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その20「古寺の猫又、常世のおばあさん」



 私とあづきたち親子が住む家から小学校に向かい、車の通りの多い大きな道を慎重に越えて、いくつかの小道を通過した向こう側には、木々に囲われた古びたお寺がある。


 常世寺という。とこよでら? じょうやじ? なんでも江戸時代から存在するんだとか。


 そんな古い古いお寺には、これまた古くから住んでいる猫又のおばあさんがいる。お寺の名前からとったであろうけど、その名もずばり常世(とこよ)さん。常世のおばあさん。年齢不詳。


 ご主人が病気に倒れた後、私にも何か出来ることは無いかと、町のあちこちを必死に探し回っていた時にたまたま出会った猫又のおばあさん。焦燥感に囚われた私は常世のおばあさんに頼み込んで色々と妖術を学んだのよ。結局、それはご主人を助ける力にはなれなかったのだけれども、私の猫生涯で一番努力していた時期かもしれない。


 そんな猫又のおばあさんに久しぶりに会いに行くことにしたのだ。会いに来なくなった理由は当然、猫又検定に落ちたから。とほほん。面目ないのよ。


 猫女子会から一夜明けて、ご飯食べて、朝寝して、ご飯食べて、昼寝して、ご飯を食べてひと眠りしたから気力は十分。お寺に向かう足が重いけど、今夜は巻き添えもいるのでいくらか心が楽なの。十分に暗くなり、人も出歩かなくなった道を進む。


「いや、なんであっしが巻き添えなんすかね」


「いいから、いいから」


 紹介します。巻き添えの後輩猫ちゃん。今年で20歳を迎える白猫ちゃんです。


「常世の猫又って言えば古くからいる猫又の方っすよね。あっしの親の親の親の親の前から存在してるとかいう大妖怪って皆が言ってたっす。なんか緊張してきた」


「やさしいおばあさんだよー。基本的には」


「基本的ってところがあやしいっすw」


「時々わけのわからない事を言うのよねー。ずいぶんとお年寄りだからね。私が初めておばあさんに会った時も”おかえり”とか言われたし。あ、意味不明なことを言い出したら放って置けばいいから。無視されても気にしない性格?」


「あっしが気にするっすよ。先輩の性格が時々うらやましくなるのは何故っすかね? くっ、寺に近づくにつれて大変な妖力を感じるっすよ……」


 直前になってビクビクし始めた挙動不審な後輩猫ちゃんを促して古寺の境内に入る。周辺の雰囲気がガラリと変わったのがわかる。世界の隙間を利用するのが固有空間なのだとしたら、今、私たちがいるのは世界の裏側、固有結界なんていう名前でも呼ぶらしい。お寺の敷地全部が(あやかし)の領域。すごいよねー、常世のおばあさんに比べたら私なんて駆け出しのぺーぺーもいいとこなのよ。


 月も星も見えない暗いお寺の境内、本堂からちょっと外れた場所に建てられた小さなボロボロのお堂の前に辿り着く。私たちの息遣いの他に音も無い。後輩猫ちゃんがビクビクキョロキョロとあたりを見渡してつぶやいた。


「暗いっすね……誰もいないっす。せ、先輩、出直すっすか?」


「ちゃんといるじゃないの。上よ、上。常世のおばあさーん、お久しぶりでーす」


「上?」


 後輩猫ちゃんが上を見上げる。すると夜空、いや夜空に見えていた空一杯の空間に二つの金色の線が生まれる、それがまるで目を見開くようにして広がり、すぐに二つの巨大な猫の目になって私たちを見下ろす。綺麗な金色の瞳。まるで満月が二つ降ってくるよう。これは圧巻。


「あわわわわ」


 腰を抜かした後輩猫ちゃんは置いておいて私は常世のおばあさんへの挨拶を続けることにした。ちょっと寝ぼけてる感じね。


「常世のおばあさん……ごめん、私、猫又検定に落ちちゃったー、あはは」


 しばらく反応が無かったけど、やがてゆっくりと空の一面に広がる両目が細められて、一瞬のち、(ごう)っと、目も開けてられないような風が吹く。再び目を開けると、小さな堂の階段の真ん中あたりに、ちょこんと座る一匹の小さな黒猫。


 尻尾と体の境目もわからないくらいのボサボサの毛、開いているかどうかもわかんない両目、一目でわかる老いた黒猫がこちらに体を向けていた。


「おばあさん、寝てた? あ、この口を開けて呆けている子は後輩ちゃんね、初雪姫と言うとっても可愛らしい名前があるけど、そう呼ぶと怒るから後輩ちゃんなのよ」


「なんて紹介の仕方するんすかね先輩、ど、どーも」


「やあ、可愛い白猫ちゃんだねえ。おはようさん。それからマル坊も、おはようさん」


「もう夜中だけど、おはようなの。でね、猫又検定、」


「かかか、聞いた聞いた、どうでもいいやね。マル坊が話したければ聞くけれども、それはどうでもいいやね。会いに来てくれただけで嬉しいものさ。手土産だって持ってきて無さそうだけど、嬉しいのさ」


 おお、今日はしっかりしている時の常世のおばあさんだ。


 日によってしゃっきりしてたり、ふわふわしてたり、不思議さんだったりで、このおばあさん猫と会う時は油断できないのよ。あと手土産、素で忘れたー、というか手土産を持ってきたことは一度も無いんだけども。


「手土産はまた今度持ってくるの。今日は猫又検定について聞きたいのよ。常世のおばあさんも受けたんだよね?」


「ああ、検定? それは良く知らないんだよ。済まないね。アタシが人から猫又呼ばわりされていた時には、そういうのはまだ無かったからねえ。試験なんて無かったねえ」


 確か検定が始まったのは明治時代になってからとか聞いたから、いったい常世のおばあさんは何歳の猫又なのよ。凄っ。


「おばあさんに妖術を教わって、そっちはもう万全だったんだけど、ほら、試験にダンスってあるじゃない、って、あるんだけど、それがどうも私は苦手なようで、何とかならないかなーて」


「そういうのもアタシは力にはなれないねえ。ダンスかい? そういやあ、昔は猫又と言えば踊るもんって相場が決まっていたかも知れないやね。手ぬぐいを頭にかぶってさ、ひょいひょいと踊るんだよ。かかか」


 最後の希望だった常世のおばあさんでも駄目だったー。むむ。手づまりなのよ。


「先輩、一度、この方に先輩の呪いのダンスを見てもらうというのは?」


「誰が人を呪うダンサーかっ!?」


「呪われているのはどちらかというと先輩の方なんだよなあ!?」


「かかか、見てもわからん。そうだね、それなら他の子を紹介しようかね。ちょうど最近、ダンスやらに詳しそうな子がアタシを訪ねてきていたよ」


 そう言うと老いた黒猫は天を見上げてモニョモニョと口を動かしだした。ねこねっとにつないでいるのかしら? いや、違う感じ。これはテレパシー的な何かっぽい。術にもなっていないような、そんな原始的な力を感じるのよ。


「……すぐ来れるそうだよ、ダンスがどうこうなら、そいつに尋ねるといいだろう」


 常世のおばあさんの言葉どおりと言った所、空からフワリと一匹の猫が舞い降りる。すごく自然だったけど、転移してきたんだよね。


「ああ、来たようだね……この子が火輪(ひのわ)だよ」


 夜目にも鮮やかな、とても澄んだ青い瞳を持つ、灰色を薄くまとった白猫が、こちらを見て微笑んだ。


「火輪でありんす。ごきげんよう、皆様方」


 首の周りがふさふさで艶やか! とっても美猫さん!




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