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その28「ねこねっとの中の猫」パート2



「相談ごと、なの?」


 常世のおばあさんが根城にする江戸時代から続くというこの古寺にはそれなりに人が訪れる。今はお昼もずいぶんと過ぎた時間だけど、遠くに人の気配をいくつも感じる。敷地も広いし、お墓もあるからね。住職なんて人もいるし。


 ちゃんと管理されていて、普段から掃除もこまめにされているので、この土地からは清浄な空気を感じるほど。悪さをする霊なんかは近寄れない。そして夜になるとまた違った雰囲気を持つ。主に常世のおばあさんが無意識に発する妖気によってだけど。当然、悪さをする霊なんかは近寄れない。一種のパワースポットと言える場所なのよ。


 人間が来たら一斉に普通の猫の振りをするのは3匹ともわきまえたもの。


 お墓参りの帰りかな? 桶と柄杓を持った老人のカップルが通り過ぎるのを待ってからにゃん吉さんが言葉を喋る。



「そうにゃ。けど先にそちらのお嬢さんの要件を済ますにゃ。ねこねっとの契約にゃ?」



「ええ。お願いしますわ」


 まだ余所行きモード継続中の後輩猫ちゃん。いつも通りでいいのに。


「じゃあ先ず名前を教えるにゃ」


「……はつゆき」


「初めての初に雪に姫でハツユキなの。知り合いからは姫とか嬢って呼ばれて慕われているのよ」


「先輩ぃ!? 今、その情報いるっすか!? ……コホン」


「初雪姫、すごくいい名前なんにゃ。にゃーなんて”にゃん吉”にゃ。適当に付けたとしか思えないにゃ」


「私なんて座っている姿が小さくて丸いから”マル”よ。実は”チビ”って案もあったらしいのよね。”チビ”じゃなくて良かったー。そんな名前つけられたら気軽に大きくなれないものね。ずっと気になっていたんだけど後輩ちゃん、名前呼ばれるの嫌がるよね、なんで? 火輪(ひのわ)姐さんに名前呼ばれた時は喜んでたじゃない?」


「単純に気恥ずかしいだけっすけどぉ!? 特に意味とかなくムズ痒くなるだけっすけどぉ! 掘り下げても何もないっすよ!? あと火輪姐さんのは別カウントにして欲しいっす。あの姐さんは別枠なんで」


「? ひのわ、ひのわ……にゃあ! 火輪(ひのわ)姐さんというのは火車(かしゃ)火輪(かりん)のことかにゃあ?」


「え? かしゃ? かりん? わかんないけど火輪(ひのわ)姐さんは火輪姐さん。人の姿がすっごく綺麗な青い瞳をした花魁の猫又なのよ。何曲か歌を聞かせてもらって、とにかく凄かったの。有名な猫又なの?」


「花魁! きっとそれにゃ! 超有名なアンデッドスレイヤーのお方ですにゃん。彼女の歌を? いいにゃあー。うらやましいにゃあー」


「アンデッドスレイヤー……」


 思いもよらない単語が来たのよ。たおやかで優し気なあの火輪姐さんがゾンビとか倒して回る姿とか想像ができないんだけど。



「その……にゃん吉さん? 本題に戻ってくださいませ」



 雑談ばかりでちっとも本題が進まないのを後輩猫ちゃんが強引に話を戻そうとする。けど、


「その口調のお澄ましモードはもう手遅れだと思うの」


「っすね。どーでもよくなったっす。あー、にゃん吉? さっさとやれ」


「呼び捨てにゃん!? そして命令!? いきなり柄が悪くなったにゃん!?」



 ぶつぶつにゃんにゃん言いながらも、にゃん吉さんが二本の前足をポンと叩くとシャボン玉が生まれれる。シャボン玉はふわふわと後輩ちゃんの前に飛んで行って彼女の目の前で止まる。



「それを触って、自分の名前を言った後に猫又ネットワークに接続しますと言うにゃー」


 言われた通りに実行する後輩猫ちゃん。パチンと弾けて消えるシャボン玉。


「以上にゃあ」


「それだけ!? 簡単すぎないっすか!?」


「簡単よねー。私の時もそうだったのよ。使う時は頭で思い浮かべるだけで半透明のウィンドウがでるから、それで操作するの」


「どういう理屈でそうなるんすか? あ、出来た。謎すぎてキモいっす……」


「にゃん吉さん、ねこねっとの猫又なのよね? これどういう術なの?」


「実はにゃーらも良く知らなくて使ってるにゃあ。天心通という古くからある術を応用しているらしいんにゃ。いわゆるテレパシーにゃね。猫又だけに限らず多くの大妖怪や神様にゃんて大物も関わっているから、仕組みを完全に理解している猫又とかいにゃいんじゃにゃいかにゃ? にゃあも説明したくてもできにゃーよ」


 気にせずそういうものとして使うしかなさそう。というか使ってもいないんだけどね、ねこねっと。


「後輩ちゃんも気にしない事なの、どうせ、ねこねっとを使うのは猫又検定を受けたい時のメールのやり取りだけだし。他の機能とかあるけど、特に面白くもないし……」


「まさしくその話にゃー! マルにゃー!」



 うわビックリした。



「実はにゃーは上司から猫又(あっと)ねっとわーく、通称ねこねっとの発展と開発の仕事を仰せつかってるのにゃー」


「上司がいるんだ?」


「にゃー。ねこねっとはこの世に生まれたばかりの技術にゃ、足りない部分は山ほどあるにゃ。しかしにゃーは確信してるにゃ。こいつはこれからどんどんと発展していく分野にゃと。それでにゃーもねこラジヲとか作ったりして色々と頑張っているんにゃけど、あんまり評判はよろしくないにゃ……面白くないものを作っている自覚はあるんにゃよ……悔しいのにゃー……ねこねっとにはもっとすごい機能があるのに、作り手がそれを生かせてないにゃー……」


「ええと、話が見えないんだけど、結局にゃん吉さんは私に何の相談なのかなって?」



 顔に縦の斜線が入りだした三毛成分の少ない三毛猫に疑問をぶつける。



「面白いネタを下さいにゃー」


「漠然としていて難しいっ!?」


 難しいでしょ!? 面白いネタを出せと言われてポンポン出せるような面白い猫じゃないのよ。面白いネタって何。


「www先輩なら適役っすね。先輩のおもしろ具合を見せつけてやるっすw」


「私のおもしろ具合って何!?」


「先輩の普段の日常での頭のおかしい振る舞いのことっすねw 先輩なら笑える失敗談とかでも事欠かないっすw」


「ふーひょーひがい! 頭のおかしい振る舞いとかしていないから! 笑える失敗談とか持ってないのよ! ……にゃん吉さんは、その面白いネタとやらを聞いてどうするのよ?」


「ねこラジヲで全国に向けて発信にゃ!」


「嫌だっ!?」


 嫌でしょ。嫌だよね?


 自分の失敗談を全国に向けて発信されるのを喜ぶ奴なんてどこにもいないのよ。


 静かな古寺の境内の植え込みに囲まれた草むらの上で、この話をどうやって断ってやろうかと考える。そりゃあ私だってたまには失敗とかするけれど、人に話して喜ぶ性格はしていない。失礼な話なの。


 別にこのまま無言で帰ってもいいよね?






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