その17「雨上がりの散歩」パート2
事件現場、もとい後輩猫ちゃんの知り合いと出会った場所からとっとと立ち去りかけた私たちを弱弱しい声で呼び止める潰れ猫、もとい猫又のシメサバさん。
「ちょっと、待って、くれえ。うん、暴力は、いけないよね。暴力ナシで、話を聞いて」
「あっ!? ござる語が消えたっ!?」
「ちっ。復活が早いっすね。先輩、もうちょっと強く潰してやるっす」
「待って、姫。ろくな挨拶もせずにごめん、お久しぶりです、姫」
「姫ゆーな。そういえば最近シメさん見てなかったっすね。どっかいってたっすか?」
「口調が……違和感が……お嬢……」
「実はお嬢って呼ばれるのも嫌っす。これ、前から言ってやろうと思ってたんすよね」
「なんと……」
サバシロ柄の猫の姿に戻ったシメサバさんは後輩ちゃんのしゃべり口調と告白に開いた口が塞がらないといったご様子。けど私が気になるのはそこじゃない。二人の会話に割って入る。
「はいはーい。私の名前はマルよ。シメサバさん、シメさん? ござる語やめちゃうの? シメさんはござる語がいいと思うの。勝負でござるーって」
「あ、あはは、勘弁してくださいよ、ちょっと前まで悪霊退治の手伝いをしていてですね、そこで知り合った猫又が刀を使ってまして、それが格好良くて憧れたというか影響されたというか……マル殿、先ほどは身の程知らずにも挑んでしまってごめんなさい。手も足も出ないとはこのことでした。マル殿は名のある猫又なのでしょうか?」
「マルという名前はあるけど名は無いのよー。そもそも猫又も名乗れないのよ。だって猫又検定に落ちたし……私はただのちょっと賢いだけの猫……」
「嘘でしょ!?」
「本当なんすよね、これが。先輩を落とす猫又検定って何なんすかね? 年々厳しくなってるって聞いたけど。つか話を戻すっすよ。シメさん用事は何っすか?」
「お嬢の様子を見に来ただけだよ。最近、お嬢はよくどっかに行ってるでしょう? 悪い遊びを覚えてやしないかと、みんなが心配していたからさ」
「あっしはあっしの自由にするんで問題ないっすよ。皆にもいっとくっす。わかったら帰れっす。シッシッ」
「ああ……お嬢、お嬢が不良になってしまった……マル殿、恨みますよ?」
「だから私のせいにしないでって!? 本当に何もしてないから!」
まったく身に覚えが無いのよ。何もしてないよね? 後輩ちゃんと出会った時から私にはこんな口調だったはずだし、態度も生意気なまま。うん、何もしていない。私は無実なの。
「それにしても後輩ちゃんは慕われてるのねー」
「そりゃあもう!」
おお、ヨロヨロしていたシメさんが生き生きと語りだしたぞ。水に漬けられた葉物野菜かな?
「お嬢の父君殿はうちとこの地域の元締めでしてね、世話になった妖怪たちは数知れず。そしてお嬢は生まれた時から多くの妖怪たちに囲まれて大切に育てられたんですよ。お嬢は子供の頃はそりゃあヤンチャでしてね。皆も手を焼かされたもんですが、それがまた愛おしいってわけでして」
「やめろっす!」
「お嬢が元気に育ってからの気品なんかは母君譲りってやつですかね。普段は愛想もなく他人を見下す感じなのに、ちょっとしたしぐさなんかで皆を大切に思っていることが、わかる者にはわかる感じという、これまた愛おしい感じのあれなのだよ」
「今すぐ口を閉じろや!!」
「お嬢のお姿ひとつとっても、光り輝くような白く美しい毛並みに、色の違う怪しく煌めく二つの瞳、小柄ながらも立ち姿なんかは野に咲く白い胡蝶蘭のように力強くて、」
「鬼火っ!」
「アッツ!? アッツゥうぅっ!!!」
鬼火は猫又の基本攻撃なのよ。暗い夜道を照らすのにも便利な術よね。いつの間にか二股になっていた後輩ちゃんの鬼火が直撃して、油断したシメサバさんの鼻っ面を焼いている。ゴロゴロと地面をのたうち回っているけど、鬼火が鼻先にくっついてなかなか消えない。人の事さんざん頭おかしいだの器用だの言うけど、この後輩猫もずいぶんと器用なことするのよ。そんな後輩ちゃんはフーッフーッと息を荒げて怒っているけど、これは照れてるのよね? ふふ。愛い。わかる者にはわかるのー。
「マルぅ! さっきはやりやがったな! てめえ、もう許さねえぞ!」
先ほど潰したチャトラの猫が道の向こうからやってきて、ごちゃごちゃしてる状況がさらに混沌としていく。大柄なチャトラの猫が私と怒れる後輩猫ちゃんの前に立つ。横では道の上でのたうちまわるサバシロの猫。何この状況。
「またアホが追加っす。燃やす」
「俺ぁマルに用事があんだよ。どけよ鳥ガラ」
「おい待て。貴様、お嬢に無礼はゆるさんぞ。叩きのめしてやろうか」
即座に復活したシメサバさんがチャトラと私たちの間に割って入る。二匹の猫の間の雰囲気は一触即発。シメさん、カッコよさげな事言ってるけど鼻先がプスプスと焦げているの。
「あん? 誰だてめぇ。ここいらは俺の縄張りだぜ? お? 調子こいてんじゃねーぞ?」
「ふん、調子に乗っているのはお前の方だろうがな。尻尾を巻いて逃げるなら見逃してやるぞ?」
「ああん?」
「おおん?」
威嚇し合う二匹の猫からさりげなく遠ざかり、後輩ちゃんをつついて行こうよと促す。静かにその場から脱出。後ろでは男どもの取っ組み合いの喧嘩が始まっていた。フギャーフギャーとうるさいのよ、ご近所迷惑になるでしょうが、まったく。後ろを見やって溜息が出てしまう。
「はー、男どもは顔を合わせれば喧嘩ばっかりで嫌いなの。野蛮って感じ。両方潰しておけばよかったかも」
「ほんとそれっす。男はなんでも暴力ですまそうとするんすよ。相手にしないのが一番っす」
私たちは潰したり燃やしたりしてたけどねー。今は突っ込み不在なのよ。
「そうだ、頑刃マスターとこの『錆鉈』に行きましょう。ひょっとしたら炊飯器が余っているかもしれないの」
「炊飯器の下り、まだ続いていたんすねw 完全に忘れてたっすww」
「見てなさい、料理マスターへの道を歩み始めた私の姿を。勉強としてマスターとこでご飯を食べるのよ、今日は何を食べようかなー。ハンバーグ?」
「人間の食べ物は好きじゃないっすよ。あっしには味が濃すぎて」
「さすがお嬢。ハツユキヒメはお上品な口してらっしゃるの」
「その名前呼んだら先輩でも燃やすっす」
可愛い名前なのに。
「行こうか、はっちゃん」
「はっちゃんゆーなっす」
駅前の商店街にある妖怪居酒屋が次なる目的地。暑くも無い、寒くも無い、いい気温の雨上がりの湿った道を行く。
炊飯器、余っているといーな。
期限までに10万文字の目途が立ちましたので【第2回新人発掘コンテスト】に応募いたします。
「ふーん? この作品まぁまぁじゃん?」なんて思われた方は☆評価などで応援してくださいまし。
(-"-)ぶっくまーくもお待ちしているのよ




