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その25「お風呂の話と黒いアレ」パート2

黒いアレ登場注意



 ドキッとした場面もあるけど、いいお湯だったのー。


 乾いたタオルで全身を拭いてもらって一足先に風呂場からリビングへ移動。あづきたちも遅れて上がってきた。濡れた毛が体にくっついて気持ち悪い事この上ないのよ。お風呂はねー、これがねー、毛が濡れるからねー。


 娘ちゃんも風呂場でやんちゃしなかったから、これは平穏無事に終わったと言えるわね。いい子。さて次のお風呂は何週間後か。気持ちいいことは気持ちいいけど、とにかくお風呂は疲れるから当分はもう結構なのよ。


「ママー。猫さんガリガリでおもしろいねー、うふふ、あははは」


 ペロペロと、湿った体を舐めている私を見て風呂場での笑いが再燃したもよう。部屋着に着替えた娘ちゃんが私を指さして笑っている。さすがにガリガリではないわよ、そこそこ体重だってあるし。そこまで面白い?


「写真とるのー。ママー、けいたい出してー」


 あふ。写真撮影は勘弁してください。今は最優先で体を乾かしたいのよ、そっとしておいて。


 私の願いもかなわずに突発的に写真撮影が始まった。あづきと娘ちゃんが楽しそうに笑いながら私の体を舐める姿を何枚も写していく。はー、人って何でもかんでも写真を撮る気がするのよ。とくに最近はそう。どうせ後で見返したりもしないのに。もー、あきらめの境地。どうせなら毛が整った後にして欲しいのよ。


「マル、ドライヤーかけてあげるね」


 写真撮影を終えたあづきが洗面台からドライヤーを持ち出して来てリビングのコンセントに差し込もうとした時、


「キャア!」


 大きな悲鳴を上げたのよ。うわ、ビックリした。何ごと?


 飛び跳ねて立ち上がった私があづきの方を見ると床には動く小さな黒い影。あっ、あっ、あっ、あれは、あれは……



 アレだぁーーっ!



 アレが出た! えっ!? どこから入ってきた!?


 チョロっと見えたアレの影は結構大きい奴だった。うちにはアレは生息していなかったはずなのよ、古い家だけど、アレが通れるくらいの外に通じる隙間とかは無い。妖術までつかって確認したもの。だから家の中にアレがいるなら外から侵入してきた奴しかいないはずで……あっ!? 今日のあづきの掃除の時かも! きっとそう、玄関を掃除する時、いつも開けっ放しにしているから。



 って。そんなことを考えている場合じゃない!



 床に置いてある荷物の影に隠れたアレが、再び私たちの前に姿を見せる! あづきと娘ちゃんはキャーキャーと言ってバタバタと逃げ回る! 私も逃げる! しっぽが膨れ上がる! けど湿った毛の尻尾が気持ち悪いので、なんだか違和感! 逃げ回る私たちをあざ笑うかのように物陰に隠れたり出てきたりするアレ。キャー!



「マル! なんとかしてぇ! マルゥ!」



 猫に何とかさせようとする無責任なあづきの発言。


 猫だからって無茶を言わないでって……ふと冷静さを取り戻す。蛇も蜘蛛もムカデもアレも苦手ではあるけれど、別にそこまで苦手でもなかったわ、私。


 キャーキャー言って逃げ回るあづきと娘ちゃんに引きずられてテンション上がってた感ある。ビックリしたからね。よし! やってやるのよ。見てなさいあづき。野生を忘れていない生き物の強さというものを!


 逃げ回るのやめて、立ち向かう覚悟をしてアレを正面に捉えたとき、ウロチョロしていたアレが急に動きを変えて、こちらに向かって羽を広げて飛んでくる。


(うきゃあああああああああっ!?)


 弾丸のように飛んできたアレを、私の中の野生の残りものさんが意識の外側から勝手に私の体を動かして、右前足で叩き落す。というか抑え込む。


(のわああああああああああっ!?)


 抑え込んだ!? なんで!? 私の体! なんで!? 生きてるぅ!? 私の、右前足の下で、アレが脱出しようと動いているのぉぉ!?


 先ほどまでと違った意味で、ぞわぞわと毛が逆立つ。



 これ、どうしよう!?



 どうする!? この後どうするのよ私!? 一度、固有空間に放り込んで外で取り出す? いや、一瞬でも固有空間にいさせたくない。なんか30匹に増えそうで! そもそもあづきたちの前で妖術は使えない。


 信じられないものを見るような目で私の顔と前足を見るあづき、いや何でそんな目で見るのよっ!? なんで私がこんな目にあってると!?


 アレに憑依して外にでる? 嫌だ、アレに憑依はしたくない。両手で掴んで二本足で立って外に放り投げる? 無理。……鬼火、氷結、雷撃、だからあづきの前ではどれも出来ないんだって! いっそつぶす……殺したくないし、何より無理。


 詰んだ!? これ詰んでる!?


(せめて玄関の扉を開けてくれたらっ!?)


 右前足の下のことをなるべく考えないようにしながら、口を開けてあづきを見る、玄関の扉を見る。気づいてあづき! 私の言いたいことに気づいて! あづきは動かない。駄目か……っ!?



 言葉を喋らないと人には伝わらないの? ここで喋ってしまうの? 私が喋れる猫だってバレたら、きっと今の関係は壊れてしまう。それは嫌だ、けど、



 その時っ! 石の彫像のように固まっていたあづきが動いた……っ!?



 それは、まさしく私のして欲しかった事。あづきが玄関の扉を開けるっ……っ!



「マルッ!!」



 あづきの叫びに答えて、私も動く!


 右前足を上げてアレを解き放つ! 即座に左前足でフック! 殺してしまわないように! あくまで優しく! けれど、絶対に家の中にはいさせないぞという気迫を持って! アレの動きを完璧にコントロールしてのけるのよ! 右に! 左に! あくまで自然に、猫が、小動物を、遊びながら痛めつけるような残虐さを装うの!


 右! 左! そして玄関! 外はすぐそこっ!


(ラストっ! だあああああああ!)


 スライディングを決めながらゴール! 私の体が何回転もして地面に横たわる。最後に世界が横になった視界の中で確認する。ヨロヨロになって、それでもしっかりと生きたまま逃げていくアレの姿を……



(二度と入って来んなや……)



 切り抜けた……っ! 私は起き上がり家の中に入る。ゆうゆうと。勝者の凱旋さながら。


 あづきは私が家に入ると即座に扉を閉めて私に声を掛ける。


「マルっ! ありがとう! ありがとう!!」


 ふふ。ちゃんと見ててくれたのね、私の雄姿を。あづきの感謝に答えて彼女に近づくと、あづきは「ずさぁっっ」と後ずさって私から距離をとる。


 え?


「猫さんドロドロー」


 娘ちゃんの言葉で自分の姿を見る。


 お風呂上りの湿った体で家じゅうを、そして外でも転げまわったからか、ドロドロとまでいかないもののホコリだらけの土まみれ。濡れた毛のある猫なんて、濡れたモップと同じよね。うん。しかも両手はアレを直接触ってたし。うん。あづき。うん。あなたの言いたいこと、わかるよ。


 私はとぼとぼと風呂場に戻っていく。


「……にゃあ」


 お風呂場の扉をガリガリと引っ掻いて、あづきに再びのお風呂を所望する。


 私の言いたいことはあづきにもしっかりと伝わった。本日お風呂二度目。どうやら私たちの間に人の言葉なんていらないようね。伝わることは伝わるの。うん。





マル勝利!

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