないから誰にも起こせないにゃ」
「え? そう? 普通に起こせるのよ?」
「にゃ?」
「お寺の結界ごと揺らす感じでそこの小さなお堂を揺らすと起きて来るよ? コツは思い切りね、建物が壊れてもいいやって気持ちで揺らすの」
「恐ろしいことをするにゃあ!? 怖くは無いんかにゃあ!?」
「え? それで怒られた事無いし……」
「マルにゃーが怖いにゃ……」
「くふふ、にゃん吉さんよ、これが先輩っすw これで序の口っすよ? 本気の先輩はこんなもんじゃないっすからw 本気で頭おかしいwww」
「後輩ちゃんはいつも大げさなのよ!? うーん、けど、そうやって起こすと寝ぼけていて話にならないことが多いのよね……常世のおばあさんに話を聞くのはまた今度にするのよ」
「それはすごく起こし方に問題があるにゃのでは? マルにゃーの頭の中はどうなってるんかにゃ……」
「先輩の頭のおかしさを共有する仲間が出来てあっしは嬉しいっすw」
後輩ちゃんがさんざん私の事を馬鹿にしてくるけど、後輩ちゃんが生意気なのはいつもの事。いちいち気にしないのよ。常世のおばあさんに話が聞けないなら、どうしよう。
要はにゃん吉さんが面白い番組を作れればいいのよね?
「にゃん吉さん、ねこラジヲで体操とかやってるよね? 右ににゃーとか、腰をにゃーとか、にゃあにゃあ言っていてよく聞き取れないうえに動きがさっぱりわからないのよ。まず言葉遣いを治してみるっていうのはどう? にゃあ一切禁止で」
「にゃ? そうにゃー、やってみるにゃ。えー、本日は………………にゃあ!!!」
「なにごとっ!?」
「出来ないにゃ!? 出来なくなってるにゃー!? 昔はすごく頑張れば出来たはずにゃー!? にゃあからにゃあ語をとったらもうにゃあじゃないのにゃー!」
突然大声で叫んで頭を抱えるふくよか猫。頭がどうにかなってるのはにゃん吉さんの方なのよ。爆笑している後輩猫ちゃんを背景に考える、考える、結論、
「よし、うつ手ナシ! 帰りましょう!」
「待ってにゃ!? 見捨てにゃいで!?」
立ち去ろうとする私にすがりつくふくよか猫のにゃん吉さん。
「そうにゃ! 映像にゃ! ねこねっとの、まだ使われてない機能に動画配信っていうのがあるにゃ! マルにゃー、何かいい案を出してにゃー」
「私に丸投げしないで……」
「マルだけに?www」
「後輩ちゃんは時々オヤジ成分が入るよね?」
「スルーしてくださいっすw」
映像ねぇ。映像、映像。
「火輪姐さんのコンサートの風景を動画で配信するっていうのはどう? それこそ私に頼るよりもよっぽど凄い番組になるのよ」
「それはとても魅力的な案にゃけど、許可が下りると思えないにゃ。そもそもそんな大御所には十分なギャラが払えないにゃ」
「ギャラ? ギャラって報酬のことだよね? え? 報酬が出るの?」
「にゃー。マルにゃー、ユキにゃーにも報酬はちゃんと出すにゃー。煮干し3本でどうにゃ?」
「煮干しぃ!? 今時、煮干しぃ!? 猫の報酬に煮干しって何世代前の発想よっ!? あと少なっ!? 三本て! 煮干し三本て!」
「ユキにゃー、っすか……」
「冗談にゃ! 本気にしにゃいでにゃ! 駅前の商店街でも使える商品券を10万円分用意できるにゃ。それぞれににゃ」
「10万円!?」
「上司からそれなりの活動資金はもらっているのにゃ。満足できる番組が作れたらきっちり支払うのにゃ」
「10万円あれば欲しかった炊飯器だって買えるのよ! やる気が出て来た」
「人間のお金をもらっても使いどころがねーっすよ。火輪姐さんのコンサートが駄目なら先輩のダンスの映像でいいんじゃないっすか」
「あの呪いのダンスは封印したのよ」
「自分で呪いとか言い出したっすw」
「気になるにゃあ」
◇
私たちは何かいい案がでるまで歩きながら考えることにした。古寺を出て3匹でゾロゾロと行く当てもなく道を歩いていく。春のうららかさというにはちょっとだけ暖かい日の昼下がりの午後の散歩。暑くも無く寒くも無い時期は短い、こうして呑気に散歩できるのも今だけなのよ。そういえば田辺のババからの家からこっち、お昼ご飯食べてない。おなかすいたー。
「面白い映像の配信といえば何だろうね。旅番組とかグルメ番組とかどーだろう。私たちが色んな場所でおいしくご飯を食べるのをひたすら映すだけの番組」
「誰が見るんすかw」
「旅番組というのはいい着眼点だにゃー。ねこねっとを見る猫又たちにも関連があって興味深いといえば、この土地は日本三大化け猫伝説のひとつがある岡崎に近いにゃ。石像にゃんかも作られていると聞いてるにゃ。そういう情報を詳しく解説しにゃがら全国の猫又たちにお見せするのにゃ。お二人がレポーターやってくれればきっと人気でるにゃー」
「あー、岡崎の化け猫の話はちょっとだけ聞いたことがあるのよ。けど私、そういう悲劇というか、殺したり殺されたりとかの話、好きじゃないのよねー……ねこスタンプ(強)……そういうのを軽々しく取り上げるのは不謹慎だと思うし」
「あっしがレポーターというのは、ちょっと抵抗あるっす。できれば裏方でお願いするっすよ。先輩だけで十分す。先輩、絵力あるんでw」
「私の持ってる絵力って何よ、もう」
潰れたチャトラの猫をよけながら進む。
「にゃにが起きたにゃ!?」
後ろを見ると立ち止まったにゃん吉さんが潰れたチャトラ猫を見ながら震えているのよ。
「いきなり大きな猫が道を塞いだと思ったら、いきなり潰れたにゃ! ドスンて! 巨大な猫の手がいきなり空中から出現したにゃ!? にゃにがどーにゃって!? にゃ!? そしてマルにゃーもユキにゃーも素通り!? にゃんで!? 衝撃映像にゃ! 録画しておけばよかったにゃー!!」
「そう! それ! にゃん吉さん、動画の撮影ってどうやるの?」
「ねこねっとの項目に録画機能があるにゃー。管理人権限がいるにゃ。発動すると見たものが録画されるにゃ、いまオンにしたにゃ……じゃないにゃー! 明らかな異常事態にゃあ!?」
「くく、にゃん吉さんも慣れるっす。先輩といっしょにいるとこういうことはよくあることっすw」
「よくあるにゃ!? こわっ!? 本気でマルにゃーが怖くなってきたにゃ!」
こんなにも無害で心優しい猫はめったにいないの。ちゃんと見てくれればわかるの。
さて、いい案ってなかなか出てこないものねー。わかってたけど。ここはもっと色々な猫たちから参考意見を聞いた方がいいみたい。
とりあえず、そこの曲がり角の陰から、大口をぱっくり開けて私を見ている2匹の取り巻き猫たちから話を聞くのよ。




